瓔珞の音

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<<   作成日時 : 2010/06/06 19:59   >>

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劇場の中に入ると、井上ひさしさんの笑顔が目に入りました。
白い胡蝶蘭に囲まれた、追悼コーナー。
あの人ごみの中で、私は記帳をすることはどうにもできなかったけれど、
心の中で、深く手を合わせました。

「生きろ」

この舞台のメッセージは、これに尽きるのだと思います。

「生きろ」は「殺すな」でもあり、「殺されるな」でもあり、「生かせ」でもある。
初演を見ているせいか、井上さんのことが頭にあったせいか、
今回の観劇では、そのことがもの凄くストレートに私の中に飛び込んできました。

「生きろ」

このメッセージが、どうか世界に広がりますように。


「ムサシ ロンドン・NYバージョン」

2010.6.5 ソワレ さいたま芸術劇場大ホール 1階J列20番台

原作:井上ひさし
演出:蜷川幸雄
出演:藤原竜也、勝地涼、鈴木杏、六平直政、吉田鋼太郎、白石加代子、大石継太、
    飯田邦博、堀文明、井面猛志


宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島での戦いで幕を開け、
その6年後の二人の再会からの3日間を描いたこの物語。
初演では、笑いの波に溺れて、いろんなものを掴み損ねた気がしましたが、
今回は、逆にいろいろ深読みしすぎてしまったような気もします。
主役の二人の関係への感じ方は、初演の時とほぼ同じだったのですが、
5人6脚やタンゴのシーンをはじめ、いろんなシーンで素直に笑わせていただきつつ、
頭の中のちょっと冷静な部分で、井上さんはどんな意図でこのシーンをいれたのかな?と考える自分がいました。

争う二人を他者が挟みあうことで、その争いを押さえ、
ほんの一歩でさえ心を一つにしないとできないという状況の中で友情を芽生えさせる、という柳生の秘伝(?)も、
逆を返せば、争う二者を他者が押さえ込み、
それぞれの想いを無視して一つの流れに組み込むこと、ともとれる。
そして、それは表面上は争いを抑えても、決して抜本的な解決にはならない。

剣の足捌きの練習が、いつの間にかタンゴになっているのも、
大きな流れの中で本来の目的を見失っている、というようにもとれる。

そして、最後の死者たちの言葉。
スローモーションの動きの中で、死者たちが「生きよ」「殺されるな」と叫び、
武蔵と小次郎が彼らを怯えた表情で切り捨てていくシーン。
死者たちの叫びは個人を越えた言葉に聞こえて、
でも、一方で武蔵と小次郎の戸惑いや恐怖も良くわかって・・・
なんとも複雑な涙を零してしまいました。

ロンドン公演では好評だったようですが、
これが、世界の大きな流れを作っているアメリカで、どんな風に受け止められるのか・・・?
蜷川さんも役者さんも、井上さんの想いを形にしているのは確かで。
でも、そういう「生きる」ということに対しての想いとういうのは、
一人一人異なり、決して同じではないと思うんですね。
実際、旅立っていく武蔵と小次郎も、清々しいというには、もう幾つかのハードルを越えなくてはならない、
そんな宿題をもらった子どものような顔をしていたように思うのです。

「生きろ」という井上さんのメッセージ。
それが沢山の人に届けばいいと思う。
けれど、それは受け取ったところがゴールなのではなくて、
その言葉を受け止めたあと、どんな風に自分が生きていくのか考えろ。
そういことなのだと、そう思いました。


武蔵役の藤原竜也くん。
周りがわあわあ騒いでいる中で(え)、ひとりどっしりと思慮深く構えた武蔵でした。
言葉数は少ないけど、いろんなことを常に考えている感じ。
なんというか貫禄がついたような・・・?
まいの言質を取ったあとの、暗転前のあのにやりとした笑いがツボでした(笑)。
そんな彼が小次郎を前にすると、ちょっと箍がはずれるというか、
素直になるような気がしました。
禅を学び、茶道を学び、仏像を彫り、お寺も建てる・・・
様々なことをしながら、剣客である自分を抑え、戦いに昂揚する自分を抑え、
市井の人と紛れようとしていたのかなあ、と思います。
それが、自分と同じ匂いのする小次郎を前にすると、
抑えていたはずのもう一人の自分が自然に現れてくる―――
そのことにちょっとわくわくして、でも、それを抑えようと葛藤する。
そんな複雑さを感じました。

小次郎役は勝地涼くん。
いやもう出てきた瞬間に、え?これが勝地くん?!って思っちゃった。
痩せて、目だけがギラギラ光っている感じ。
「蜉蝣峠」の銀之助の時にも思いましたが、今回の舞台でもまた一皮向けたかも?
勝地くんの持つ素直さや可愛らしさ(え)はそのままに、凄味が加わったように思いました。
こういう風に、若い役者さんが変わっていくのを見るのは嬉しいですねー(笑)。
小栗くんの後で、きっとやりにくかったろうなあ、と思いますが、
きちんと勝地くんの小次郎になっていました。
2200日の間、彼がどんなに苦渋を舐め、どんなに武蔵を切望したかがわかるような、
再登場のシーンの狂気を感じさせる笑い。
それが、周りと関わることで、どんどん本来の素直さを取り戻していくのが、
なんというか微笑ましかったです。
武蔵的にも、この小次郎は好敵手であると共に、目が離せない弟みたいな感じだったのかも?
まいの告白の呪縛に囚われたままの小次郎の襟を、武蔵がなおしてあげるシーンが可愛かったですv

沢庵和尚役の六平直政さん。
いやあ・・・胡散臭さ全開でした!(笑)
ちょっとした目配せも、慈悲深い笑みですら胡散臭い。
吉田さん演じる柳生宗矩と裏取引(?)するシーンでは、笑い方が二人そろって悪代官でした(笑)。
辻さんの飄々とした沢庵和尚も大好きでしたが、
六平さんのちょっと生臭さを感じる和尚も、これもあり!な説得力だったと思います。

そんな沢庵和尚といいコンビだった吉田鋼太郎さんの柳生宗矩。
とてもかっこよく、かつきちんと裏を感じさせ、でもってちゃんと笑いも取ってくる・・・さすがです、吉田さん!
足捌きのシーンで、上手側でこっそり小次郎の手拍子に合わせて動いているのに気づいて、
思いっきり吹き出しましたよ、私(笑)。
ついつい吉田さんを目で追っちゃうので、
メインの二人を見ている観客の方たちと、笑いのタイミングがずれるんですよねー(汗)。
ま、それもまたよしかと。

鈴木杏ちゃんの筆屋乙女。
おとなのしっとりさも感じさせつつ、おきゃんな雰囲気もあって可愛らしかったですv
最後の「生きていたら、もっと沢山書けたのに」の台詞は、
やっぱり井上さんを思ってちょっと胸にぐっときてしまいましたが、
むしろその後の、この芝居の脚本を書くことができてほっとした、という台詞に、
井上さんの声を聴いたように思いました。
この二つの台詞、そして1幕最後の恨みの連鎖を断ち切るシーンでの台詞。
一番ストレートにメッセージを伝えなくてはならない杏ちゃんは、きっとすごいプレッシャーだったろうなあ・・・
でも、それを"言わされている"のではなく、
きちんと自分の言葉にしているのが素晴らしいな、と思いました。

そういえば、1幕最後のシーン、切り取られた手の指が動いてました。
最初はその生々しさにおお!と思ったのですが、
ずーっと動いているので、ちょっとそっちに目がいっちゃって、
乙女のせっかくの見せ場に気持ち全部をつぎ込めなかったかも・・・
ずっと動くのではなく、ちょっと動いてだんだん止まったほうが生々しいし舞台への影響もないのになあ、なんて。

白石加代子さんの木屋まい。
あの快演(怪演?)はもう白石さんにしかできないでしょう!
表情や声音の多彩さに脱帽です。
まいは、どちらかというと小次郎に絡むのが多かったのですが、
彼女自身、"戦い"に敗れ、そのことに囚われたまま死をえらんだのですよね。
そういう意味では、戦いに敗れ、そのあとで執念のみで生きてきた小次郎に伝えたいことがあったのかな、と思う。

そして、今回はちゃんと癒しになってくれた、大石継太さんの平心。
あの笑顔や声は、私的にはほんと癒しです。
最後の鏡のくだりは、ちょっと説明的かも、とは思いましたが、
吉田さんと、そして彼の最後の「ありがとう」があったから、
武蔵と小次郎はほんの少し救われたんじゃないかなあ、とも思います。


役者さんたちも見事でしたが、舞台美術や音楽も初演に引き続き素晴らしかったです。
あの冒頭の竹林が動くシーンは、やっぱり何度見ても引き込まれます。
前回よりも少し前方の席だったせいか、
床や廊下の壁に落ちる竹の葉の細かな影や、
斜めに差し込む光が作る鋭角的な陰の美しさにも目を惹かれました。
ピアノなどの西洋楽器と尺八や能管の組み合わさった音楽も、
とても優しい響きだったように思います。

そして、今回の舞台。
真剣に観て、でも目一杯笑ってこようと思っていました。
"笑い"を通していろいろなことを伝えてくれた井上さんに対する、それが私の追悼だと、そう思ったからです。
そして、やっぱり沢山笑って、沢山の宿題をもらいました。
武蔵や小次郎と共に「生きろ」というメッセージに込められた宿題を、いつも胸に抱えていようと思います。

改めて、井上ひさしさんのご冥福をお祈りいたします。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
やっぱり恭穂さんが書く文章は奥が深くて・・・
昨日の舞台がくっきり蘇りました。
なんだかこの舞台、ジワリジワリときますね^^
って、私は初演と今回と2回しか観ていませんが、井上ひさしさんの想いが前回よりも胸に届いた気がしました。
もう一回観たら、もっと響いてくるのかな。
そんなことを恭穂さんのレポを読まさせてもらって漠然と考えてしまいました。。。

でね!
話はがらりと変わって・・・
恭穂さんも昨日のソワレいらしたんですね!
しかも・・・
お席がJ列20番台??
めちゃ近かったーーーーー!!!
本当にすれ違ってたかも(*´艸`*)♪
なんだかこういうのもおもしろいですね。
ドキドキしちゃいました^^
なっつん
2010/06/06 22:16
なっつんさん、こんばんは!
えええ?!そんなに近い席だったんですか??
うわー、私もドキドキしてきちゃいました。
きっとほんとにすれ違ってましたね(笑)。
メンバーズでチケットをとったからかな?
そうだとすると、またこんな機会もあるかもしれませんねv
なんだか劇場に行くたびにきょろきょろしちゃいそうです(笑)。

「ムサシ」、ほんとに観た後に自分の中で熟成されてくる感じですね。
観るたびに新たな発見があるんだろうな。
私も初演と今回2回きりですが、
もし再々演があったら、きっと観にいってしまうと思います。
恭穂
2010/06/07 22:23

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