瓔珞の音

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<<   作成日時 : 2009/08/29 22:40   >>

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雨の音は好きですか?
私は結構好きです。

屋根にあたる遠い雨音も。
リズミカルに傘を打つ軽やかな雨音も。
全てを消し去るかのように地面に叩きつける強い雨音も。

雨が降ると、何かに包まれているような気持ちになります。


この舞台は、絶え間なく降り続く雨音の中で進みました。
雨と、壁と、しがらみと、そして死と。
幾重にも囲い込まれた空間の中で、洗い流されていく澱と、ただ一つ残った感情。
とても、いいお芝居でした。



「7DAYS JUDGEMENT  死神の精度」

2009.8.22 マチネ シアタートラム J列一桁台
2009.8.23 ソワレ シアタートラム B列10番台

原作:伊坂幸太郎
脚本・演出:和田憲明
出演:香川照之、中川晃教、鈴木省吾、ラサール石井


友人に薦められて、初めて読んだ伊坂さんの本が「死神の精度」でした。
一つ一つの物語の中で、死神である千葉が出会う人たち。
彼が出会うということは、即ち7日後には必ず何らかの形での別れがくるということ。
千葉自身は”仕事”と言い切るこの出会いと別れの7日間。
その設定の妙にも、千葉という、たぶん死神の中でもちょっと規格外な死神の存在感、
そして、時間軸の微妙に隠された物語にとても心惹かれました。

今でも、伊坂さんの本の中でベスト3に入るこの物語。
舞台化されると知って、楽しみな反面、ちょっと不安があったのも正直なところ。
だって、原作モノの映像化や舞台化って、凄く当たり外れがありませんか?
原作を尊重するという名目で、ただ似た世界を作るだけになってしまったもの。
換骨奪胎を名目に、その本質をまったく別物にしてしまったもの。
ちょっと哀しい気持ちになってしまったことも、少なくないのです。

が!
この舞台は、私的には思いっきり”当たり”でした!!
原作の中の「死神と藤田」をベースにしながら、
他の5つの物語のテイストや名台詞も取り込んで、
違和感無く一つの深い物語へと編み上げられていたのです。

昔気質のヤクザであるがゆえに、属する組からも敵対する組からも命を狙われる藤田。
その藤田を慕いながらも、過去の因縁に足を取られ、立ちすくむ阿久津。
そして、その二人それぞれと何かを交し合う死神・千葉。

3人の関係と、それぞれの感情のやり取り、そして彼らが生きてきた時間が、
雨の幕に囲まれた小さな部屋の中で、濃密に交差する―――
脚本も素晴らしかったけれど、演じた役者さんたちがとにかく見ごたえありでした。

藤田を演じたラサール石井さん。
たぶん、舞台で観るのは初めて。
任侠の男・藤田の、深い情を淡々と、時に凄味を持って演じてらっしゃいました。
親しい相手を殺されたことも、誰かの親しい相手を殺したこともある藤田。
その全てに言い訳をしない藤田が、
千葉を相手に漏らしたたった一つの後悔―――殺したくなかった相手のこと。
その相手の息子、阿久津への切ないほど優しい感情。
正直、藤田の阿久津に対する行動は思いっきり乱暴です。
殴るしこづくし蹴るしあしらうし・・・ま、ヤクザだからしょうがないのかな?(笑)
でも、その行動の根底には、きちんと阿久津への気持ちがあるのね。
それは、愛情でもあり、贖罪でもあり、後悔でもあり、戸惑いでもあり―――それが、すごくよくわかった。

小さな阿久津を連れて奥入瀬へ行った時の話。
地面と同じ高さで緩やかに流れる水。
緑の木々から降り注ぐ木漏れ日。
遠く近くさえずる小鳥の声。
その中で、ずっとずっと押し込められていた何かを、
泣きながら、溜めていたものを吐き出すように話し続ける小さな阿久津。
ラサールさんの、少しかすれた声が語るその情景が鮮やかに脳裏に浮かんで、
同時に、胸が痛くなるほどの愛しさを感じました。

だからこそ、阿久津を奥入瀬に誘うときの必死な様子も、
日本刀を片手に、雨の中ただ一人阿久津を助けに現れる瞬間も、
なんだかすごくかっこよく見えた。
ああ、きっと阿久津にとって藤田は常にヒーローだったんだな、と、そう思いました。


そして、その阿久津を演じた中川晃教くん。
歌わないアッキーというのは初めてで、どうなるのかなあ・・・と思ったのですが、大健闘でした!
最初はね、チンピラな言葉遣いが聞き取りにくくて、ちょっと違和感があったのですが、
必死に虚勢を張って、自分の感情を掴みきれずに惑い続ける阿久津を、
アッキーはリアルに演じていたな、と思います。
乱暴な言葉遣いで、弱っちいのにすぐに拳をあげて、
でも、ちょっと気がつくとその辺を片付けてたり、
寝床代わりの毛布をきちんと角をそろえて敷いたり・・・
悪ぶってるけど、凄くきちんと育てられたんだなあ、なんて、ちょっと思ってしまいました(笑)。
もしくは、そういう風にいい子でいなければ、という危機感のようなものを常に彼は持っていたのか・・・
いずれにしても、阿久津がそう育っていった根本には、藤田との生活があった。
幾つの時に藤田に引き取られたのかは詳しくは語られなかったけど、
不器用に、でも本当の親のように阿久津に接してきた藤田が思い浮びました。

