瓔珞の音

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zoom RSS 雄弁な静寂

<<   作成日時 : 2008/08/31 22:19   >>

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暗く冷たい冬の闇。
時に静かに、時に激しく降りしきる雪。
何かに守られているような、
何かに閉ざされているような、
濃密なその空間の中で紡がれる、
こよなく美しい一つの物語。
廻る時の螺旋の中で語られる、
一人の男の狂気とも言える嫉妬が招いた悲劇と、贖罪と、赦しの物語。
そんな舞台を観てきました。


りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ
「冬物語」

2008.8.31 千秋楽 あうるすぽっと C列10番台

構成・演出:栗田芳宏
出演:谷田歩、河内大和、山賀晴代、荒井和真、横山道子、町屋美咲、大山真絵子、永宝千明、横山愛
    塚野夢美、住田彩、塚野星美、磯野知世、栗田芳宏


初めてのりゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ、
そして初めて接する「冬物語」は、
本当に息を呑むほど美しく繊細で、
なのに何故か木と土と命の匂いのする舞台でした。
お芝居が終った後、この空間から出たくなくて、しばし客席に留まってしまったくらい。

黒い舞台の上に円く置かれた12のともし火。
全身真っ白な言霊の4人(塚野夢美さん、住田彩さん、塚野星美さん、磯野知世さん)が、
順々に白い器の中に火を灯して行くと同時に、
ゆっくりと動き始める”時”(横山道子さん)。
揺らめくともし火が描く円と、
暗くのしかかるような黒い背景に降りしきる雪と、
その闇に浮かび上がる英語の字幕と、
一本の木のようにも、十字架のようにも、人の姿のようにも見える一枚の布と、
静かに、けれど絶え間なく動き続け、高く不思議な声で啼く4人の言霊とで作られた空間は、
そこで繰り広げられる人の嫉妬も、怒りも、愚かさも、悲しみも、愛情も、
全て吸い込んでしまうほど濃密で、静謐でした。
まるで、雪の夜のような静けさ―――
ああ、だから、この物語は「The Winter's Tale」なんだ。
物語の進む季節が冬だからではなく、
冬の、雪の夜が持つ静けさの中で、密やかに語られる物語―――

もちろん、そこで語られる物語はとても生々しくて・・・
谷田歩さん演じるシチリア王レオンティーズが、猜疑心と嫉妬に狂って行く様は、
最前列真正面だったこともあり、もうひたすら怖かったです。
表情が、目が、どんどん変わっていくの。
最愛の妻ハーマイオニ(山賀晴代さん)と
幼馴染であるボヘミア王ポリクシニーズ(河内大和さん)の仲を疑う独白があるのですが、
彼の背後で語り合う二人は、同じ台詞をただ繰り返している。
もう、この時点でレオンティーズは真実を見る目を失い、
ただ自分の中の嫉妬が見たいものを見、聞きたいことを聞くだけの狂気の中にあるのだと、そう思いました。

全てを疑い、全てを拒絶し、そして全てを失ったレオンティーズ。
自らの罪に向き合い続けた16年の後に、彼は結局全てを―――ただ一つを除いて、全てを取り戻します。
彼の贖罪には、それだけの時間が必要だった。
そして、その16年をひたすらに見つめ続けた者がいた。

休憩時間の途中から、舞台の奥には能面を被ったハーマイオニが坐しています。
2幕が始まってからも、ずっと、ずっと、舞台の上の物語は、その静かな視線の中にあります。
運命の手が、再びシチリアに全ての者を導き寄せるときも、
レオンティーズとポリクシニーズの再会の瞬間も。
二人の王が再会し、アンティゴラス(栗山芳宏)の残した真実を知り、
そして父と娘が、父と娘として出会うそのシーンは、
一言の台詞もなく進んでいきます。
喜びの声も、謝罪の言葉も、驚きの叫びも、何一つなく。
そして、その時、ハーマイオニの被る能面の表情が、変わっていったように私には思えたのです。

