瓔珞の音

アクセスカウンタ

zoom RSS 初志貫徹

<<   作成日時 : 2010/07/04 11:49   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 4

蜃気楼は、大きな蛤がつくりだすもの、というのは中国のお話だったでしょうか?
舞台を挟み込む二つの輪は、私には大きく口を開いた貝のように見えました。
美しく恐ろしい夢を吐き出す蛤のように、
異物を芯に包み込んで綺麗な真珠をつくる真珠母貝のように、
一人思考する男を住まわせた大きな貝。
そこから立ち上る夢の物語は、華やかで綺麗で残酷で、そしてとても切ないものでした。


「キャンディード」

2010.6.27 マチネ 帝国劇場 1階A列10番台

演出:ジョン・ケアード
出演:市村正親、井上芳雄、新妻聖子、村井国夫、坂元健児、阿知波悟美、駒田一、安崎求、須藤香菜 ほか



物語は、一人の男の思考から生み出されます。
輪の中央、一つの大きなトランクの上で思考していたヴォルテール(市村正親)。
軽やかな序曲にのって、まるで指揮やダンスをするように、
自らの思考に没頭するヴォルテール。
あの広い舞台の上の、たった一人の、しかもゆるやかで穏やかな動きなのに、
その動きの波に揺られるように、私は一気に市村さんが作り出す空気に飲み込まれました。
そして、現れる登場人物たち。
オルゴールや仕掛け時計の上の人形のように、同じぎこちない動きをする彼らが、
トランクからヴォルテールが取り出すさまざまな衣装や小道具を受け取った瞬間に、
生き生きと輝きだす様子は、観ていて本当にわくわくしました。
そして始まったヴォルテールの夢。

夢の主人公は井上くん演じるキャンディード。
ドイツはウェストファリアのとある男爵の妹の私生児として生まれたキャンディード。
母亡きあと(なのかな?)伯父である男爵家で、
従兄のマキシミリアン(坂元健児)とクネゴンデ(新妻聖子)とともに、
楽天主義者の哲学者パングロス(市村さん二役)の教えを受けたキャンディードは、
その名前が意味するとおり、まっすぐに育ちました。
ある時、クネゴンデと結婚の約束をしたことが男爵の知るところとなり、
身分違いを理由に彼は一人城を追い出されてしまいます。
“すべて物事には理由があり、それが最善である”
パングロス先生の教えを胸に一人旅立ったキャンディードが出会うのは、
しかし、自然の厳しさ、人の愚かさや醜さ、弱さばかり。
そんな中で、彼が見つけ出した終の住処は・・・?

というようなお話でした。
実は数年前の亜門版を観ている私。
ずいぶん昔の話だし、そのあとDVDも(持ってるんです/笑)1〜2回観たきりで、
そんなに内容も覚えていないと思っていたのですが、
キャンディードたちが歌いだした瞬間に、
前に観た舞台の記憶がわー!と思い浮かんできました。
とくにマキシミリアンが歌いだしたとき!
新納くんの歌声まで、なぜだかしっかり思い出しちゃいました。
いや、あれはほんとにナイスキャストだったと思うのよ。
いえ、坂元さんのマキシミリアンも意外性があって良かったのですが、
前の舞台で坂元さんはカカンボを演じてられてたので、なんだかそのイメージが強くてね〜。
そういえば、あの舞台は、大きな輪の中で演じられていましたね。
今回の舞台は、上下の輪の中、大小さまざまなトランクが、
椅子になったり馬になったり船になったりヨットになったり・・・
そんなシンプルなセットでしたが、そこから生み出される夢=物語は、とても大きなものでした。


さて、タイトルトール、キャンディード役の井上くん。
最初出てきたとき、あんまりにもほっそりしてしまっていたのにびっくり!
きっとハードな舞台だったんでしょうね・・・
井上くんというと毒舌(え)なイメージだったので、
どんなキャンディードになるのかな、と思っていたのですが、
まさに真っ白!という感じでした。
それも、他者と混じり合うことのない、すべてを跳ね返すような輝く白。
汚れても汚れても、その硬さ(強さ)は決して減じない、綺麗な鉱物のような白。
つらい旅路の中で、いくつもの別れを経験し、
たくさんの命が奪われるのを見、あまつさえ自分が人の命を奪い、
刷り込まれた楽天主義に疑問を抱き、
そして、愛するクネゴンデの変貌に絶望しながらも、
自分の手で働いて、何かを作り出し、
彼女や仲間たちとともに、理想の国を作り上げようとするキャンディード。
そこに至るまでの彼の絶望や苦難は、観ていてとても胸の痛むものでした。
でもね。
彼の選んだ終の住処は、彼が最初から望んでいたものだったんです。
畑を耕し、羊を育て、愛する人と暖かい家庭を・・・
冒頭、クネゴンデとの未来を語る時に、彼はすでにその夢を描いていた。
あの苦難の旅路を経てさえ、彼の根本は変わらなかった。

変わらない強さ。
変わらない美しさ。
変わらない白さ。

そう思ったときに、実はなんだかちょっとぞくっとしてしまいました。
その強さは、その白さは、決して他者と交わらない。
他者を尊重しても、決して心の底から受け入れはしない。

そんな頑なさを感じてしまったのは、
新妻さん演じるクネゴンデのしなやかな変貌を観たからかもしれません。

美しく、世間知らずな生まれついてのお姫様なクネゴンデ。
戦争に巻き込まれ、傷つけられ、辱められ、それでも生きてきたクネゴンデ。
たくさんの男たちにもののように扱われ、それでも生きてきたクネゴンデ。
彼女の歌う♪着飾って輝いて は、
そうすることでしか生きることのできなかった彼女の、
堕ちてしまった自分自身への悲しみの発露でもあり、
自嘲でもあり、開き直りでもあり、生きる決意でもあり―――
大きく見開いたクネゴンデの、熱に浮かされたようなどこか虚ろな瞳が、
華やかな歌声とは裏腹に、なんとも切なくて悲しくて、ちょっと涙してしまいました。

そんな彼女にとって、キャンディードは過去の清らかな自分の、
美しい夢の、幸せな時間の、象徴のような存在だったんだろうなあ・・・と思うのです。
そんな相手、しかも自分の歩んできた時間を全く知らない相手と過ごすことは、
彼女にとって幸せである半面、ものすごいストレスだったと思う。
だって彼女は、不本意でも“変わっていく自分”受け入れることで立っているのだから。
染まらないキャンディードとは裏腹に、
染まりきることで生きてきたクネゴンデにとって、
綺麗なままのキャンディードの姿は、汚れた自分を映す鏡のように見えたんじゃないかな?
もちろん、彼女自身が女であることを使って、安易に贅沢な生活を選んだ、というのはある。
それは、決して褒められることじゃないとも思う。
でも、あの時代、あの状況下で、死を選ばずに生きることを選ぶとしたら、
現状を受け入れて、自分自身をごまかしながら生きていくしかなかったのではないかとも思うのです。

ヴェニスでの再会で、キャンディードは金と欲にまみれたクネゴンデを嫌悪し、一度は拒絶します。
でもね、君はクネゴンデの何をみてきたんだ?と私はキャンディードに問いたい。
彼女が贅沢な生活を愛することは、物語の冒頭から明らかだったはず。
なのに、キャンディードは、自分の中の美しく清らかなクネゴンデだけを、
自分が見たい彼女の姿だけを見ていた。
そして、自分の中の美しい彼女とは異なってしまったクネゴンデ。
それは、これまで自分が旅してきた世界とも重なって―――だから、彼は一度全てを拒絶したのだと思うのです。

もちろんクネゴンデ自身も、きっと”堕ちてしまった自分”を嫌悪していたと思う。
そうしなければ生きてこれなかった、という自負と共に、
キャンディードの記憶の中の”綺麗な自分”のままでいられなかった自分を嘆いたと思う。
キャンディードの拒絶の後、舞台の端の暗がりで一人座り込む彼女の横顔は、
本当に儚くて、なんだか消えてしまいそうだった。
その姿を見たときに、なんだか私のなかではキャンディードの"白さ"がとても怖くなってしまったのです。

一度壊された全てを自らの手で作り直すことを、その後キャンディードは選びます。
そして、そんな彼のプロポーズを、クネゴンデは受けます。
種を蒔き、パンを焼く―――そう歌う彼女の笑顔はとても美しいのに、
私には何故か、深い諦念の翳りが見えてしまいました。
ああ、彼女は今度はキャンディードに染まることを選んだのだな、と。
そう思ったら、なんだかとても切なくなってしまいました。


阿知波さんの老女は、老女というよりも肝っ玉マダム!という感じでした。
過酷な人生を送ってきながら、それでもしたたかに生きてきた強さ。
そういう自分を恥じない矜持。
彼女に出会わなければ、クネゴンデはあんなにも堕ちなかったと思うけど、
でも、生きてキャンディードと再会することもなかったんじゃないかなあ、と思います。

そういえば、亜門番ではヴェニスに来てからのクネゴンデと老女の歌があったように思います。
彼女がどんな風に変わっていったのかがわかる内容だった気が・・・
歌自体も好きだった記憶があるので、今回省かれたのはちょっと残念かなあ。


駒田さんのカカンボは、なんだかとっても知的な印象。
亜門版の坂元カカンボが見事に肉体系(え)な印象だったのと比べて、
駒田カカンボは策略系?(笑)
世間知らずなキャンディードのいい相棒、という感じで、
二人のシーンはちょっと微笑ましかったですv


安崎さんのヴァンデルデンデュールもお似合いでしたねー。
高笑いがいい感じでした(笑)。
キャンディードからしてみたら凄い悪人なんでしょうけど、
彼もパングロスやマーティンと同じに、自分なりの人生哲学にのっとって生きてきたんだろうな、と思います。


笑いはありつつもかなりシビアなこの舞台で、
最高の癒しだった藤田光之さんと折井理子さんのエルドラド羊もめちゃくちゃ可愛かったです!
「メエェ〜」という鳴き声にしっかり感情が入っているのが凄い!
エルドラドからの彼らの旅路は客席を一回りして描かれるのですが、
出発点付近にいた私は、折井さんの小さい方の羊につんつんされました。
なんだかちょっと幸せになったり(笑)。
でも、あんなにキャンディードが大事にしていたこの羊も、結局売られちゃうんですよね。
さらりと語られる売られた後のことと、哀切溢れる鳴き声に、
この物語のブラックさを実感してしまいました。


そして、ヴォルテールとパングロスの二役を演じられた市村さん!
もう、素晴らしい!!の一言です。
ほぼ舞台の上に出ずっぱりで、物語を進めていく狂言回し的な役柄なのですが、
自分の中から生まれた登場人物たちの人生を、
時に厳しく、時に愛情溢れる視線で見つめるその表情の多彩さが、
この舞台を更に深めていたんじゃないかなあ、と思います。
諸事情で千秋楽のしかも最前列からの観劇になってしまったので、
市村さんの演技の全てを観ることができなかったのが本当に残念!

そう思うと、この舞台、全体が見えるセンターから1回、照明が見える2階席から1回、
そして、市村さんだけを目で追う(え)前方席から1回と、最低三回は観たかったなあ、と思います。
照明も良く見えなかったですしね〜(涙)。
六人の国王のシーンも、ブログで見るととても美しい照明で、幻想的なシーンだったようですが、
私の席からでは国王は重なってしまうし、ゴンドラに乗っている、というのもわかりにくかったし・・・
あああ、そう思うと、更に残念!
これはもう是非再演していただきたいなあ、と思います。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
読みながら、「変わらぬ白さ」のくだりで私まで背筋がぞくりとしました。
あー、やっぱり観たかったなこの演目。と
感想を聞かせていただいて、つくづく思いました。
再演があったら次は逃さないようにしたいな。

>全体が見えるセンターから1回、照明が見える2階席から1回、
>そして、市村さんだけを目で追う(え)前方席から1回と、
>最低三回は観たかったなあ、と思います。

理想の観劇数ですね(笑)
私も1回では十分見られなかったりわからなかったりするし
ちょっと期間を空けると、役者さんたちや舞台自体の成長にも驚かされることが多くて…
だから可能ならいろんな席位置から、何度か観たいタイプです。
良席からでは逆に見えなかったり、感じられないこともありますし。
みずたましまうま
2010/07/06 22:52
みずたましまうまさん、こんばんは!
最低3回って、理想の観劇回数ですよね。
同意してくださる方がいて良かったv(笑)

井上くんのキャンディードの"白さ"は、
人によって感じ方が違うかなあ、と思いました。
どの登場人物に共感するかで、彼に対する見方も変わるのかも。
私もまだまだ観たりないので、是非再演して欲しいですね。
それこそ、市村さんが3時間立ちっぱなし、
動きっぱなしでも大丈夫なうちに是非!(笑)
恭穂
2010/07/08 22:27
遅れてのコメント失礼しまあす♪
恭穂さんの感想読んで クネゴンデが今度はキャンディ−ドに染まる
って感想がすごく新鮮でしたー
女性が現実的で男性は夢を追い求めてるって印象の作品でした
現実的な女性が哀しくて可愛くてたくましく思えたのは
やはり同じ女性だからかしら♪
もしかしたらクネゴンデは結婚後もキャンディードにものたりなくて
時々家出したりするのかもしれません(笑)
でもそれでものんびり種まきなどしながら
そのうち帰ってくる彼女を変わらぬ白さで迎えてくれるんだろうなあ
と思える井上キャンディード

キャンディードがクネゴンデに恋するエピソードがあったら
もっと深い感じになる気がしました
何故キャンディードがそんなにクネゴンデを愛して
各地を探しまわるのかがいまいちわからないので
「クネゴンデじゃなくでもいいんじゃない?」的な印象

私は2回とも2階席からの観劇で照明きれいでした〜
ぜひぜひ再演希望です。市村さんも井上君も体力あるうちに☆

亜門版のサカケンカカンボはすごいはまり役だったと思っています(笑)
kumigon
2010/07/13 02:37
kumigonさん、こんばんは!
キャンディードがクネゴンデに恋するエピソード、
私も必要だなあ、と思いました。
もしかしたら、キャンディードにとっても、
クネゴンデは"幸せだった時間"の象徴なのかもしれませんね。
でもって、kumigonさんの、結婚後の二人大予想(笑)に、
大ウケしてしまいました!
やっぱり何気にお似合いな二人なんですねv
恭穂
2010/07/13 22:49

コメントする help

ニックネーム
本 文
初志貫徹 瓔珞の音/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる