瓔珞の音

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zoom RSS 訣別の雪

<<   作成日時 : 2009/12/20 18:20   >>

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この舞台を観てから1週間。
まだ、時折テーマ曲が頭に浮かぶことがあります。
繰り返し繰り返し使われる旋律。
可憐で美しいその旋律に込められた、沢山の感情。
それは、別れの切なさでもあり、不安に揺れる想いでもあり、
極限の状態での祈りでもあり、過ぎた日々への別れでもあり・・・


「シェルブールの雨傘」

2009.12.13 ソワレ 日生劇場 1階J列20番台

出演:井上芳雄、白羽ゆり、ANZA、出雲綾、岸田敏志、香寿たつき 他


舞台は1957年、フランスの港町、シェルブール。
描かれるのは、若い恋人同士の出会いと別れ、そして再会と訣別。

そう書いてしまうと、なんだかとても直球なラブストーリーでしかないようですが、
実際は、当時の社会情勢や戦争の暗い影を、
決してあからさまにではなく、けれど避けられない重荷として描いていました。

19歳のギイ(井上芳雄)と16歳のジュヌビエーヌ(白羽ゆり)。
若い二人の恋は、たぶんギイの徴兵という別れがなければ、
きっと激しくも穏やかに、互いを見つめながら、一歩一歩進んでいけたのではないかと思う。
もしかしたら、その先には仲たがいも別れもあったかもしれないけれど、
それでも、その別れはここまで二人を傷つけることはなかったと、思う。

蜜月のさなかに、唐突に訪れた別離。
それは、二人の想いを加速させ、追い立てられるように一線を越えさせた。
距離に阻まれる不安。
死への恐怖。
見えない未来の約束。
そんなマイナスの気持ちの中で、すがりつくように結ばれてしまった二人。
たぶん、その時点で二人の気持ちのベクトルは違う方向を向いてしまっていた・・・

正直、いくら母・エムリー夫人(香寿たつき)の後押しがあったといっても、
ジュヌビエーヌが諦めるのは早すぎるんじゃないかなあ、と感じてしまいました。
せめて、約束の2年を待つことができなかったのか、と。
でも、彼女はまだ17歳なんですよね。
その頃の時間の流れって、たぶん凄くゆっくり感じられたように思う。
何も変わらず明るい港町。
彼の戦う戦地は遥か遠くで。
なのに自分の身体だけがどんどん重くなっていく。
愛すべき命の重さ。
けれど、その重さは一人で支えるにはとても大きすぎて―――
そんな彼女にとって、2年という時間は長すぎた。
そんな時に、子どもも含めた自分の全てをただ受け止めて、愛してくれる存在が現れたら、
すがってしまうのは仕方のないことなのかもしれないな、と。

それでも、薄い幕の向こうで惑い揺れるジュヌビエーヌと、
幕の手前で描かれる戦地のギイの対比は、
ギイの想いに寄り添っちゃった私としては、なんだかとても辛かったのです。
また、井上くんの絶唱が凄くてね・・・(涙)
命のやり取りにさらされる場所で懸命に生きる彼にとって、
愛する恋人と、その胎内に宿った新しい命は、
きっと彼を生へと繋ぎとめるよすがであったと思うのです。
けれど、二人の関係は、ジュヌビエーヌの結婚と転居によって、一方的に断ち切られた。
なんの話し合いも、なんの感情のやりとりも経ずに、
無理やり突きつけられた別離は、ギイに沢山の疑問と深い絶望を与えた。
そして、その疑問と絶望は、時間と、支えてくれるマドレーヌ(ANZA)の存在が徐々に癒していった。
―――そう、見えました。

けれど、それぞれに幸せな家庭を築いた二人が偶然の再会を果たした時に、
ギイの疑問と絶望は、ジュヌビエーヌの不安と罪悪感は、そして二人に刻まれた疵は、
決して癒されてはいなかったのだな、と感じました。
だた覆い隠され、見えないことにされていただけなのだと。