だからこそ、親であり、ヒーローだった藤田が仇であると知ったときの衝撃は大きかったと思う。
冒頭の、藤田を前にした時の阿久津の余裕のなさが、なんだか痛々しくてね・・・
左手のあの動きが出るのも藤田を相手にしたときだけで。
それだけでも、阿久津がどんなに複雑な思いを抱えているのかが感じられてしまった。
千葉に、両親が殺されたときのことを語るときもそう。
ボウルを抱えてジャガイモをむきながら話すのだけれど、
ナイフを操る速さに凄くムラがあって、俯いた横顔と不意に止まるナイフの動きに、
阿久津がその”事実”を受け止め切れていない様子が凄く良くわかった。
藤田が両親を殺したという事実と、藤田と過ごしてきた時間がせめぎあっているように思いました。

いろんな葛藤を超えて、
藤田は阿久津に全てを語ろうと思い、阿久津は藤田を守ろうと思う。
外側から互いを窺いあっていた二人が、命のやり取りをきっかけに、正面から向かい合う。
藤田はただ阿久津が大事で、阿久津は藤田への敬愛の念を消せなくて、
そういうシンプルな感情だけが、二人の間に残った。
それは、雨上がりの日の光のようにきらきらした綺麗な感情で、
だから、眩しいように目を細めて笑いあう二人の自然な姿がとても優しくて、とても鮮やかで、
そしてとても幸せそうで―――涙が溢れてしかたがなかった。

もちろん、千葉のジャッジは「可」で、二人の時間は翌日に唐突に(けれど予定通りに)断ち切られます。
そのことは、壁に映された文字でしか語られません。
けれど、藤田を亡くした阿久津が、藤田の約束を守るかのように、
ただ一人で奥入瀬へ向かったことが、短い文章の中かから察することができました。
かつて、二人で歩いたあの道を、阿久津は一人で歩いたのかな。
そう思ったら、止まったはずの涙が溢れてきて、カーテンコールは笑顔になることができませんでした。


そんな二人とともにあった千葉役の香川照之さん。
微妙な間が、まさに千葉!という感じでした。
雪男や年貢のことを生真面目に問いかけるのも、
何気に挙動不審なのも、ほんとに千葉らしく(え)。
「ミュウージック!!」という言い方も、個人的にツボでした(笑)。

結局は「可」のジャッジを報告するけれど、一応真面目に調査する、という千葉。
対象とのかかわりは”仕事”であると言い切る千葉。
でも、千葉は自然に対象とその周辺の人々に寄り添っているように感じました。
もしかすると、お人よしなだけかもしれないけど(笑)。
それでも、初めて目にする突き抜けるような青空の下で、
全開の笑顔で笑いあう藤田と阿久津を見ながら、同じように微笑む千葉は、
彼らと同じように幸せそうに見えました。・・・死神に、幸せ、って変かな?

可にする積極的な理由もないけれど、見送る理由もないから、可。

藤田と阿久津の約束を知っていても、千葉のジャッジは変わらない。
彼らの別離に、たぶん千葉の胸は痛まない。
彼らと過ごした時間も、たぶん千葉の記憶には詳しくは残されない(らしい)。

それでも、千葉という男と過ごしたことを、きっと阿久津は忘れない。
細かい記憶はなくなっても、青空の下で笑いあった奇妙な男のことを、阿久津は記憶の片隅にとどめるだろう。
そして、もしかしたら、50年後に、彼は千葉と再会するかもしれない。
明けない夜がないように、
止まない雨がないように、
死は必ず誰のもとにも訪れる。
その時に、阿久津は千葉になんて言うだろうか。
弱気を助け、強きを挫いた一人の男の思い出を語るだろうか。
そして、千葉は、その男が語った「当たり前の死」を、思い出すだろうか。
あの鮮やかな青空をみながら、なんだかそんな想像をしてしまいました。


同僚役、鈴木省吾さん。
凄く背が高くて男前で、声の素敵な方でしたv
決して出番は多くはなかったけれど、飄々とした雰囲気がとても印象的でした。
鈴木さんを、栗木としてではなく、栗木を担当する死神として登場させた脚本には脱帽。
彼がいることで、”死神”という存在の背景もわかりやすかったし、
千葉の”規格外”なところが、クリアになったように思います。
カーテンコールで2回とも鈴木さんだけ挨拶がなかったのが残念だなあ〜。


そのカーテンコール。
和田さんという演出家さんの舞台を観るのは初めてなのですが、
ラサールさんや香川さんの挨拶によると、いつも後味の悪い舞台で(笑)、
カーテンコールが3回もかかることはないとおっしゃっていたそう。
いやいや、3回でも4回でもカーテンコールしちゃいたいくらいの舞台でした!
絵に描いたようなハッピーエンドではないけれど、
爽やかで深い余韻のある終わり方だったと思います。
私が観たのは二日目・三日目でしたが、その時点で立ち見が出ていたし。
私自身、もっと上演期間が長ければ、もう1回ぐらい見に行きたかったです。
そして、アッキーの挨拶をきちんと拾ってネタにした香川さんの挨拶に爆笑!
というか、アッキーぼけすぎ! まあ、そこが可愛いんですけどね(笑)。


そういえば、この舞台の中で藤木一恵のCDとしてかかっていたのは、どなたのCDなのでしょうか?
劇中でも語られましたが、青空のように明るくて軽やかな、素敵な歌声でした。
「SOMEONE TO WATCH OVER ME」がかかっている時に、
この曲と香川さんの組み合わせをどこかで見たことがある気がしてたのですが、
映画の「ホテル・ビーナス」でしたね(この映画も最高でした!)。
映画ではブロッサム・ディアリーさんの歌声でしたが、
サントラ聴きなおしてみたら、今回の歌声とはちょっと違うような・・・?
どなたのCDなのか、劇場でスタッフさんに聞けばよかったな、とちょっと後悔しています。

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