瓔珞の音

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zoom RSS 陽だまりの外側

<<   作成日時 : 2012/05/31 21:53   >>

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大好きな5月も、もう数時間で終わってしまいます。
いやでも色づき始めた紫陽花を見たりすると、6月も好きだなあvと思うので、
そういう点、時分の能天気さにちょっと笑ってしまったり・・・
とりあえず、5月が終わってしまう前に、書き残しの観劇記録を1個仕上げてしまいましょう!


「海辺のカフカ」

2012.5.19 ソワレ さいたま芸術劇場 大ホール 1階D列20番台

原作:村上春樹
脚本:フランク・ギャラティ
翻訳:平塚隼介
演出:蜷川幸雄
出演:柳楽優弥、田中裕子、長谷川博己、柿沢勇人、佐藤江梨子、高橋努、鳥山昌克、木場勝己、新川將人 他


実は私、村上春樹さんの小説を、最後まできちんと読んだことがありません。
高校生の頃、装丁に引かれて「ノルウェイの森」を手に取り、見事に挫折。
大学生になってから再挑戦しましたが、やっぱり挫折。
以来、一度も手に取ったことがありません。
「1Q84」も父からもらって手元にあるのですが、開いてもいないあたり、
何気にちょっとトラウマになっているのかも・・・?

なので、「海辺のカフカ」が蜷川さんの演出で舞台化されると知ったときも、正直ちょっと悩みました。
でも、蜷川さんの舞台はやっぱり見逃したくないという気持ちもあるし、
以前見た、復活後(え)の柳楽くんのドラマでの演技がかなり凄かったのと、
田中さんや木場さんと行った大好きな役者さんを含めた豪華な配役に、覚悟を決めて観にいってみました。
これをきっかけに、村上さんの本を読むことが出来るようになるかな、という期待も持ちつつ。

結果―――

舞台としては、とてもとても印象的で素晴らしかったのですが、
最終的には、やっぱり私は村上さんの作品は苦手なんだなあ、と再確認してしまいました。

アクリルの箱に入った様々なセットを人力で動かしていく舞台美術も、
その透明な壁に映る歪んだ誰かの横顔も、
斜めに射す白い光が作り出す、曖昧さと鋭さが入り混じった空間も、
その不思議な空間の中で、クリアな輪郭を持った人たちが紡ぐ重なり合った物語も、
どれも観ている最中は、とても私を魅了しました。
淡々とした台詞の中に、時々すっと心に差し込んでくるような言葉があったりして、はっとすることもありました。

なのに、最終的な結論は結局そこに落ち着いてしまいました。
それは例えば、扱われる残虐な行為や、近親相姦的な要素を私が苦手としている、ということだけではなく、
(確かに直視できないシーンもありましたが、物語の流れとしては受け入れられました)
うーん・・・上手くいえないんですが、なんというか、"肌に合わない"という感じなんだと思います。
理性的な部分ではなくて、もっと私の中の本能的な部分で、この物語の肌触りがダメだったのかなあって。

それはちょっと残念でしたが、でも、お芝居としてはほんとに印象的で素敵でした。
役者さんたちも、それぞれの個性や佇まいが素晴らしくv
というわけで、役者さんの感想を。


カフカ役の柳楽くん。
初舞台ということで、ちょっと台詞が聞こえにくいところもありましたが、
振り幅の大きい複雑な役柄を、とても素直に演じてらしたように思います。
相対する人毎に、声のトーンや語尾の余韻、表情や雰囲気が変わっていて、
見た目はもうしっかり大人の男性なのだけれど、
まだ固まりきらない不安定さと色気を持つ"15歳"をナチュラルに感じることができました。
冒頭、アクリルの箱の中で、胎児のように丸まって眠る姿にも、ちょっとはっとしました。
物語を十分に理解できていないので、彼とナカタの関係を、
終盤に大島さんがさらっと言った多重世界で片付けてしまっていいのかどうか、
個人的にちょっと消化不良な感じです(笑)。
これはやっぱり何とか原作に挑戦すべきかしら・・・


佐伯さん役は田中裕子さん。
蜷川さんの舞台の上で観る田中さんは、ほんとにとてもお美しくて、
でも、それぞれの舞台で纏う色合いがちゃんと違っていて、凄いなあ、と思います。
佐伯さんは、劇中でカフカが「庭の片隅にある陽だまりのよう」というような言葉で語っていましたが、
まさにその通り!な柔らかで暖かく、でも儚い印象でした。
でも、鮮やかな青の衣裳を着た佐伯さんからは、陽だまりの外にある湿った暗い地面の気配も感じられて・・・
そういえば、この舞台、舞台全体が明るくなるというシーンはなかったように思います。
蛍光灯の光や、舞台の一部に降り注ぐ光の外には、必ず暗い何かがあった。
そして、その暗闇の奥にあるものを、カフカは辿っていった―――
そう考えると、佐伯さんはこの物語そのものだったのかもしれないな、と思ってみたり。


