瓔珞の音

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zoom RSS 絡みつく糸

<<   作成日時 : 2010/01/21 00:06   >>

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この物語を知ったのは、確か高校生の頃。
きっかけは忘れましたが、二人の人間の、閉鎖された空間での濃密な感情のやり取りは、
まだ十分に子供だった私には難解で・・・暗い牢獄の湿った壁のイメージだけが残っています。

2度目の遭遇は、もう10年以上前。
市村さんが主演されるミュージカル、ということでチケットを取ったのですが、
見事に実習初日と当たり、泣く泣く諦めた痛い思い出が・・・

その後、なんとなく縁がなく過ごしてきたのですが、
今回の再演で、やっと観ることができました!


舞台の上に描き出されたのは、やはり暗い監房。
そして、そこに張り巡らされ、絡み合い、けれど決して交じり合わない"想い"でした。



「蜘蛛女のキス」

2010.1.17 マチネ 梅田芸術劇場メインホール 1階6列40番台

出演:石井一孝、金志賢、浦井健治、初風諄、今井朋彦、朝澄けい、縄田晋、ひのあらた、田村雄一、
   照井裕隆、笹木重人、長内正樹、辻本知彦




舞台は、南米のどこかの国の、どこかの刑務所の監房の1つ。
そこに入って3年になるルイス・アルベルト・モリーナ(石井一孝)は、37歳のゲイ。
罪状は未成年への買春と強制猥褻行為。
(でも、それ自体ももしかすると彼を陥れるための悪意の結果なのかも・・・?)
思うのは、自分を愛し続けてくれる母のことばかり。
そんな彼の監房に、一人の若い男が投げ込まれます。
ヴァレンティン・アレギ・パス(浦井健治)、27歳。
罪状は、逃亡中の政治犯へ偽造パスポートを渡したこと。
反政府テロ集団との関連を疑われ、既に拷問を受けた血だらけのヴァレンティンを前に、
モリーナは戸惑いながらも傷の手当をします。
そして始まった、閉鎖された空間での二人の生活。

おしゃべりで、感情豊かで、ちょっと卑屈なモリーナと、
ストレート・チルドレン上がりで反政府活動に心酔するヴァレンティン。
まったく正反対の二人がすぐさま仲良くなれるはずもなく・・・
モリーナの話し続ける映画の話に辟易するヴァレンティンに、
まったくめげずに話し続けるモリーナには、実は刑務所長(今井朋彦)との密約がありました。
ヴァレンティンからテロ組織の情報を引き出せれば、出所させる―――
それは、年老いた母を思うモリーナにとって、願ってもない申し出でした。
そんな打算を持ってヴァレンティンに近づいたモリーナですが、
孤独な少年のまま大きくなったようなヴァレンティンと接するにつれ、
彼への感情が徐々に変化していきます。
そしてヴァレンティンも、看守からの暴力、拷問される仲間を前に口をつぐむ重圧・・・
そんなすさんだ生活の中で、優しく思いやり深く献身的なモリーナに、徐々に心を許していきます。

暗くすさんだ刑務所の中で、穏やかに流れる時間。
ゆっくりと深まる互いへの感情。
けれど、そんな不安定な安寧は長くは続かず、
ついに二人ともが決断をするときがやってきて―――



という風に書くと、なんとも王道なラブストーリーみたいですが(笑)、
差別や貧困や暴力や陰謀や・・・いろいろな生々しい感情が随所にあふれていて、
実はちょっと観ているのが辛い舞台でした。
最終的に、ヴァレンティンに感情移入しちゃったのもちょっと辛かったかなあ・・・
とにかくこの物語のコアは、二人の関係なので。


モリーナ役、石井一孝さん。
なんとも説得力のあるモリーナでした。
でもって、かなりキュートでした! 
ちょっとびっくり(笑)。
ヴァレンティンと仲良くしようとがんがん話し掛けまくり、
ついには境界線を引かれちゃうくらいヴァレンティンに嫌がられるのですが、それも納得な押しの強さ!
もうね、ヴァレンティンの表情がどんどんいらいらしていくの(笑)。
でも、そういう風にコミカルな演技のときと、
刑務所長や蜘蛛女を前にしたときのシリアスな表情が、
まったく色合いが異なるのに、でも二つともしっかりモリーナだなあ、と思いました。

モリーナ自身は、たぶん自分の性癖のことでこれまで蔑まれ、貶められ、辱められ、
そんな自分であることに罪悪感を覚え、自分自身を卑下してきたのだと思う。
ザザのように、自分は自分!と言い切るには臆病で―――
でも、自分自身をまるごと受けとめてくれるママに育てられた彼の根っこには、
愛された人だけが持つ強さとか、底なしの愛情があったのかな、と思う。

一方の浦井健治くんが演じるヴァレンティンは、
理想に燃える、粗野なテロリスト、という役柄ではありましたが、
その半面で、常に死と隣り合わせに生きてきて、
愛情や温もりに包まれた記憶を持たないまま大きくなってしまった少年のように、私には見えました。
モリーナへの粗野な振る舞いも、必死の虚勢で、
いつだって抱きしめてくれる手を求めている、そんな孤独な少年。

愛することを求めたモリーナと、愛されることに飢えたヴァレンティン。

そんな二人が出逢ってしまったら、それはやっぱり惹かれあうしかないのかなあ、と。
で、そういう状況になってしまったら、甘えることを覚えるのは、
やっぱりヴァレンティンの方が早いだろうな、と思う。
実際、二幕冒頭の二人は、思いっきりラブラブだったと思うよ?
というか、ヴァレンティン、見事に甘えてました(笑)。
あれって天然だよねー。きっと意識してないよ、ヴァレンティン(え)。

逆に、そうなると、モリーナの方が臆病になっているように見えました。
それは、刑務所長との取引という引け目もあったでしょうし、
彼と心を交わしてしまったら、どういう結果になるかを、モリーナは知っていたからだと思う。
自分の中の蜘蛛女の糸が、彼をくるみこんでしまうことを。

オーロラとモリーナ、蜘蛛女とモリーナの関係は、正直私はクリアに受けとめることができませんでした。
最初、モリーナはオーロラを思うことで勇気を得ていたと思う。
でも、ヴァレンティンと接することで、モリーナとオーロラの距離は徐々に遠くなった。
オーロラが華やかに歌い上げる後ろで、モリーナの気持ちはヴァレンティンへと寄り添った。
そして、それと入れ替わるように、影のようだった蜘蛛女がその存在を増してきた。
そんな風に感じました。

そして、モリーナが出所する前日。
モリーナとヴァレンティン、そして蜘蛛女が歌う♪Anything For Him。
カノンのように繰り返される旋律。
端的な歌詞。
でも、そこには何重もの感情の駆け引きがありました。

ヴァレンティンのために、なんでもしてあげる、と思うモリーナ。
モリーナは、自分のためになんでもしてくれる、と思うヴァレンティン。
ヴァレンティンが自分に触れようとするのは伝言を頼む代償だ、と思うモリーナ。
自分がモリーナに触れようとするのは、彼がそう望むからだ、と思うヴァレンティン。
たとえ代償でも、触れて欲しいと思ってしまうモリーナ。
けれど、「何故そんなことをするの?」というモリーナの問いに、
「そうしたいから」と答えたヴァレンティンの気持ちも、きっと真実であったと、そう感じました。

私の席からは、ヴァレンティンの表情しか見れなかったけれど、
モリーナと対峙するヴァレンティンは、とても苦しそうな表情に見えました。
モリーナの愛情を利用しようとしている自分。
でも、彼は知っていたんじゃないかな。
そう思うことが、彼に触れるための言い訳であることを。
この時点で、ヴァレンティンのモリーナへの想いは、たぶん既に純粋に愛情になっていたと思う。
それを受けいれることが、たぶん理性の部分でできなくて―――だから、言い訳を用意した。

モリーナに触れる言い訳。
モリーナの愛情を受け入れる言い訳。
モリーナを抱きしめるための言い訳。

―――そして、ヴァレンティンは自らモリーナの中の蜘蛛女に絡み取られようとした。

それでも、モリーナはヴァレンティンを拒否しようとします。
けれど、ヴァレンティンの言葉で、モリーナは彼を愛する自分を、彼を絡み取る自分の愛情を許してしまう。
「これからは、徒に自分を貶めたりするな」
その言葉は、モリーナ自身を丸ごと全部受け入れていなければ、出てこない言葉だと思うのです。
そして、それをモリーナも理解したんじゃないかな。
だからこそ、彼の伝言を受け、最愛の母へ別れを告げ、マルタへと電話をかけた。
(この伝言自体も、反政府組織とは関係なさそうで、
 もしかしたら最後の最後でヴァレンティンはモリーナを気遣ったのかな、とも思ったのですが・・・)
そうすることで自分が捕まることも、もしかしたら殺されるかもしれないことも、
そして、自分の死が、完全にヴァレンティンを絡み取るだろうということがわかっていて―――

最後、殺されたモリーナが、華やかな白いスーツを着て、現実とは違う夢の世界を歌い上げます。
優しくにこやかな看守。
悪者として退治される刑務所長。
元気に歩く母。
恋人マルタと寄り添うヴァレンティン・・・
そして、蜘蛛女からの最初で最後のキス。

これは、モリーナの死に際の夢なのかな?
それとも、モリーナの死を知り、看守から拷問を受け傷ついたヴァレンティンが見た幻なのかな?

私は、後者だと思うのです。
明るく楽しい夢の中で、ヴァレンティンだけが苦渋に満ちた表情をしていた。
マルタと寄り添うことを拒否して、一人監房のベッドに戻り、膝を抱えた。
だって、ヴァレンティンは、もう蜘蛛女の糸に絡み取られてしまったのだから。
それが、蜘蛛女の、モリーナのキスなのだから。

演出の意図とは違うかもしれないけど、私はそう感じました。


うわー、簡単に、と思ったのですが、かなり長くなっちゃいましたねー。
めちゃくちゃ妄想入りまくりの感想ですが(笑)、
寄り添っているのに気づかないまますれ違い続ける二人の繊細な感情が、とても印象的でした。

とりあえず、他の役者さんのことも少しずつ。

蜘蛛女/オーロラ役、金志賢さん。
最初ちょっと歌い方がなじまなかったのですが、
低音の凄みがある方だなあと思いました。
蜘蛛女のときの、モリーナを見る目とか、モリーナやヴァレンティンに向かう指先とかが、
とても無邪気だったり、妖艶だったり、恐ろしかったり・・・
個人的には最後の白いスーツ姿がかっこよかったですv


刑務所長役、今井朋彦さん。
「炎の人」「ヘンリー六世」と続けて観ましたが、それぞれの舞台でがらっと印象が変わりますね。
今回は、非常に恐ろしい刑務所長さんでした。
上手側から見ていたせいもあるかもしれませんが、
無言でモリーナたちを見ているだけなのに、すごい存在感なの。
そこだけ黒いしみがあるような感じ。
歌自体は少なくて、歌声をあまり聴けなかったのが残念でした。


モリーナのママ役、初風諄さん。
なんとも優しく、懐の深いお母さんでした。
モリーナの愛情や愛敬のもとはこのママなんだろうなあ、と素直に思えてしまったり。
最後、電話をかけにいくモリーナを初めは引きとめながら、
その電話をかけることが、モリーナの心から望むことであることを察して、
優しく抱きしめて促すシーンは、ちょっとじーんとしてしまいました。


看守エステバン役、田村雄一さん。
あのノーブルな四月さんが〜!!(@「森は生きている」)と叫びたくなるほど、
残酷で暴力的な看守でした。
めちゃくちゃ目が怖いです・・・
もう一人の看守さん(ひのあらた)さんとのコンビも息がぴったりで、
ある意味ボケと突っ込みなのかも?(え)
看守の怖さに打ちのめされて、あの美声を堪能できませんでした・・・(涙)


囚人/ダンサー役 辻本知彦さん。
囚人の中では、ちょっと異色な存在でした。
ダンスがめちゃくちゃかっこいいというのもあるし、髪型もありますが、
蜘蛛女とのからみが多かったのです。
で、ヴァレンティンに意味深に視線を送ったり、
モリーナのベッドに寝転がったりするの。
もしかして、モリーナにとっての蜘蛛女みたいな存在だったのかなあ。
だって、この囚人、最初の方で脱獄しようとして撃たれちゃうし・・・
その存在自体が現実ではなかったのかも、と思いました。

囚人役のみなさんは、人数は少なめですが、もう踊る踊る!
歌声も迫力がありましたし、とても見ごたえがありました。


セットは、正面から見れなかったのでいまいち良くわからないのですが、
上手の壁(?)をスクリーンみたいにして、
モリーナの回想やオーロラの姿を浮かび上がらせたり、
最後に映画のクレジットみたいにするの素敵でした。
この壁、二人のラブシーンの時に、
絡み合う腕(個人的にはヴァレンティンがすがり付いてるように見えた)だけが映し出されたのですが、
真正面だったせいか、めちゃくちゃエロティックな印象を受けました。
舞台の中央では二人が手をつないでるくらいだったと思うのですが・・・
もともと人の手に色気を感じるたちですしねー(え)。
これって、正面から全体的に見たらどんな感じなのかなあ、と思いました。


この舞台、大阪から始まって、今週末から東京で始まりますね。
ちょうど前楽の日に東京に出る予定なので、
急遽もう一回観劇することにしてしまいました。
今度は下手よりの席なのですが、二人の表情や細かい演技をもっと見ることができるといいな、と思います。
だって、ずっと出ずっぱりなのに、本当に凄く細かい繊細な演技をしていたんですもの。
とりあえず、研修が問題なく進んで、東京に行けるよう、明日(あ、もう今日?!)も頑張ります!

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
石井さん好きなので、この舞台は見たかったのですが
大阪も東京も、WIWと見事にずれてしまってて
両方は遠征できぬと断念したんです(泣)

>ヴァレンティンと仲良くしようとがんがん話し掛けまくり、
>ついには境界線を引かれちゃうくらい
>ヴァレンティンに嫌がられるのですが、それも納得な押しの強さ!
思わず吹き出しました。ご本人のキャラを存分に生かしておられる…(笑)

感想を読ませていただいて、ますます見たかったなあという思いが募りました…
下手からの感想も楽しみにしていますね。
みずたましまうま
2010/01/21 01:12
みずたましまうまさん、こんばんは!
石井さん、お好きなんですね。
私はあまりご縁がなかったのですが、
「オペラ・ド・マランドロ」に引き続き、
ラテンのリズムにのった石井さんを拝見いたしました(笑)。
2幕は登場時に客席から拍手が起きましたし、
繊細な演技がとても印象的でした。
本当にキュートなモリーナでしたよ〜。
ミュージカルのゲイって、ザザといいエンジェルといい、
どうしてこんなに可愛くて健気で愛情深いのでしょうか・・・

今回は主人公二人の感情に目がいってしまい、
頭の中がぐるぐるしたままの感想でしたので、
とてもわかりにくい文章になってしまいましたが、
楽しんでいただけたなら幸いですv
東京公演は、二人の関係を更に深く(笑)観て来れるといいなあ、と思っています。
恭穂
2010/01/23 19:29

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