瓔珞の音

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zoom RSS 花に堕ちる

<<   作成日時 : 2015/05/24 23:46   >>

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昔、取りつかれたかのように繰り返し聞いたCDがあります。
スラヴァの「VOCALIES」。

カウンターテナーであるスラヴァの、透明でどこか不安定さの感じられる歌声の重なり。
静かで、懐かしさの感じられる旋律。
月光の下の鏡のような湖面と、そのほとりにそびえる古城のシルエット。
そんなイメージが浮かぶ美しい音楽の世界。

今日、この舞台を観て、なぜかその世界が思い出されました。



「綺譚 桜の森の満開の下」

2015.5.24 マチネ あうるすぽっと B列一桁台
2015.5.24 ソワレ あうるすぽっと F列10番台

原作:坂口安吾
上演台本:近衛はな
演出・振付・音楽:藤間勘十郎

出演:中川晃教、山本一慶、花園直道、いいむろなおき、市川ぼたん



坂口安吾の有名な小説を原案としたこのお芝居。
能楽堂での初演を私は観ることができなくて、今回やっと観ることができました。
有名な、と書きましたが、実は原作を読んだことがなくて。
大まかなあらすじは知っていますが、ほとんどまっさらな状態での観劇になりました。

物語は、五人の人物で紡がれていきます。
冒頭、チェロの調べに乗せて、上手の椅子に座って朗読を始める男(中川晃教)。
下手の文机に向かい、物語を書き記す男(山本一慶)。
舞台の四方を祓うようにすべるように動く白い直衣姿の男(花園直道)。
山々を駆け巡り、旅人を襲う黒衣の山賊(いいむろなおき)。
山賊に夫を殺され、山賊の女房になった女(市川ぼたん)。

上手と下手の二人の男が物語る言葉に乗って、山賊と女の馴れ初めが描かれ―――
そして、ある瞬間、二人の男の視線が絡み合います。
淡い笑みを浮かべて、静かに見つめる下手の男。
その視線に押されるかのように、厳しい表情で、けれど決意を持って舞台の中央に歩みゆく上手の男。
彼はそのまま、山賊に成り変わり―――

というかたちで、一幕終盤からアッキーが山賊の男を演じていました。
アッキーの演じる山賊は、最初から最後まで、
どこか違う世界を彷徨っているかのような不確かさがありました。
ずっと夢を見ているような、と言ってもいいかもしれない。
女の望むままに都に降り、人を殺め、首を持ち帰り、その首で無邪気に遊ぶ女を愛でる。
おぞましいはずのその行為は、彼の目にはかつて見たことのない女の美しさに覆い隠され―――
物語の中で、それは女の魔術だと、語られます。
その魔術は、女に与えた首と同じように、女の首を落とそうとした瞬間に覚めます。
覚めた、はずなのです。
けれど、男はきっとまだ夢の中にいた。
かつて恐れた山の中の桜の森に、女を背負って踏み入った男は、
そこで背負った存在が、女ではないことに気づきます。
混乱の中、女を縊り殺した、男。
次の瞬間、彼の口から迸った慟哭。
大きく開かれ歪んだ口と、見開かれた目は、
男が女を縊り殺す瞬間に、直衣姿の男が被った般若の面と恐ろしいほどに似ていました。
自ら殺した愛する女の亡骸を抱きしめた男の慟哭は、
喪失であったのか、後悔であったのか、悲嘆であったのか―――
けれど、その瞬間に、男は全てを喪った。
降りしきる桜の花弁の中、消え去った女の亡骸。
けれど、その亡骸を抱いていたはずの男自身の肉体も、いつしか桜の中に消え失せていた。
消え失せて、けれど男はそこに居た。
遠い月と、青い闇と、薄紅の満開の桜の下で、
かつて愛した女を背負って都を目指したあの日を思いながら、独り佇む―――男。
その姿を見ながら、彼は、この森に、満開の桜のこの森に囚われたのだと、そう思いました。
いつか、別の男が同じようにこの桜の森に囚われるまで、彼はこの桜の檻に堕ちたまま。
けれど、それは彼にとってとてつもなく孤独で、同じくらいに甘美な時間なのかもしれない。
そんな風に、感じて―――

でも、最後。
客席通路を去っていく下手の男と、舞台の上の男の視線がもう一度絡みました。
美しい牢獄を編み上げたことに満足したような、微かな笑みを浮かべた男。
その牢獄の中に、諦めと決意を持って立つ男の強い、目。
重なって、離れて、けれど決して途切れはしない、二つの世界。
現世と、異界。
現実と、虚構。

うん、この舞台は、そんな重なり合う二つの世界でできていたように思う。
物語を紡ぐ男の現実と、紡がれた物語の中にある異界。
ぴったりとではなく、どこか隙間のある重なり方をしたその世界。
その隙間に、時々ちょっと引っかかっちゃって、ふと我に返る瞬間がありました。
それがちょっと残念だったかなー。
もっとどっぷり、引き返せないくらいこの異界の深みに入り込んでみたかった気もします。
まあ、それで戻れなくなっちゃっても困るんだけど(笑)。


