瓔珞の音

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<<   作成日時 : 2012/01/25 22:33   >>

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今年に入ってから、久々に時代小説ブームがきております。
きっかけは、お正月休みに読んだ松井今朝子さんの「そろそろ旅に」。
そこから、畠中恵さん(とうとう手を出してしまいました!)の「しゃばけ」、「アイスクリン強し」、
そして、読みはぐっていた宮部みゆきさんの「おまえさん」・・・と、ちょっとずつ読み進めてきました
どの作家さんもそれぞれに味があって、まだ暫く本屋さんでは時代小説に目が行ってしまいそうです。

そんな中、物語の中に出てきた一つの地名。

「おまえさん」では、三味線(だったかな?)の師匠母娘が住む場所。
「アイスクリン強し」では、新旧の親分が縄張り争いをする貧民窟。

―――下谷。

そして、新しいコクーンに現れた、"かつてあった"下谷万年町は、
そこに棲む人々の熱と血に塗れた、極彩色の異界でした。



「下谷万年町物語」


2012.1.14 マチネ シアターコクーン 1階A列20番台

作:唐十郎
演出:蜷川幸雄
出演:宮沢りえ、藤原竜也、西島隆弘、六平直政、金守珍、石井愃一、大門伍朗、沢竜二、唐十郎 他


と。
こんな感じで書き始めてみたのが実は1週間前。
それから、何度かPCに向かったものの、どうしても観劇記録を書き進めることができませんでした。

目の前で繰り広げられる、生々しい色彩に溢れた喧騒。
一転して描かれる静かな軋み。
かつてあったはずの瓢箪池から降り注ぐ水飛沫。
出口を探してもがく男が暗い水底から抱き上げた、白い光を発するような男装の美女。
狂乱の果てに流れる血。
切り取られたはずの6本目の指が感じる互いの体温。
かつて在り、今は失われた"あの瞬間"に囚われた男が出逢う、少年の日の自分。
時空の片隅に取り残された少年に差し伸べられた、たおやかで幽けき白い腕―――

観ている間も、観終わった直後も、そして時間をおいた今も、
このお芝居の印象は、とても鮮烈なのに曖昧で、
確かに受けたはずの衝撃すらもどこか鈍く感じられて・・・

あの閉鎖された空間で、舞台の隅々まで使って現れた"かつて在った町"、
そこに棲む男娼たちの鮮やかな衣裳と化粧、そして、その存在自体が創り出す熱とエネルギーに翻弄され、
繰り広げられる狂乱に巻き込まれ―――
ただ、目を見開いて"かつて存在した町"と"そこに生きた人々"の姿を見つめることしかできませんでした。

なのに。

ラストシーン。
安らかともいえる表情で目を閉じた洋ちゃん(藤原竜也)を肩に、
幻の瓢箪池の中からすっと立ち上がったキティ・瓢田(宮沢りえ)の光り輝くような笑顔と、
文ちゃん(西島隆弘)にすっと伸ばされた手、
そして「行こう、文ちゃん!」という声の鮮やかな響きに、
それまでの混乱も、怯えも、畏れも、嫌悪も、全てを押し流すような勢いで涙が溢れたのです。
その瞬間、理性も感情も全ておいてきぼりでした。
目の前に現れた一瞬の有無を言わさぬ圧倒的なまでの美しさに、
ただひたすらに魅了されていたように思います。

その美しさは、"かつて在り、今は無い"もの―――いや、"今は無いが、かつて確かに在った"もの。
一人の少年の中に、埋められない喪失感と、消えることのない存在感を刻み込み、
長い時の中で失われた万年町や瓢箪池や、男娼たちと共に、
長い時を越えて彼を捕え続け、彼が切望し続けたもの―――

この物語は、凄絶なまでに美しい幽霊譚だ。

的外れかもしれませんが、それが、観終わった後から今も変わらない私の印象です。



うーん、とりあえず思いつくままに書きましたが、やっぱり訳のわからない文章になっちゃいましたね。
でも、たぶんこれがこのお芝居に対する、私の素直な感想なんだろうなあ、と思います。

とりあえず、役者さんのことも。


男装の麗人、キティ・瓢田は宮沢りえさん。
舞台で観るのは久々でしたが、相変わらず本当に綺麗!
水の中から洋ちゃんにお姫様抱っこで救い上げられた瞬間も、
上記のラストシーンも、ライトの効果以上に、まさに光り輝くようでした。
そしてあの、どこか違う景色を見ているかのような不思議な光を宿す大きな瞳と、
同じように、不思議な響きを持つ声が、本当に魅力的でした。
お瓢さんの存在そのものが、この物語の次元を少しずらす効果があったのかなあ、なんて思います。
たくさんのオカマヤさんたちた、劇団軽喜座の面々を前に啖呵を切るシーンもかっこよかったし、
かつて自分がいたはずの病院の中での鬼気迫る混乱の表情も素晴らしかったし、
死んだ洋ちゃんに縋りつくシーンも切なかったけれど、
個人的にうわー!って思ったのは、火事のさなか、鏡の中の自分と対峙したことを語るシーンかなあ・・・
正直なことを言ってしまうと、歌はもうちょっとどうにかならないのかな、とも思ったのですが、
(席の関係もあったのか、すごく聞き取りにくかったの・・・)
これで歌が上手かったら、ほんとに売れっ子の踊り子さんになっちゃうから、いいのかな(え)。


洋ちゃん役は藤原竜也さん。
やっぱり、舞台の上での存在感は尋常でないですねー。
台詞の一つ一つに質量がある感じだし、
台詞がないシーンでも、その表情の雄弁さの吸引力は凄いなあ、と思います。
"洋ちゃん"という人物が、私の中では実は一番の謎だったかな。
もの凄く生々しいリアルさをもって登場したと思ったら、
なんだか一人で答えを見つけて、どんどん先に行ってしまうような感じ。
なのに、目が離せない魅力がありました。


文ちゃん役は、西島隆弘くん。
舞台で拝見するのは「SAMURAI7」以来ですが、
こんなに良い役者さんだったんだ!と改めて思いました。
台詞も、記憶にある以上に聴きやすかったし、本領発揮の歌もダンスも素敵でしたが、
今回はとにかくその表情の素直さと繊細さに惹かれました。
万年町に住むごくごく普通の中学生の文ちゃんが、
自分と同じように切り取られら6本指の記憶を持つ洋ちゃんに憧れ、お瓢さんに惹かれ、
万年町に渦巻く狂乱に巻き込まれていく―――
その立ち位置は、もしかしたら観客に一番近くて・・・
だからかな、ふと気付くと、自分と文ちゃんが同じような表情で洋ちゃんたちを見つめている、
ということが何度かありました。
まあ、自分の表情は見えないので、心情的に、ということですが(笑)。
そして、やっぱりラストシーン。
大人になった自分を幻の瓢箪池に突き落とし、
入れ替わりに現れた、洋ちゃんを担いだお瓢さんが差し伸べる手に、
自分の手を伸ばすときに、畏れと歓喜がない交ぜになったような表情が本当に鮮やかで・・・
このときの彼の表情も含めての、あのシーンの美しさだったのだと思います。
機会があれば、また是非舞台の上の彼を見てみたいな。

この日、大人の文ちゃん役は、唐十郎さんでした。
唐十郎さんは「北の国から」とか、去年の市村さんのドラマで観たことがあるくらいで、
どのくらい凄い人なのか、というのは全然知らなかったのですね。
戯曲や舞台に触れるのも、今回が初めてだったし。
正直なことを言ってしまえば、冒頭、ちょっと台詞が聞き取りにくいなあ、と思ったりもしたのですが、
そういう部分を越えて、その佇まいの雰囲気に気持ちが引き付けられました。
大人の文ちゃんが語り始めることで、時間が違う方向に動き出すような・・・
戯曲そのものも、私には非常に難解で、たぶん殆ど理解できてはいないのだけど、
でも、この世界を創り出した人の導きで、この世界を覗くことが出来たのは、
実はとっても幸せだったんじゃないかなあ、と思ってみたり。

六平さんのお市と大門さんのお春の、好対照な雰囲気をはじめ、
蜷川さんのお芝居でおなじみの方々の、美しく、毒々しく、迫力のあるオカマヤさんぶりも凄かったし、
金さん演じる白井は、この鮮やかな世界に零れ落ちた一滴の黒いインクのようだったし・・・
ほんとに凄いものを観たなあ、という感じです(笑)。

さらに凄いなあ!と思ったのは、美術と照明が1981年の初演の時と同じ方だということ!
技術的な変化もあるでしょうから、まったく同じではないのでしょうけれど、
30年の月日を越えても全く力を失わない空間には、素直に感嘆しました。

初演では「伝説」といわれたこのお芝居が、
また伝説になるのかどうかは、私にはわかりません。
けれど、この日私が覗き込んだ異界の鮮やかさは、
たとえ細かい記憶が消えてなくなっても、
たぶんずっと私の中のどこかに刻み込まれるんだろうなあ。

そんな風に感じたお芝居でした。

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12/02/12 シアターコクーン リ・オープン「下谷万年町物語」千穐楽
しっかり間に合うはずの時間に起きていたのに、我ながら気後れしての失敗。アングラ系の芝居には疎く唐十郎作品は初見。どうも気が重く、宮沢りえを見るんだと言い聞かせながらもなんとなく出遅れた。千穐楽公演だというのに冒頭15分くらい遅刻してしまい、ちょっと落ち... ...続きを見る
ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記
2012/02/13 02:05

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
恭穂さま
まるで万年町の瓢箪池に吸い込まれるように
恭穂さんのご感想読ませていただきました。
「何だか訳わかんないわぁ〜」なんていう私と
違って(笑)、理解するというより「感じる」こと
がとても大切なのだと改めて思いました。
恭穂さんのご感想を読んでいたら、もう1回観たく
なりましたよ。私もまた違ったとらえ方ができるかも。

それにしても宮沢りえちゃん、すばらしかったですね。
次は THE BEE が待っていますが、次々話題作に起用される
のも納得ですね。
スキップ
2012/01/30 00:47
スキップさん、こんばんは!
読んでくださってありがとうございます。
いやもう私も全然わからなくて、理解できない分、
ひたすら感覚で受け止めていた感じです(汗)。
ほんと、瓢箪池に落ちちゃったみたいですね(笑)。

宮沢りえさん、ほんとに素敵でした!
「THE BEE」でもきっと素晴らしい演技を見せてくれるのだろうな、
とは思うのですが、ちょっとこの演目、私にはキツくて、
今回は見送る予定でいます。
スキップさんの感想を心待ちにしておりますねv
恭穂
2012/01/30 22:37
千穐楽に観てきました。唐ワールド初体験で気後れしていたら冒頭ちょっと遅刻してしまいました(^^ゞ
わかろうとしてはいけない芝居なんじゃないかと思いました。戦後の日本の東京で実際にこういう状況があったことをさらに膨らませたイメージ作品なのだろうと理解しました。
6本目の指を切り落として生きている人物という設定は「さらば、わが愛 覇王別姫」の蝶衣を彷彿としました。普通の人と違うように生まれついたことで、心が過敏で傷つきやすい人間になっているという設定なのかもしれないと推測。その弱さを誤魔化して生きるためのヒロポンの注射器が6本目の指になるのを重ねているようにも思えました。ヒロポンは日暮里に住んでいた母親の従姉が中毒になり、やめさせるのが大変だったし、早くに亡くなってしまったという話を聞いていたので、妙に他人事でなく考えさせられました。
唐十郎作品をご本人も出演しての舞台で観たのは、私の観劇人生の中の貴重な体験となったと思えました。
それにしてもりえちゃん、大竹しのぶに迫る舞台女優になってきたと思います。歌はまぁこれからということで(笑)NODA・MAPの「THE BEE」もりえちゃん観たさに怖そうな話だと思いつつ、エイヤッととってしまいました。一回観たらもう封印になりそうな予感がしますが、一見してみようという決意です。
ぴかちゅう
2012/02/13 22:48
ぴかちゅうさん、こんばんは!
お返事が遅くなってしまってすみません。

千秋楽をご覧になったのですね。
きっと盛り上がったでしょうね〜。
これからぴかちゅうさんのレポ、読みに行きますね!

わかろうとしてはいけない舞台・・・たしかにその通りかもですね。
私の場合、理解することは途中で放棄しちゃいましたが(笑)。

「THE BEE」、私は封印しちゃいました(笑)。
私が観たのは秋山菜津子さんの出演されていたものですが、
宮沢りえさんだと、また違った凄絶さがあるでしょうね。
ぴかちゅうさんの感想、楽しみにしておりますねv
恭穂
2012/02/17 22:10

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