瓔珞の音

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zoom RSS その扉の鍵

<<   作成日時 : 2014/10/24 23:08   >>

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こんなふうにブログをやっている私ですから、
言葉、というものにはやっぱり思い入れがあります。

コミュニケーションの手段として、自己表現として、なくてはならない、言葉。
扱うのが難しくて、時には誰かを―――自分を傷つけることもあるけれど、
言葉が開く扉の向こうには、いつだって光に溢れた世界があるはず。



「奇跡の人」

2014.10.19 天王洲銀河劇場 1階J列10番台

作:ウィリアム・ギブソン
演出:森新太郎

出演:木南晴夏、高畑充希、馬渕英俚可、白石隼也、平田敦子、北川勝博、青山伊津美、梅沢昌代、
    立川三貴、上地春奈、鈴木崇乃、染谷麻衣、畑山菜摘、宝井ひなの/山田メリノ


50年も前から、沢山の演出家と役者たちが繰り返し上演してきたこの有名なお芝居。
これまで何度か観る機会はあったのですが、いつもタイミングが合わず、ご縁がありませんでした。
今回、森新太郎さんの新演出で、初めて観ることができました。

劇場に入ると、舞台を大きく取り囲むような高い高い板張りのセット。
その壁にはいくつものドアと窓がありました。
けれど、その多くは、手の届かない高みにあるか、床にめり込むように作られていました。

届かない扉。
開かない窓。

そんな広いのにどこか閉鎖的な空間で、その濃密な物語は進んでいきました。


まず濃密だと感じたのは、当然のことながらヘレンとサリヴァン先生―――アニーの関係性。
事前のインタビューでも読んではいたのですが、まさに体当たり!!
あまりに激しいので、ほんとにびっくりしてしまいました。
たぶん、今の日本でこれをやったら、虐待と言われてしまうんだろうなあ・・・
二人の丁々発止のやり取りには客席から笑いが起きるときもあって。
でも、舞台としてデフォルメしてあったとしても、
実際に二人の格闘はこんなふうな肌がヒリヒリするような緊迫感があったのだと思う。
だって、この時点でヘレンには、そうやって体で教えることしかできなかったんだから。

言葉をきちんと獲得する前に聴覚と視覚を失い、そのまま大きくなった子ども。
残された触覚と嗅覚と味覚だけが世界との接点。
そんな中で、研ぎ澄まされる感覚。
常に神経をむき出しにしたような状態で、自分の世界を確立していった少女。
充希ちゃんのヘレンは、可愛らしい人形のような外見の中に、
そんな野生の獣のような知性と激しさと生命力が感じられました。

この子は見えないから。
この子は聞こえないから。
だから、何を言ってもだめなのだと、何も教えることはできないのだと、
ただ彼女の傍にいて抱きしめることしかできなかった家族。
彼女の中に作られた、他者の介入できないその世界の扉を、
初めて激しくひたすらにノックし続けたのが、アニーだったんだろうと思います。

初めて二人が出会った時、そっと傍に座るアニーの気配を感じて身構えるヘレン。
そんなヘレンに触れるアニーの手は、母親とは別の的確さでヘレンを捉えていました。
それは、彼女がかつてヘレンと同じように暗闇の中にいたから―――

ヘレン・ケラーの伝記は子どものころに読んだはずなのですが、
アニーがかつて盲目に近い状態であったことも、この時彼女が20歳の若さであったことも、
すっかり記憶の彼方でして・・・(^^;)
なので、木南さん演じるアニーの輝くようにしなやかなのに、どこか影を帯びたような強さに、
なんだかすっかり魅了されてしまいました。
木南さんというと、ヨシヒコの口の悪いお嬢さんのイメージしかなかったので、
それとのギャップにもびっくり!
サングラスを外すと見える、猫のように大きな目の表情の豊かさ。
抑揚の少なめな台詞の奥から伝わってくる、複雑で鮮やかな感情。
それらが形作る、彼女の過去と今―――
強いのではなく、強く在ろうとし続けている彼女のその強さと、
20歳の若い女性としてのリアルさ、素晴らしかったです。

アニーは、ヘレンとの二人きりの生活を希望し、2週間と期限を切られたその生活の中で、
ヘレンに行儀よく食事をすることと指文字を覚えさせます。
妥協せず、甘やかさず、繰り返しその動作を繰り返すことでヘレンが覚えたマナー。
けれど、指文字はゲームとしてアニーの仕草をまねるだけ。
その文字の繋がりに意味があること―――ものには全て名前があることを、彼女は理解できません。
彼女に言葉を覚えさせることを主張し、二人きりの生活の延長を望むアニーから
マナーを覚えた娘を喜んで"取り戻した"家族の前で、
アニーの懸念通り、ヘレンは以前と同じような傍若無人な振る舞いをします。
それは、当然の帰結なのだと思う。
だって、ヘレンは"なぜそうするのか"を全然理解していない―――世界の扉は開いていない。
ただ、アニーが叩き続ける扉の音をやり過ごそうとしているだけ。

そう思った時、舞台を取り囲むいくつものドアの存在が、
赴任したその日に、ヘレンによって部屋に閉じ込められたアニーが、
窓に掛けられた梯子を使って外に出るというシーンが、
その後で、口に隠していた鍵を取り出すヘレンの得意そうな表情が、
とても象徴的なものとして蘇りました。

見ることができず、聴くこともできない、ヘレン。
ヘレンの中には、沢山の感情と知性が詰まっている。
でも、ヘレンはその感情を、その知性を、伝える術を持たない。
彼女の世界と、彼女を取り巻く世界をつなげる扉は手の届かない高いところにあって、
その扉の鍵は、彼女の深い深いところに眠っている―――そんなイメージが浮かびました。
そして、その扉に掛かる梯子が、その扉を開ける鍵が、
アニーがヘレンに伝えようとしている"言葉"であるのだと―――

ヘレンが「WATER」という"言葉"を理解する、あの有名なシーンは、
思いがけないほど静かでした。
派手なリアクションはなくて、けれど、鮮やかに変わるヘレンの表情―――
それまでも、繰り返し繰り返しアニーが触れさせ教えてきた「水」と指文字の「WATER」。
それが、何故その瞬間にヘレンの中で繋がったのか、それは私にはわかりません。
けれど、その言葉をきっかけに、次々と"言葉"を要求するヘレンの溢れだすような欲求と、
それらの"言葉"を、自分を取り囲む存在の"名前"を、水が流れ込むように覚えていくヘレンの姿は、
彼女の中にどれだけ沢山のものが閉じ込められていたのかを、強く感じさせてくれました。
そして同時に、アニー自身も次の未来への扉を開けたのだと、
過去に―――守り切れなかった弟に繋がる、不意打ちで開く扉ではなく、
彼女の意志で、ヘレンと共に進むための扉を開けたのだと、
そう思ったら、なんだかちょっと泣けてしまいました。


そして、この舞台でもう一つ濃密だと思ったのが、家族の関係。
ヘレンの中の、閉ざされていた扉を開ける梯子を、鍵を与えたのはアニー。
でも、ヘレンの中にたくさんの言葉にならない何かを育んだのは、彼女を取り巻く人々だったと思うのです。
そう思ったのは、やっぱり馬渕さん演じるヘレンの母・ケイトの在り方によるかなあ、と思います。

馬渕さんはもともと大好きな役者さんで、
キラキラした大きな瞳が伝えてくる、台詞を超えた感情にいつも感嘆するのですが、今回も凄かった!
1幕冒頭から、ケイトのヘレンや家族への向き合い方に大泣きしてしまいました。
自分の言葉を聞くことができない、自分を見ることもできない娘。
彼女に何をどう教えればいいのかわからなかったとしても、
ケイトはちゃんとヘレンとの関係を作っていた。
"母"という言葉は知らなくても、ヘレンは、常に自分の傍にある温もりが、
自分を守る存在であることを、自分が頼ることのできる存在であることをちゃんと理解していた。
でもそれは、ケイトにはきちんと伝わることはなくて―――それは、どんなに辛いことだったろう。
それでもヘレンに向き合い続け、
ヘレンのためにできることを模索し続け、
そして、ヘレンのためであるならば、
自分のこれまでを否定されてもそれを受け入れることができる。
何が正しくて、何が必要かを、見極めて選び取ることができる。
それは、きっと言うほど簡単なことではなくて―――
自分を呼ぶ仕草をするヘレンをアニーに託すとき。
学んだはずのマナーをかなぐり捨てたヘレンに必要なのは自分の手ではなく、アニーの手だと悟ったとき。
ケイトのその印象的な目は、涙の膜に覆われていた
でも、彼女は決して目を伏せることも、目を背けることもしなかった。
その"強さ”は、アニーのそれとは全く違う色合いで、でも同じように輝いていたように思います。
でもって、青いドレスがとってもお似合いでしたv

ヘレンの父アーサー役は立川さん。
初めて観る役者さんですが、堂々とした動きとよく通る声、
そして、愛嬌のある笑顔と、時折見せるへたれっぷりが何とも微笑ましくv
ヘレンを愛しく思いつつも、どう接していいかわからなくて、戸惑いつつ距離を置こうとして、
でも彼女を捨てることは絶対にできない不器用な愛情が素敵でした。
というか、アーサー、女性に対して根本的に優しいんだよねー。紳士!
当時の男性ってこういう感じだったのかな?
白石くん演じる息子のジェイムズとの関係性は、
ヘレンを取り囲むそれとはちょっと密度が違っていて、十分理解できませんでしたが・・・
うん、やっぱりお父様は男性には厳しいんだな(笑)。

ジェイムズ役の白石くんも初見、かな。
スマートで素直な演技が、常に一歩引いたようなジェイムズの在り方と合っていたように思います。
アーサーの前妻の息子なので、ヘレンとは異母兄弟なのだけど、
ヘレンのことを鬱陶しく思ったり無視したりしつつも、
すごくストレートにヘレンの存在を受け入れてるんですよね。
こういうのって、きっと子どもの方が柔軟に受け入れられるんだと思う。
両親やアニーに対して斜に構えたり皮肉ったりもしてたけど、ひねくれきれない素直さが可愛らしく(笑)。
年齢設定がいまいち良くわからなかったのだけど、
もしかしてジェイムズ、ケイトに惚れてる?!と感じるところもあったりして、
ジェイムズに注目して観てみたら、また違う物語が見えてきたのかもしれないなあ、と思いました。


ヘレンの伯母、エヴァ役は梅沢さん。
出番は少ないけど、なんとも味のある印象的な役柄でした。
情が深くておせっかいで、悪気はない分、たちが悪いタイプの親戚のおばさん?(笑)
ヘレンに対しても、嫌悪したりとかは全然せずに、やっぱり自然に関わっていました。
でもって、彼女も強い!
うーん、こういう姉がいるから、アーサーはあんな感じなのかな?(笑)


北川さんのアナグノス先生と、青山さんのハウ博士も素敵でした。
全然タイプは違うのだけど、どちらもアニーにとって人生の指針となる人。
旅立つアニーとアナグノス先生のやり取りは、
先生の優しさと厳しさが感じられて、気持ちがほんわかしたし、
ヘレンとの関わりに悩むアニーの回想で現れるハウ博士は、
その言葉の一つ一つに、彼が接した相手への愛情が感じられたように思います。

ケリー家の召使いな人たちも、それぞれ個性的!
平田さん演じるヴァイニーの大らかな笑顔と懐の深さには、
これはヘレンも懐くよねーvと思ったし、
犬使いな鈴木さんの犬の使いっぷりはとにかく凄かった!!
最初はびっくりしたけど、うんうん、犬ってこんな風に動くよねー(*^^*)って、にこにこしちゃいました。


今回は、森さんの新演出、ということ。
森さんの演出は「ビッグ・フェラー」以来の2回目なのですが、
場面転換や、お芝居の中に挟まれる静謐な瞬間がとても印象的でした。
冒頭の、ヘレンの障害に気づいたケラー夫妻の動きが止まって、
暗闇の中に浮かぶそのシルエットが1枚の絵のように見えたシーンは、
綺麗なのに胸がざわざわするような感じがしました。
食堂で格闘するヘレンとアニーを待つ人たちを描くシーンも、
台詞は動きがないのに、時間経過とか彼らの焦りや不安なんかがちゃんと感じられました。
アニーの弟のシーンはちょっとホラーでびくびくしましたが(笑)。
上記の扉の演出が、森さんのオリジナルなのか、ト書きにあったものなのかはわからないですが、
私の初めての「奇跡の人」が森さんの演出で、個人的に大満足しておりますv
また、ぜひ森さん演出の舞台を観てみたいです!

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