死神の擬態

擬態―――攻撃や自衛などのために、からだの色や形などを、周囲の物に似せること。

人に擬態する、そのことこそが、もしかしたら彼の退屈しのぎだったのだろうか。


「DEATH NOTE  THE MUSICAL」

2017.9.8 マチネ 新国立劇場中劇場 2階1列40番台

出演:浦井健治、小池徹平、唯月ふうか、髙橋果鈴、濱田めぐみ、石井一孝、別所哲也、
    松原剛志、麻田キョウヤ、安部誠司、荒木栄人、岩橋大、上野聖太、菅谷孝介、俵和也、
    遠山祐介、西野誠、安福毅、井上陽子、今泉由香、岡本華奈、河合篤子、栗山恵美、
    琴音和葉、斉藤綾香、森実友紀、吉田玲菜


というわけで、デスミュ再演に行ってまいりました。
今回はチケット先行に乗り損ねたので、一般発売後にこの1枚だけ確保。
なので、敢えての2階席からだったのですが、
私の身長だと最前列でちょうど銀橋に手すりが重なっちゃって結構ストレス・・・
新国立とACTと銀河劇場の2階席最前列は取らない、とあらためて心に決めました。
・・・いや、きっとまた忘れてとっちゃうんだけど(^^;)

そんな感じではありましたが、2階席からだと全体を俯瞰して観ることができるので、
やっぱり1回きりの観劇の時は2階席を選んじゃいますね。
今回も、舞台上の動きや照明の綺麗さなどを堪能させていただきました。
2年前も、細かなところを記憶するほどは回数を見ていないのですが、
あのラストシーンの光と闇の重なる黄昏のような色合いは、本当に好きだなあ、と思いました。

今回の記録を書くにあたって、初演の時の記録を読みなおしてみたのですが、
あまりに今回の感想と違っていて、自分でもびっくりしてしまいました。
そうか、初演の時は、「リュークの物語」って思ってたのか、私・・・
今回は、どう見ても「月の物語」―――崩壊の、物語でした。個人的には。

浦井くんのライトは、登場の時から周りとどこか違った。
上手く言えないけど、綺麗なものだけでできている存在のように見えました。
純粋さだけではなく、狡さや汚さも持っている同級生たちの中で、
彼だけはそういった濁りのない存在に見えた。
インクルージョンのある石の中に、一つだけ透明度の高い石が紛れ込んでいるような、そんな異質感。
デスノートを手にして、“力”を得た彼は、どんどんその透明な輝きを増して行って―――
でも、目がくらむような強烈な光の残像は、闇のような昏さなんだよね。
彼が、リンド・L・テイラーを殺したとき、そしてFBI捜査官を殺したとき、
正しい人たちのために、正義のためにその名を書くのではなく、
自分自身のために誰かの名前をノートに記したとき、彼の光は闇にすり替わった。
その変化は2階席から観てもぞっとするほど鮮やかでした。
ライトの周囲の闇が、どんどん深まっていくように見えた。
でも、それは彼が“神”に変貌したのではなく、夜神月という一人の人間の崩壊でしかなかった。

今回観ていて印象に残ったのが、“神”という言葉でした。
総一郎とのシーンで、二人は共に「神となれ」と歌い上げます。
けれど、同じ言葉でも二人には決定的な違いがあった。
総一郎が望んだのは、自分の信念を貫くために、自分自身“の”神となること。
ライトが望んだのは、自分の信念を貫くために、自分自身“が”神となること―――他者の、神となること。
きちんと歌詞を全て聞き取れているわけではないので、私の思い込みかもしれませんが、
この違いがこの物語の本質なのかもしれないなあ、とちょっと思いました。

自分自身のために他者の命を奪う―――それは、非常に“人間的”な所業だと思う。
“神”という存在を、私はきちんと考えたことはないけれど、“神”はもっと無慈悲なものだと思う。
リュークやレムも、そういう存在としての“死神”であって、
命を奪うことに目的を持ってしまったら、それはもう“神”ではない。
だからこそレムは砂になったんじゃないかな。
そう考えると、ライトはどうやっても“神”にはなれなくて。
最後の最後まで、小さな一人の“人間”として彼は生きていた。
こと切れる直前の彼の姿を見て、なんだかしみじみとそんなことを思ってしまいました。


そういう意味では、逆に“神”から崩壊していく存在として描かれていたのが、
濱田さん演じるレムなのかな、とも思ってみたり。
レムの行動のテンポとか、話し方、歌声の響き方はまさに人外!という感じで、
今回もその完成度に惚れ惚れしてしまいました。
というか、初演の時にもまして、美しい存在になっているように思った。
海砂に対する距離感が、心理的にどんどん変わって行って、
それに伴って、レムの白さの質がどんどん変わっていくように感じました。
透明で硬質な存在が、不透明で脆い何かに変貌していく感じ。
ライトとの対比はL、と思っていたけれど、もしかしたらレムなのかもしれないなあ。


