瓔珞の音

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zoom RSS 追憶の夕陽

<<   作成日時 : 2009/09/30 22:29   >>

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お芝居の始まる前。
舞台の上には会議室にあるようなテーブルとパイプ椅子。
そこに、三々五々集まる役者さんたちは、
自然な雰囲気で談笑したり、ストレッチしたりしていました。
客席にたどり着いた途端、目の前を別所さんが通り過ぎてびっくり!
いやー、相変わらずかっこいいですねーv
京野ことみさんは見ほれるほど綺麗だし、佐藤江梨子さんは雰囲気あるし、
銀粉蝶さんと毬谷友子さんはめちゃくちゃ体柔らかいし、美波ちゃんは可愛いし、
阿部さんおっきいし、勝村さん楽しそうだし・・・と、
ほんとはプログラムで予習しようと思っていたのに、ついつい舞台の上に目がいっちゃいました(笑)。

そんな和気藹々とした雰囲気彼らが、(たぶん)演出家の一声で、一気に”役者”の顔に変わりました。
音をたてて引かれた白い幕の向こうで、
そのテーブルはバクーニン家の晩餐のテーブルになり、
ジャージ姿の女性は清楚な白いドレスに着替え・・・
そのBGMは、現代の音。
ニュースの声、政治家の演説の声、車の音、争いの音―――
その音が唐突に途絶えた時、舞台の上には19世紀の裕福で幸せな家庭の晩餐の席となっていました。
もうね、この導入で気持ちを持っていかれちゃった感じです。

T部は、1幕でバクーニン家の人々と、彼らに関わる若き哲学者たちが描かれ、
2幕では1幕の冒頭まで時間を遡って、理想と現実の狭間で葛藤する若き思想家たちが描かれました。
華やかで美しくて、けれど脆く不安定な1幕と、
暗い炎の色を根底に隠したような2幕。
その対比がとても印象的でした。



「コースト・オブ・ユートピア 〜ユートピアの岸へ〜 T部 船出」

2009.9.26 シアターコクーン A列10番台

出演:阿部寛、勝村政信、池内博之、別所哲也、長谷川博己、紺野まひる、京野ことみ、美波、高橋真唯、
    佐藤江梨子、大森博史、大石継太、横田栄司、銀粉蝶、毬谷友子、瑳川哲朗、麻実れい 他



そんなT部で私が一番心惹かれたのが、
バクーニン家の長女、リュボーフィ役、紺野まひるさんでした。
TVのドラマ(「妄想姉妹」とかね)で拝見した時は、
綺麗で雰囲気あるけどなんだか物足りないなあ・・・なんて思っていたのですが、
舞台の上で、こんなにも魅力に溢れる役者さんだったなんて!

リュボーフィはいかにも長女な役柄で、その動きは決して派手ではないし、
台詞も激情迸る感じのものはあまり多くはありません。
けれど、ちょっとした仕草や視線の流れ・・・そんな佇まいがとても雄弁で。
賢くて、情細やかで、そして臆病なリュボーフィの、
その儚い美しさを余すところなく表現されてたなあ、と思うのです。

リュボーフィは、長谷川博己さん演じる哲学者ニコライ・スタンケーヴィチと恋に落ちます。
この二人、なんだかとても似た雰囲気だなあ、と思ったのです。
互いを意識した時の挙動不審っぷりも微笑ましくv
ピアノを連弾するシーンの、和やかで繊細な雰囲気にはうっとりしちゃいました。
でもね。
この二人は、似ているからこそ、穏やかで優しい気持ちを育めた。
けれど、似ているからこそ、互いが1歩を踏み出すことができずにいた。
それがとてももどかしくて仕方がありませんでした。

リュボーフィはスタンケーヴィチと同じ結核で世を去ります。
その死は、台詞としてはっきりとは言及されず、死の直前の姿が回想として示されます。
車椅子の上、真っ白なドレスに、白い花冠をつけ、まるで花嫁のように美しいリュボーフィ。
その車椅子を押すのは、彼女が最後まで受け止め続けた弟ミハイル。
そして、彼女を囲む家族の全開の笑顔。
それは、もしかしたら彼女のための"虚構"であったかもしれません。
この時点で、バクーニン家の亀裂はきっと明らかだった。
けれど、この瞬間は、たぶん家族にとって最後の幸せな時間でもあったのだ、そう思うのです。


