瓔珞の音

アクセスカウンタ

zoom RSS 月の影

<<   作成日時 : 2012/12/28 22:45   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 2

昨日の夜。
仕事を終えて職場を出た瞬間、目に入った眩しいほどの月に驚きました。
冬の月はいつも冴え冴えとしているけれど、昨日の月の光は冷たい炎のようだった。
思わず、月が作る影を探して後ろを振り向きましたが、
建物の明かりや街灯の光にかき消されて、月の影を見ることはできませんでした。

でも。
どんな光にかき消されても、月の影はそこにある。
そこにあるのに見えない、影。
その曖昧で深い存在感―――

この舞台を満たした"見えない何か"も、この月の影のようなものであったのかもしれません。


「祈りと怪物 〜ウィルヴィルの三姉妹〜」 KERA version

2012.12.22 ソワレ シアターコクーン 1階XC列一桁台

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
音楽:パスカルズ
出演:生瀬勝久、小出恵介、丸山智己、安倍なつみ、大倉孝二、緒川たまき、大鷹明良、マギー、近藤公園、
    夏帆、三上市朗、久保酎吉、峯村リエ、犬山イヌコ、山西惇、池田成志、久世星佳、木野花、西岡徳馬 ほか



蜷川さんとの演出対決のために、KERAさんが書き下ろしたというこの戯曲。
「大人のお伽話」と銘打ったこの物語の舞台は、ウィルヴィルという架空の町。
小さな島の、火山と海に囲まれたこの港町は、
ドン・カラス(生瀬勝久)の独自の倫理観の元、暴力と恐怖によって支配されていました。
その町で繰り広げられる、人々の"日常"の営み。
ドン・カラスの三人の娘たちそれぞれの恋と選択。
圧政からの解放を求めて蠢く地下組織。
通りすがりの錬金術師の弟子が起こす歪んだ奇跡。
ウィルヴィルの町を襲う悲劇の結末―――そんな物語でした。

その舞台を形作るのは、上方を覆う細かな葉の大きな木。
その根元に繁殖する食虫植物。
高台の墓地。
その向こうに見える空の色は限りなく澄んでいて。
けれど、確かにあるはずの、外へ繋がる海は見えない。
そんな、美しい世界。

冒頭、薄闇に沈むその美しい世界は、白い衣裳と白い仮面を着けた人々に埋められました。
彼ら―――合唱隊員(コロス)たちが口々に語るギリシャの神々の物語。
甲高い叫びを上げるカッサンドラ。
仮面の奥に確かにあるはずの彼らの目は、私には暗い穴のようにしか見えなくて・・・
知らず息を呑んで見つめてしまいました。

そんな風に始まった物語は、私的には非常に怖い物語でした。
ジャンルは設定していない、とプログラムでKERAさんはおっしゃっていたけれど、
私の中では、確実にホラーに分類されます。
それも、端正な美しさと恐怖が同居するゴシックホラー。
直接的な暴力などの描写ももちろん私の身を竦ませるのに十分ではあったのですが、
私の恐怖を駆り立てたのは、別の存在でした。

この物語は、様々な"恐ろしいこと"が、とてもさりげなく語られます。
人の苦痛によって得られた電気で走る自動車。
人の肉すら食らう、観賞用の異形の獣。
乗組員が全て誰かに殺された船。
首を切られた夫婦の死体。
目を潰された青年が縋る少女の美しい背中に押された焼印。
小動物を食らう美しい花。
白痴の青年パキオテがかける呪いで甦った、両親にしか見えない死んだはずの息子。
願いの叶う薬の変貌により、町に満ちる病と死と狂気―――

役者さんの台詞、仕草、目線、そして照明や音、音楽。
全てに意味があるような濃密さで形作られるそれらの要素が、
一つの"目に見えない何か"の存在を生み出した。
物語が進むにつれて、闇の中で静かにどんどん大きくなっていくその"何か。
それは、いつしか舞台全体を―――ウィルヴィルの町を満たし、覆い、押しつぶすほどの存在になっていた。
そのことが、私には本当に恐ろしくて。

物語の終盤、死の影に覆われた街を捨て新しい世界へと旅だそうとするドン・カラスと三姉妹。
歪んだ魔法の薬を飲んだ三姉妹が願いを語る表情はとても明るくて楽しげで―――
でも、そこには見えない"何か"の影があった。
だから、彼女たちを待つ未来がどんなものなのか、
次の瞬間に何が起こるのか、その"何か"がどう変貌していくのか、
怖くて怖くて仕方ないのに、だからこそ目を逸らすことができませんでした。

その"何か"がなんなのか、私には最後までわかりませんでした。
それは、ある目的をもってドン・カラス家に取り入った寂しい目をした青年が紡ぐ呪詛なのかもしれない。
命を削るようにパキオテが掛け続けた呪いが召喚してしまった存在なのかもしれない。
神を信じることを忘れた街の人々が捧げた、歪んだ祈りのなれのはてなのかもしれない。

目には見えない怪物―――

でも、それは確かにあの街にいて。
あの街で生み出され、あの街に育てられ、あの街を喰らった。
そして、自分自身も喰らい尽くした。

怪物のいなくなったウィルヴィルの街は、どこにでもある寂れた港町になったように思います。
まっとうな人達が、まっとうな神を信じ、まっとうに暮らしていく、そんな退屈だけど平和な街。
娘を亡くし、栄華を奪われ、底辺まで落ちぶれながら、そのふてぶてしさと矜持を失わないドン・カラスを、
黒い染みのようにその中に内包しながら。
けれど、きっとこの街は、もう二度とあの恐ろしく醜悪な怪物を生み出すことはないのだと思う。
そのことに心底ほっとすると同時に、どこか寂しさも感じてしまったのは、
この舞台の上に創り出されたウィルヴィルという街が、恐怖と紙一重の美しさを持っていたからなのかもしれません。


ドン・カラス役、生瀬さん。
やってることはとんでもないし、正直嫌悪感もあったりはしたのですが、
実はこの物語の中では一番安心できる存在だったのではないか、とも思いました。
なんというか、彼の中にはまったく矛盾がないの。
自分の信じる倫理に忠実で自分の価値観に全く疑いを持っていなくて、
大事なものはひたすら大事にし、嫌いなものはとことん痛みつけることを厭わない。
ある意味凄く真っ直ぐでわかりやすくて、なんとなく憎めない・・・かな?
まあ、無自覚、というのが一番怖いのかもしれないですけどね。
そういえば、物語の終盤に娘から「お父様の倫理って何?」と聞かれて、「今更?」と聞き返してたけど、
私もその答えが聞きたい!と内心深く頷いてしまいました(笑)。

トビーアス役は小出恵介さん。
動物を愛し、どれだけ虐げられても祖母を大事にする優しく穏やかな青年が、
その穏やかさはそのままに、どんどん歪んでいくさまが、かなり切なかったです。
というか、彼の歪みはもとからあって、ただ顕在化しただけなのかなあ・・・
祖母に対するあの度を越した献身と、それゆえのあの無残な最期は、
観ていてちょっと辛かったです。
結局、彼の中に暖かな想いや幸せはもとからなかったのかもしれないなあ。

ヤン役は丸山智己さん。
母と赤子だった自分を殺そうとした父を探し出し復習するためにウィルヴィルへ来た青年。
無残な出来事の多くは、その心願を成就するための呪詛として彼が行ったことだったのだけれど、
それすらも切実な願いの果ての凶行だから仕方ない、と思わせてしまうような、
寂しさのある優しい目が印象的な影のある美青年っぷりは、ちょっと反則!と思いました(笑)。
なんというか、あの寄る辺のなさが垣間見えるところとか。
ドン・カラスの次女と恋仲になり、二人で新しい世界へ旅立つことを夢見たヤン。
その夢は、ドン・カラスが実の父であることがわかり、
恋人によってその命を奪われることで潰えてしまうのだけれど、
彼は本当にそういう未来を手にしたかったんだろうなあ、と思います。

そんなヤンの恋人、ドン・カラスの次女テン役は緒川たまきさん。
いやもうめちゃくちゃお美しかったです!!
細い身体に濃い青のドレスが凄いお似合いでv
というか、三姉妹の衣裳、長女が緑、次女が青、三女が赤でそれぞれデザインが違うのですが、
どれも役に合っていてとっても素敵でした。
テンの、あの気位が高いのに情の深そうなところとか、個人的に凄いツボでした。
たおやかさと冷静さ、矜持と愛情が綺麗に交じり合っていて、なんだか存在そのものが綺麗でした。
でも、自分の中の大事なもの、優先順位がしっかりしているところは、
三姉妹の中で一番父親に似ているのかも。
それでも、ヤンが異母兄だとわかった瞬間の、あの悲痛な叫びと表情は、
ヤンに向けられていた愛情が本物である証だったように思います。

ドン・カラスの三女、マチケ役は安倍なつみさん。
舞台で観るのは多分初めてなのですが、とても可愛らしい方ですね。
子どもの無邪気な我侭と残酷さを持ったまま、大人になりかけている少女、という感じ。
トビーアスへの彼女なりに真っ直ぐな愛情表現は微笑ましくv
マチケはまだ父の価値観に疑問を持ち始める前の若さなんだろうなあ、と思いました。
だから、被差別階級(ヒヨリ)であるレティーシャに向けられる言葉は、
嫌味でも嫌がらせでもなく、本当に心底そう思ってのことなんだろうな。
無知は罪だと言ってしまえばそれまでなんだけど・・・
そう言いきってしまうには、彼女の内面は余りにも幼すぎるように思いました。

ドン・カラスの三女・バララ役は久世さん。
三姉妹のなかでは、彼女の恋が一番詳しく語られていたかなあ、と思います。
予知夢を―――多分悪い事柄ばかりをみてしまうバララ。
至極真っ当で、でも、どこか閉じた部分を感じました。
西岡さん演じる教会の司祭・グンナルと恋仲で、
でも、どんなに祈っても妻を救ってくれなかった教会を憎む父にその恋は断たれてしまうのだけれど、
再び向き合った二人が語る互いへの思いは、とても穏やかなものでほっとしました。
魔法の粉の歪んだ効力で身体を病んでいったグンナルと彼女の二人だけの結婚式では、
二人が夢想する明るく幸せな戯れの果てにある破滅がはっきりと感じられて、
切なくて仕方がありませんでした。
この結婚式の結末を、バララは予知していたのかな・・・たぶん、していたんじゃないかなあ、と思います。

マギーさん演じるドン・カラス家の執事アリストと、犬山さん演じるメイド長のメメ夫妻は、
最初に登場したときは、とても普通のご夫婦、という感じでした。
5年前に亡くした息子を悼む気持ちのまま生きている二人。
それはとても哀しいけれど、決して異様なものではなかった。
けれど、パキオテの呪いによって二人だけに見える息子が甦ったことで、
二人の在り方はどんどん歪んでいきました。
この"息子"が本当にいたのか、夫婦が作り出した幻影だったのかはわかりません。
けれど、パキオテに"息子"を消すことを願った瞬間、
この夫婦は息子を二度亡くしたんだなあ、と思いました。

パキオテ役は大倉さん。
これまで観た舞台でも、独特の悲哀を感じさせる役柄が多かったように思いますが、
今回のパキオテはその極みだったように思います。
知的な遅れのある青年の、ちょっと外れたやりとりはとてもリアル。
無表情で、でもたどたどしく紡がれる言葉は彼の気持ちの全てが入っていたように思います。
幼く純真であるからこそ、良くも悪くも他者の言いなりになってしまうパキオテ。
その彼が持つ、途方もない力。
そのアンバランスさは、哀れさと同時に空恐ろしい感じもありました。
彼の最期は、泣けたなあ・・・
大好きなメメさんを喜ばせたくて願いを叶えたのに、そのせいでメメさんが自分を恐れ憎んでいる―――
最後の力で"息子"を消したあと、糸が切れた人形のように崩折れたパキオテ。
山西さん演じる錬金術師が、決して便利な道具としてではなく彼を大事にしていたのも、
なんだか救われたような気持ちになりました。

池田さんのペラーヨは・・・正論を吐くほどに現実が見えていない、
そんな盲目的な先導者の怖さを感じました。
近藤さん演じるパブロに向けられる言葉や視線も、
冷たいということ以上に見下している感じがあって、なんだか凄く危うい印象でした。

木野さんは、ドン・カラスの母とトビーアスの祖母の双子の姉妹の二役。
それぞれ根っこは同じなのに全然違う花を咲かせてる、という感じで、さすがだなあ、と思いました。
トビーアスの祖母の、憎しみと嫉妬の果てのあの姿は結構衝撃的。
ドン・カラスの母は、幸せに満たされた瞬間にヤンに殺されてしまうのだけれど、
それはそれで幸せだったのかなあ、とちょっと思ってしまいました。

久保さんのコロス長は9人のコロスを従えていました。
彼らは時にコロスとして対話のような形で物語を進め、
時に市民や楽隊など沢山の役を演じて舞台を形作っていました。
一度、通路にコロスたちが並んで台詞を言うシーンがあったのですが、
私の席は通路側だったので、すぐ傍にコロスが立ってまして・・・
間近で朗々と語られる役者さんの声の質量に、ちょっと聞き惚れてしまいました。
でも、語られる内容は結構きつくて―――ちょっと涙目になっちゃいましたけどね(笑)。

上手の客席脇には、バンドの方がいらっしゃって、
アコーディオンとバイオリン、チェロ、ギター、パーカッションという編成で、
とても美しく恐ろしく印象的な音楽を聞かせてくださいました。
パスカルズって全然知らなかったのですが、結構好みだったなあ。
そのうち、CDを入手してみようかと思います。



なんだか全然上手くまとまりませんでしたが、とにかく凄い舞台だったと思います。
観る人によって受け取り方は違うと思うのだけれど、
私的にはあの"見えない何か"の存在が、とにかく恐ろしくて魅力的で・・・
でも、ほんとに怖い物語でもありました。
来月は蜷川さんバージョンを観る予定なのですが、きっと直視できない場面とかもあるんだろうなあ。
観るのが怖いようにも思いますが、
でも、このをウィルヴィルという街と、そこに住む人たちの"日常"を、
蜷川さんがどんな風に形作るのか、とっても気になるのも確か。
あの豪華なキャストがどの役をやるのかも気になるし・・・うん、覚悟を決めて頑張って観てこようと思います!



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
恭穂さま
2/10に蜷川バージョンも観たのですが、まずはこちらに。

物語全体を覆う暗い悲劇的な雰囲気に何か追い立てられる
ような気持ちで4時間があっという間でした。
こうして恭穂さんがまとめられたレビューを拝見すると
ああ、そうだった、それもあったと思い出すことばかり(笑)。
感激とか感動とかいうのではありませんが、何とも魔力の
ような惹きつけるものがある舞台でした。

役者さんも初回観た刷り込みが強いとはいえ、蜷川版を
観た今、緒川さんのテン、丸山さんのヤン、そして
大倉さんのパキオテは際立っていたなぁと改めて思います。
スキップ
2013/02/11 23:26
スキップさん、こんばんは!

追い立てられるような4時間。
魔力のような魅力の舞台・・・ほんとにその通りでしたね。
最初、4時間と知って、寝ちゃうかも(汗)と思ったのですが、
まったく眠くなることなく引き込まれました。
・・・怖くて眠れなかったというのもあるかもですが(笑)。

やはり、最初の刷り込み、ありますよねー。
ヤンはどちらのアプローチも好きでしたが、
緒川さんのテンの美しい存在感と、
大倉さんのパキオテの愛すべき存在感は秀逸でした。
もう一度、見直したくなりますね。
恭穂
2013/02/12 22:00

コメントする help

ニックネーム
本 文
月の影 瓔珞の音/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる