瓔珞の音

アクセスカウンタ

zoom RSS その遥かな高みを

<<   作成日時 : 2011/01/30 19:31   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 2

去年、井上芳雄くんのコンサートで、私は包み込むように優しく深い"青空"に出会いました。
旅立って行った人たちの、そして彼らを見送り・・・いつか再会する私たちの想いを、
全て受け止めてくれるような、そんな慈しみに満ちた神聖な青空。

そして、昨日。
この舞台で、私はもう一つの"青空"に出会いました。



「青空・・・!」

2011.1.29 ソワレ 赤坂レッドシアター L列一桁台

作・演出:東憲司
出演:新妻聖子


28歳のサツキ(五月、かな?)は、ある日祖母が晩年の3年間を過ごした防空壕へやってきました。
彼女をそこへ導いたのは、祖母がサツキに宛ててしたためた、厚い厚いノート―――「青空」。
揺るがない何かを秘め、それゆえに時に厳しく、時に過剰なまでに行動的に生きていた祖母。
祖母が記したのは、サツキへの言葉、大好きな歌、祖父との出会い、そして、祖母の記憶。
日の射さない防空壕の中で、ただ一人折り紙の動物園を折り続けた祖母。
その死の10年後に、一人防空壕に入り込んだサツキは、
そこで大きな作りかけのキリンに出会います。
ノートによると、そのキリンの名前は「キリコ」―――サツキとの、"約束のキリン"。
閉ざされた空間で、祖母のノートを読み、祖母との思い出をキリコに語り、
そしてキリコの制作を始めたサツキの前に、ある日祖母が現れます。
幽霊? 幻? 妄想?
ありえない祖母の存在を、けれどサツキはそのままに受け止めます。
そして始まる祖母との奇妙な時間。
子どもの頃に戻ったような、楽しい会話、反発、依存、甘え・・・
祖母を縛め続けた戦争の記憶を共有し、"約束のキリン"の真実にたどり着き―――サツキは向き合います。
夢に破れ、逃げ続ける自分に。
そしてとうとう"約束のキリン"が空に飛び立った時、サツキの胸に残ったものは―――


賞味1時間半の一人芝居。
小さな劇場の、まさに防空壕のような閉ざされ、限られた空間で紡がれる物語は、
空間も、時間も越えた広がりを見せてくれました。
端的に言えば、夢に破れた女性が、自分を見直し、立ち直っていく物語。
身も蓋もない言い方をしてしまいえば、絵本作家志望の想像力豊な女性の妄想の物語(え)。
けれど、小さな巣のように暖かなあの空間の中では、
ありえないはずの祖母の存在も、翼のあるキリンも、そしてそのキリンが飛び立っていく青空も、
サツキにとって、そして私たち観客にとって、紛うこと無き"真実"だった。
かつてそこに身を寄せた人たちの恐怖を、
一心に折り紙を折り続けた幼い祖母の祈りを、
そして、成長した後に戦争の愚かさを知り、自分の幼さと無知の罪に向き合い続けた祖母の想いを、
全てを内包し、全てを受け止めたこの空間だからこそ創り上げられた、奇跡の時間―――
そんなふうに、感じました。

新妻さんのサツキは、明るく元気で、でもナイーブで気遣いのある、独り言の多いAB型(笑)。
冒頭からにおわされる、彼女の逃避―――夢への挫折。
たぶん、それは誰もが多かれ少なかれ経験のあることで、
そしてたぶん多くの人が、その挫折を受け入れて前へ進んでいく。
それは、"敗北"というよりも、 "諦念"であり、そして同時に"成長"でもあると思う。
けれど、サツキは逃げ出した。
絵本作家の夢に見切りをつけ、それでも絵本に携わりたくて入った出版社すらやめて、
誰にも会わない、これまでの全てと隔絶した場所へとこもっていく。
そんなサツキに投げかけられた、祖母のことば。

一人になりたいというのは、人恋しいのと同じこと

何気ないそのことばに、サツキ以上にはっとしたのは私かもしれない。
一人になりたい。
一人で生きていける。
私は一人で大丈夫。
何かにくじけそうになったとき、何かをなくしそうになったとき、
そんなふうに自分に言い聞かせたことはなかっただろうか?
そんなふうに、強がったことはなかっただろうか?
自分の弱さから目を背け、自分の望まない状況に仕方がないねと嘯き―――
けれど、その裏側には、正反対の想いを抱える自分がいる。

諦めたくない。
大きな声で泣き喚きたい。
大人でなんていたくない。
一人に、なりたくない。

たぶん、出版社で一生懸命働いていたサツキ。
独白のときの一人称は「私」なのに、防空壕の中での独り言、祖母との会話の一人称は「サツキ」でした。
素直に、ただひたすらに澄んだ青空のような明るい未来に目を向けていた子どものころの自分。
子どもなりの矜持と屈折から、祖母と断絶してしまった幼い自分。
あの不思議な、日常と隔絶された空間の中で、その頃の自分に戻り、
大人になってから目を背けていた子どもじみた甘えと弱音を自分に赦し、
そして、もう一度祖母との関係を構築していったサツキ。
そうすることで、彼女が歩き出す力を得ていく過程を、新妻さんは丁寧に伝えてくれました。

