瓔珞の音

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<<   作成日時 : 2013/11/06 22:05   >>

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降りしきる雨の中、全てを受け止めるように両手を広げ空を仰ぐ男の後姿―――
この有名な映画も、その原作も、私は触れたことがありませんでした。

閉じられた過酷な空間の中。
溢れ繰り返される暴力と理不尽。
犯した罪の事実すら蝕んでいく彼らの日常―――

その塀を越えて、彼が見た空は。
彼が、彼らに見せた空は。
どれだけ澄んで、高く、美しく、そして、遠かったのだろう。

この舞台で、彼らと共に私が見た"空"。
それこそが、私のショーシャンク。


「ショーシャンクの空に」

2013.11.3 ソワレ サンシャイン劇場 1階7列10番台

演出:河原雅彦
脚本:喜安浩平
美術:松井るみ
出演:成河、益岡徹、粟根まこと、筒井俊作、大家仁志、畑中智行、今奈良孝行、山崎彬、
    山崎和如、日栄洋祐、鈴木秀明、高橋由美子、新良エツ子、宇野まり絵


物語の始まりは、1977年。
50年の服役を経て、仮釈放となったレッド(益岡徹)。
彼を取り囲むのは、彼の知るものとは大きく変わってしまった"今の街"。
全てに怯え、縮こまるようにして働き始めた彼の唯一の拠り所は、
記憶の中のある男について書き留めること。
ショーシャンク刑務所の中で出会い、27年を共に過ごした―――アンディー(成河)。

荒くれた暴力的な男たちの中で異彩を放つ、"まっとうな"仕事についていたことを感じさせる佇まい。
新入りの常を超えて、繰り返される暴力に生傷の耐えない顔。
恐慌と嘆願の果てに、彼の眼に宿った強く静かな光。
"調達屋"レッドに、彼が初めて依頼したロックハンマー。
そのハンマーで、アンディーが磨いた美しい石。
暴力ではなく知性で看守や刑務所長までも取り込んで、いつしか無二の地位を確立したアンディ。

アンディーが集めた図書館の本。
アンディーが上映したたくさんの映画。
アンディーが彼らに見せた、夕焼けの空。
アンディーが彼らに届けた、歌声の美しさ。
アンディーがレッドに語った夢。
アンディーがレッドに手渡した約束。
アンディーの静かな声。
アンディーの激昂。
アンディーの笑顔。
そして、アンディーが27年の月日をかけて独房の壁に開けた、外への細く過酷な道―――

レッドが、アンディーと過ごした、鮮やかな時間。
けれど、そこに描かれるあの空間での"現実"は、
レッドが暮らす"現実"の前では、奇跡のように美しく、奇跡のようにありえない夢のようで・・・

"現実"に打ちのめされ、この"現実"で生きることに疲れきったレッドは、
あの空間から消える前にアンディーがレッドに渡した秘密の約束を思い出します。
その約束の場所へ旅立ったレッドが見つけたものは―――


という物語。
私は映画は見ておらず、粗筋も殆ど知らないまっさらな状態での観劇だったのですが、
過去と現在を行き来する物語であるにも関わらず、
全く混乱することもなく、すんなりと物語の世界に入り込むことができました。
それは多分、一見無骨で冷たい印象のセットと照明が創り出す、
時間と温度を感じさせる秀逸な空間によるものであり、
レッドが文字を書く音のようにもアンディーが壁を削る音のようにも聞こえる効果音によるものでもあり、
そして、役者さんたちの鮮やかな存在感によるものでもあったのだと思います。


成河さんのアンディーは、とにかく底の見えない男でした。
妻とその不倫相手を殺したという罪で投獄された、元エリート銀行員のアンディー。
繰り返される暴力の中で、けれど何故かどんどん静けさを増していく彼の表情と声―――
怯えにひび割れた声は、一つのことを成し遂げるごとに穏やかに、けれどどこか遠い響きを纏い、
その笑みは、柔らかさの中に僅かな強張りと、透かし見ることのできない闇を抱えているようでした。

この男の中には、誰も立ち入ることのできない"秘密"がある。

そう、有無を言わさず感じさせるミステリアスさに、一瞬思いっきりよろめいてしまった(笑)。
「ハムレット」のホレーショーや「サロメ」のヨカナーンも凄い良かったけど、
それとはまた違った魅力があって、あらためていい役者さんだなあ、と思いました。
なんというかね、凄く"多彩"だなあ、と思ったの。
真っ当で善良なアンディーも、
酷薄で計算高いアンディーも、
不屈の強さを持つアンディーも、
希望に瞳を輝かすアンディーも・・・
いろんな"アンディー"が、何の違和感もなくきちんと溶け合って―――まさに"人間"という感じだった。

正直"アンディー"という男は、どういう男なんだろう?って悩むところもあった。
彼の裁判のシーンで、淡々と無実を言い続ける彼を見ていて、
彼の言っていることは真実だと思う自分と、彼なら殺しかねないと思う自分がいて・・・
そのことに混乱しながら、でもこの底知れなさがアンディーなんだ、とも思ったりもしました。

しかも、この"アンディー"は、レッドの記憶の中に存在する"アンディー"なんだよね。
50年という長い月日を刑務所の中で過ごしたレッド。
刑務所の中で、囚人の希望する"品物"を調達する調達屋でもある古株の囚人。
10年後との仮出獄を決める面談の度に、口癖のように「反省している。新しい人生を得られたら・・・」と言い続け、
仮出獄に至らないまま、この空間の中で時間を磨耗し続けた男―――

益岡さんは「炎の人」のダンディで正しく強いゴーギャンのイメージが強かったのですが、
今回のレッドはもっとずっと揺らぎや弱さの感じられる存在でした。
罪と向き合い罪を償うための囚役。
けれど長い時間の中、この限られた空間で生きることを甘受し、
この場所こそが、彼の"日常"であり、"現実"となった。
そんな中であった、アンディー。
与えられる"日常"に決して満足せず、夢を語り、希望を持ち続けるアンディー。
アンディーの在り方は、諦めているという意識もないまま諦め続けたレッドにとって、
とてつもなく不思議で、とてつもなく鮮やかなものだったのだと思う。
自分たちのある意味凪いだ"現実"の中に投げ込まれた、異質な光を放つ見慣れない石のような、
興味を引かれるけれど、決して自分とは交わらない・・・そんな存在。
レッドがアンディーに気付き、関わり、興味を惹かれ、そして馴染んでいくがなんだかとても自然で、
二人のシーンを見ながら、なんだか気持ちがほんわかすることもありました。

けれど、深い友情を育んだ二人には、決定的な違いがあった。
それは、罪の有無。

「いつかここから出たら―――」
そんな"夢"を語るアンディーを前に、レッドは自らの犯した罪に改めて向き合います。
自分が奪った3人の命。
その罪に汚れた自分は、新しい人生を夢見る資格などないのだと、そう言い切るレッド。
そんなレッドに、アンディーは一つの秘密の約束を伝えます。
そして、翌朝、知れ渡るアンディの脱獄―――

この舞台、どのシーンも印象的だったけれど、アンディーの脱獄のシーンは白眉!
下水道から這い出し、降りしきる雨(のような白い照明)の中、両手を広げ空を仰ぐアンディー。
その表情は私には見えなかったけれど、
シルエットに近い彼の姿から、彼が対峙した暗く、果てのない空が確かに感じられて・・・
そして、その後、足をもつれさせながら、客席通路を歩き出すアンディーの眼の強さときたら!
私の席は通路から3席目だったのだけれど、隣二つが空席だったこともあって、
転んだ彼が起き上がり、そして歩き去る姿を遮るものなく観ることができたのですが、
彼の纏う厳しい空気と、真っ直ぐに前を見つめるその視線に、かなり圧倒されました。
そして、ふと舞台に目を戻すと、そこには立ち尽くすレッドの姿が―――これは結構きたなあ・・・(涙)


アンディーの脱獄から3年余りたって、レッドは仮釈放になります。
閉ざされた"空間"から、境のない"現実"に放りだされたレッド。
彼が書き続けるアンディーとの記憶は、けれどアンディーという稀有な男の存在により、
一人のヒーローを描いた良くできた物語のようで・・・

アンディーという男は本当に存在していたのか?

そう自問自答するレッドの眼差しの揺らぎを見ていて、なんだか私自身もとてもとても不安になってしまいました。
でも、レッドが"思い出した"アンディーの言葉、そして彼が告げた約束を聞き、その柔らかく強い笑顔を見ているうちに、
私は信じる!って、なんだか理屈でなく思ってしまったのです。
私は信じる、アンディーは確かにいたと、私は信じるよ!
そんな風に、心の中で叫ぶみたいに思った。

底知れない何かを持つアンディー。
彼の何が真実なのかレッドは―――私は知らない。
アンディーが彼らに与えたもの、手渡したものが"現実"なのかどうかもわからない。
けれど、アンディーの言葉―――夢を語り、信じることを諦めない彼の言葉は、その瞬間確かに存在した。

絶望の果ての希望を追うようにアンディが告げた街で、アンディーが残した秘密の手紙を見つけ、
アンディーが待つ約束の海岸へ向かうレッド。
仮出獄中の逃亡は罪。
そうわかっていても、生きるためにその"夢"を信じ追わずにはいられなかったレッド。
ラストシーン。
約束の海岸で再会した二人は、黒いシルエットとなります。
この"再会"が真実なのか、レッドの夢なのかはわからない。
けれど、青く輝く海のほとりで、肩を組む二人の姿に、私は確かに彼らを待つ"未来"を見た。

そう、思いました。


そんな二人の男の物語を導いたのは、3人の美女でした。
レッドがアンディに渡した、大きなピンナップの中のそれぞれの時代の人気女優。
高橋さん演じるリタ・ヘイワース。
新良さん演じるマリリン・モンロー。
宇野さん演じるラクエルウェルチ。
その身体でアンディの秘密―――彼が削り続けた壁の穴を隠した彼女たちは、
レッドの描く文章の中で生き生きと動き回り、それぞれの幕で物語を進めて行くのですが、
その存在がとにかくとんでもなく鮮やか!!
艶やかでクール、でも情に厚いリタ。
キュートで感情豊かで、二人への愛情を真っ直ぐに伝えるようなマリリン。
奇抜な衣裳(笑)だけれど、ふとした瞬間にしっとりとした優しさでレッドに寄り添うラクエル。
彼女たちのがいることで、物語がわかりやすくなっただけでなく、
アンディーが彼女たちだけに見せる表情から感じられる決意や、
レッドのいたたまれないほどの不安がとてもクリアになったように思いました。
高橋さんは相変わらず素敵な歌声と変幻自在さ(5歳児まで演じてました!/笑)でしたが、
びっくりしたのが新良さんの歌声!
2幕で、アンディーが無断でレコードを放送室からかけるシーンがあるのですが、
ここでかかった「誰も寝てはならぬ」がとにかく素晴らしくて・・・
過酷な日常に鬱屈とした囚人たちが、この歌声を聴いて立ち上がり瞳を輝かすのですが、
そうなることがすんなりと納得できてしまうような、そんな美しい歌声でした。
このシーン、囚人たちの表情も、マリリンの歌声も、危険を顧みずレコードをかけ続けるアンディの姿も、
彼の思いも囚人たちの思いも理解して立ち尽くすレッドも、全てにおいて美しいシーンだなあ、と思いました。
美しいといえば、1幕の屋上でビールを飲むシーンも良かったなあ。
「空に!」と言って乾杯する彼らが見上げる空が見える気がして、なんだか私も上を見上げてしまいました。
もちろん見えるのは劇場客席の暗闇なのだけれど、でも、そこには確かに彼らが見た"空"があったと思う。

この3人の美女の姿が、レッドが殺した人(妻とその友人母娘)の姿であることが終盤にわかるのだけれど、
そして、謝罪の言葉を口にするレッドに妻(ラクエル)は「許さない」と言うのだけれど、
私は何故かその声がとてもとても優しく聞こえてしまいました。
もしここで「許す」と彼女が言ったとしても、それこそがレッドの妄想なのだと思う。
許されない=罪を抱えて生きていく・・・その覚悟をレッドは持っていて、
だからこそ彼は仮釈放されたのだ、と私は感じていたので、そう聞こえたのかもしれません。


囚人仲間たちもそれぞれとても個性的でした。
個人的には、情報屋な畑中さんの声と笑顔が素敵vと思っていたのですが、
「降りそそぐ百万粒の雨さえも」で沖田総司を演じていた方でしたv
あの時もよろめいていたので(笑)、たぶん普通に好きなタイプの役者さんなんだと思います。
レッドの監察官も畑中さんだったように思うのですが・・・違うかな?

大家さん演じるブルックスには泣かされました・・・
アンディーたちよりも先に仮出獄になるのだけれど、別れを告げる姿がなんだか凄く儚くて。
レッドの住むアパートの前の住人が、仮出獄1ヵ月後に窓から飛び降りたことをレッドが知るシーン、
ああ、きっとブルックスだ、と覚悟はしていたけれど、
レッドが彼の名を呟いた瞬間に、なんだかもうたまらない気持ちになりました。

レッドが言ったように、彼らは罪人で、罪を背負っているのだけれど、
この物語で描かれた囚人たちは、罪人である前に人間で・・・
もちろんその罪を詳しく描かれていないからなのだとは思うけれど、
罪があることで、彼らの全てを否定してしまっていいのだろうか、となんだか考え込んでしまいました。
うん、それだけこの物語の中の彼らは魅力的だった、ってことだよね。

囚人トミーと、娑婆に出たレッドに懐く少年を演じていたのは山崎さん。
初見の役者さんなのですが、二つの役をちゃんと通じさせながら印象をがらっと変えて見せてくれたのが印象的。
個人的には、レッドへの懐きっぷりがなんだか凄い可愛かったですv
レッドは彼に文字を教えるのだけれど、レッドに文字を教えたのはアンディーなんだよね。
アンディーはレッドに希望を与えて、レッドの書いた"物語"は少年に希望を与えた。
レッドは、少年に希望を与えたのはアンディーだ、というけれど、
でも、少年にとっての"ヒーロー"は、アンディーではなくレッドだったのだと、そう思います。

刑務所のノートン所長役は粟根さん。
相変わらず飄々とした佇まいで、冷酷な所長、というよりは、小ずるい小物なお役人、という印象。
なので、利己的なことをやっていても、なんだか憎めないんですよねー。
ああ、この人ならアンディにまんまと手玉に取られちゃうよねー、とか思ってしまったり(笑)。
筒井さんの刑務主任がかなりオーバーアクションな感じだったので、
二人のシーンはその対比が面白かったです。


うーん、私の文章だと残念ながら全然魅力が伝わらないけれど、本当に本当に素晴らしい舞台でした。
以前「オセロー」を観た時に、これは私のベストの「オセロー」だ!と感じ、
もうしばらく「オセロー」は観なくていいや、と思ったものですが、
今回もこの「ショーシャンクの空に」が私のベストだ!と思いました。
映画は映画の良さが、原作小説は小説の良さがあるのだろうけれど、
しばらくはどちらも手に取らなくていいかなあ、と思っちゃった。
なんというか、演劇の醍醐味がこれでもか!と詰まった舞台だったように思います。
1回の観劇だったので、いろいろ細かい伏線とか見落としがありそうでちょっと悔しいです。
こんなにいい舞台だったら、複数回チケットをとっておけば良かったなあ。
私はもう観ることができませんが、本当にお薦めの舞台です。
もしこの辺境ブログに迷い込まれて、観るかどうか迷ってらっしゃる方がいらしたら、
騙されたと思って是非ご覧になって欲しいなあ、と思います。

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