瓔珞の音

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zoom RSS 黄昏の果実

<<   作成日時 : 2011/08/21 21:50   >>

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絶対絶命のピンチ、というものに、幸いなことに陥ったことはありません。
打ちのめされたり、落ち込んだり、もう駄目だ、と思ったりしたことはあっても、
そこが終わりだと思ったことは、今までなかった。
だって、その原因は必ず自分自身にあって、
それならば、解決できるのも自分しかいなくて、
ということは、今は蹲っていても、いつか立ち上がることができれば、この場所から歩き出せると知っていたから。

ただ、一度だけ、自分ではどうにもできなくて、ただ立ちすくんで泣くしかできなかった瞬間がありました。
そのとき、確かに私は誰かに助けて欲しかった。
誰かに守られ、誰かに手を引かれ、誰かに背中を押してもらわないと、
この場所から抜け出すことはできないと思った。

もちろん、そんな瞬間に都合よく助けてくれるヒーローなんていなくて、
いつもは抱っこを嫌がるくせに、その日に限って自分から私の膝に乗ってくれた猫の温もりに、
涙が出なくなるまで泣き続けて―――そうして自分で復活しましたが(笑)。

でも。
この舞台を観てほんのちょっと思いました。
もしあの時、私の前に"鬼太郎"が現れてくれたなら、私は彼になにをお願いしたのだろう、と。
自分だけの味方だと、心の底から彼を信じることはできたのだろうか、と。

きっと、マキオも最初から解かっていた。
彼が、誰なのか。
彼を信じることが、何を信じることなのか。
彼と向き合うことが、何と向き合うことなのか―――



オフィス3○○ 音楽劇
「ゲゲゲのげ ―逢魔がときに揺れるブランコ」

2011.8.7 マチネ 座・高円寺(1階) D列10番台
2011.8.14 マチネ 座・高円寺(1階) B列一桁台

作・演出;渡辺えり
音楽:近藤達郎、渡辺えり
出演:渡辺えり、中川晃教、馬渕英俚可、松村武、若松力、土屋良太、広岡由里子、奥山隆、吉田裕貴、
    多賀健祐、谷口幸穂、川崎侑芽子、加藤亜依、友寄有司、前田和守、石田恭子 他


初めての座・高円寺の舞台は、なんとも不思議な空間になっていました。
舞台の上から垂れ下がる4枚の白い薄布。
舞台の奥から、客席の後方近くまで、天井に張り巡らされた木の根のような、
あるいは、老人の薄い皮膚に透ける静脈のようなセット。
そして、開演の15分前から舞台の中央に据えられたベッドに横たわる、一人の老婆―――

初回に観たときは、もう始まるの?!と思って一瞬観劇体勢に入りかけ、
そういえば、15分前から舞台にいる、って馬渕さんがツイッターで言ってたな、と思い出し、
プログラムの熟読体勢にもどったのですが・・・老婆の存在が気になって、結局プログラムを閉じてしまいました。

彼女は、何をしているわけでもないのです。
ただ静かに呼吸をし、眼を開き、じっと虚空を見つめているだけ。
遠くから聞こえる救急車の音、病院の院内放送、ちょっと不規則な人工呼吸器の作動音、
柔らかな笑みを浮かべて点滴をチェックし、布団を直す看護師たち―――
それらは彼女の周りに確かに存在し、けれど何故かとても遠い存在に思えた。
彼女が見つめている空間は、違う。
そう、感じてしまったら、なんだか彼女から意識を外すことができなくなって、
じっと、彼女の存在に寄り添おうとしてしまいました。

そして始まった物語は、幾つもの時空が混ざりあっていました。
老婆の肉体と、母と三姉妹がいる空間。
東北のとある林の中の荒地で、源二おじさんと塩原少年がその土地の不思議を待ち続ける空間。
マキオが生きる池袋の小学校と、そこに繋がった妖怪の棲まう空間。
そして、名を持たぬ少女が佇む、永遠の黄昏―――
別々に存在するそれらの空間が、そして、彼らの存在する時間が、
出逢い、弾き合い、混ざり合い、全ての境界が曖昧で、でも決してその境界はなくならない、
そんな曖昧な空間。

正直なところ、自分がこのお芝居を完全に理解したとは思えません。
マキオが受けるいじめのシーンに眉をひそめ、
どこか昔の自分を見るような一人の小学生に胸を抉られ、
次々と変わっていく時空の中で、どこかに答えを見つけようと頭をフル稼働させ、
終演後、眼が乾いているのに気付くぐらい、瞬きすら忘れて見入ったけれど、
2回の観劇の後に私の中に残ったのは、決して齧ってはいけない枇杷の実が一つ―――
そんな、曖昧なものだけだったように思います。

もちろん、とてもとても楽しめたのですよ。
どこが伏線で、どこに繋がるのかわからなくて、でも絶対にどこかにたどり着ける、という確信のようなものがある脚本も、
役者さんたちの技と体力の限界に挑戦するようなキャスティングやダンスも、
それはないだろう!とつっこみたくなるようなチープな笑いも、
ヴァイオリンを使った独特な音楽も、
休憩無しの2時間40分があっという間に思えてしまうほどのエネルギーと勢いと、
私を捕らえて離さない"謎"があった。
解答は得られなかったけれど、私的にはちょっとミステリーの要素が感じられたかな?
源二さんはマキオのお父さんじゃないのか、とか、
鬼太郎は実は時彦ちゃんじゃないのか、とか(これは当たってた・・・のかな?)、
あの老婆は実は一葉で、死んだ双子の片割れはマキオの方じゃなかったのか、とか、
なんだかいろいろ考えて、頭がぐるぐるになったけど、でもそれもとても楽しかった!

