瓔珞の音

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zoom RSS 扉の向こう

<<   作成日時 : 2008/09/27 21:45   >>

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白い幕に囲まれた薄闇の中で、無邪気に遊ぶ子供たちの声。
無邪気な遊びの時間は長くは続かず、
迎えに来た乳母と共に、子供たちの姿が消えたあと、
そこに現れたのは、まさに「人形の家」でした。


シス・カンパニー公演
「人形の家」

2008.9.19 ソワレ シアターコクーン 1階BL列一桁台

作:ヘンリック・イプセン
演出:デヴィッド・ルヴォー
出演:宮沢りえ、堤真一、山崎一、千葉哲也、神野三鈴、松浦佐知子、明星真由美 他


学生の頃、教科書の中で覚えたイプセンの「人形の家」。
女性が自立していく様を描いた、当時の問題作である、と習った気がします。
書かれたのは1879年。
その当時の、しかもヨーロッパとは、今の日本は全然違うはず。
社会情勢も、文化も、女性の立場も、男性の立場も・・・
なのに、この舞台は、全然古臭くなんかなくって、
むしろ、容赦なく切り込んでくる刃のような怖さがありました。

子供たちの去り、白い幕が落とされたあとに現れたのは、
四方を客席に囲まれた四角い舞台。
気ままに置かれた幾つもの赤いクッション。
小さく揺れる木馬や椅子。
おもちゃのように可愛らしい寝椅子。
その”壁のない部屋”は、かすかに流れる音楽の中、ゆっくりと回転していました。
まるで、小さい頃に大事にしていた、人形の乗ったオルゴールのように・・・

遮るもののない舞台。
決して表に表れない他の部屋。
現れては消えていく登場人物。
その空間の中に、囚われたように常に在った一人の女。
笑い、はしゃぎ、踊り、怒り、怯え、求め、そして絶望した一人の女。
愛され、与えられ、望まれたカタチでいるという安寧よりも、
愛し、与え、望み、自分で自分を導いていくことを選んだ一人の女。

そのどちらが”幸せ”なのか、私にはわかりません。
鮮やかな衣装を脱ぎ捨てて、一人階段を上った彼女が、
その後どんな風に生きていくのか、この舞台では語られていません。
けれど。
奥の客席の間を通る長い階段の上。
唯一つだけあった実際の扉。
彼女が出て行ったその扉の向こうからは、白く光が差し込んでいました。
停滞し、澱んだ”人形の家”の空気を切り裂くような白い光は、
眩く、冷たく、そして清冽だった。
その甘さのない光が、彼女の覚悟を表すかのようで、
私はなんだかとても満足してしまったのでした。


ノラ・ヘルメル役、宮沢りえさん。
この舞台は、彼女がいたからこそ成り立ったのではないか、と思えるほどの存在感でした。
他のキャストはモノトーンの衣装なのに、
彼女の衣装だけは色鮮やかで、そしてどこかいびつだった。
作り物めいた儚さや不安定さと、その陶器のような美しさはまさに”人形”。
最初、求められるままに”可愛い人形”を、無自覚に演じ続けていたノラが、
唯一自分で選んだ「秘密」に追い詰められ、揺らいでいく様は圧巻でした。
彼女の揺らぎと相関するように、四角い”人形の家”の空間が歪んでいくのが凄くよくわかるの。
クロクスタと対峙する時、私席からだとノラが真正面なことが多かったのですが、
その時に一変する表情が、抑圧された”真実のノラ”の片鱗を覗かせていて、
はっとするほど美しいと思いました。

