瓔珞の音

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zoom RSS その花の強さ

<<   作成日時 : 2010/07/16 22:05   >>

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ちょうど1年前。
私は初めて沖縄を訪れました。
鮮やかなのにどこか優しい海の碧、砂の白、木々の緑、そして空の青。
今帰仁城の片隅に置かれたベンチに座って静かに過ごしたあの時間は、とても幸せなものでした。

日程の関係で南部に行くことはできず、
沖縄が見舞われた戦争の傷痕に触れることはできませんでした。
帰りの飛行機の中、友人と、今度は南部に行こうね、と約束しました。

その約束は、今年はかなえることはできなかったけれど、
同じ季節、東京の劇場の中で、私は"あの時"の沖縄を体感しました。


ミュージカル ひめゆり

2010.7.11 ソワレ(組) シアター1010 1階14列20番台

作曲・編曲・音楽監督:山口e也
脚本・作詞・演出・振り付け:ハマナカトオル
出演:知念里奈、井科瑠美、岡幸二郎、原田優一、片桐和美、深澤美貴子、梅沢明恵、藤澤千佳、穂積由香、
    浦壁多恵、三辻香織、麻田キョウヤ、中本吉成、北村がく、わたりあずさ、吉田英美、村上恵子 ほか


物語の舞台は、昭和20年の沖縄。
米兵による沖縄上陸の恐怖が迫るその頃、
沖縄師範学校女子部の生徒たちは、一つの決断を迫られます。
学校に残って仲間とともに戦うか、非国民の謗りに耐えて親元へ帰るか・・・
最終的に愛する沖縄を守るために戦うことを選んだ少女たちは、
ひめゆり学徒隊として、陸軍病院へ派遣されます。
そこで少女たちを待ち受けていたのは、目を背けたくなるような戦争の悲惨さでした。
逃げ出したくなる気持ちを抑えて、
厳しくも慈愛溢れる上原婦長の下、身体も心も傷ついた兵士たちの看病にあたる少女たち。

片足を切断された若い兵士が語る遠い故郷。
断続的に空気を震わす砲弾の音。
重苦しい空気の中で、通い合う心。
甦る過酷な戦いの日々にうなされる兵士たち。
銃弾に倒れた友の最後の言葉。

生きていることが、こんなにも苦しくて、哀しくて、難しい、そんな世情の中で、
それでも少女たちは互いに励ましあいながら、自分にできることを必死にやっていた。
けれど、彼女たちの献身的な努力を嘲笑うかのように戦況は刻々と厳しさを増し・・・
とうとう上陸してきた米軍を前に、彼らは病院捨て、脱出を図ります。
暗い雨の森の中で、彼女たちを待っていたのは、更に過酷な現実で―――


この舞台を観る前に、私は一つ決心したことがありました。

決して、泣かない。
感情ではなく理性で、彼女たちの生きた時間を見据えよう。

特に深い理由はなくて、そのくらいの覚悟で見たいミュージカルだと思ったのです。
そして、自分自身の感情から一歩距離を置いて接したこの物語は、
予想以上の重さを持って、私の中に落ちてきました。

正直に言ってしまえば、散漫な印象のミュージカルだと思います。
特に2幕はずっと逃げ惑いながら生きることを模索していく人々を描いているのですが、
それがなんとも唐突で、ぶつ切りに感じてしまいました。
でも、それぞれの少女たちの選択を、
いろいろな立場の人たちの過去と現在を、
全て一つの物語の中に入れてしまおうとしたら、
それはどこか上滑りな印象になってしまうのは仕方ないと思う。
実際に、このミュージカルに携わった人たちは、
きみという少女一人の成長物語ではなく、
あの時、あの森の中で、死の恐怖に怯えながら生きるために歩き続けた人たちの、
リアルな軌跡を描きたかったのだと思うし、
そういう意味ではとてもわかりやすいミュージカルでした。

そんなミュージカルの中で、強い存在感を放っていたのが、
井科さん演じる上原婦長と、岡さん演じる滝軍曹でした。
少女たちにとって、まったく正反対の存在である二人。
その対比の、鮮やかさ―――

鬼のように恐ろしい、容赦のない滝軍曹。
力で、殺戮で、日本が勝利を勝ち取ることを疑わず、
ただひたすらに、他者を踏みつけにしてでも前に進むことを選んだ彼。
岡さんは、そんなダークな滝軍曹を、一曲の歌で非常に深みのある男に見せてくれました。
少女たちと同じように、沖縄を愛し、家族を愛した彼が、
追い詰められていくうちに、どんどん余裕をなくし、
その目に狂気さえ浮かべていく様は、恐ろしいと同時にとても哀しいものでした。
滝軍曹も、戦争の被害者である。
たとえその行為は受け入れがたいものだとしても、その事実はしっかりと私の中に届きました。

そして、汚れた白衣を纏っていても、輝くような優しさを見せてくれた上原婦長。
ナイチンゲールに憧れて、彼女のように強く、優しく、慈しみに溢れ、
兵士にも少女たちにも、その厳しさと優しさで、癒しと力を与えてくれた上原婦長。
彼女の歌にある、「私に話して」という言葉。
その言葉が、深く抉られた兵士の心に、どれだけのものを注ぎいれてくれただろう・・・!

