瓔珞の音

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zoom RSS 虚(うろ)

<<   作成日時 : 2010/04/20 23:00   >>

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最近はまっている作家さんに、松井今朝子さんがいます。
大阪にいるときに、もって行った本を読みきってしまい、
駅の本屋さんで購入したのが「家、家にあらず」でした。
そこに描かれる江戸の様々な人たちがそれぞれに持つ光と陰―――業に心惹かれ、
そのあと続けて読み続けています。

「吉原手引書」に描かれた、女の業と覚悟。
「非道、行ずべからず」に描かれた、親子の業と情。
「仲蔵狂乱」に描かれた、役者の業と華。
そして、「東洲しゃらくさし」に描かれた、絵師の業と本能。

嘘で塗り固められた世の中で、己の視た真を描く―――写楽。
謎に包まれたこの絵師のもう一つの鮮やかな姿を観てきました。


「戯伝写楽」

2010.4.17 東京千秋楽 青山劇場 1階H列20番台

作:中島かずき
演出・作詞:荻田浩一
音楽:立川智也
出演:橋本さとし、大和悠河、葛山信吾、ソニン、東山義久、岸祐二、小西遼生、辛島小惠、高谷あゆみ、林希、
    石井一彰、遠山大輔、海老澤健次、コング桑田、山路和弘


たった10ヶ月の間に、印象的という言葉では生温いほど強烈な個性の浮世絵を描いた写楽。
その謎に包まれた正体については、これまでも沢山の説あったといいます。
その中で、松井さんが描いたのは、狂言作者・並木五瓶とともに上方よりやってきた大道具の彩色方。
そして、この舞台で中島さんが描いたのは、
数多の説の中で一番信憑性が高いといわれている(らしい)、能役者・斉藤十郎兵衛・・・が出逢った、
美しい流しの女絵師・おせいでした。

違う作者の、違う作品。
けれど、二人の異なる写楽は、物語の中で同じ望みを抱いています。

嘘ではない、人の真実を描きたい―――

そして、その望みの末に、一人の写楽は己自身に立ち向かい、一人の写楽は己自身を見失った。
そのどちらもが、私には"写楽"という絵師の業に思えました。


おせいを演じたのは、大和悠河さん。
初めて拝見しましたが、なんとも不思議な雰囲気の方でした。
というか、おせいという役が不思議な役だったのかしら・・・?

ふわふわと捉えどころのない、感情の伴わない声音。
キラキラと輝く、けれど、どこか違うところを視ているような瞳。
そして、常に彼女を彩る笑顔―――
絵を描くときも、自分を求める昔の男の懇願を聞くときも、常にその口元に浮かんでいたその笑みは、
私には何故かとても虚ろに見えたのです。
それこそ、まるでできの悪い能面のように、内実を伴わない、ただ美しいだけの笑み。
その笑みは、おせいの描いた絵の真実に殉じて死んでいく花魁・浮雲の死に様を、
浮雲を取り囲む群衆の異様な昂揚を前にしても変わらず・・・いや、ますます輝きを増していきました。
その、鬼気迫るほどの美しさ―――それは、何故か私に暗い虚(うろ)を連想させました。

十郎兵衛の顔を、出会ったときから「面白い」と言い続けたおせい。
それは、きっと彼が常に自分の想いに正直だったから。
昔、共に暮らした鉄蔵に「自分の恋をみていただけ」「それでは絵は描けない」と言い放ったおせいが、
初めてそのキラキラした笑顔で真っ直ぐに彼の顔を視たのは、
彼が絵師として、男としての矜持を前に、おせいを殺そうと刃物を振り上げた瞬間だった。
それは、きっとその時初めて鉄蔵は真実の想いを彼女に向けたから。
おせいが死に行く浮雲を、彼女を見つめる群衆を描くことしかできなくなったのは、
その瞬間の彼らの想いが、まさに真実の輝きを放っていたから。

そして、おせいがそれらの想いに心惹かれ、囚われたのは、
彼女自身に、そういう強い想いがなかったから。
彼女の中は空っぽで、その大きな虚が、他者の想いを求め、吸い込み、描くことでその感情を味わっていたから。
―――そんな風に、私は感じてしまったのです。

己の瞼に焼きついた、人々の極限の感情。
それは、ある意味彼女の虚を満たし、そして彼女を違う次元へと押しやった。
その次元は、絵師としても、人としても、決して踏み込んではいけない次元だった。
そして、知らずそこへ彼女を導いてしまった十郎兵衛は、
彼女の眼を切り裂くことで、彼女を引き戻します。
結局それは狂言で、彼女の眼は傷一つ負っていないのだけれど、
でも、切り裂かれる瞬間の彼女の悲鳴は、真実だった。

"己の視た真を描きたい"

そういう彼女の業を、十郎兵衛は確かに切り裂いたのだと、そう思いました。


十郎兵衛を演じたのは、橋本さとしさん。
感情豊かな歌声と共に、常に何かを求めているような危うさも感じさせる、十郎兵衛でした。
おせいという女に対しての男としての恋心もたぶんあって、
でも、それ以上におせいの絵の力に惚れ込んでいたんじゃないかなあ、と思います。
だからこそ、彼女の絵が何処まで行くか、彼はずっと見ていて、
そして、最後の最後で責任を取ったんじゃないかな。
最後のシーン、おせいが描いた自分の顔を見て、
「こんなに色男じゃない」と薄く笑ってその絵を破いたけれど、
私には十分いい男に見えました。


十郎兵衛といいコンビだったのが、東山さん演じる与七、後の十返舎一九。
最初、お笑い担当?とちょっと目を疑いました(笑)。
そういえば、これまではアンジョとかバハバスとかかっこいい役しか見てなかったのですが、
細かい演技で橋本さんと共にしっかり笑いをとってました。
頬かむりも似合ってましたしねー(え)。
でも、自分のやりたいことに対して、着実に一歩一歩進んでいく堅実さもあって。
十郎兵衛に負けない想いがあったと思うのですが、
おせいが彼を描こうとしなかったのは、そういう理性的な計算高さがあったからなのかな、と思います。
個人的に、東山さんの歌声は好きなので、短いけれどしっかりソロを聞けて嬉しかったですv


そんな与七としっかり一緒に踊ってた(!)のが、山路さん演じる版元・蔦重こと蔦屋重三郎。
いやー、めちゃくちゃダンディでかっこよかったです!!
十郎兵衛とか与七が若いなあ〜と思えてしまうほどの、大人の魅力v
蔦重が見得を切るシーンでは掛け声がかかってましたが、それも納得です。
でもって、千秋楽だからか、山路さんもしっかり応えておりました(笑)。
版元として十郎兵衛に騙された振りで"写楽"を売り出し、
その正体を知ってからも、十郎兵衛を写楽としたままで売り続けた蔦重。
それは、もちろん儲けのためもあったでしょう。
けれど、真を描く"写楽"の絵を世に出すことは、
彼にとって建前や嘘に溢れた世間への挑戦のような意味合いもあったのかなあ、と思うのです。


花魁・浮雲役はソニンちゃん。
とてもとても綺麗な花魁でしたv
でも、彼女の真骨頂は、やっぱり感情迸るシーン!
嘘で塗り固めた人生を生きている浮雲。
そうしなければ、生きていけない彼女が、おせいの絵に描かれた自分の姿を見て、
自分の真実の想いに生きることを選ぶ―――それはもちろん破滅に繋がっていて。
足抜けして、心中に失敗て、市中に晒されながら、傍らで愛しい男の命が消えていくのを見、
それでも後悔はしないと叫ぶ浮雲。
その姿は、花魁のときよりも、ずっと鮮やかに美しく、印象的でした。


そして、その花魁にずっと付き従っていた遠山大輔さん演じる市。
花魁の脱ぎ捨てた打掛を纏い、それをまた花魁と寄り添う歌麿に掛けるシーンの動きが凄く綺麗で切なくて、
これはもしや?!と思ったら、やっぱり花魁の忍ぶ恋の相手でした(笑)。
絵を見て取り乱す花魁を抱きしめて、視線を交わす姿に、
きっと市は、売られた浮雲を追って、吉原に身を落としたんだろうなあ、と思いました。
市としての台詞は一つもないのですが、その動きだけで想いを伝えられるのは、ダンサー出身ならではかも?


喜多川歌麿役は小西遼生くん。
去年のレ・ミゼで誠実な優しいマリウスを見せてくれましたが、
今回の歌麿は、野心に溢れる、けれど冷静沈着な男でした。
花魁に「冷たいお人」とか言われてましたが、そういう凄味もちゃんと感じられたかも。
小西さんの新しい魅力を見た感じです。


もう一人の絵師、鉄蔵後の葛飾北斎訳は葛山信吾さん。
「宝塚BOYS」でしか見たことなかったんですが、こんなに歌える人だったんですね!!
以前おせいと暮らしていて、でも彼女に恋する自分に溺れきってしまった彼を、
おせいはあっさり捨てて旅立ってしまって、鉄蔵自身はおせいに未練たっぷり・・・という役柄。
でも、その陰には、彼女の絵を決して越えることのできない自分の才能への屈託があって、
その屈託が彼をさらに後ろ向きにして、その後ろ向きさが更におせいを遠ざける・・・うーん、不憫な(笑)。
最終的に、自分を見ないで凄まじい絵を描き続けるおせいに殺意を抱き、
それを十郎兵衛に阻まれることで、憑き物が落ちたように彼の視界はクリアになって、
それが後の北斎の絵に繋がっていくわけなのですが、
そういう流れをとても丁寧に演じられていました。
それにしても、北斎の語源(?)が「あほくさい」ってほんとですか?(笑)


岸祐二さんは太田南畝を演じてらっしゃいました。
おせっかいが全て裏目に出る感じの、ちょっと黄昏たお侍さん、という感じ。
「仲蔵狂乱」や「東洲しゃらくさし」で南畝の半生を読んだ私としては、
その黄昏具合がなんともツボだったり(笑)。
歌声は相変わらず素敵でしたv


石井一彰さんは、女形の中山富三郎役。
いやー、腰の落とし方がとても色っぽかったですv(笑)
松井今朝子さんの本の中で、女形の日常の着物の描写とかもあったんですが、まさにそういうイメージ!
仕草や動きに目を奪われて、歌声の記憶が余りないのが残念です(え)。
でも、おせいが歌舞伎を観にいったシーンでの赤姫はコング桑田さんだったんですよねー。
あの格好で、男らしく堂々と歌われて、ちょっとびっくりしました(笑)。
コングさんは、他にもいろんな役で出られていたのですが、あの赤姫が一番印象深かったかも・・・
あの歌舞伎のシーンは、なんとも幻想的な感じでした。
ゆっくりと動く「暫」の大きな衣裳にそっと触れるおせい。
あれは、実際の歌舞伎の場面ではなくて、"おせいが視た歌舞伎"だったのかもしれませんね。


蔦屋の丁稚などをやっていたのは海老澤健次くん。
元気一杯に演じていましたが、カーテンコールの号泣が一番印象的でした。
いや、だってほんとにマジ泣きしてたよね? 「うえーん」って感じで(笑)。
凄い頑張ったんだろうなあ、とちょっと微笑ましくなってしまいました。
そんな海老澤くんに物真似を促す橋本さん・・・(カーテンコールは役者さん全員が一個物真似をしたんです)
しかも一番手(笑)。でも、しっかりやって、偉かったです(すっかり目線がお母さんお姉さんです/笑)。


三人娘は辛島小恵さん、高谷あゆみさん、林希さん。
それぞれ個性的で、舞台上を元気一杯歌い踊ってらっしゃいました!
が、音響の関係か、歌詞が殆ど聞き取れなかったの・・・(涙)
三人ともとても歌がお上手なので、それがちょっと残念だったかな。

というか、このミュージカルの歌、何気に凄い難しいんじゃないかと思います。
最初の十郎兵衛とおせいの歌とか、かなり音程とりにくそうだなあ、と思っちゃった。
演奏はベースとピアノとサックスとパーカッション二人、というバンド形式で、
ロックともジャズともつかない不思議な感じの、でも凄くのりやすいかっこいい音楽ではありました。
さっき書いた蔦重のソロや、与七のソロ、十郎兵衛のソロ、浮雲のソロ、
どれもとても綺麗で聴き応えもあって、実はDVD申し込もうかちょっと悩んでしまいました(笑)。
個人的には、上手側のパーカッションの方に注目していたり(笑)。

最初で最後の観劇で、且つ千秋楽でたぶんちょっとアドリブとかも多くて、
若干理解しきれない部分もありましたが、十分楽しめた舞台でした。
カーテンコールで、橋本さんが「このカンパニーでいつか再演を、あるいはその後の十返舎一九や葛飾北斎を」と
おっしゃっていましたが、再演や続編があったら観たいなあ。
というか、是非いつかやって欲しいです!
その後の太田南畝でも全然オッケー!(笑)

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
恭穂さま
いつもなが洞察力にあふれた人物描写で
とても興味深く読ませていただきました。
恭穂さんのこのレポを読んだ後でもう一度
あの舞台を観たいくらい(笑)。

おせいさんのあの笑顔は本当に不思議でした。
どこか焦点があわず、空(くう)を見ている
ような瞳・・・だけどその瞳で見たものは、
誰よりも真実の姿を描き出す・・・あの雰囲気を
出すのは至難のワザかもしれません。
とすると、大和悠河さん、ベストキャストかな?
スキップ
2010/05/25 01:06
スキップさん、こんばんは!
お返事が遅れてしまってすみません。

おせいさんのあの瞳、とても印象的でした。
個人的にはベストキャストかな、と。
でも、他の役をどんな風に演じられるのかも、
とても気になります。
いつか別の舞台でも拝見したい役者さんですv
恭穂
2010/05/28 20:34

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