物語の要所要所で、祖母のお気に入りの歌が歌われました。
ノートの後ろに付けられた楽譜集には、祖母の注釈がついていました。
泣きたくなったときに歌うべし。
人恋しくなったときに歌うべし・・・
新妻さんの歌声は、子どものようなあどけなさと、別の世界から聞こえてくるような清らかさがありました。
たぶん、歌のときだけ付加された微かなエコーが、
防空壕の空気を震わせ、そこに隠された想いを揺らがせ、
その揺らぎがサツキの心を波立たせ、潮が満ちるように知らずサツキに力を与える・・・

キリコが飛び立ち、空っぽになったはずの防空壕に降り立ったサツキが見たのは、
変わらずそこに立つキリコの姿でした。
けれど、キリコは確かに飛び立った。
それは、事実ではないけれど、サツキにとっては疑うべくもない真実だった。
祖母の想いを乗せて、雲の上へと飛び立ったキリコを送ったサツキは、楽譜集の最後の歌を歌います。

それは、青空の歌。
打ち捨てられ、土に汚れ、人を傷つけた夢の残骸が、
その果てにもう一度遥かな青空を目指す歌。
そこに描かれる"青空"は、決して優しいものではなかった。
高く、遠く、怖いくらいに澄んだ"青空"。
ちっぽけな自分の手では、決して届かないと絶望すら覚えさせるような、遥かな"青空"。
けれど。
その"青空"はいつだってそこにある。
厚い雲に覆われても、冷たい雨に打たれても、強い風に翻弄されても、
見上げる視線のその先には、いつか必ずその"青空"が現れる―――

その歌を聴きながら、私は思わず視線を上へと向けました。
もちろんそこにあるのは、黒い無機的な劇場の天井。
でも、その上には、確かに"青空"があるはず。
そして、舞台に戻した視線の先には、歌い終えたサツキがいました。
その視線は、真っ直ぐに前を向いていた。
強い、揺るがない光を湛えた眼。
それは、戦う者の眼。
高みを目指し、自分を奮い立たせる者の眼。

最後、背景に澄んだ青空が映し出されました。
もう一度夢を追うことを決意したサツキを待つのは、これまで以上の挫折かもしれない。
夢は夢のまま、葬り去らなければならないときが来るのかもしれない。
でも、もしそんな未来が待っていたとしても、きっとサツキはもう迷わない。
彼女の眼は、あの"青空"を見つめているから。
あの"青空"は、いつだってサツキの視線の先にあるのだから。



カーテンコール、素にもどった新妻さんは、なんだかとってもキュートでした。
一人芝居では最後に挨拶をするもの、と言われていて、
でも歌い終わったあとに全て放出してしまっていてうまく話せないので、と、
舞台セットや小道具の説明をしてくれました。
紙の動物たちや缶ビールもどき(笑)はスタッフさんの力作であること。
キリコも、工房で作っていただいた一点ものであることなどなど。
うん、この防空壕、もの凄く素敵ですよね。
私もちょっと住んでみたくなりました(笑)。
キリコの存在感も素晴らしい!
動くのはほんの一瞬なのだけど、サツキの言葉や感情の揺れに合わせて、
サツキを見守るようであったり、一緒に笑っているようであったり、眉をひそめているようであったり・・・
もちろん台詞や新妻さんの演技の巧みさや、照明の効果もあったとは思いますが、
まるで能面に様々な感情が浮かぶように、確かな存在感を見せてくれました。

東京公演は、今日が千秋楽のこのお芝居。
福岡で1日だけ公演があるようです。
お近くの方は、是非ご覧になることをお薦めします。
たぶん、すっと背筋を伸ばす力をもらえると思います。
(・・・って、チケット完売してたらごめんなさい・・・)

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
自分の感想を書き終わって、ようやく読ませていただくことができました。
恭穂さんの感想を読みながら、共鳴する部分もあり
目からうろこの部分もあり…
そして改めてほんとにいい舞台だった、素敵な女優さんになられたと反芻しています。

舞台の上の五月と、カーテンコールのキュートな新妻さんのギャップ凄いですよね。
福岡のカテコで話した内容は、ぜひ新妻さんのブログのこちらの記事をご覧ください。
http://ameblo.jp/seikoniizuma/entry-10790972327.html#main
福岡楽、ほんとにこのマチソワ間の食べ物ネタをまんま話されましたからねw客席爆笑でしたよ。
ちなみに昼の部は、翌日のプライドTV放映の宣伝を
「宣伝しろって言われたから…全然舞台と関係ない話ですみません」と
おずおず話すのがふだんのはきはきした新妻さんとちょっと違って可愛かったです。

福岡は前売りは完売で、昼のみ当日券が5枚だけ出てすぐ売り切れたらしいです。650席近くだから、クリエと同じかちょっと狭いくらいのホールでしたので、東京公演の凝縮した空間で見るのとはまたちょっと違う印象があったかもしれませんね。両方見た方の感想をお聞きしてみたい気もします。
みずたましまうま
2011/02/05 23:30
みずたましまうまさん、こんばんは!
新妻さん、ほんとに素敵な女優さんですよねv
教えていただいたブログも読みました。
なんともキュートで微笑ましくv

このお芝居、観る人によってかなり受け取り方が違うんじゃないかな、
と思いました。
年齢とか、性別だけでなく、その人の歩いてきた人生が反映される、
そんなお芝居かなあ、と。
福岡は、そんなに大きな劇場だったのですね。
それが完売って凄いなあ・・・
脚本も舞台美術も演出も好みだったので、
機会があればまたトムプロジェクトさんの舞台を観てみたいな、と思いました。
恭穂
2011/02/08 22:41

コメントする help

ニックネーム
本 文
その遥かな高みを 瓔珞の音/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる