瓔珞の音

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<<   作成日時 : 2014/10/02 22:12   >>

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10月に入ったら、なんだか一気に暗くなるのが早くなったような気がします。
本当は、6月の夏至から少しずつ夜が長くなっているのにね。

この物語でも、見えていた兆しが一気に加速したのは、10月でした。


「アルジャーノンに花束を」

2014.9.27 マチネ 天王洲銀河劇場 2階B列20番台
2014.9.27 ソワレ 天王洲銀河劇場 1階C列20番台

原作:ダニエル・キイス
脚本・作詞・演出:荻田浩一
音楽:斎藤恒芳

出演:浦井健治、良知真次、森慎吾、桜乃彩音、高木心平、秋山エリサ、吉田萌美、宮川浩、安寿ミラ


この舞台の原作を初めて読んだのは、大学生の頃だったと思います。
そこから続けざまにダニエル・キイスさんの本を読んだ記憶があります。
今回、この舞台を観るにあたって(初演は見損ねたので)原作を読みなおしてみたのですが・・・
いやー、きつかった・・・
以前読んだときは、ここまで打ちのめされはしなくて、
普通にジャンル通りSFとして読んでたんだと思う。
でも今は、この物語に非常に近い世界で仕事をしている関係もあって、
なんだか凄く考えたというか、もやもやしたというか、いたたまれなかったというか。
文章でこれだったら、舞台観たらどうなっちゃうんだろう、と思っていたのですが―――

予想通り、マチネは号泣してしまいました。

金属の籠を模したセット。
前方にある幕に描かれたネズミの姿がサイドからの光に浮き上がる。
その前で赤い衣装で凛と立つアリス・キニアン(安寿ミラ)。
不意に彼女にかけられた声。

「よみかたやじのかきかたをおしえてくれますか?」
「ぼくはかしこくなりたいです」

幕の向こうから、姿の見えないまま語られる言葉。
彼の―――チャーリィ・ゴードン(浦井健治)の明るく、素直で、だからこそ切実な、声―――

なんだかね、もうこれだけで泣けてしまったのです。
私が接している彼も、彼女も、同じような声で語ってくれた。
その時の彼の、彼女のはにかんだような笑顔が、柔らかな手の暖かさ。
そして、語る術を持たない子どもたちの中に在る、想い。
チャーリィの言葉から、それらが一気に惹起されて・・・

そして現れたチャーリィの、笑顔。
まっすぐに見つめる瞳。
不安げな仕草。
それでもなくすことのできない、願い―――


この物語は、生まれつきの疾患による軽度の知的障害者・チャーリィが、
世界で初めての"画期的な"脳外科的手術を受け、
急速にそのIQを天才の域まで高められ、そしてその知能を再び失っていくまでの8か月を描いています。

急激な変化を遂げるチャーリィ。
そんな彼を見守る人。
そんな彼から離れていく人。
そんな彼を愛する人。
そんな彼と再び出会う人。
そんな彼に、最後まで寄り添おうとする人―――

舞台は原作にかなり忠実だったとはいえ、
登場人物一人一人のチャーリィとの関わりを全て描けているわけではありません。
むしろ、チャーリィを中心とした、チャーリィから見た世界として描かれていたようにも思う。
でも、そんな風に描かれていない部分があるからこそ余計に、
私は自分の"リアル"と結び付けてしまった。

障害のある子どもを、どんなふうに家族が受け入れるのか―――拒否するのか。
彼を庇護する人たちを動かしているのはどんな愛情なのか―――同情なのか。
彼に向けられる笑顔は憐笑なのか―――嘲笑なのか。
そして、もし、この治療ができる状況にあったとき、私はそれを行うのか―――行わないのか。

そんな風に、マチネは全然冷静に見ることはできなくて。
いろんな感情が、いろんな記憶が渦巻いて、どうにもすることができませんでした。
音楽も綺麗で、セットや衣装にも工夫があって意味深で、
役者さんたちもとても素晴らしかった。
だけど、そんな風だったので、物語そのものについて、
ちゃんとした感想を書くことはちょっとできそうにありません。
物語に触れてしまったら、純粋な舞台への感想ではなく、
私自身の仕事への向き合い方の考察になってしまいそうだから。

