瓔珞の音

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zoom RSS 最後の嘘

<<   作成日時 : 2011/02/23 22:53   >>

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人を信じる、というのは、本当に難しいことだと思う。
なのに、人を裏切る、というのは、なんて簡単なんだろう、とも思う。
この場合"人"は"他人"のことでもあるし、"自分"のことでもある。

人を信じることは、自分を信じることと同じ。
人を裏切ることは、自分を裏切ることと同じ。

なにも考えずに、ただ人を信じていられたら、どんなに幸せだろう。
でも、自分の中に"裏切る自分"がいることを知ってしまったら、
なにも考えずにいることは絶対にできない。

そう思うと、人との関係って、本当に危うい線の上で成り立ってるんだなあ・・・

そんなふうに感じたお芝居でした。


「ザ・シェイプ オブ・シングス 〜モノノカタチ〜」

2011.2.20 マチネ 青山円形劇場 H30番台

作:ニール・ラビュート
上演台本・演出:三浦大輔
出演:向井理、美波、米村亮太郎、川村ゆきえ


物語は、ある美術館の、ある像の前から始まります。
柵を乗り越えて、一心にその像の写真を撮る一人の女性―――イブリン(美波)。
彼女をたしなめようとした警備のアルバイトのアダム(向井理)は、
大きな瞳で真っ直ぐに自分を見つめるイブリンと短い会話を交わし、
そして、アルバイトの規則を破って、彼女を誘います。
そうして付き合い始めた二人。
ぼさぼさの長髪に太ったからだ、重そうな黒縁眼鏡にいつも同じジャケット。
そんな冴えない男で、友達も口の悪いフィリップ(米村亮太郎)とその婚約者ジェニー(川村ゆきえ)しかいなくて、
アルバイトと学校だけの変わり映えのしない、でもある意味平穏だったアダムの生活は、
イブリンと付き合うことで大きく変わっていきます。
彼女の勧めを受け入れるように、その髪型を、体形を、服装を、眼鏡を・・・そして鼻の形まで変えていくアダム。
そうすることで変わっていく自分を躊躇いながら受け入れて、
変わっていく自分に対し、変わっていく友人たちの態度に戸惑うアダム。
自分がそれまで持っていた全てと引き換えても、イブリンとの未来を望んだ彼を待っていたのは、
イブリンにとっての自分は、芸術大学院生である彼女の卒業制作のための、
ただの"素材"であり、"作品"であるという事実だった―――


ニール・ラビュートという脚本家を、私は知りませんでした。
三浦大輔という演出家の作品も、私は観たことがありませんでした。
開演前、プログラムを読んだとき、
三浦さんが書いていた二人の共通点―――人の暗部を抉って描いていくということを、
だから私は明確にイメージすることができませんでした。
けれど、この舞台を観て、頭でなく感情で、耳から聞こえる台詞ではなく肌で感じる緊張感で、
その共通点を理解したような気持ちになりました。


女の子が、付き合っている恋人の服や髪型に意見を言うことは普通にあることだと思う。
イブリンも、登場からエキセントリックで不可解な雰囲気をまとってはいたけれど、
彼女がアダムに対して行っていることは、最初は決して非常識なことではなかった。
彼に似合う髪型。
健康にいい食事と、体形を整えるエクササイズ。
似合う服を選ぶこと。
爪を噛むクセを止めさせること。
そうすることで、彼が自分に自身を持つことを願うこと。
それは、本当にごく普通のことだと思う―――その根底に愛情があるなら。
でも、イブリンは違った。


美波ちゃんのイブリンは、とても美しかったです。
知的で、華やか。
常識に囚われず、自分の思う"芸術"に真っ直ぐに向き合い突き進んでいく。
周りを巻き込んでしまうような圧倒的な引力を持つ個性。
対する向井さんのアダムは、出てきた瞬間は誰だかわからないくらいでした。
長身を猫背に歪ませ、小さな頭がアンバランスに見えてしまうような太ったからだ。
そして、ぼそぼそと自信なさげに喋ることば。