そんなリュボーフィとは対照的な、溢れる想いを決して押さえることのなかったのが、
美波ちゃん演じる三女のタチヤーナでした。
兄ミハイルと、兄妹以上の感情を交し合い、常に自分を強く持っていたタチヤーナ。
兄の連れてきたベリンスキーにもツルゲーネフにも心惹かれたタチヤーナ。
それは惚れっぽいとかそういう俗っぽいことだけではなくて、
彼らの持つ理想や熱情、そして穏やかなプレムーヒノの日々では得られない新しい風、
そういうものに、彼女自身の持つ熱情が感応したんじゃないのかなあ、と思いました。
キラキラした大きな瞳に溢れる静かな炎みたいな感情が、もう本当に綺麗でねえ・・・

でも、愛した兄も、憧れたベリンスキーも、心を交わしたツルゲーネフも去り、
幸せだった家族が崩壊した後、父親と二人沈み行く夕陽を見つめるのは、
この一見自由で奔放に見えるタチヤーナなんですよね。
私の席からでは、夕陽を見つめる二人の表情は横顔でしか見れなかったのがちょっと残念です。


四姉妹の次女、ヴァレンカは京野ことみさん。
生で観るのは「ヴェニスの商人」以来だと思うのですが、
すっと伸びた首筋がとても華奢で、めちゃくちゃ美しかったです!
でもね、その美しさの奥底に、屈折したしたたかさを感じたのもこのヴァレンカでした。
姉と妹が、それぞれに愛する人との時間を持つ中で、
望まぬ結婚と出産を経験したヴァレンカ。
それは、もちろん当時の女性では普通のことで、
その生活の中から幸せを紡ぎだすことがスタンダードだったのだろうけれど・・・
父親が四姉妹に持ってくる縁談は、ミハイルに悉く邪魔されてるのですが、
ヴァレンカはそのスタンダードな結婚と、そこから得られるはずだった幸せを、
弟の説得で自ら壊してしまいます。
そして、後悔する。
ヴァレンカの結婚が、その後どうなったのか、お芝居の中から知ることが私にはできませんでした。
けれど、スタンケーヴィチが湯治先で命を落としたとき、
その最期に立ち会ったのは、ヴァレンカだ、という台詞があります。
プログラムでも、ヴァレンカは彼に想いを寄せていた、とある。
姉が愛し、姉を愛した男。
その男を、ヴァレンカは追っていったのでしょうか?
もしかしたら、抑圧を経験した彼女こそが、本当の意味で自由を理解していたのかもしれないな。


四姉妹の末っ子は高橋真唯ちゃん演じるアレクサンドラ。
凄い頑張ってる風だったけど、決して不自然さや違和感はなくて、
幼くて真っ直ぐで愛らしい末っ子だったなあ、と思います。
何気にめちゃくちゃ気が強そうで、ファニーフェイスとのそのギャップが魅力的だったかも(笑)。


四姉妹+ミハイルの両親は瑳川哲朗さんと麻実れいさん。
いやー、貫禄のご夫婦でした!
ミハイルに翻弄されるのは四姉妹と一緒なんだけど、
なんとなくお母さんの方が肝が据わって見えました(笑)。
というか、瑳川パパがなんだかめちゃくちゃ切なかったです。


そして、ミハイル・バクーニン役は勝村政信さん。
いやー、濃かった!(笑)
ミハイルという男は、私的にはちょっと許し難いくらい自己中心的な男なんですね。
周りの調和とか全然考えずに自分の意見を通しまくるし、
家族や友人に金の無心ばかりするし、
それでいろんなところに出て行って、失敗しては家に帰ってきて家族をかき回すし・・・
でも、すごい許し難いのに何故か憎めないんですよねー。
ミハイルはその時々でいろんな思想や哲学に傾倒していて、
自分だけの揺るぎないポリシーを、自分自身の言葉で語ることは余りなかったように思います。
けれど、その時に自分が納得し信じたものを柔軟に取り込んでいくことは、
ある意味凄く自由で、凄く正直で、そして凄く強いのかも、と思った。
U部以降の彼の変遷と変貌はとんでもなくて、でも、その自由さは常に彼の根底にあった。
そういう意味では、一番ぶれのない人だったのかも、と思いました。


バクーニン家のことだけでこんなに長くなっちゃった・・・(汗)
だって、この家族、私は本当に好きだったんですもの!
とりあえず、U部以降に出てくる人はかる〜くながそうかと思います(え)。