ので、この後は役者さんの感想を。


チャーリィ・ゴードン役、浦井健治くん。
この舞台の成功の根っこは、やっぱり浦井くんがチャーリィをやったことだと思います。
キャスティングされた方(荻田さん?)、グッジョブ!
最初のチャーリィからゆっくりと、でもある時点から加速度的に変化していくチャーリィ。
その変化を、丁寧に、鮮やかに見せてくれたように思います。
表情、仕草、歌声―――全てが変貌し続けていた。
キニアン先生を初めて「アリス」と呼んだ時に、ふっと変わった表情。
上下ちぐはぐな衣装と同じように、入り乱れる治療前のチャーリィと治療後のチャーリィ。
上昇し続けるIQと比例するように落ちていく笑顔の温度。
見える"現実"が増えていくたびに、膨らんでいく怒り。
蘇る記憶に縛られるように、変わっていく彼の中に潜む変わらない彼。
自分に起きた変化を全て自分で分析し、考察し、揺れ動く感情を抑え続ける中で、固まっていく覚悟。
そして、手術で得た"知能"を失った彼は、最初のチャーリィが持っていた笑顔を取り戻し―――
でも、その笑顔は、決して同じではなかった。

この物語では、"知能"と"記憶"の境界がとても曖昧なのだけれど、
それは、"記憶"を理解する"知能"の有無、ということなのかな、と思った。
小さい頃の思い出を、徐々に思い出すチャーリィ。
でもそれは、思い出しているのではなく、その状況を"理解"していったということ。
その記憶は、しまい込まれていたのではなく、いつだってチャーリィの中にあった。
だから、この8か月に彼が接した、受け止めた、考えた全ては、
消えることなくチャーリィの中にあるのだと思う。
たとえそれを彼が"理解"できなくなったとしても、それは決して消えることはなくて―――

「たぶん、たのしかったとおもう」

キニアン先生を前に、あの人懐っこい笑顔でそう言うチャーリィ。
自分には理解できないことを、全て彼は"楽しい"でくくってしまうのかもしれない。
そう思えるから、彼はいつも笑顔でいられたし、これからも笑顔なのかもしれない。
でも、その言葉を聞いたとき、全てはチャーリィが選んだことなのだと、そう思った。
理解できるか、理解できないかは問題じゃない。
選ぶ能力があるのかないのかも問題じゃない。
ただ、その時の全力で彼は未来を選び続け、そしてその先の未来の全てに、
自分の生き方に、彼は責任をとったのだと―――
ソワレを観たときに、そんな風に感じて、
そんな厳しさと、切なさと、強さを持つ彼に、涙ではなく笑顔を贈りたくなりました。


アルジャーノン役は森くん。
観るのはかなり久々。
あの可愛らしい衣装が似合うのが凄い!(笑)
しっぽが短かったのがちょっと残念でしたが(え)。
チャーリィの鏡としてのアルジャーノン、
そして、チャーリィの中にいる小さい頃のチャーリィの二役をされていましたが、
それはどちらも分かち難いもので、
クリアに分かれていないのに混乱しつつも納得している自分がいたり。
物語の中で最初にチャーリィがアルジャーノンを紹介されるシーンの表情が印象的だったなあ。
凄く厳しい、でも寂しそうな表情だった。
手術で天才ネズミになったアルジャーノン。
でも、アルジャーノン自身は、そんなことを決して望んでいなかった―――
その事実が、チャーリィとほんとに合わせ鏡のようで印象的でした。

この舞台を観た前日に、iPS細胞についての講演を聴きました。
何千匹のマウスで行わなくてはならなかった研究を、
iPS細胞を使えばシャーレの上で行える、という説明がありました。
この物語に出てくる"アルジャーノン"は1匹だけど、
その後ろにはきっと"アルジャーノン"になれなかったたくさんの命があったんだろうなあ・・・
なんて、リアルに想像してしまって、ちょっと涙目になってしまったのでした(^^;)


良知くんが演じたのは、ニーマー教授とギンピィ。
ニーマー教授は、この実験を主導する二人のうち一人の心理学者・・・なんですが、
そういう描写はほとんどありませんでしたねー。
宮川さん演じるストラウス博士も、物語の中での紹介での肩書は脳外科医が強調されていて、
精神科医とは紹介されたなかった気がするので、
チャーリィの心理的なサポートに、
心理学者のニーマーではなく脳外科医のストラウスが関わっている(ように見える)のが、
ちょっとわかりにくかったかなあ、と思ったり。
というかこの二人のスタンスがソワレで観た時凄いツボだったんですよねー(え)。

良知くんのニーマーは、若くして教授になった野心溢れる人物、という感じ。
いっつも眉間にしわを寄せていて、そのしわを指でなぞる(ように見えた)仕草が、
彼の神経質そうなところを表しているように見えました。
で、そんな風にちょっと余裕のないニーマーを見るストラウスの目が、
「若者は仕方ないなあ」と苦笑しつつも微笑ましく思ってる風で。
この二人の関係って、暴走するニーマーを大人なストラウスがうまくコントロールしてるんだろうなあ(笑)。

チャーリィやアルジャーノンに対して、常に実験を施した側という立場を崩さなかったニーマー。
冒頭の、手術の何たるかを理解できないのに手術を望むチャーリィにイラッとするところとか、
1幕終盤、チャーリィに論破されて、強がるように捨て台詞を残して立ち去る余裕のなさとか、
アルジャーノンの処遇についてチャーリィとぶつかるときの揺らぎとか・・・
才気走ってるんだけど、徹底しきれていない甘さのようなものも見えた気がします。
というか、そういう存在として私が見たかっただけなのかな。
2幕終盤、自分がアルジャーノンと同じ経過をたどると語るチャーリィに背を向けたニーマーの表情には、
実験の失敗に対する失望や苦々しさ以外のものもあったと思うのね。
彼が、この実験をしようと思ったのは、なにがきっかけだったのかな。
"人間以前"の存在を神のように"人間"にすること?
それだけでは、ないと思う―――思いたい。

もう一役のギンピィはねー、なんだか無駄にかっこよかった気がします(笑)。
そこでいきなり歌って踊るのか?!と(え)。
エプロン姿はかっこよかったけどねー。
でも、原作で描かれていたチャーリィとの関わりが、さらっと語られただけなのがちょっと残念。
ギンピィやドナーさんのお店の人たちが、
どうしてチャーリィを拒絶し、再び知能の低くなった彼を受け入れ守ろうとしたのか。
悪意と善意。
嫌悪と同情。
ずるさとしたたかさ。
一筋縄じゃいかないそういうものを、ドナーズベーカリーの人たちは表していたと思うんだけどなあ。
まあ、この舞台はすべてチャーリィ目線だとすれば、こういう描き方でいいのかな?


宮川さんは、ドナーさんと、それからチャーリィのお父さんを演じてらっしゃいました。
ドナーさん、いい人だったなあ・・・(涙)
自分の気持ちを、ちゃんとチャーリィに伝えようとしてるのが凄く良かった。
お父さんはねー・・・
桜乃さん演じるローズのチャーリィへの仕打ちが凄く強烈なので、
(でも、原作に比べるとかなりマイルドではありましたが)
一見チャーリィのありのままを認めるいいお父さん的に見えるのだけど・・・うーん・・・
この辺の両親の葛藤って、それこそいろいろ喚起されちゃって見ていてかなりきつかったな。
正直、現実に有り得るからねー。

桜乃さんのローズがまた、凄く綺麗な声で、
その声がひび割れていくように聞こえるのがすごくつらかったな。
この物語の裏テーマって(裏じゃない?)、チャーリィとローズの関係にあると思うのだけど、
最後の最後、成長したノーマを桜乃さんが演じたのには、
ほっとした反面、若干釈然としない部分もあったり(え)。
ヒルダの歌もとても綺麗で意味深でいい感じでした。
原作読んでないと、看護師さんだってわからないと思うけど(笑)。


秋山さんが演じたフェイ。
原作以上に強烈なキャラクターにびっくり!
キンキン張り上げる歌声がちょっときつかったけれど、ああ、フェイがいるなあ、と思いました。
フェイって、アリスともチャーリィとも別の意味で、凄く"賢い"人だよね。
チャーリィの"奇行"を最初笑いながら見ていた彼女が、
最後には怯えるような、泣き出しそうな表情でチャーリィを見るのが切なかった。
それだけ、彼女の心はチャーリィに近づいていたのにね。