最初のシーン、二人の会話は舞台の上とは思えないような、
普通の喋り方、普通の発声でした。
正直ちょっと聞き取りにくい部分もありましたが、
青山円形劇場という小さな劇場の中で紡がれる"芝居でなさそうな"ことばたちは、
自分自身が彼らと同じ空間にいて、彼らの会話を漏れ聞いているような、
ちょっといたたまれないような(え)感覚がありました。
その感覚は、なんだかずっと最後まであったように思います。


自分とは違う強烈な個性を持つイブリンに惹かれていくアダムが、
彼女の助言を受け入れて変貌していく様は、なんだか不安になるくらい鮮やかでした。
暗転して次のシーンで出てくるたびに、一つずつその姿が変わっていく。
姿の変化にしたがって、その背筋がすっと伸び、
喋り方がはきはきし、そして真っ直ぐに相手を見つめるようになる。
そんな彼を見つめるイブリンの眼は、けれどとても冷静でした。
自分のために変わっていく恋人に、優しい笑顔と甘いキスを送りながら、
その眼にはまったく"熱さ"がなかった。
アダムの視線が自分から外れたときに、ふっと笑みが消える様も、
イブリンが隠している"秘密"を感じさせました。

イブリンがただ愛情だけでアダムに接しているのではないことは、たぶん物語の早い時期に感じられました。
でも、まさか、あそこまで徹底して、彼を"モノ"として扱っているなんて、思ってもみなかった。

イブリンが彼女の卒業制作を発表する場面。
舞台がそのまま壇上となり、観客席はそのまま客席となりました。
あらかじめ空いていた席に離れて座るフィリップとジェニー、そしてアダム。
周りのお客さんは、向井さんのファンの方が多かったのかな?
近くに座っていた方が、凄く嬉しそうな顔で向井さんを見つめているのが微笑ましかったですv
が、イブリンの発表が進むにつれて、私はアダムを観ることができなくなりました。

2枚の大きなパネルには、粗雑な目隠しをされた昔のアダムと今のアダム。
イブリンが繰り返す、"研究対象""素材""作品"という言葉たちに、
つきつけられるイブリンの嘘と偽りに、徐々に俯いていくアダムの表情を、
そして発表後立ち去っていく彼の背中を、私は辛くて直視することはできなかったけれど、
この物語の中のアダムは、自分に注がれる視線が、
好意的なものから好奇へと変わっていくことを、きっと肌で感じていたはず。

ジェニーとフィリップは発表の途中で嫌悪も露に席をたちます。
もし、私が観客でなく現実にそういう場にいたら、たぶん同じ行動をとったと思う。
でも、それはアダムとイブリンのこれまでを、ジェニーたちと同じように近くで観ていたから。
もしも、全く親しくない人物がその素材であったら、私は席を立たずに素材となったその人物に、
好奇の視線を浴びせたのではないだろうか―――
そう思ったら、なんだか自分の中にある汚い部分を見せ付けられた気持ちになってしまいました。


発表が終わった後、イブリンの研究に関連した"モノ"を展示した一室で、
アダムは彼女と向かい合います。
美術館で会ったときに、彼女が自分の電話番号を書き込んだ、アダムの古いジャケット。
二人の情事を録画したビデオテープ。
彼がプロポーズと一緒に贈った指輪。
"二人の時間"の中にあったたくさんの"モノ"の中で、彼は彼女に問いかけます。
「本当のことは、何もなかったのか?」と。
彼女の答えは、イエス。
ファミリーネームも、出自も、語られた過去の傷も、愛の言葉も、全てが嘘。
素材としてアダムに接したけれど、彼女がもたらした"変化"は彼の利益になるものばかりだというイブリン。
そして、イブリンはアダムに言います。
自分は決して強要はしなかった、選んだのはアダムだ、と。

うん。
それは確かにその通りなんだよね。
思い返してみても、提案し、薦めてはいたけれど、確かにイブリンは強要はしていなかった。
でもね、イブリンの言葉にも行動にも、自分への"想い"という裏づけがあるとアダムは信じていた。
信じていたからこそ、自分が手にしていた全てを切り捨てて、イブリンと共にある未来を選ぼうとした。
その彼の気持ちは、想いはどうなってしまうんだろう。
アダムがイブリンを信じることすら、彼女の計画のうちだったのかもしれないけど、
その彼の"想い"すら、イブリンは作品のための要素であり、今はもういらないものだと言えるのだろうか・・・?


彼女の言葉に激昂し、彼女を罵倒したアダム。
けれど、その罵倒すら予想の範囲だと軽く受け流すイブリンに、彼は全てを諦めます。
彼女の全てが嘘ならば、共に過ごした時間も嘘。
騙されたことを自嘲しながら、もう彼女にはなにも求めない。
アダムはあの瞬間にきっとそう思ったのだと思う。
なのに。
院の仲間との食事に行くために立ち去ろうとしたイブリンが、振り返って彼に伝えます。

二人で過ごした最初の夜。
彼が彼女に囁いて、そして彼女が彼に囁き返した。
その言葉だけは、真実だった、と。

彼女が立ち去った後、アダムは積み重なったビデオテープのなかから、その日のものを取り出し、
そして奥にしつらえたTVに、その映像を映し出します。

小さな画面に映し出されたのは、彼の腕の中で華やかに微笑むイブリン。
その赤い唇が、自分の耳に寄せられ、二人にしか聞こえない言葉を囁く。
そして、その囁きにこれ以上はないほどの幸せな笑みを浮かべる自分。

繰り返し、繰り返し、何度もそのシーンを映し出すアダム。
その映像は、徐々にTVからはみ出し、奥の壁一面に映し出されます。
壁の段差に歪むイブリンの笑み。
けれどその笑みはとても美しくて。
微笑む彼女は本当に幸せそうに見えて―――

古いジャケットをかぶって床に突っ伏すアダムの叫びを聞いたとき、
イブリンは、彼が諦め、忘れることすら許さないのか、と思ってしまいました。

たくさんの嘘の中の、たった一つの真実。
もしかしたら、イブリンの心の中には、ほんの少しだけでも彼への愛情があったのかもしれない。
共に過ごした時間の中で、イブリンの予想外に彼女を癒し、暖めた時間があったのかもしれない。
あの囁きは、あの瞬間の彼女の表情は、それを示しているのかもしれない。
それを、彼女はアダムに伝えたかったのかもしれない。
けれど。
それが本当に"真実"であると、誰が証明することができるんだろう。
たくさんの嘘の中で、その囁きだけが嘘ではないと、そういいきることはできるのだろうか?

彼女の"真実"を信じたいという思い。
彼女の"真実"を信じられないという思い。
その相反する思いが、アダムを引き裂き粉々にしている―――そんなふうに感じてしまいました。

むしろ、最初から最後まで全てが嘘であると、そう伝えた方がアダムは救われたんじゃないだろうか。
そうだとすれば、もしイブリンの囁きが真実であったとしても、
それは真実ではないと、最後の嘘をつくだけの愛着すら、イブリンは持っていなかったのか。
もしかしてイブリンはアダムを憎んでいたんだろうか?
彼がこれから、誰の言葉も、誰の笑顔も信じられなくなってしまうくらい、彼を壊したかったのだろうか?
それとも、どんな意図であれ、この言葉が彼女の"最後の嘘"だったのだろうか―――?

そんなことぐるぐる考えていたら、バンという大きな音と共に、照明が全て消えました。
数瞬の後、再び点いた照明の中、つっぷしていたアダムが起き上がり、向井さんにもどりました。
でも、暫くは彼の表情はとても固くて、
二度目のカーテンコールで、やっと彼の笑顔が見れたときに、なんだかちょっとほっとしてしまいました。


うーん、ちょっと未消化なまま書き始めたら、なんだか良くわからない記録になりました。
感想やレポではなく、まさに私が思ったことの記録ですね(汗)。
読んでくださった方は、きっとつまらなかっただろうなあ、と思います。すみません!

とりあえず、最後に役者さんのことをちょこっと。

向井さん。
TVではよく見かけますが、どのドラマもあまり見てなくて、
アルフォートの微妙なCM(笑)のイメージが強かったんですが、
自然で繊細な演技をされる方だなあ、と思いました。
変わっていく自分に戸惑う様子や、ちょっと無理をした雰囲気が凄く良く伝わってきました。
一番ツボだったのは、フィリップに自分の変化を否定されたときに、
治っていたはずの猫背がまた復活していたところ。
あの背中の哀愁はよかったなあ・・・
声も、TVで聴くよりも素敵な声だなあ、と思いました。
まあ、基本的に私は生の舞台が好きなので、そのせいでTVよりもかっこよく見えるのかもしれません(笑)。


美波ちゃん。
若手の中ではかなり好きな役者さんですv
今回のイブリンは、エレンディラを彷彿とさせる感じ。
複雑な感情を乗せる声と、その声以上に雄弁な瞳に魅了されました。
そして、あのスタイルの良さ!
ああいう赤に負けないだけの美貌と存在感って・・・!!


米村さん。
ちょっと強がってかっこつけてるけど、実は誠実で心優しいフィリップ・・・というふうに感じたんだけど、どうかな〜?
ただ一人金髪にしてましたが、個人的にはそれがちょっと浮いて見えちゃって残念でした。
プログラムの写真と同じでもいいのになって。
初めて拝見しましたが、基本舞台役者さんなのかな。
動きと台詞とかがとてもクリアでした。
向井さんのアダムが相手の演技を受け止める静のイメージだったので(最後は違うけど)、
動的な米村さんのフィリップとの対比が良かったです。


川村さん。
普通の女の子のジェニーを、とても素直に演じられていたように思います。
個性的な面々の中で(強烈さではイブリンだけど、他の二人も結構・・・ね/笑)、
善良でまっとうな彼女の存在は、ちょっと癒し系でした。
でも、その分他の三人に振り回されちゃうのが、なんだか可哀想になってしまいました。
ジェニーはかっこよくなる前からアダムに惹かれていた感じかな。
この二人だったら、きっととても穏やかな関係を築けたと思うのに・・・
それもこうなってしまっては、もう無理なのかな。
そう考えると、イブリンはアダムだけでなく、ジェニーやフィリップの中の何かも壊してしまったんだな、と思う。



舞台セットとか、他にも書きたいことはあったんですが、とりあえずここで強制終了。
(もしかしたら、あとで書き足すかも・・・って長すぎ?/汗)
あ、タイトルはこうですが、ユーミンの曲とは全然重ならないです(笑)。
でも、ユーミンの♪最後の嘘 大好きな曲だったりしますv

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
見ていないのに目に浮かぶようで
非常に読みごたえがあり、楽しく読ませていただきました。

そしてこれを読んだ前の週に地元で地方公演があっていたことに涙(笑)
大きな会場なので当日券ではあまり見えなかったかもしれませんが
私も自分の目で見てみたかったなぁと思わされました。

ありがとうございました。
みずたましまうま
2011/03/09 23:04
みずたましまうまさん。
読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけたならなによりですv
こういう"痛い"お芝居は、観るのに覚悟がいりますが、
でも、受け取るもの、考えることも多いかなあ、と思います。
目一杯楽しい舞台も、こういう辛口の舞台も、私は大好きです。
また是非舞台談議いたしましょうね!
恭穂
2011/03/13 14:02

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