瓔珞の音

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<<   作成日時 : 2009/04/29 15:55   >>

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単独でも見ごたえがあるけれど、共に在ることで更にその魅力を増す、
というのは、人でもものでも確かにあると思います。
私にとって、坂東玉三郎さんと片岡仁左衛門さんは、まさにそういう存在。
たぶん「牡丹燈籠」印象が強いのだと思いますが、
この二人の間の感情の流れが、私はとても好き。
それが、恋情でも、安寧でも、嫉妬でも、憎悪でも。
華やかで、細やかで、そしてリアルな感情の流れ。
今回も、堪能してきました。


四月大歌舞伎 昼の部 「通し狂言 加羅先代萩」

2009.4.25 歌舞伎座 1階17列10番台


仙台は伊達家のお家騒動を題材としたこの演目。
やはり「菊五郎の色気」を読んでから、是非一度観てみたいと思っていました。

お家乗っ取りをねらう家臣に唆された放蕩の末、隠居を命じられた父・頼兼の跡を継ぎ、
幼い身で足利家当主となった鶴千代。
当然のように彼の命をねらう仁木弾正や、その妹・八汐。
彼らから、自分の命も、命よりも大事なものを捧げて幼い主君を守る乳母・政岡。
正当な主君を得るために、老体に鞭打ち弾正に立ち向かう外記左衛門。
最後は大団円なのだけど、とても痛い物語でした。


序幕 鎌倉花水橋の場

お家騒動の元凶となった、足利頼兼(中村橋之助)の人となりを観ることの出来るシーンでした。
家臣に唆されたとはいえ、政も、幼い息子も放って遊興にふける頼兼。
高価な加羅木で作った履物を履き、一人籠に乗って遊郭へ向かう頼兼。
どんな馬鹿殿さまか?!と観る前は思いましたが、
橋之助さん演じる頼兼の佇まいをみてしまうと、なんだか仕方ないのかなあ、と思えてしまいました。
その位、なんとも浮世離れしたお殿様だったのです。
殺気全開で襲ってくる刺客たちを前に、
ひたすらに優雅に、ひたすらに気だるく、ひたすらになめらかに歩く頼兼は、
なんだか懸命に生きる人たちとは別の次元にいる人のように見えました。
この殿様は、こう在ることでしか、自身をまもることができなかったのかもしれないな、と。
まあ、市川染五郎さん演じる力士・絹川谷蔵とのやり取りを見る限りでは、
単に天然なのか?とも思いましたが(笑)。
徐々に明るくなる夜明けの川べりで、
一人悠然と花道を立ち去る頼兼は、きっともう浮世のしがらみを断ち切ってしまっていた。
それは、残されたものにはとても残酷で、この後の悲劇の引き金でもあったのだけど・・・


二幕目 足利家竹の間の場
三幕目 第一場 足利家奥殿の場

坂東玉三郎さん演じる政岡と、片岡仁左衛門さん演じる八汐をはじめとした、女たちの戦いの場でした。
・・・実は、政岡と千松のくだりしか知らなくて、且つ、お昼食べてて筋書も読んでいなかったので、
八汐が女性であることに素で驚いてしまいました。
えええ?! 仁左衛門さんが女形?!って(笑)
女形とはいえ顕著に変えてはいない仁左衛門さんの声に最初こそ違和感がありましたが、
観ているうちにそんなことはすっかり何処かへ飛んでいってしまいました。
権威を笠に、政岡を落としいれ、排除し、鶴千代を亡き者にしようとする八汐。
この物語きっての悪役なのだけど、どこか憎めない詰めの甘さと素直さがありました。
自分の弄した策が失敗に終った時の苦々しい表情や、
鶴千代に「お前が獄屋へ向かえ」と言われた時のあっけにとられた表情が、なんだかとても可愛らしくて。
もちろん、政岡と対峙する時の強い視線や、
千松を手にかける時の鬼気迫る表情は、可愛らしいといえるものではもちろんないのだけど、
でも、彼女にも彼女の正義があったのだ、と、そう思わせる何かがありました。

その八汐を受ける玉三郎さんの政岡。
子供たちに向ける深い母性と、公私の選択の時に苦しみながらも公を選んだ強さの両方がありました。
三幕目の飯炊きのシーンはもちろんですが、
子供たちと接するどのシーンでも、子供たちにむける愛情が感じられました。
もちろん、主君である鶴千代を敬う心も感じられたけど、
それ以前に自分が育てた子供たちへの底なしの愛情があった。
だからこそ、千松が殺されるシーンで、鶴千代を打ち掛けの中に抱き寄せながら、
微動だにせず八汐を睨みつける政岡の心情がとてもとても切なくて・・・
あの時点で、“私=千松”を選んでしまったら、鶴千代は廃される。
それが、藩にとってどれだけの影響を及ぼすかを冷静に考える理性の下で、
一体どれだけの嵐が吹き荒れていたのか・・・
そして、千松の亡骸と二人きりになったときのあの嘆き。
幼い身で、母の言いつけを守り主君を守った小さな武士を讃えながらも、
抑えきれない一人の“母”としての悔い―――
最後には息子の仇をその手でとり、間接的でも鶴千代を当主の座へと導いたけれど、
自分の息子を見殺しにしたという母の罪を、彼女はきっとずっと背負いながら生きていく。
打ち掛けをその小さな身体にかけるときの手の優しさに、彼女のそんな決意が見えたように思いました。

そんな緊迫した政岡と八汐のやり取りの間で、
安齋龍聖くん演じる鶴千代と秋山悠介君演じる千松の可愛らしさといったら!
大人たちがやりあう中で、ちょっと傾きながら健気に静かに座り続け、
自分の動くべく時にはきちんと動く千松に、かなりほだされました。
おなかが空きすぎてふらつきながらも、お母さんの言いつけどおりに歌を歌い、主君への礼も忘れない・・・
見事に役者でした!
歌舞伎の子役のしゃべり方ってとても独特で、ちょっと馴染めなかったのですが、
この二人のきちんとした演技は、この物語の大きな核の一つだなあ、と思いました。

そして、ある意味救いのないこの物語の中で、
まさに“爽やかな風”であった、中村福助さんの沖の井!
最初は八汐と一緒に登場したり、鶴千代にお膳を勧めたりで、
のっとり側なのかなあ〜と思わされましたが、
天井裏から刺客が叩き落されたあたりから、一気に鶴千代と政岡の味方に!
というか、沖の井をはじめ、腰元のみなさん、めちゃくちゃ強いんですけど?!
・・・刺客が弱すぎのかも?(笑)
もちろん、沖の井も完全に政岡側というわけではなくて、
沖の井と八汐の間、あるいは自分の夫と八汐の兄の間の確執なんかが、
彼女にああいう行動を取らせたのかもしれませんが、でも、とにかくかっこよかったです!
八汐の睨みにも全く臆さず、むしろ彼女をからかう余裕すらある感じ。
濃い青の打ち掛けも、彼女のきっぱりとした佇まいにとても合っていたように思います。

でもって、沢山いた腰元さんたちの中に、お一人とーっても綺麗な方がいらっしゃいました!
いえ、みなさんお綺麗なんですが、その方、とても私好みな綺麗さだったんですよねー。
今回の筋書の表紙の女性のような感じでした。
二幕目で後ろに並んだ時に右から4番目に座ってた方なんですが、名前はわからず(涙)。
どなたかわかる方、是非お名前を教えてください!(笑)


三幕目 第二場 足利家床下の間

この場は、とにかくセットにびっくりしました!!
奥殿ががーっと持ち上がって床下になるんですよ!
でもって、前の場で大事な連判状を奪った鼠が今度は人の大きさで(笑)登場するんですが、
その動きがとってもキュートv
で、その鼠は実は仁木弾正が化けていた、という設定なのですが、
演じる中村吉右衛門さんの存在感に脱帽。
台詞が一つもないのに、この物語の悪のボス(え)であることを深く印象付けてくださいました。


四幕目 問註所対決の場
大詰 門註所詰所刃傷の場


そして、女たちの戦いのあと、今度は政に直結する男たちの戦いの場です。
この場で一番印象に残ったのが中村歌六さん演じる渡辺外記左衛門でした。
政岡の父であり、仁木弾正率いる乗っ取り派から鶴千代を守ろうと、
懸命に弾正の悪事を暴こうとする外記左衛門。
差し出す証拠の悉くをつき返され、それでも礼節を忘れず、耐える姿はまさに政岡の父。
そして、細川勝元(片岡仁左衛門)の裁きで弾正の悪事が暴かれ勝利した後、
錯乱した弾正に切り付けられ、彼との対決となります。
老体も、負った傷をも耐えて弾正と対峙する外記左衛門・・・
彼は、殺された千松の祖父でもあるのだ、と。
弾正は乗っ取り派のリーダーであると共に、間接的ではあれ孫の仇であるのだと。
そう思い至った瞬間、必死な外記左衛門の姿を息を呑んで見つめてしまいました。
満身創痍の外記左衛門を支え、その手を取って弾正にとどめを刺させる染五郎さん演じる民部も、
千松の仇をとるのも、鶴千代を支えるのも外記左衛門自身でなくてはならないという、
強い意志と父への敬愛が見えて、凄く良かったです。
弾正を倒した後、勝元に促され苦しい息の下で舞を舞う外記左衛門・・・

この大詰は、きっと数々の見得を鮮やかにきる吉衛門さんの弾正こそが主役なのだと思う。
けれど、私にはこの場は外記左衛門の場であると思った。
そして、長い長いこの物語は、千松という小さな命を中心とした、渡辺家の物語であると、そう思いました。

・・・それにしても、細川勝元は本当に美味しい役です(笑)。

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自分の記事が書けてからコメントしようと思いつつ、なかなか書けないので先にコメントさせていただきま〜すm(_ _)m

この芝居の八汐のように女どうしの対決になる敵役を立役が演じるのを加役といってわざと正義の方の立女形と対照的になるようにしているので、女形が八汐を演じることはないと思います。立役が演じることで憎憎しさと可笑しみが出るのが面白いところです。玉三郎VS仁左衛門もよかったですが菊五郎VS仁左衛門も好きでした。
吉右衛門VS仁左衛門の男同士の闘いも対照的で堪能しました。最近、この二人の共演を観ることができるようになったのは嬉しい限りなのです。
>沢山いた腰元さんたちの中に、お一人とーっても綺麗な方......芝のぶちゃんじゃないかと思います。左からは2番目だったような。段治郎・春猿と国立劇場の研修生の同期です。芝翫丈のお弟子さんなんですけれど私も贔屓です。
ぴかちゅう
2009/05/15 01:20
長いコメントできないので2つに分けました(^^ゞ
今年初めて私も買ったのですが『かぶき手帖』2009年版(俳優祭の模擬店の記事にも紹介つけておきました)をおすすめします。
http://www.actors.or.jp/syupan/syupan1_f.html
今年の特集では、「歌舞伎の人類学」と題して立役・女形の様々な役柄を紹介しています。歌舞伎の場合は役者さんに当てはめて芝居をつくるので人物をパターン化しているのでこの特集はすごく参考になるはずです。今回の芝居はどの世界にする、そして立役の座頭役者には○の役、二枚目には△の役、立女形には◎の役をという感じでつくっていくわけです。だから千穐楽から次の月の初日までの数日で芝居が開けられるのでしょう。
歌舞伎座にも木挽堂書店にも売ってます。そうそう玉三郎丈の和楽ムックは木挽堂書店なら200円引きで買えます(笑)
ぴかちゅう
2009/05/15 01:22
ぴかちゅうさん、こんばんは!
なるほど〜、加役、初めて知りました。
今はまだ、まっさらに素直に感じながら見ている感じですが、
やっぱり背景や知識があって見ると、
もっと深く楽しめるのでしょうね。
役のこともそうですが、衣装やセットの意味なども・・・
「かぶき手帖」、実は筋書にあった広告を見て、
買おうかどうしようか迷っていたのですが、
やっぱり買おうと決心しました!
教えていただいてありがとうございましたv
今後ともよろしくお願いいたします。
恭穂
2009/05/15 23:32

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