彼女が、夫に夢見た”奇跡”。
夫のためとはいえ、自らの無知が招いた夫の危機に、
夫が自分を愛し、信じ、守ってくれるという”奇跡”。
それって、ノラだけではなくて、たぶん今の社会に生きる私たちの誰もが、
多かれ少なかれ願う”奇跡”なんじゃないかと思う。
でも、”奇跡”はめったに起こらないから”奇跡”なのであって・・・
私たちは―――少なくとも私は、その”奇跡”を信じないふりをしたり、
沢山の言い訳や逃げ道を用意して、自分自身を守っている。
けれど、ノラにはどんな言い訳も逃げ道もなかった。
ただ一途に、底なしの不安を持ってその”奇跡”を信じ、そして彼女は賭けに負けた。
その敗北は、彼女を”真実のノラ”に向けて立ち上がらせ、旅立たせることになったけど・・・
傷ついた自分が、誰かを傷つけることもあるのだということを、彼女はわかっているのかな?
きっと、わかっているよね。
わかっていて欲しいな。


トルヴァル・ヘルメル役、堤真一さん。
まさに、妻を”人形として”愛玩する子供のままの夫だ!と思ってしまいました。
べたべたに甘やかして(それはイコールで甘えてることだと思う)いるのに、
彼女の何も根底から信じてはいない。
すごくかっこよくて、頼りがいがあって、あんな風に大人なふりで甘やかされたら、
それはやっぱり一瞬でも居心地良くなっちゃうでしょう、とも思っちゃった(笑)。
でも、トルヴァル自身も、ノラの不安定さは感じていたんだろうな。
仮装舞踏会の後、強引にノラを抱き寄せたのは、
ランクへの対抗心のようなものもあったでしょうし、
ノラの不安定さに感化するように歪んでいく空気を振り払う気持ちもあったのかもしれない。
家を出ようとするノラと、何もない部屋の中で対峙したトルヴァルの、
私は背中しか見ることはできませんでした。
その分、ノラの表情は真正面で見ることができたのだけど。
あの時、彼はどんな表情をしていたのかな?
戸惑い? 怒り? 自嘲? それとも置いていかれる不安?
出て行くノラに言葉で追いすがり、でも、決して共にその”人形の家”から出ようとはしなかったトルヴァル。
「空っぽだ・・・」という彼の台詞は、本当に子供の言葉のように感じました。
あの後、彼はノラとの関係を再構築することができるのでしょうか?
なんだか、安易に次の”人形”を選びそうな気がするなあ・・・
心情的にはそうでないことを祈ってはいるのですが。


ニルス・クロクスタ役、山崎一さん。
私好みの「背景の感じられる」クロクスタでした。
やっぱり山崎さん、好きだなあ。
ノラを脅す様は、本当に容赦ないのだけど、
でも、何処かに迷いがあって、何処か憎めない感じだった。
彼自身守るものがあって、そのために、自分の当然の権利を主張している感じ。
もちろん、あくどいことをやっていたのは事実なのだろうし、
トルヴァルが彼を毛嫌いする理由もあるのだろうけど。
でも、クロクスタがリンデ夫人と語らって、ノラへの脅しを取りやめようとした時の、
あのほっとした表情が、クロクスタという人物の全てをあらわしているように感じました。


クリスティーヌ・リンデ夫人役、神野三鈴さん。
初めて拝見する役者さんなのですが、落ち着いた佇まいがとても素敵でした。
いや、このくらい落ち着いた大人でないと”人形のノラ”と友人はやってられないと思う(笑)。
友人、というよりも、姉のような存在だったんでしょうね。
彼女は、ノラの苦悩を間近で見て、徐々に壊れていく彼女に不安を募らせていくのですが、
間接的にもノラの背中を押したのは、彼女でした。
それが、ノラにとって一番だと、そう彼女は思ったのでしょう。
それについてはいろいろ思うところはあるのですが・・・
でもまあ、クロクスタのためにも、リンデ夫人には幸せになってもらいたいな、と思います。


ドクター・ランク役、千葉哲也さん。
なんとも切ない役柄でした・・・
きままな様子でノラをからかい、その明るさや可愛らしさを愛でながら、
それでもトルヴァルよりも、”ノラ自身”を愛していたようにも感じます。
その一方で、限られた自分の人生では、決して手に入れることのできない彼女を、
ただ眩しい存在としてだけ憧れてたようにも思う・・・
タランテラを踊るノラが、ランクにしなだれかかるシーンが目の前だったのですが、
ノラの目は、甘えたりすがったりするよりも、挑むような感じだったような気がします。
それは、ノラなりの拒絶の表明だったのかもしれないし、
一度の拒絶で退いてしまったランクへの複雑な感情だったのかもしれないなあ・・・


もう、観てから1週間も経ってしまったので、断片的な感想になってしまいました。
ルヴォーさんの演出作品は初めてだったのですが、
あの、細部まで”人形”というキーワードにこだわった(ように私は感じた)演出は、
素晴らしかったなあ、と思いました。
各幕の始まり方や終わり方も、とても好きだったし、
やっぱり、あの最後の階段と扉が凄く印象的でした。
また機会があれば、この方の演出も観てみたいな、と思います。
そして、りえちゃんと松さんの来年の舞台も観たいなあ・・・
チラシがとってもかっこよかったんですよ。
チケット争奪戦、凄そうですけどね・・・・うーん、とれる自信は全然ないです!(笑)

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タイトル (本文) ブログ名/日時
08/09/27 「人形の家」一生懸命の女ノラ!
{/m_0084/} 新潮文庫の「人形の家」で予習中、面白くて帰宅途中で電車を乗り過ごした。 そして観劇当日、しっかり泣いた。反芻して感想を書いていこう。 【人形の家】 作:作:ヘンリック・イプセン 演出:デヴィッド・ルヴォー 英訳台本:フランク・マックギネス 翻訳:徐 賀世子 今回の主な配役は以下の通り。 宮沢りえ=ノラ・ヘルメル 堤真 一=トルヴァル・ヘルメル 神野三鈴=クリスティーネ・リンデ夫人 山崎 一=ニルス・クロクスタ 千葉哲也=ドクター・ランク 松浦佐知子=アンネ・マリーエ... ...続きを見る
ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記
2008/10/10 01:54

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
イプセン『人形の家』昔読みました。高校生くらいの頃ですが・・・(汗)。

しかしこのキャスティングは面白そうですね。ノラの宮沢さんはもとより、トルバルを堤さんがどう演じているのか(僕のイメージではちと格好良すぎな気が(笑))に興味大です。

劇場にはなかなか行けないので、NHKなどでの放送に期待しております。
まさみつ
2008/10/02 11:01
まさみつさん、こんばんは!
堤さんのトルヴァル、私もちょっとかっこよすぎかなー、と思いましたが(笑)、あの当時の地位のある男性の傲慢さと鈍感さがとてもいい感じでしたv ノラにおいていかれたときのあのなさけな〜い感じも良かったですよ。私ももう1回観てみたかったので、TV放映を心待ちにしていようと思います。
恭穂
2008/10/05 20:35

観る前に戯曲を読んでおいたら、各登場人物の抱えてきたものとかをいろいろイメージしながら観ることができてよかったです。当日はランクとノラの関係性のせつなさに最後の「ゆっくりおやすみ」の場面で涙腺決壊(T-T)
それにしてもルヴォー演出によって戯曲の普遍性が21世紀の現在にもしっかり通じると思えました。観劇後にまた戯曲を読んで舞台が脳内再現してからようやく感想アップしました。お目通しいただけると嬉しいです(^O^)/
ぴかちゅう
2008/10/10 02:17
ぴかちゅうさん、こんばんは!
あの「ゆっくりおやすみ」は、本当に泣けましたねー。
私は席の関係で、ノラの表情が正面だったのですが、
りえちゃんのとても綺麗で、
でもどこか複雑に歪んだ感じの表情が印象的でした。
演出もとても良かったし、
私も脳内再生しながら戯曲を読んでみようかとおもいます。
恭穂
2008/10/10 22:11

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