何より、役者さんのダンスと殺陣が凄かった!
河童のダンスとか、あの狭い空間のあの近さで、あの人数でタップを踏まれたときには、
もう圧倒されて口をあけてみてしまいましたよ。
みなさん、顔に塗った緑色が汗で流れ落ちるくらいなの!
二回目は前も横も通路という角席だったんですが、思わず身体が逃げてしまうくらいの迫力でした。
でもって、熱気と汗の匂いが凄かった・・・(笑)
個人的には、このときソロを歌われた多賀さんの声がとっても素敵だったのが嬉しかったりv(笑)
小学生たちの前のめりな登場シーンや歌声も、ちょっと怖いくらいでした。
でも、一人一人がきちんと個性を出していて、
且つ子どもの中での力関係や人間関係がきちんとわかるようになっていて、
この大人数の中、もうどこを見ていいのやら、という感じでした(笑)。

役者さんたちが何役もやっているのも、この脚本ならでは、なのかなあ。
広岡さんの柳田さん(実は砂かけばばあ)、一旦木綿、子泣きじじいは、
凄かったけれどある意味狙ってのものだったんだろうなあ、と思いましたが、
(それでも、あの声の演じ分けや、冒頭の母やマキオの母の時との違いはさすがだなあ、と思いました)
とにかく頑張った!というか頑張れー!!!と思ったのが、加藤亜依さん。
実はろくろっ首な小学生と茶飲め小僧(山童)を演じてらしたのですが、
小学生の平凡すぎる真っ当さと(実は真っ当ではないんですけどねー)、
茶飲め小僧のぞっとするような可愛らしい怖さは絶品でした。
あの江戸時代のお茶を運ぶからくり人形みたいなの。
それが山童になった途端、その無表情さのままもの凄い高速で動くのね。
2回目に観たときはちょっと声がかすれてて、
且つ鬼太郎に倒された後の早替りも、息が切れてたのがちょっと心配でしたが、
また観てみたいなあ、と思える存在感でした。

存在感といえば渡辺えりさん!
出演シーンはそれほど多くないのですが、素晴らしい歌声と、抜群の存在感を見せてくださいました。
マキオのお母さんのあの憎めない憎憎しさといったら!(日本語変?)
広岡さんの偽母との掛け合いも楽しかったなあ・・・というか、あれはどこまでアドリブですか?(笑)

馬渕さんも、出てくるたびに眼を奪われる存在感がありました。
冒頭の老婆の求心力はもちろんですが、
いじめっ子をえげつないまでに見せてくれた鳥湖さんも、
河童の時の楽しそうな歌声も、
一葉の透き通るような危うさも、
そして、"マキオ"となった時のあの優しい笑みと、子どものように全開の、けれどあくまで美しい泣き顔も―――
改めて大好きな役者さんだ!と思いました。

そして、マキオを演じたのは吉田裕貴さん。
なんというか、とてもナチュラルにお芝居らしいお芝居をされる方だなあ、と思いました。
台詞は少し力みがちに聞こえたのだけれど、
他の勢いある役者さんの狭間に入ってしまったときの静かな表情での演技に、
ちょっと気持ちを持っていかれました。
2回とも下手側で、マキオ席にいるかれの表情が観れなかったのが、かなり残念!

物語の大きな軸の一つが、いじめを受けるマキオが鬼太郎を呼ぶ、というものなのだけれど、
自分をいじめる同級生たちは河童にのっとられていて、
自分を虐げる先生は実は妖怪で、
自分に愛情を注がず、真実も教えてくれない母親も実は妖怪で、
その全てを鬼太郎が倒してくれて・・・
そうやって、自分を苦しめるもの全てを"妖怪"というカテゴリーに入れることは、
その苦しみの原因を全て他者にもとめることになるのではないか、と観ていてちょっと思いました。
そうすることで、自分の弱さを、自分の罪を塗りこめようとしたのではないか、と。
それを、"弱さ"と言うこともできるでしょう。
"逃げ"だということもきっとできてしまう。
でも、そうしなければ、立ち上がれない残酷な現実があることも、きっと確かなことで―――

けれど、マキオが呼び寄せたあの空間は、マキオ自身が思いもよらない"真実"を呼び寄せた。
生まれる前に死んだ双子の姉・一葉の真実。
ただ一人の"ヒーロー"だった時彦ちゃんの真実。
いや、きっと彼はこの"真実"を知っていた。
あるいはこの"真実"すらマキオが創り上げたものなのかもしれない。
でも、それらの"真実"と向き合うことで、きっと彼は自分自身を断罪し、
そして、赦すことができたのではないか・・・そんなふうにも思うのです。

そんなマキオにとって、ヒーローであり、断罪の天使(悪魔?)でもあった鬼太郎は中川晃教くん。
いやー、とにかくかっこよかった!
めちゃくちゃ可愛くもあった!(目玉の親父との演技わけとかねv)
そして怖かった!(え)
私の中で鬼太郎って凄い怖いお話のカテゴリーなんですね。
アニメはまあ可愛いですが、小学生の頃親戚のお姉さんの家で読んだ漫画の第1巻、
つまり鬼太郎が生まれる話を読んだのですが、それがもの凄い衝撃で・・・(涙)
なので、今回のアッキー鬼太郎はどんななのか、ちょっとドキドキしていたんですね。
それが!
もうめちゃくちゃかっこよかったんですよ!!
登場シーンから最初の殺陣なんて、もう鳥肌たつくらいかっこよくて、別の意味でドキドキしちゃいました。
でもって、マキオや砂かけばばあ、一葉との絡みのお芝居も、
それぞれに違う顔を見せてくれて、且つ鬼太郎が時彦ちゃんである気配も最初からきちんと見せてくれていて、
とても細かいお芝居をされているなあ、と思いました。
圧巻だったのが、終盤の予備校のシーン。
好青年な新人講師から、徐々にその表情を変えて、戦慄く手でマキオの首を絞めるのですが、
私の席からは横顔しか見えなかったけれど、そのときの鬼気迫る表情と、
抑えた歌声の中で、それでも抑えきることのできない激情の破片が地面を切り裂くようで・・・
アッキーの演じる青年の中の深い深い闇。
その闇の原因となったマキオとの関係。
そういったものが、その後の馬渕さんのマキオの泣き顔、
そして、鬼太郎のちゃんちゃんこを着て、舞台後上方のブランコに揺られるマキオの虚空を見つめる眼とあわせて、
曖昧な、でも確かな何かを形作り、私の中に容赦ないカタルシスをもたらしたように思います。
正直、この後のシーン、細かいことを覚えていないのです(汗)。
私にとっては、そのくらい印象深いシーンだったんだなあ、って思う。

あ、でも、今思うとマキオの虚空を見つめる眼は、
冒頭の老婆の眼と通じるものがあったかもしれない。
私が、生き残ったのは実は一葉の方で、全ては一葉の夢なんじゃないか、って思ったのはそのせいかも。

って、それだと源二おじさんと塩原少年の空間との関連性が説明できないなあ・・・
うーん、やっぱり一筋縄では行かないお芝居です(笑)。

源二おじさんは松村武さん。
口の上手い、ほら吹きの、でもそうしなければ生きてこれなかった苦さが感じられるおじさんでした。
神社での枇杷の実に投げあいの長台詞とか、
夕陽の赤さとむせ返るような枇杷の香りが感じられるようで、
役者さんの発する"ことば"の力を感じさせられました。

源二おじさんの台詞では戦時中から戦後の日本の姿が、
そして柳田さんの日出代の台詞からは学生運動の片鱗が感じられました。
それを手がかりに、時間軸をいろいろ推理したんだけど、やっぱり整合性は得られなかったなあ・・・

香りと言えば、マキオの家の奥の台所で柳田さんの日出代がカレーを作るシーン、
客席にカレーの匂いが漂ってきて、えええ?!と思いました。
1回目は幻覚かと思ったんですが(笑)、戯曲にきちんと書いてあったので現実だったんだなあ、と(笑)。
戯曲には花の香りとかも書いてあったんですが、それは気付かなくてちょっと残念・・・

塩原少年は若松力さん。
初めて見る役者さんですが、口を尖らせる表情や、
ちょっと生意気なことを得意げに語るときの表情とかが、
まさに少年!という感じで微笑ましかったです。
明言はされていないけれど、きっと彼も転校した東北の学校に馴染むことができなくて、
マキオとは違う形でのいじめを受けていたのかなあ、と思う。
ただ、いじめということばの定義はとてもとても曖昧で一方的だから、あまり使いたくはないのだけれど・・・
時空を越えてマキオという友達を得て、そして鬼太郎の言葉を自分の中に受け止めて、
塩原少年はマキオとは違う方向に歩みを進めたように感じます。
マキオと塩原少年の"現実"が、池袋の小学校で本当に混じりあったのでしょうか?
もしそうであったとしても、マキオと塩原少年の間の"友情"は、
現実の中では酷く脆いものだったのかもしれない、そんなふうに思います。

「逆もまた真なり」

山童を倒した鬼太郎の言葉。
マキオと現実の世界で再開した塩原少年の言葉。
その言葉の意味を、私は上手く受けとめることはできませんでした。
この言葉が私にもたらすざらついた感触は、
一葉がマキオと共に齧った枇杷の実の甘く、すっぱく、そして僅かにえぐみがあったであろう味を思い起こさせます。
私の中に根付いた枇杷の実は、もしかしたらこの言葉なのかもしれません。

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