主役なアレクサンドル・ゲルツェン役、阿部寛さん。
2幕からの登場でしたが、黒いコートがお似合いでかっこよかったですv
ろうろうとした声がとても素敵だったのですが、
どうにも道元の説法のように聞こえてしまったのは、私の方の問題だろうなあ・・・
(「道元の冒険」の録画をリピートしてみてたので/汗)


池内博之さん演じるヴィッサリオン・ベリンスキー。
1幕で登場したときは、おどおどした感じで、
四姉妹の末っ子に恋心を抱きながらも全然相手にされない、朴訥な青年、という感じだったのですが、
文学やロシアに対する想いを語り始めたときの怒涛の勢いにいは圧倒されました。
2幕は、ベリンスキーが主役?というくらい出ずっぱりだったのですが、
1幕とはまるで別人のような深い闇と、きらきらした夢の双方を感じました。
正直、彼の言葉の殆どを私は理解できていなかったと思うのですが、
そういう言葉を越えた彼の理想や夢、目標が、凄くクリアに伝わってきたと思う。
彼の中には、語りたい言葉、伝えたい想いが溢れんばかりに詰まっていて、
でも、社会はまだそれを受け止めるほど成熟していなかったのかな。

仮面舞踏会で、彼は赤い衣装の猫と対峙します。
その直前のゲルツェンの台詞の中に猫が出てきたと思うのですが、あまり記憶になく・・・
ので、その猫の着ぐるみ(だったんです!)の存在の意味が私は全然わからなかったのですが、
葉巻を吸い、優雅に椅子に腰掛ける猫の服は、一見豪奢なのに、裾はほつれ、薄汚れていた。
あれは、ベリンスキー自身の理想の現実を表していたのかな?
うーん、他の方の意見を是非聞いてみたいです。
あ、ちなみに猫の台詞は1個なんですが、すごいいい声だなあ、と思ったら、
中身(笑)は手塚秀彰さんだったようです。


先進的な都会の女(笑)、ナタリー・バイエルを演じたのは佐藤江梨子さん。
ワインレッドのドレスがとてもお似合いでした。
でも何より印象に残ったのは、あの平手打ち!(笑)
スタンケーヴィチとミハイルに、続けて平手打ちするんですが、
もう気持ちがいいくらい良い音がしてました!
勝村さん、本気で痛がってたもんねー・・・役者さんって、大変。


ゲルツェンたちの盟友、3ニコライ(おい)は大森博史さん、大石継太さん、横田栄司さん。
それぞれ個性的で、議論してるんだかじゃれあってるのかわからない(汗)ところが微笑ましかったですv


あ、あと忘れちゃいけない毬谷友子さん!
T部ではバクーニン家の家庭教師と、ベリンスキーの恋人・カーチャという全く異なる二役を、
見事に演じ分けてらっしゃいました。
個人的にはカーチャがお気に入りv
なんというかとても情の深い可愛らしい女性に見えたのです。


も一人忘れちゃならない、別所哲也さんのツルゲーネフ!
笑い声が非常に印象的だったのですが、役作りなのかな?
とても知的でかっこよくって、これはタチヤーナよろめくかも?と思いました(笑)。
U部、V部とどんどん印象的になる役柄なので、感想はその時にまとめて。


うーん、なんとも纏まりのない感想だなあ。
でも、本当にどこからどうアプローチしたらいいのか解からないくらい、密度の高い舞台だったのです。
ほんとはもっと書きたいこともいろいろあったのですが、
更にまとまりがつかなくなるので強制終了(笑)。
で、最後に。
私が政治や思想に疎いせいもあるのかもしれませんが、
T部は、とにかくバクーニン家の人々に心惹かれました。


まるで、お伽話の中のお城のように、美しくて、鮮やかで、幸せな一家。

白いテープルクロス。
白いドレス。
白い食器。
白いハンモック。
白い花。

穢れなきエデンの園に紛れ込んだ一匹の蛇のような、
でも、けっして邪悪ではなく、むしろ愛すべき存在であった一人の男。
息子であり、弟であり、兄であるその男がもたらす新しい世界の風は、
真っ白で完璧だったその家族を揺り動かし、脆く崩れさせた。
それは、たぶん"必然"だった。
楽園は、永遠に楽園であることはできなくて。
人は、常に何かを求めていくもので。
でも。
短い夕暮れの中に置かれた空の椅子たちは、かつて完璧であったはずの家族の思い出に溢れていて―――
だからこそ、あの夕陽は美しくて、哀しい。

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