吉田さんはどの役も凄く可愛かったv
特にミニィ!
アルジャーノンと踊るシーンがとっても楽しそうでキュートで、見ながらにこにこしちゃいました。
ノーマはねー・・・ローズほどじゃないけど、結構きつかったなあ。
もちろん舞台でデフォルメされてるんだけど、
実際にこういう風に苦しんでいるきょうだい児って絶対いると思うのね。
家族なんだから受け入れるのが、支えるのが当たり前、とするのではなくて、
やっぱり素直な気持ちに寄り添うって受け入れることがファーストステップなんだよね、と思う。


高木くんは、リロイの衝撃にいろいろ吹き飛ばされましたが、
(追い出された後に、舞台の後方で踊っている意味が分からない/笑)
とても誠実なバードを見せてくれたと思います。
何気にアリスよりもチャーリィに寄り添ってたんじゃないかな(え)。


で、安寿さんのアリス。
うーん・・・アリスってすごく難しい存在だと思うし、
安寿さんのアリスの母性的な部分と女性的な部分のバランスは決して嫌いじゃないんだけど、
観終わった後に、ちょっともやもやしてしまったのはなぜなんだろう。
物語の中の最後の2ヶ月は、舞台では詳しく描かれなかったからかなあ。
結局、彼女はチャーリィと同じ意味でチャーリィを愛していたのかな?
それとも義務感や使命感や罪悪感しかなかったのかな?
いや、もちろんチャーリィに対する愛情はあったと思うのだけど、
その根っこが良くわからなかった。
それでも、自分の"終わり"が見えてしまったチャーりィには、
彼を抱きしめてくれる彼女の手が必要だったことは確かだと思うし、
その時まで彼の傍にアリスがいてくれたのにはほっとしたけど。
でも、彼女は、一生チャーリィと共に在ろうとは思わなかったんだな・・・
いや、チャーリィがそれを望まなかったのか。


こうやって書いてみると、やっぱりずいぶん冷静じゃなかったんだなあ、と思います。
曲とか歌声の感想よりも、役柄としての感想ばかりだし。
楽曲も、歌詞がいろいろ工夫されてて面白かったし
(最初の「〜tion」を繰り返すの、それぞれのキャラの色が出てて楽しかったv)
チェロとヴァイオリンの生演奏も素敵でしたv
CDも予約したけど、それを聴くときには、また違う感想を持てるのかも。
あ、でも、CDだとあのラストシーンが当然ながら見ることができないのが残念だなあ。
みんなが置いたたくさんの花の上で、微笑むチャーリィとアルジャーノン。
その上へと延びていく、たぶんチャーリィがずっと上りつづける未来への梯子。
本当に綺麗なシーンだったと思います。
うん、あの最後のチャーリィの言葉、やっぱり最高だよね。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
恭穂さま
重く厳しい内容で、観るのも感じるのもツラいと思う時も
ありましたが、やはり作品としてすばらしいですね。
そして、あのラストシーンは、現実をそのまま捉えたら
とても切なくて見ていられないくらいなのですが、
明るい光と花束と、浦井くんチャーリィの笑顔に
救われた思いで、不思議と心安らかでした。

あ〜、でもうまく書けないな。
やっぱり、恭穂さんと直接語り合いたいです(笑)。
スキップ
2014/10/24 08:58
スキップさん、こんばんは。
リアルに捉えてしまうと、本当にきつい物語だなあ、と思います。
原作はSFに分類されているようですが、医療の進歩がこの世界に追い付いてしまいそうですよね・・・
純粋にSF、フィクションとして観れたらまた違ったのかもですが・・・職業病ですね(笑)。
あのラストシーンの花と梯子と光の射し方は、本当に綺麗で安らかでしたね。
浦井くんの笑顔、素敵でしたv

ほんとに、スキップさんと語り合いたいです!
来年は西に行く機会も多そうですので、どこかでタイミングが合ったらぜひ!
恭穂
2014/10/24 23:13

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