瓔珞の音

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zoom RSS 彼の罪、彼女の罰

<<   作成日時 : 2016/06/30 21:13   >>

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LACCO TOWERというバンドに♪罪之罰 という曲があります。
その曲には、こんな一節があります。

誰が悪者だ 誰が善い者だ

この物語の中では、誰が悪者で、誰が善い者だったのだろうか。
―――その境界は、本当にあるのだろうか・・・?


「あわれ彼女は娼婦」

2016.6.25 ソワレ 新国立劇場 中劇場 1階10列60番台
2016.6.26 マチネ 新国立劇場 中劇場 1階19列30番台

作:ジョン・フォード
翻訳:小田島雄志
演出:栗山民也

出演:大鷹明良、中嶋しゅう、伊礼彼方、春海四方、前田一世、浦井健治、野坂弘、浅野雅弘、横田栄司、
   佐藤誓、蒼井優、宮菜穂子、デシルバ安奈、西尾まり、川口高志、頼田昂治、寺内淳志、峰崎亮介、
   坂川慶成、鈴木崇乃、斉藤綾香、田実那、大胡愛恵、中村友子(マリンバ)


舞台の上には、大きな赤い十字路がありました。
炎というよりも、血のような赤。
その上に映る、白い光の道。
その道を走り抜ける白いドレスの少女。
いつ閉まるのかわからないような、細い出口の先の白い光の中へ、
後ろをふと気にして振り返りながら、その岐路を超えて軽やかに駆け込んでいく、彼女。
光の外は暗く曖昧で、その道を外れたら、どこまで堕ちていくのかわからなくて―――

そんなシーンで始まった物語は、
たくさんの情熱と、
たくさんの欲望と、
たくさんの恋慕と、
たくさんの罪と、
たくさんの罰と、
たくさんの死に溢れていて。
―――いつしか曖昧になる善と悪、正義の意味。

物語の中心は、ジョバンニ(浦井健治)とアナベラ(蒼井優)、同母の兄妹である二人の禁断の恋。
師と仰ぐ修道士(大鷹明良)に諌められ、諭されても、その想いを止められなかった兄と、
遠くから来る男に、兄とは気づかずに心奪われた妹。
これは許されない罪だとわかっていて、それでも互いの手を取った二人。

浦井くん演じるジョバンニは、思い詰めて、思い詰めて、全てを通り越したような穏やかな表情とは裏腹に、
その目や背中から熾火のような昏い情熱がゆらゆらと立ち昇るよう。
幼さと賢しさがまじりあったような蒼井優ちゃんのアナベラが、
ジョバンニに初めてのキスをするその瞬間の、少女から女への、恐れから覚悟への、鮮やかな変貌。
初回は上手前方席だったのですが、触れ合う二人の向こう、下手セットの壁には、
二人と同じ動きをする二人の大きな黒い影が映っていて―――
同じ動きをするのは当たり前のことなのだけれど、
比率の変わったその姿は、なんだか別の次元の二人のようで。
次元を変えても、時を超えても、二人は触れ合う運命なのだと、
その業の深さが可視化されているようで。
生身の二人の美しく切ないふれあいの奥の、禍々しい何かが蠢いているようで。
なんだかもう瞬きするのも忘れて見つめてしまいました。

二人の恋を、私は決して容認はできないし、
二人とも引き返すことを選べる岐路は幾つもあったと思うのだけれど、
そういう理性的な部分を全部押し流してしまうような何かが、
二人の間にはあったように思います。

その後も、秘密の幸せの中で戯れる二人の姿の背徳感や、
成就した想いと結ばれた体の降伏にはしゃぐアナベラの姿や、
モチーフになっているロミジュリの乳母よりも罪深いプターナ(西尾まり)の言動や、
いろんなものに加速度的に進む破滅を感じていたわけですが、
物語の焦点は、その後アナベラに求婚する男たちへと移っていきます。

美丈夫な貴族・ソランゾ(伊礼彼方)とその従者ヴァスケス(横田栄司)。
無邪気な愚か者・バーゲット(野坂弘)とその召使ポジオ(佐藤誓)、そしてその叔父ドナード(春海四方)。
枢機卿(中嶋しゅう)の信頼篤いローマ貴族・グリマルディ(前田一世)。

ソランゾを巡る陰謀と裏切りに満ちた復讐劇や、
そのとばっちりを受けて、幸せを手にした瞬間に命を奪われたバーゲットや、
バーゲットの死後の枢機卿とのあれこれや・・・
まるで2時間ミステリーを見ているかのような展開に、ハラハラドキドキしてしまいました。

おバカだけど愛嬌があって憎めないバーゲット、私にとってほんとに1幕の癒しでした。
1幕終盤で彼が殺されてしまった時には、2幕、耐えられるかな、私・・・って本気で思いましたもの(^^;)

物語の中、彼を中心にたくさんの笑いが起きていて、
というか他は潔いくらいに笑いの要素全くなし!で、
その落差に結構翻弄されていたのですが、
なんだか観ているうちにどんどんバーゲットが愛しくなっちゃってねー。
アナベラが、彼の言葉に大笑いするシーンがあるのだけれど、
なんというか、バーゲットって人の中の陽性の部分を増幅してた気がする。
愚かな道化だけれど、自分に対しても相手に対しても、嘘も裏切りも後ろめたさも全くない。
彼の手を取ったフィロティス(デシルバ安奈)は、叔父に言われたからそうしたのかもしれないけど、
でも、彼のその在り方を、本当に愛しいと思っていたはず。
最後まで彼らしく死んでいったバーゲットを見つめるフィロティスの呆然とした顔。
ポジオの引き裂かれるような慟哭。
人違いで彼を殺したことを悪びれないグリマルディと、彼の罪を裁かない枢機卿を前に、
どんどん表情を亡くしていくドナード―――
そのどれもがあまりにも辛くて・・・

同じ時間軸で、兄の子を宿してしまったアナベラが、
修道士に諭されてソランゾと結婚することを選ぶシーンが全く違うトーンで描かれるのだけれど・・・
たぶん私にとって、アナベラの思考よりも、
バーゲットに関わる人々の思考の方がわかりやすかったんだろうな。

それから、ソランゾに復讐を仕掛けるヒポリタ(宮菜穂子)の思考も。
彼女がソランゾとアナベラの結婚式をめちゃめちゃにして、
自らの策に溺れて死んでいくシーンはすごい迫力でした。
彼女のグレーの衣裳も意味深で良かったし。
でも、私はどちらかというと、その復讐劇を見つめる人たちに気持ちが向かっていました。

甥の死の原因である男の結婚式に参列するドナードは、どんな気持ちでソランゾを見つめていたのか。
愛する男を殺されたフィロティスは、アナベラの花嫁衣装に何を思ったのか。
間男であるソランゾを殺し損ね、
別の命を間接的に奪ってしまったリチャーデット(浅野雅弘)の胸に悔恨はあったのか―――?

特に、春海さん演じるドナードの、感情がどんどん抜け落ちていくかのような変化が胸に迫って、
ジョバンニとは真逆の意味で、その背中に圧倒されました。

そんな感じで、どちらかというとソランゾを巡る物語の方がインパクトがあるかなー、
なんて思っていたのですが、
全てを知ったソランゾと、彼の怒りに対峙するアナベラのシーン、
そして、修道士の差し出す手を頑なに拒み続けたジョバンニとアナベラのシーンを見て、
ジョバンニとアナベラの関係性が、通奏低音のように流れ続けていたからこそ、
ソランゾの、バーゲットの、ヒポリタの、彼らを囲む人たちの物語は成り立っていたんだと、
なんだか凄く納得が行ってしまったのでした。

さっきも書きましたが、アナベラの思考は私には正直理解できません。
ソランゾとの結婚も、禁断の恋に堕ちた自分の罪に慄き、後悔したからなのか、
兄との子どもを守るためだったのか、単に自分の名誉のためだったのか、
私には全然わからなかった。
でも、ソランゾと対峙した彼女を見た時、
ああ、彼女にとって、ジョバンニとの愛以外は何の価値もないんだ、と思った。
自分の名誉も、授かった子どもも、自分自身の命も。
もちろん途中で迷いもあっただろう。畏れもあっただろう。
でも、最初にジョバンニの手を取った瞬間に、彼女がその愛以外の全てを捨てる覚悟を既に決めていた。
そのためなら、誰かを騙すことも、自分自身を偽ることすら厭わない。
ソランゾに髪をつかまれながら、それでも歌い続けるその姿は、ある意味鬼のようで。
ジョバンニに刃を向けられた瞬間の微かな笑みは、まるで聖女のようで。
そして、その覚悟は、ジョバンニも同じだった。

二人の想いが重なったときと同じように、
ジョバンニの刃がアナベラを貫く瞬間、その向こうには二人の影が映っていました。
息絶えるアナベラを抱きしめるジョバンニの姿は、
蜜月の時にジョバンニを膝枕して抱きしめるアナベラの姿と重なりました。

その想いを抱いた瞬間に、それが罪だとわかっていた。
その手を重ねた瞬間に、この恋が破滅に繋がることはわかっていた。
その唇を重ねた時に、自分の全てでこの恋に殉じることを決めていた。

最初から最後まで、全く迷いなく、全くぶれることのないジョバンニ。
終盤、血のように赤い光を背に現れたその姿は、
目を背けたくなるくらいおぞましいのに、目を離せない美しさがあって。
胸が痛くなるほど痛ましいのに、輝くように幸福そうで。

命が果てるその瞬間まで、どんなに苦しくても、
自らの手でえぐり出したアナベラの心臓を離さなかったジョバンニの、そのただ一つの真実の想いは、
その心臓に宿ったアナベラの愛は、
枢機卿の「あわれ、彼女は娼婦だった」という言葉で断罪されます。
そして、その全てを見届けたドナードの呟く「正義」という言葉。

何が罪で。
何が悪で。
何が善で。
何が正義なのか。

その境界は本当に曖昧で。
その曖昧さが、不透明な澱のように心の底に残る―――そんなお芝居だったように思います。


触れられなかった役者さんのことを少し。
横田さんのヴァスケスは、その得体のしれなさと色悪っぷりにちょっとどうしようかと思いました。
初めて舞台で横田さんを見た時は、凄い癒し系だったんだけどなー(笑)。
いやでも、今の暑苦しい感じもすごい好きですv(褒めてます)
スペイン人の下りを聞いたとき、惣領冬実さんの「チェーザレ」のシレンツィオがちょっと思い浮かんだんだけど、
時代が全然違いますな(^^;)

リチャーデット役の浅野さんは、動きの多い役の印象が強かったので、
今回の内へ内へと入り込んでいくような役は新鮮でした。
ある意味この人がこの物語の悲劇の何割かの元凶だよね・・・
まあ、不貞を働いた妻に殺されかけたなら、やさぐれるのも仕方ないか(え)。

中村さんのマリンバの生演奏も素晴らしくv
まろやかで揺らぎのある音の繋がりは、この物語にとても似合っていたように思います。
上手の席だった時は、その流れるような演奏スタイルに、
思わず目がいっちゃったりしましたが(^^;)


結構重苦しい気持で迎えたカーテンコール。
裸足の蒼井優ちゃんが、飛び跳ねるように軽やかな足取りで出てきたのが凄い可愛かったv
まだ役の抜け切れてない浦井くんの、ちょっとこわばった笑顔も、
そんな蒼井優ちゃんの姿に少しずつ柔らかくなって・・・
仲の良い兄妹だった時の二人って、もしかしたらこんな感じだったのかな。
それとも、天国で二人はこんな笑顔でいるのかな。
そんな風に思ったら、ちょっと救われた気持ちになりました。
でもって、千秋楽のカーテンコールでは、伊礼くんが浦井くんと蒼井優ちゃんの手をつなぎ合わせて、
自分は宮さんの手を取るというサービス!
笑いながらさりげなくその手を振り払う宮さんがナイスでした(笑)。


そうそう、最初に書いたLACCOさんの曲が入ったアルバム、「心臓文庫」というタイトルだったりします。
何気にこの舞台とリンクしてる気してきた(思い込みです)。
癖のある楽曲だけど、とてもいいアルバムなので、もしよかったら手に取ってみてくださいね。
あ、トレーラー、貼っておこう!

https://youtu.be/83ym9bQZ4zo

1曲目が♪罪之罰 ですv


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