和やかな雰囲気で会話する二人。
優しい笑みと、相手を気遣う言葉。
けれど、その笑顔の向こうには、沢山の感情が渦巻いていた。
5年という月日は、若い彼らにとって決して遠い過去ではなかったでしょう。

なぜ待っていてくれなかったのか。
なぜ手紙をくれなかったのか。
なぜ姿を消したのか。
なぜ自分の傍にいてくれなかったのか。

たくさんの”なぜ”が二人の中にはあって、
でも、その疑問をぶつけ合ったとしても、何らかの答えを得たとしても、
自分たちの心は決してあの頃のように寄り添うことはないと、
未来へと続く自分たちの道は、大きく分かたれてしまったのだと、
あの短い邂逅で、二人は悟り、そして真の意味で別れを受け止めた。

見ないふりをしていた疵に向かい合い、その疵口を直視すること。
それはたぶんとてつもない痛みを伴ったでしょう。
でも、だからこそ、今度こそ、彼らはその疵を本当の意味で癒すことができるのだと思う。
傷痕は残っても、時折鈍い疼きを感じたとしても、その疵はもう血を流すことはない。
本当に、過去のものとなるのだと思います。

ジュヌビエーヌを見送ったあと、降りしきる雪の中でギイはふっと空を仰ぎました。
そして、前を向いた時、彼は晴れやかな顔をしていました。
ジュヌビエーヌも、きっと笑顔だったと思う。
その頬に涙が伝っていたとしても、きっと笑顔だったはず。
そう、思いました。


ギイ役、井上芳雄くん。
少し甘えたな、ほっとけない気持ちにさせるギイでした。
マドレーヌはきっと年上に違いない(笑)。
圧巻だったのは、やっぱり戦場でのあの歌。
「組曲虐殺」を髣髴とさせる絶唱は、
美しいこの舞台の中に深く刻まれた亀裂のようにも聞こえました。
それは、もしかしたらミュージカルとしてのこの舞台の調和を乱したかもしれない。
この歌があったからこそ、この物語はただ美しいだけの夢物語にはならなかったのだと思います。
戦場のシーンをつくり、彼のこの歌い方を受け止めた謝先生は凄いなあ・・・


ジュヌビエーヌ役、白羽ゆりさん。
もう、めちゃくちゃ可憐で、且つ素晴らしく美しい高音でした!!
あの年頃の少女の無謀なまでの情熱や強さ、
そして、まだ自分自身の足で立つことのできない弱さの両方が見えました。
最後のシーン、すっかりマダムとなったジュヌビエーヌを見たとき、
ああ、彼女は今幸せなんだな、と思った。
それが、なんだかとても嬉しかったです。


エムリー夫人役、香寿たつきさん。
まさにジュヌビエーヌの母!と思わせる美しさでしたv
この母娘の歌、プログラムではとても難しい、と書かれていましたが、
そんな苦労を感じさせない完成度と聞き応え。
ジャクリーンみたいなはじけた女性も似合うし、
バルトシュテッテン男爵夫人のようなミステリアスな女性も似合うし、
こういう苦悩する母も似合う・・・大好きな役者さんですv

舞台を観ているときは、エムリー夫人の矛盾がすごく気になったのですね。
ジュヌビエーヌとギイの恋を若すぎるといって反対した直後に、娘にカサールとの結婚を薦めてみたり、
初恋の相手ではない相手と結婚すべきといっておきながら、自分は夫との結婚を後悔していると言ったり、
負債を抱えていながら、なんとも豪華な衣裳で豪華なディナーをしていたり・・・
正直、最初はエムリー夫人がカサールを狙ってるのかと思いましたもの(笑)。
というか、年齢的にはそのほうがつりあうんじゃ・・・?なんて(おい)

でも、最後にジュヌビエーヌの台詞で亡くなった、と聞いたとき、
もしかしたらこの時点でエムリー夫人は病を抱えていたんじゃないかな、と思ったのです。
自分の命は長くない。
娘も、その子どもも守りつづけることができない。
ギイは、無事に戻ってくるかわからない。
では、自分がいなくなった後、娘は、孫は、どうやって生きていくのか・・・?
そんな想いが、カサールとの結婚へと繋がったのかもしれません。
そう考えると、彼女の頑ななまでの主張が、すとんと理解できるような気がしました。


カサール役、岸田敏志さん。
すごい久々に拝見した気がします!
もしかすると、「ミス・サイゴン」初演以来・・・?!
生活に苦しむ母娘に近づいて娘との結婚を申し込む、という、
一歩間違えると悪役になってしまいそうなカサールが、
昔の疵のせいで臆病になってしまった、誠実で、優しい紳士であったのは、
きっと岸田さんのお人柄なんだろうなあ、と思います。


マドレーヌ役、ANZAさん。
地味な役柄ではありますが、短い出のなかで、ギイへの複雑な恋心を伝えてくれました。
この方の歌声も本当に綺麗ですね〜。
ずっと世話をしていたギイの叔母エリーヌが亡くなったあと、
出て行こうとする彼女をギイは引き止めるのですが、
この時点でギイはマドレーヌの気持ちには気づいてないんじゃないかな、と思う。
というか、気づいていて甘えてたら、それはちょっと許し難い(え)。
でも、マドレーヌは、ギイが自分の気持ちを知らなくて、
ただ誰かに縋りついていたいだけ、ときっとわかってた。
わかっていて留まることは、たぶん凄く辛かったんだろうなあ・・・
だからこその、ギイのプロポーズへの涙。
そういう気持ちの動きが、とても良くわかりました。


エリーズ役、出雲綾さん。
ずーっと座りっぱなしで、且つ出番も決して多くはないのですが、
きちんとギイの背景を伝えてくれたように思います。
宝塚に25年間在籍、とプロフィールにありましたが、
それってきっと凄いことなんだろうなあ・・・
また別の舞台で、たっぷりその歌声を聴いてみたいな、と思います。


アンサンブルの方々も、ダンスに歌に頑張ってらっしゃいました。
それぞれのカップルに、いろんなドラマがあるとのことですが、
全部は見切れなかったのが残念・・・個人的に娼婦のお二人の関係がちょっと気になる(え)。
ギイの傘の行方も、気づいたのは幕間にプログラムを読んでいてでした。
人の手から手に渡っていくギイの傘。
そこに込められるのは、きっといつも誰かを思う優しい気持ち。
それが、もしかしたら、この舞台の根底のテーマなのかもしれないなあ・・・

舞台セットも、町並みの描かれた大きな筒がくるっと回るとエリーズの部屋や傘屋の店内になったりで、
とてもテンポがよく、おしゃれだなあ、と思いました。

そんなこんなで、とても満足な舞台でした。
できればもう1回観たいけど、ちょっと無理かなあ・・・って、大阪で行っちゃってたら笑ってください(汗)。
あ、トークショーのことも書こうかと思ったのですが、ちょっと時間切れ。
元宝塚女優3人に囲まれて違和感ない井上くんが微笑ましかったです。
というか、自分で、「僕も男役みたいなもんです」と言ってました(笑)。
23日もトークショーがあるようですね。
本編の余韻と切り離してみることができる方には、お薦めですよー(笑)。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
「パイレート・クイーン」とどっちにしようか迷って
結局帝劇に行ったのですが(笑。そしてそれなりに楽しめたのですが)
恭穂さんの感想を読んでいて、
こっちにしとけばよかったか…?とちょっと思ったりして。

1月の大阪は、「Nine」も「シェルブール」も「パイレート・クイーン」も
「ウーマン・イン・ホワイト」も見られていいなあ、と
本気で思っちゃいました(笑)
みずたましまうま
2009/12/20 23:27
みずたましまうまさん、こんばんは!
「パイレート・クイーン」、実は私も迷ってたんです。
そして私は、みずたましまうまさんのレポを読んで、
行った気持ちになってました。
いつもありがとうございますv

1月の大阪はそんなにいろいろ観れるんですね!
隙間に通っちゃいそうでちょっとやばいです(笑)。
恭穂
2009/12/23 21:56

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