物語の終盤、銃弾に倒れた上原婦長は、
投降しようとするきみを殺そうと銃を構えた滝軍曹を、手にした銃で打ち殺します。
粗筋を読んで、それは知っていたはずなのに、
その瞬間に、私はもの凄い衝撃を受けてしまいました。

命を助けることを使命としてきた彼女が、命を奪う。
切羽詰った状況であったとしても、それはどんな痛みと勇気を必要としただろう。
きみと滝軍曹のやり取りに目を奪われて、
そこに至るまでの彼女の表情を私は見ることができませんでした。
それが、とても残念で・・・
でも、きっと彼女は知っていたのだと思うのです。
その行為が、きみを救うだけでなく、滝軍曹をも救うことだということを。
滝軍曹を救うためには、その方法しかないことを―――

少女たちが主人公のこの物語の中で、
光と闇のように対照的な存在感を放ったこの二人を見れただけでも、
この舞台を観た価値はあったと思いました。


きみ役、知念里奈ちゃん。
沖縄出身の彼女がこの役を演じるのは、きっと想像以上に辛いものだったろうな、と思います。
彼女の澄んだ、けれど力強い歌声が、
この年頃の少女たちが持つ命のエネルギーを感じさせてくれました。
彼女は物語の中で、二人の兵士と心を通わせます。
足を切断された年若い杉原上等兵(麻田キョウヤ)と、
南方の前線での戦いを経験してきた檜山上等兵(原田優一)。
杉原からは、戦争に散っていく若い命の悲哀を、
檜山からは、戦争が彼の心に刻み付けた絶望を、
それぞれに感じ取ったきみ。
そして、それぞれの生きる力を信じようとしたきみ。
けれど、杉山は病院を退去する時に、歩けないほかの兵士とともに仲間の手で青酸カリで殺され、
檜山は、きみを助けるためにその命を落とします。
二人の死に面した時の、きみの嘆きの叫びが、今も脳裏に浮かびます。

僅かに人生が交差した二人の死、そして沢山の友の死を経て、
きみは「生きていくこと」を選びます。
生きているからこそ、出会える誰か。
生きているからこそ、始まる何か。
生きていくことがどんな苦難に塗れていても、
生きていなければ何も始まらない、誰とも出会えない―――
このミュージカルの一番のメッセージを、知念さんはストレートに伝えてくれました。


杉原役の麻田さん。
東宝の舞台で何度も観ているはずなのですが、
柔らかい歌声と、思っていた以上に華奢な雰囲気にちょっとびっくり。
病床での「鈴蘭の咲く根室」の旋律に、ふわっとその情景が思い浮んで、
故郷から遠く離れた沖縄の、故郷とはまったく異なる緑の中で苦痛に耐える彼の寄る辺なさに、
なんだかとても切なくなりました。


一方の原田さん演じる檜山は、
南方での辛い体験に、自分自身を否定してしまった様子が良くわかりました。
病院のシーンではあんまりにも元気そうなので、
なんで彼は病室にいるんだろう・・・?と思っちゃいましたが(笑)。
1幕最後、杉山の死を知って取り乱すきみを担ぎ上げた後姿がとても凛々しかったですv
そして、歌声も大迫力!
来年のレ・ミゼではマリウス役のようですが、
かなり陰のあるマリウスを見せてくれそうで、期待大ですv


脱出後、友人たちとはなれて母の待つ家へと向かう姉妹、
ふみとルリを演じたのは片桐和美さんと村上恵子さん。
その健気さと強い想いと絆が、この物語の中で数少ない癒しでした。
片桐さんの歌声が、とても好きなタイプだったので、
他の舞台でも拝見したくなりました。

ふみとルリとは別の意味で癒しだったのが、
はる(深沢美貴子)、かな(梅沢明恵)、みさ(藤澤千佳)の三人娘!
唯一コメディータッチで描かれているのですが、
常に死を意識しながらも、貪欲に生きることを求める少女たちの溢れんばかりのエネルギーが感じられました。


そのほか、ピンで取り上げらえた少女たちや先生たちのほかの登場人物も、
一人一人が、その人生を舞台の上での人生を丁寧に演じてらしたのだと思います。

が、初見の私には、そこまで細かい部分を意識することは叶わず・・・
それがとても残念でした。
ミュージカル座の舞台を観るのは初めてでしたが、
ソロの歌声だけでなく、全員でのハーモニーの美しさと迫力にうっとりv
このミュージカルはもちろんですが、また機会があれば他のミュージカルも観てみたいな、と思いました。

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