瓔珞の音

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zoom RSS 夢の終り

<<   作成日時 : 2008/08/14 22:41   >>

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1945年8月15日。
63年前の明日―――終戦。

それまでの日常が、
それまでの正義が、
それまでの拠り所が、
静かに、けれど容赦なく、崩れ去った日。

奪われた沢山の命。
散っていった沢山の想い。
刻み込まれた沢山の痛み。

きっと、なにもかもがあやふやで、
何を支えにすればいいのか全然わからない、
でも、生きていかなければいけない―――そんな時期。

それを、私は過去のこととして想像することしかできなくて。
でも、その時期を、ただひたすらに夢を追って駆け続けた男たちがいた。
私たちと変わらずに、笑って、泣いて、虚勢を張って、時には拗ねて落ち込んで、
そして大きな宝物を胸に、新しい場所へと旅立った男たちがいた。

この舞台は実話をもとにした「フィクション」」だけれど、
たぶん、そこに流れる感情は、半世紀以上の時を超えて、尚も同質だった。
そう、感じる舞台でした。


「宝塚BOYS」

2008.8.9  マチネ シアタークリエ 18列10番台

出演:葛山信吾、吉野圭吾、柳家花緑、山内圭哉、猪野学、瀬川亮、森本亮治、初風諄、山路和弘


1945年12月設立。
1954年3月解散。

戦前から人気を博していた宝塚歌劇団に、実際に存在したという「男子部」。
そこに集まったのは、宝塚を愛し、そしてそれぞれに戦争の傷を負った男たち。
自分が生き残った意味を、自分が生きていく意味を、見失った夢を、
宝塚という閉鎖的な空間の中で、必死に探し続けた彼ら。
意気揚々と稽古場に集まった彼らの現実は、けれど決して華やかでも甘くもありませんでした。

歌劇団の中で彼らが立ち入ることを許されたのは、稽古場のみ。
寮も外に借り受けられたもので、生徒たちとの接触はご法度。
それまでの生活とは全く異なる環境の中で、
ただ大劇場の舞台に立つことを目指して繰り返されるレッスン。
共感し、反発し、対立し、認め合いながら深まっていく仲間の絆。

けれど、そんな彼らの熱情をねじ伏せようとするかのような、現実。
彼らを、常に見下ろし続ける「清く正しくうつくしく」の言葉。
男子部の設立に対する冷ややかな目、そして嫌がらせ。
決して顔の出ないコーラスですら、拒絶するファン。
馬の足や猿の鳴き声以外の役はつくことはなく・・・
そして、徐々に明らかになっていく、彼ら自身が負った戦争の傷跡―――

かつて演出家希望だった事務員の厳しく、けれど期待に満ちた後押しと、
かつて宝塚の舞台に立ちながら、怪我で引退を余儀なくされた寮母のおばちゃんの支え、
そして、少しずつ彼らを認める生徒たち・・・
けれど、持ちあがっては立ち消える男女合同公演の話に、
別の道へ踏み出すことすらできずに飼い殺しの状態になっていた「男子部」は、
ある日、静かにその終わりを迎えます。

2度目の、終戦。

自分を翻弄する大きな力と抗えない流れの中で、
懸命に求め、走りつづけ、生き抜こうとした彼らが迎えた、一方的な戦いの終り。

その終焉を、それぞれが受け止め、そして立ち去ったあとの空っぽの稽古場は、
次の瞬間彼らの夢であった大劇場の舞台へと変貌します。
そこで繰り広げられる、彼らの華やかなレビュー。

でも、それは決して現実にはならない、うたかたの”夢”でしかなくて―――

最後の日、自分たちの汗と涙と、そして叶わなかった夢がしみこんだ稽古場を、
荷物をまとめた彼らは後にします。
その表情は、悔恨でも、悲哀でもなく、ただ、笑顔。
カタチにはならなかったけれど、決して無駄ではなかった彼らの時間。
その、大きな宝物を胸に、彼らは歩き出した。
次の世界へ、次の戦いへ、次の夢へ。


というようなお話でした。
実は私、初演はチケットがとれず、結局DVDで見たのです。
なので、お話の内容は知っていたはずなのですが・・・
見事に最初から最後まで泣き続けてしまいました(笑)。
もちろん笑えるシーンも沢山あったんですよ?
でもね、彼らの抱えた傷が、彼らの置かれた境遇が、それでも立ち向かい続ける彼らが、
なんだかとても哀しくて、切なくて、愛しくて、気がつくと涙が溢れている、という感じ。
だから、泣いているけど、笑顔だった気がする。

この物語は、下手な青春モノののドラマや本より、よっぽど”青春”だと思う。
だって、この物語に出てくる人は、みんな”夢”を持っている。
そして、そのどれもが叶わない。
挫折した夢。奪われた夢。手の届く直前で見失った夢。
それは、男子部の個性的な面々だけでなく、
山路さん演じる事務員・池田も、初風さん演じる寮母の君原さんも同じ。
でも、彼らは決して叶わない夢を、忘れようとしたり、卑下したりはしない。
狂おしいほどに求める何か、それでも叶わない現実をしっかりと受け止めて、
そこから生まれた宝物を胸に、立ち止まることなく、しっかり前を向いて歩き続ける―――
まさに”青春”だと思いませんか?
これから”青春”を迎える人にも、”青春”真っ只中!な人にも、
過ぎ去った”青春”を大事にしまっている人にも、沢山の人に観ていただきたい舞台です。



上原金蔵役、柳家花緑さん。
笑うと目が消えちゃうような優しい笑顔が、まさに上原さん!という感じでした。
あくまで真面目で一本気で、ちょっと小心者だけど、その分やるときは大暴走!な上原さん。
彼がいたからこそ、男子部はあそこまで続いたんじゃないかな、と思います。
上原、という人物の立ち位置が全然ぶれないの。
ピアノもダンスも歌も弁舌(本職ですから/笑)も、本当にお上手でした。
凄く多才な方なんだろうなあ・・・落語もみてみたくなっちゃいましたよ(笑)。


竹内重雄役、葛山信吾さん。
宝塚の男役の方のような雰囲気の方だなあ、と思いました。
何気に熱血なんだけど、常に一歩下がっている感じなのは、
リーダーとしての上原さんを立てていたのかな?
合同公演の台本を稽古するときの女役、ベンチの上での座り方が見事に女形風でしたv
この日は物語全体に引き込まれちゃって、あんまり歌声の印象がないのです・・・残念!


星野丈治役、吉野圭吾さん。
メンバーの中で、唯一プロのダンサー、という役柄。
まさに毛色の違う猫!という感じ?(笑)
ぴりぴり毛を逆立てて、ツンとしながらも、慣れた人にはめちゃくちゃ甘えるとこがそんな印象でした。
何気にいろいろ笑いをとってらっしゃいましたねー。
それにしても良く上がる足だなーと思いました。
レビューのシーンは、もうめちゃくちゃかっこよかったですv


太田川剛役、山内圭哉さん。
宝塚のパーカッションをやっていて、思うところあって男子部に入った、という役柄。
結核で片肺をなくしていて、そのために兵役につけなかったことを、傷としてかかえていた太田川。
結局結核の再発で、男子部解散の前に入院、となってしまうのですが・・・
うーん、山内さんって、もう何をやっていても山内さんなんですねー。
役になる、というより、役を引き寄せる、という感じなのでしょうか?
DVDで観た三宅弘城さんの太田川とは全然違う雰囲気でしたが、これもありかなあ、と。
アドリブもばんばん入っていたような気がする・・・吉野さんといいコンビでしたv
みんなで「モン・パリ」(だったかな?)を歌うシーン、
木箱をカフォーン(という名前だった気がする・・・)のように叩いてリズムを取るの、
すっごくかっこよかったです!
ギターも弾くし歌も歌うし・・・凄いなあ。


山田浩二役、猪野学さん。
闇市の愚連隊を率いていた・・・どころか、実はとっても弱っちくって、涙もろくて優しい山田さん。
日舞のお師匠さんの息子、という役どころを、きっちり伏線張って演じてらっしゃいましたv
レビューのシーンも、きちんと日舞テイストなんですよねー。
凄く味のある役柄で、他の人たちとの絡みも絶妙で、とても楽しめました。


長谷川好弥役、瀬川亮さん。
やんちゃで元気いっぱいの弟分、というような役でした。
でも、凄く一生懸命なの。
レビューの時の、「長谷川行きます!」という声が、微笑ましかった。
この役、初演では戸次さんがやっていたんですよね。
戸次さんの長谷川よりはずっと幼い印象でしたが、どちらも魅力的だと思いますv


竹田幹夫役、森本亮治さん。
この役、出は一番遅いのですが、めちゃくちゃ美味しい役だと思います!
父戦死の知らせを受けた時のあの慟哭、
そして、その嘆きのすぐ後に、そのままの姿でのナレーション・・・
あそこで、物語の一つの終わりがあるように思いました。
そして、この役は初演はロンガヴィルな須賀くんでしたv
もてそうなのは須賀くんだけど、自信満々は森本さんが上かなあ(笑)。


君原佳枝役、初風諄さん。
かつての娘役で、大劇場ができた年に怪我で引退し、結局大劇場には立てなかったタカラジェンヌ。
きっと、男子部の設立には、いろいろな想いがあったと思う。
でも、それを超えて、母のように、姉のように、魅力的な相手役として、
時に優しく、時に厳しく、時に共に泣きながら、男子部を支えた君原さん。
あの笑顔は、やっぱり初風さんならではだなあ、と思います。
練習の相手役をするときの君原さんの演技と台詞、凄く素敵で、泣けて泣けてしかたがありませんでした。


池田和也役、山路和弘さん。
めちゃくちゃダンディーで、諦めた情熱を、ずっと胸に秘めているような役柄でした。
自分の夢を託すように、自分が諦めた夢を懐かしむように、
そして、そんな自分を嗤いながら愛おしむような、そんな池田さん。
初演では、最後のシーンのBGMは山路さんの演奏だったそうです。
今回もそうだったのかな?


解散を告げられた男子部メンバーと池田さんが歌を歌い、
そしてメンバーが立ち去った後、池田さんは一人稽古場に残りました。
残ったまま、稽古場が大劇場に変わる瞬間を見つめていました。
青い照明の中に、徐々に浮かび上がる大階段。
それを見つめる池田さんの背中が、とても印象に残っています。
あの大階段は、池田さんにとっても、夢の舞台だった。
そして、レビューの途中、華やかな衣装でたおやかに歌う君原さんにとっても。
幻の、でも、大切な大切な夢の舞台。

この舞台があくまで夢物語であるなら、物語はここで終わっていたでしょう。
でも、この舞台には続きがあった。
一つの夢の終焉を迎えた彼らが、笑顔で稽古場をあとにするシーンが。
それが、なんだかとても嬉しかった。
生きていく力をもらった、そんな気持ちになった。


明日の終戦記念日。
この舞台を見た人たちが、同じように力をもらうことができますように。
夢の終わりは、夢が消えることではないと、思うことができますように。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
この記事を読ませて頂いてまた…泣けました。
63年前のあの日を迎えた彼らの心境は、本当には理解しえないけどその痛みとかが伝わって来て、また思わず涙が出そうになりました…。
るーく
2008/08/15 18:24
昨日の終戦記念日、ちょうどこの舞台を観に行きました。
泣きました…。
そして色々考えさせられました。
私も最後、笑顔で皆が出て行くシーンを見て、嬉しかったです。

そして、初演のDVDを見たくなりました。

卯月
2008/08/16 20:19
るーくさん、こんばんは!
読んでくださってありがとうございます。
自分が経験できていないことって、
確かに本当に理解はできないですよね。
でも、学ぶことはできるし、想像することはできる。
それは、難しい本なんかじゃなくて、
一枚の写真だったり、経験者の一言だったり、
この舞台のようなものだったりするのだと思います。
るーくさんとこの舞台を一緒に見れて、
本当に良かったです!
またお付き合いくださいねv
恭穂
2008/08/18 21:35
卯月さん、こんばんは!
15日にご覧になったのですか。
それは、すごく心に響くものがあったでしょうね。
笑顔でのラスト、私もとても嬉しかったです。
夢を求めた時間を糧に、歩き出す勇気・・・
素敵だなあ、と思います。

初演も、また少し雰囲気が違っていいですよー。
須賀くんも、「恋の骨折り損」とは雰囲気が違っていて、
またまた魅力的でしたv
恭穂
2008/08/18 21:38

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