小池くんのLは、2階席からだとほとんど頭のてっぺんしか見えなくて(笑)。
仰のいて歌った時だけ表情が見えるのですが、今回はちょっと上手く受け止めきれなかったかな。
なんというか、今回のLにはちょっと迷いがあったように感じました。
歌のシーンでも、その言葉のどこまでを、本当に納得してるのかな、と思った瞬間があった気がします。
終演後はLとライトの対比が鮮やか、と感じましたが、時間がたつとちょっと曖昧になってくるなー。
柿澤くんのライトとはどうだったんだろう・・・観れなかったのがほんとに残念!
それにしても、彼の最後の行動は、どこまでがデスノートによるもので、
どこまでが彼自身の行動なのか、やっぱり今回も気になりました(笑)。


ふうかちゃんの海砂は、初演の時よりもいろんな部分が滑らかになっていた印象。
強い想いを叩きつけるのではなく、想いが溢れ出る感じかな。
でも、最初からもの凄い悲劇的な雰囲気を漂わせていて、観ていて辛かったです。
ラストシーン、下手から歩いてくる海砂のシルエット、その首筋の折れそうな華奢さに、
砂を落とす手を見つめるその目の暗さに、なんだか泣きたくなりました。
記憶がなくなっても、想いは残る。
その現実を、あの瞬間の海砂は見せてくれたように思います。


別所さんは舞台で拝見するのはかなり久々だと思うのですが、
語りかけるような静かな歌声に、複雑な葛藤や溢れる想いが見えるようで、さすがだなあ、と思いました。
別所さんのバルジャンに惚れこんで、レミゼに通い詰めた頃を思い出しましたよ。
息子に対する信頼と疑念。
父である自分と、組織を率いる立場である自分。
その揺らぎが鮮やかで、だからこそ、あのラストシーンを満たす哀しみに繋がった気がします。
それは、粧裕の在り方にもよるかなあ。
髙橋さんの粧裕はからはとても強さを感じました。
もしかしたら、総一郎の「神となれ」という言葉を体現しているのは、
最初からライトではなく粧裕だったのかもしれない、と思うくらい。
明るい笑顔と、まっすぐ伸びる綺麗な歌声も、更にその印象を深めたかも。
自分自身の神となった揺るがない信念。
彼女は、それと同じものを兄も持っていると思っていたんだろうなあ。
兄の崩壊の気配を感じつつ、それでも信じることしかできなかった。
ラストシーン、横たわる兄に駆け寄り立ち尽くす総一郎と粧裕の在り方で、
この物語の感じ方は変わるのではないかと思う。
上手く言葉にできないけれど、あの静謐で、哀しみと、もしかしたら怒りにも満ちていたあの空間、
私はとても好きでした。


さて、石井さんのリューク。
えーと・・・めっちゃくちゃうざくて目障りでした!
いやこれ、本気で褒めてます!!
なんというかね、ライトへの関わり方の距離感が、凄く遠く感じた。
距離的には近いけど、心理的には遠いところ、というか違う次元からつんつんとちょっかい出してる感じ。
視界には入ってくるけど、こちらからはどうにもできない目障りさというか・・・
要所要所でいろいろ踏み込んでくるし、笑いも取ってくるけど、感覚として遠い存在。
倉庫でのシーンも、最初はその距離感は変わらなかった。
でも。
ライトがLを殺した直後に、ガラッと纏う空気が変わった。
同時に、ズンっと重さを感じるほどの存在感を放ち始めたように思いました。
ああ、リュークは擬態を止めたのだ。
退屈しのぎで人と交わる、そのための擬態を解いて、本来の“死神”の姿に戻ったのだ。
そう思って、ちょっと鳥肌が立ちました。

リュークは、大阪公演では石井さんの体調不良で俵さんが演じてらっしゃいました。
お友達によると、俵さんのリュークは石井さんとは全く違うアプローチだったとのこと。
人間臭さのまるでないリュークだった、というようなことを言っていたと思います。
石井さんの体調が戻ったのは本当に喜ばしいし、
石井さんのうざいリュークもかなり好きなのですが、
最初から最後まで“死神”のスタンスを崩さないリュークもちょっと気になるのが本音かも(笑)。
再々演があるとしたら、ぜひぜひリュークはWキャストでお願いしたいです!


またしてもアンサンブルさんについて書く前に力尽きそうです(^^;)
というか、1回きりではやっぱりアンサンブルさんの細かい動きや演技は拾いきれなくて・・・
でも、今回も刑事たちが選択するシーンの歌はかなり泣けたし、
学生たちや群衆のリアルさというか無機質感は素晴らしかったし、
何より彼らの歌声の美しさが、この舞台を支えているんだなあ、と心底思いました。

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