能面は、その角度で表情が変わるといいます。
俯けば泣き、仰のけば微笑み・・・
ハーマイオニは僅かにその角度を変えていた―――それだけの、ことなのかもしれない。
もしかしたら、私の感情が見せた錯覚だったのかもしれない。
けれど、二人の王の再会で、その面が柔らかく微笑んだように見えたとき、
ああ、赦されたのだ、と思ったのです。

レオンティーズは、その暗く辛い後悔の日々を超えて、やっと妻から赦されたのだ、と。
そして、ハーマイオニ自身も、夫を赦すことを自分に赦したのだ、と。

そう感じた瞬間、涙がこぼれました。
込み上げてくる嗚咽を、やっとのことで押さえ込みました。
涙は、カーテンコールまで止まらなくて。
まさかこのお話で、しかも台詞でも仕草でも音楽でもなく、
端正な面の僅かな表情の差で、こんなにも泣けてしまうとは思ってもいなくて、ちょっとびっくりしました。

最後、この面をとって、輝くばかりに美しいハーマイオニが王の手に戻ります。
彼女を抱きしめ、仰のいた王の頬を、すっと伝った涙が本当に切なくて・・・
素直に良かったなあ、と思ってしまったのでした。



レオンティーズ役、谷田歩さん。
劇団AUNの「リチャード三世」で見ているはずなのですが・・・何の役だったかな?(汗)
さっきも書きましたが、1幕のレオンティーズは本当に怖かったです。
目の前で激昂されたときには、もう思いっきり身体が椅子に張り付きましたもの(笑)。
いきなりお経を唱え始めた時もちょっと怖かったなあ・・・
そのイメージがあんまりにも強かったので、
改心した後の2幕も、また怒り出すんじゃないかと、ちょっとドキドキしました(笑)。


ポリクシニーズ役、河内大和さん。
この役、実は私的にはレオンティーズとは違う意味で怖い男でした。
なんというか、流される振りをして、実は黒幕?みたいな印象(え)。
もしかして、ポリクシニーズ自身はハーマイオニを本気で口説いていたんじゃ、とか思っちゃった(笑)。
優しい笑顔なのに、目が笑ってない感じだったからかなあ・・・?
1幕でこの方が着ていた衣装が、めちゃくちゃ好みでしたv

この舞台、総じて衣装が綺麗でうっとりしてしまいました。
能衣装をモチーフにしているのでしょうけれど、
重そうな着物の生地と、柔らかい薄手のシフォンの組み合わせが新鮮。
”時”とマミリアス役の横山さんが来ていた衣装の模様も、イコンみたいな感じで意味深で素敵でしたv


ハーマイオニ役、山賀晴代さん。
もう、とにかく存在自体が美しくてかっこよかったです!!
毅然とした強さと、懐の深い優しさが滲み出る感じ。
こんなに綺麗な役者さんを今まで知らなかったなんて・・・ちょっと損した気分です(え)。


カミロー役、荒井和真さん。
どっしりと構えてる風で、実は一番身軽な役柄でした。
彼が動くことで、事態も動いていく、というような。
蜷川さんの「リア王」で瑳川さんが演じていたケント伯を彷彿としました。


マミリアス/時役、横山道子さん。
王子マミリアスでは、見事に少年、という感じでした。
お母さんが大好きで、父王も大好きで、二人の不仲に心を痛めて死んでしまった王子さま。
その王子と、物語を刻む”時”が同じ役者さん、というのが個人的にとてもツボでした。
”時”は、休憩時間から2幕の終わりまで、ずっとともし火の円の周りを、
同じ丸い光を上げ下げしながら回り続けます。
これって、凄く大変だと思う。
でも、とてもいい演出だなあ、とも思いました。
人間の思惑の外側を回り続ける、”時”。
止まってくれ、と念じても、
早く過ぎ去ってくれ、と懇願しても、
決してその願いを聞き届けることのない”時”。
最前列だと、”時”の動きは全部は見えないし、逆に”時”の影に役者さんが隠れてしまうこともあったけど、
彼女が回り続けていることで、この舞台独自の”時間”が刻まれていたように思いました。
これは、後方席から全体も見てみたかったなあ・・・


パーディタ役、町屋美咲さん。
とても美しく泣くお嬢さんでした。
あの涙と笑顔の美しさは、間近で見れてほんとに良かったv
柔らかな優しさと凛とした佇まいが、ハーマイオニの血を引く娘、という感じでした。
顔から指の形まで、パーディタはお父さん似なんだよね(笑)。
衣装は、羊飼いの娘、という意味合いであの衣装だったのだと思いますが、
ちょっとシルエットがぽてっとしていて重そうでした。
そこだけちょっと不満かも(笑)。


フロリゼル役、大山真絵子さん。
ボヘミア王の息子で、パーディタと恋に落ちる役。
少年の初々しさと勢いがありました。
でも、この役、男性でもいいんじゃないかなあ・・・
だって、ボヘミア王の台詞から考えると、20歳は過ぎてるはずだし。
パーディタの方がしっかりしているように見えました。
・・・でも、このお芝居、女性陣の方が男性陣よりも総じて賢くしっかりしてますよね。
やっぱりシェイクスピアの女性観って面白いなあ。


ポーライナ役、永宝千晶さん。
こちらもとっても強くてかっこいい女性でした。
王に真正面から意見するところも、
全てをなくした王の傍で、その生き様を見続けたことも、
そして、この物語の幕を、ああいう形で引いたことも。
もう、本当にかっこ良かった!
なので、最後いきなりカミローと結ばれちゃったのには、ちょっと唖然としてしまいました。
うーん、彼女にはアンティゴナスを弔っていてほしかったなあ・・・


エミリア役、横山愛さん。
王妃を敬愛し、王子をわが子のように可愛がる女官・・・の役かな?
王妃やポーライナのような全面にでる強さはありませんでしたが、
女性らしい優しさが感じられました。


言霊役の四人のお嬢さん。
衣装とメイクどころか、髪からつま先まで真っ白・・・!
しかも動きがとてもゆっくりで、でも4人がきちんと連動していなくてはならなくて・・・
これはたいへんだったろうな、と思います。
1幕での声は、何か言葉だったのかな?
上手く聞き取れなくて、ちょっと気になりました。


そして、アンティゴナス・羊飼い役の栗田芳宏さん。
いやー、あの飄々とした佇まいや困ったような表情がひたすら好みで、
実はちょっとよろめいて(笑)いたのですが、
ちらしを見直したら、この舞台の演出も栗山さんなんですね!
正直惚れ込んでしまいました。
カミローが物語を動かしていくのなら、
アンティゴナスと羊飼いはその土台となる種を蒔く役だと思いました。



この物語は、息子(マミリアス)に昔話をねだる母(ハーマイオニ)のシーンから始まり、
そして、娘(パーディタ)に昔話をねだる母(ハーマイオニ)のシーンで終わります。
同じ位置で、同じ台詞で、けれど、決して同じではない瞬間。
それを見守り続ける、”時”。
この終わり方も、大好きでした。

「冬物語」は、来年蜷川演出でも上演されます。
この舞台とは、きっとまったく違うアプローチでくるはずの蜷川演出。
どんな切り口で、どんなトーンで、どんな空間で物語が紡がれていくのか、
今からとても楽しみで・・・そして、ちょっと怖かったりします(笑)。

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酒と芝居の日々
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
恭穂さん、こんばんは。
今回も観劇日が被らなくて残念です。

りゅーとぴあシリーズ良いでしょうーーーーーっっっ!
山賀さん、ほんっと美人ですよね。姿だけでハーマイオニに説得力ありすぎです。

フロリゼルは前回は男性だったのですよ。(DVDでしか見てませんが)
ポストトークによると「人がいない」のが理由だそうです。

今度はぜひご一緒に観劇したいですね♪
花梨
2008/09/01 00:46
花梨さん、こんばんは!
りゅーとぴあ、本当に良かったです!!
思わずDVD大人買いしそうになって、
危うく踏みとどまりました(笑)。
でも、花梨さんお薦めの「マクベス」と「オセロー」は、
ちょっと本気で検討してみようと思います。
山賀さん、本当にお綺麗でした・・・v
なかなか観劇にご一緒できませんが、
いつか是非、沢山お喋りいたしましょう!
恭穂
2008/09/02 22:06

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