大島役は長谷川さん。
ドラマでも奥行きのある演技を見せてくれましたが(来年の大河、ちょっと楽しみv)、
やっぱり舞台の上の長谷川さんの存在感って、独特で素敵だなあ、と思います。
というか、あの色気は一体何なんですか?!
滴るような色気、とかよく言葉では聞きますが、実際に誰かを見てそう感じたのは初めてかも?
そして、個人的にはとても怖い人物でした。
綺麗に微笑む口元も、すっと伸ばされる優雅な指先にも、カフカを見る眼差しにも、
どこか窺い知れない部分が感じられて、ふとした瞬間にすっと背筋が冷たくなるような雰囲気を感じました。
語られる言葉の一つ一つにも、その言葉以上の意味や暗喩があるのではないか、と思わせる深さがあったり。
彼の背負う過去や重荷、というだけではなく(もちろんそれも大きいのだけれど)、
その存在自体の不可解というか・・・でも、それがとても魅力的だったなあ。

ふと、大島さんはカフカの失われたお姉さんなのかな、と思ったりもしました。
佐藤さん演じるさくらの方が、"姉"というニュアンスが強かったけれど、
なんとなく個人的には大島さん=姉という方がしっくりくるかも。
・・・あれ? もしかしたらこの物語って、カフカが失い、求め、そして新たに手にした"家族"の物語なのかな?


柿沢勇人さんは、とっても不思議なカラスという役。
はっきり言ってカフカとの関係は全然理解できなかったのですが、
カフカを諭し、力づけ、助け、煽り、そしてひたすらに見つめ続けるその存在は、
あの舞台の上でちょっと周りとは違うトーンを纏っていて、ついつい目が行っちゃいました。
出番自体は少なかったのですが、この人をもっと見てみたい、という気持ちにさせられました。
「スリル・ミー」、柿沢さんのペアの回は観にいく予定はないのですが、
ちょっと、というかかなり心が揺れております(笑)。


もう一人の主役(なのかな?)のナカタ役の木場さん。
独特な言い回しが何故かしっくり聞こえるのは、やっぱり木場さんの技なのかしら?
語られる以上の背景を感じさせてくれるところはさすがです!
ナカタさんと猫たちのやり取りは、なんだかとても微笑ましくて、
猫好きな私としては、なんとも羨ましく感じられたりv
また、猫役のみなさんが、とっても素敵な猫っぷりだったんですよねーvv
でも、そう思う一方で、ナカタが猫と言葉を交わせる、ということの意味を考えてみたり。
堀文明さん演じる警官との会話のかみ合わなさとの対比を思うと、
なんだかとっても切なくなってしまいました。
新川さん演じるジョニー・ウォーカーとのシーンは、とにかく辛かったです。
席の関係で真正面であの行為が行われていて、
どにも直視することが出来なくて、ずっとナカタの表情を見ていたのですが、
今思うと、そのせいで余計に恐怖が煽られたような気もします・・・そのくらい、あの表情は凄かった!
あのシーン、下手側でカフカがユダヤ人の虐殺を指揮した(?)ナチの将校の本を手に、
暴力と、罪の意識、自覚といったことを読み上げる(語る?)のですが、
ナカタさん、その声が聞こえていたんじゃないかなあ。
静かな声で語るカフカと、血に塗れて暴虐の限りを尽くすジョニー・ウォーカーを見比べるのですが、
二つの世界が一方的とはいえ交差する瞬間が、更にこのシーンの印象をクリアにしていたように思います。

でもって、高橋さん演じる星野は、もう出てくるだけでほっとしました。
なんだかね、一番常識的というか、一番感情的に寄り添いやすい役だったの。
ナカタとの会話も、かみ合っていないのにかみ合っているというか、
ナカタと猫との会話と同じように、見ていて微笑ましく感じました。
入り口の石ってなんなのかとか、結局入り口を開けたのは星野だったんじゃないかとか、
わからない部分もたくさんありましたが、
そういうことも全て、星野がナカタのために流した涙で流れていってしまったように思います。


たぶん私はこの物語を十分に理解できてはいません。
カフカが父にかけられた呪いも、カフカが求めたものも、カフカが手に入れたものも、
私はちゃんと受け取ることはできなかった。
最終的に残ったのは村上さんへの苦手意識ではあったけれど、
でも、この舞台を観なければ良かった、とは欠片も思っていないのです。
むしろ、観ることができて良かった、と素直に思える自分がいます。
それはきっと蜷川さんの演出の力であり、役者さんの存在の大きさであり、
舞台の上に作り出された世界の美しさと醜悪さであり、
そしてたぶん、原作の魅力によるものなのだと思う。

いつか、もう一度この物語に出会ったとき、私はまた違う何かを受け取るのかもしれません。
そのときは、村上春樹という作家の紡ぐ世界を、素直に感じることができるのでしょうか。

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12/05/20 さい芸千穐楽で「海辺のカフカ」蜷川はやはり凄い!
私は流行ものを素直に受け入れることが少ない。小説でも売れに売れている村上春樹は顔も知らないし、作品もちょっと前まで全く読んだことがなかった。「ねじまき鳥クロニクル」などというタイトルからしてもうダメだった。私の贔屓の松山ケンイチ主演の映画「ノルウェイの森... ...続きを見る
ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記
2012/06/03 04:42

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
拙ブログにもなんとか書き上げて記事アップしました。
まず「カフカ」とカラスの関係について。フランツ・カフカがチェコ出身者で、チェコ語のカラスの意味の「カフカ」(チェコ語のスペルは違う)にひっかけたペンネームにしていることに由来しているらしいです。しかしながら、厳密にいうと日本で見る普通の黒いカラスとは違うらしいです。私の記事の末尾にそのネット検索情報をつけておきました。まぁ日本にはいない種類なのでカラスでもいいんでしょう。原作では「カラスと呼ばれる少年」となっていますし、公式サイトのあらすじでも「自分の分身」とあるように、カフカくんのもう一人の自分との対話を擬人化して舞台に登場させているってことでしょう。
>むしろ、観ることができて良かった、と素直に思える自分がいます......ここ、同感です。私も蜷川さんが日本初演してくれなかったら絶対に原作にチャレンジすることもなかったので、自分の人生を広げてくれるチャンスをくれたことに感謝しています。
それにしてもアクリルガラスケースを使った場面転換は見事でしたよね。蜷川さんの舞台でアクリルガラスを使った作品が続いていて、その頂点を極めた作品になった気がしました。
観劇にからんだ読書ということでは、シアターコクーンでの「騒音歌舞伎 四谷怪談」の作者、橋本治さんと内田樹さんの対談本を読んでいるところです。なんか、観劇を力に修行している感じです(^^ゞ
ぴかちゅう
2012/06/03 22:01
ぴかちゅうさん、こんばんは!
お返事が遅くなってしまって申し訳ありません。
カフカのもう一人のカラス、なのですね。
とても不思議な役柄で、心惹かれました。
まあ、この物語、登場人物全てが不思議な雰囲気でしたが(笑)。

アクリルガラスケース、それも全て人力!というのは、
やはり蜷川さんならではですね。
他の演目は観ていないのですが、どんな風に使われたのか興味があります。

「騒音歌舞伎 四谷怪談」、観にいきたいなあ、とは思っているのですが。
また何かの舞台でご一緒させていただくのを楽しみにしておりますv
恭穂
2012/06/08 20:56
恭穂さま
印象的で美しい舞台だけど受け容れ難いというの、
何となくわかります。
私はこの作品は読んでいなくて、それでも
村上春樹さんの作品は一時集中的に読んでいたことも
あって、何となく「こんな表現で書いてあるんだろうな」
とイメージしながら観たりしていました。

あ、私も大島さんがカフカくんのお姉さんなのだろうと
感じました。そのあたりは曖昧でしたね。
それから、「カフカくんがお父さんにかけられた呪い」
って、この舞台の中で出てきましたか?
小説のレビューを読んだ時にそのことが書いてあって、
でも私、舞台観た時は全然きづいてなくて・・・気絶して
たのかしら?(笑)

スキップ
2012/07/08 23:07
スキップさん、こんばんは!
小説の文章が思い浮ぶような舞台でもあったのですね。
うーん、やっぱり原作を読んでみるべきでしょうか・・・?
大島さんがカフカのお姉さんなのか、
お父さんの呪いとは何なのか、など、
いろいろ知りたいところもあるので、そのうち読むかもです(弱気?)。
呪いのことは、粗筋に書いてあったのかな?
私も舞台の中では気付かなかったように思います。
恭穂
2012/07/10 23:29

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