市川さんの女。
とにかく、所作が美しい。
全体的な動きはもちろんのこと、ふとした瞬間の手の動きとか、
ちょっと首をかしげるときの目線とか、はっとするほど綺麗でした。
でもって、最初は、普通に綺麗な女の人、という感じなのだけど、
その感じそのままに、山賊に女房を殺させたりするあたりにちょっとぞっとした。
なんだろう・・・普通さの中の異質さっていうのかな。
むしろ二幕で無邪気に首遊びしている時の美しさの方が、
これは“そういう存在”なんだ、って納得してしまえたぶん、安心できた気がする(笑)。
というか、この時の女、ほんとに輝くばかりに美しかったんですよねー。
やってることはとんでもないんだけど、
この笑顔が見れるなら、山賊もいくらでも首をあげたくなっちゃうよねー、と思ってみたり(笑)。
この女が、猟奇的なただの人間なのか、桜の森の鬼女なのかはわかりません。
一幕で着ていた衣裳が紅葉柄だったし、二幕の帯が鱗紋だった気がするので、
鬼女なのかもしれないな、とは思うけど、個人的には人間であってほしいかも。
その方がこの物語に救いようがなくなっていいかもしれないなあ、なんて(笑)。

というか、この舞台、能の知識があったらもっと楽しめたのかな、と思う。
いえ、十分楽しんだんだけど、そういう衣裳の意味とか、面の意味とか知ってたら、
いろいろ深読みできた気がします(笑)。
直衣姿の男の般若の面もそう。
般若って、確か女の面だったと思うんだけど、
そうすると山賊との類似が説明がつかない気がするんですよねー。
うーん、また能も観に行ってみようかな。


そんな直衣姿の男。
これはもう明らかに人外。
にこやかで穏やかな笑顔がどんなに人間臭くても、
というか、この物語の中で何気に一番表情豊かでも、この存在は人外!(笑)
たぶん、動きとしては一番能に近かったんじゃないかな。
歩き方とか、腕の動かし方とか。
静かなのに、凄い動のエネルギーを感じる瞬間もありました。
要所要所で凄く意味深な動きをするこの男は、桜の森に棲む神なのかな。
そう感じさせるようなどこか超越した印象があったのだけれど、
個人的には、この男も、かつて桜の森に魅せられ囚われた男のような気がします。
山賊が囚われたことで、やっとその魂が自由になったのかな、って。まあ、妄想ですが(笑)。


一幕前半で山賊を、二幕では直衣姿の男の眷属というか、やっぱり人外な感じだったいいむらさん。
本業はパントマイムということですが、動きの一つ一つの切れが素晴らしい!
二幕冒頭の直衣姿の男とのやり取りとか、客席とのやり取りとか、おおお!と素直に感嘆しちゃいました。
翁の面をつけた首を動かすシーンとか、ほんとに首が自分で動いてるみたいに見えたもの。
身じろぎすら許されないような張りつめた空気の舞台の中で、
あの短いほんわかした瞬間があったのにはちょっと救われたかな(笑)。
桜の森で、山賊の背の女と入れ替わったあとの低い姿勢の動きは、なんだか蜘蛛のようでした。
そういえば、衣裳の腰のところにあった模様もちょっと蜘蛛っぽかったかも?


下手の男(坂口安吾?)な山本くん。
レトロな丸眼鏡の似合う、非常に雰囲気のある子だなあ、という印象。
前述の、アッキーと見つめ合うシーンでの笑みが、
残酷な物語を紡ぎ、完成したその世界に満足しているような業の深さが感じられました。
どうしても動きのある舞台中央に目が行ってしまうけれど、
たぶん、彼もずっと静かに演技を続けていたんだと思います。
その表情や、彼の内面的な変化のようなものも見れたら良かったなあ。
もっと観る機会があったら、彼だけ見てても面白かったかも?
声も滑らかで、女の台詞を言うのもあまり違和感はなかったかな。
響きが良かったので、ちょっと歌も聞いてみたかったです。
テニミュ出身ということなので、お友達に歌はどんな感じだったのか聞いてみよう!(笑)
そういえば、マチネは彼のほぼ真ん前だったのですが、
彼のペンの握り方がちょっと気になりました。
なんだか変わった持ち方してませんでしたか??
気になったといえば、花園くんの髪型も。
装束には不思議に合っていたんですが、横から見ると後ろ髪がひよこのお尻みたいで可愛かったですv(え)


現世と異界の重なり、と書きましたが、音楽でも二つの異なるものが重なっている舞台でした。
能のお囃子とチェロ。
謡と歌。
融合ではなく、混じり合うのでもなく、重なりというのがぴったりする関係性。
それはちょっと不思議な感覚でした。
マチネは下手前方だったので、舞台中央を見ると、上手の袖でお囃子を演奏している動きが垣間見えたり、
笛を吹く女の人の姿が見えたりして興味深かったです。
チェロは、冒頭舞台の中央でソロがあるのですが、マチネが女性、ソワレが男性でした。
同じ旋律を弾いているはずなのですが、受ける印象がかなり違ったかな。
女性は、遠い空から降ってくる感じで、男性は、地の底から響いてくる感じ?
初回か二度目か、という受け取る私自身の変化もあったとは思いますが、
そういう違いがあるのも面白いかなあ、と思ってみたり。


能楽堂での初演は、アッキーといいむらさんとぼたんさんの3人だけ。
アッキーの歌もなかったのだそうです。
重なる世界の隙間にひっかかっちゃった身としては、異界のみの舞台も見てみたかったなあ、とも思うけど、
アッキーの歌はやっぱり聴きたいし・・・複雑です(笑)。
いずれにしろ、この美しくもおぞましい花の世界に、いつかまた迷い込める日が来るといいな。

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