傍にいてほしい人

舞台を観ていると、時々、この人とお友達になれたら楽しいだろうなあ、とか、
この人が傍にいてくれたら心強いだろうなあ、とか、
この人とじっくりお話したいなあ、とか、
そんな気持ちになる登場人物とであることがあります。
今回出会ったとある登場人物も、家にいてくれたらいいなあ、と思いました。
お酒と甘味を用意しておくから、来てくれないかな・・・(笑)


「しゃばけ 弐 ~空のビードロ・畳紙~」

2017.9.7 ソワレ 紀伊国屋ホール I列一桁台 こんぺいとうチーム
2017.9.9 マチネ 紀伊国屋ホール E列10番台 かりんとうチーム

出演:平野良、藤原裕規、石井智也、岡村さやか、福井将太、田宮華苗、齋藤健心、山﨑千惠子、
    朝倉伸二、滝川栄治、美木マサオ、あきつ来野良、千田阿紗子、植田圭輔(声の出演)
      かりんとうチーム 金田茉子、田中一嵯、田中士道
      こんぺいとうチーム 岡部浬功、小峰遥音、新野杏樹


日本橋薬問屋長崎屋の若旦那一太郎(植田圭輔)を要とした、人と妖の物語「しゃばけ」。
畠中恵さん原作のこのシリーズ、私は文庫で読み続けています。
もの凄くのめりこむわけではないけれど、新刊が出れば手に取るし、
ゆったりと、時に複雑に交錯する時間軸の中で紡がれる物語は、楽しく、切なく、時に恐ろしく。
人と妖の、寄り添いはしても決して融け合うことのないそれぞれの在り方を、
妖と人のクォーター(だよね?)である一太郎が、
その危うい立ち位置で、けれど強固な要となることで、結びあわせている。
そんな物語と感じています。

ミュージカル「しゃばけ」の1作目は、公演が終わってからその存在に気づき、
その時点ではあまり心惹かれていなかったのですが(え)、
今回、ちょっと気になる役者さんが何人か出演されていることを知り、
これは是非生で観たいと、チケットを確保いたしました。

物語は連作短編の中の2作品をつなぎあわせたもの。
前半の「畳紙」は、一太郎の離れに集う屏風のぞき(藤原裕規)と、
とある事情から素顔が見えないほど白粉を塗っている、
紅白粉屋・一色屋の跡取り娘・お雛(岡村さやか)の物語。
後半の「空のビードロ」は、一太郎の腹違いの兄・松之助(平野良)の物語。
どちらも、原作でかなり好きだったお話だったので、
それを丁寧に描いてくださっているのが、観ていてとても嬉しかったです。

分類としては、2.5次元舞台になるのかな?
人間役は普通の素敵な着物姿でしたが、妖たちはそれぞれの特徴を出した衣裳でとても華やか!
オープニングの長崎屋のシーンでは、
この舞台で役付きの3人、佐助(滝川栄治)、屏風覗き、守狐(福井将太)以外の妖もいて、
誰がどの妖なのか、一生懸命原作を思い起こしていたのですが果たせず・・・
悔しいので初演のDVDを買いました(笑)。
客席降りもあったりして、これはもしかして結構アウェイな舞台なのかも、と思ったのですが、
物語が進むにつれて、真っ向勝負なミュージカルっぷりに感嘆しました。
楽曲も、物語の舞台背景に囚われず、バラエティーに富んでいて、
ショー的な要素もあれば、じっくりと心情を歌い上げる場面もあって、とても見ごたえがありました。

というか、前半のお雛ちゃん役の岡村さやかさんの歌声がとんでもなく素晴らしく!
どこかで見たことのある名前だなあ、と思ったら、
東宝ミュージカルや「ひめゆり」にも参加されてる方ですね。
幼い頃に二親を亡くし、祖父母に育てられたお雛。
十二の年、寂しさから戯れに白粉を塗ったところ、祖父母が心配して優しくなった。
そのことが嬉しくて、日々白粉を塗るようになり、今では誰もその素顔を知らないほどの厚塗りに。
その特異な容貌を揶揄されながらも、縁談もまとまり、幸せの絶頂にあるはずのお雛の、
けれど白粉では塗りつぶすことのできない不安や焦燥感を、佇まいと表情と、
そして何よりその歌声で鮮やかに見せてくださいました。
「私は幸せ」という歌詞の歌を、お雛は繰り返し歌います。
けれど、同じ歌詞でありながら、伝えてくる心情は明らかに異なっていた。
時に、自分に言い聞かせるように。
時に、誰かに問いかけるように。
時に、自らにかける呪いのように。
そして、最後には、本当に心の底からの幸せを彼女は歌った。
本当に、素晴らしかったです。

素顔が見えないほどの厚塗りの白粉。
それは、本当の彼女を隠す仮面であると同時に、
彼女にとっても、周りの人たちの思いを隠す仮面でもあった。
誰の心も―――自分の心さえも見えない暗闇の中、
それを破る道を照らす光をくれたのが、屏風のぞきだったのかもしれません。


屏風のぞきを演じたのは藤原さん。
某シリーズのDVDを見て心惹かれ、某役者さんのイベントでの諸々でこっそりよろめき(笑)、
是非、生の舞台で拝見したい!と思っていた役者さんで、今回やっと念願がかないましたv
屏風のぞきは原作でも好きなキャラクターではあったのですが、まずはその衣裳に驚いてしまいました。
いやー、紅白の石畳文様の着物、絵でみるのとは全然迫力が違いますね(笑)。
というか、足袋や股引(?)も同じ文様だった気がするんですが気のせいですか?
気風が良くてお調子者でちょっと自惚れ屋で、素直じゃないけどとっても情の深い屏風のぞきは、
藤原さんの切れのいい演技と艶っぽさがぴったりで、彼の自己紹介ソロはめっちゃ楽しかったですv
まあ、寝てたと思ったら目の前にいきなりそんな人が現れて歌い踊り出したら、
お雛ちゃんでなくてもびっくりですが(^^;)
お雛ちゃんが間違えてもし帰ってしまった印籠を取り戻すために、彼女の寝所に忍び込んだ屏風のぞきは、
彼を夢と決めつけたお雛ちゃんの身の上話や悩み相談を受ける羽目になるのですが、
いろいろ抵抗しながらも、お雛ちゃんの気持ちを受け止めて、どうにか彼女を笑顔にしようと奮闘します。
人とはやはり考えの根本が異なる屏風のぞきは、行き詰まってしまうわけなのですが、
一太郎の知恵を借りた屏風のぞきの行動で、お雛ちゃんはその仮面を外すことを選択します。
彼女がそう決意できたのは、それまでの屏風のぞきとのやりとりがあったからなんだろうなあ。
そう素直に思えるくらい、二人のやり取りはとても楽しくて、
そして、屏風のぞきとやりあうお雛ちゃんは、どんどん生き生きとしていったように思います。
そして、その根本にあったのは、屏風のぞきのちょっとわかりにくい、でも濁りのない情の深さなのかな、と。
冒頭で、息を詰まらせた赤ちゃんの一太郎を抱きしめ呼びかける姿も、
幼い一太郎と屏風のぞきが約束を交わすときの、一太郎を労わる不器用な手も、
そんな屏風のぞきの情を感じられるシーンで、ちょっと泣きそうになってしまいました。
なんかね、屏風のぞき、家にも来てくれないかなー、って結構本気で思ってしまった(笑)。
彼が傍にいてくれたら、お雛ちゃんみたいに凄く素直になれる気がするし、とっても心強い気がします。
フジワラスキーの一人であることを差し引いても、ほんとにそう思える屏風のぞきでした。
まあ、屏風のぞきは一太郎の傍にいるのが一番だけどね。
あ、フジワラスキーというのは、あの日紀伊国屋ホールの客席という江戸にいた妖の一つで、
他にフクイスキーとかヒラノスキーとか、タキガワスキーとかがいたらしいです(笑)。


歌がお上手、といえば、後半の主人公・松之助役の平野くんも素晴らしくv
藤原さんも出演されていた某DVDのカミサマ役とか、
初演再演と見せていただいた「さよならソルシエ」のフィン役とか、
いい役者さんだなあ、とこれまでも思っていたのですが、
ここまで歌声で全てを語る感じの役を拝見するのは初めてだったので、ちょっとびっくり。
さすがアッキーをリスペクトしてたことがあるだけある!と思いました(笑)。
一太郎の父の妾の子である松之助。
諸事情で幼い頃に母と共に長崎屋からは縁を切られ、新しい父親とは折り合いが悪く、
母の死後、桶屋・東屋に奉公に出た松之助。
帰る家も、後ろ盾となる親もなく、桶屋の小僧のまま未来の見えない日々を送る松之助。
松之助はとても歌が多くて、というか独白は全て歌、という感じなのですが、
そんな松之助の孤独や寄る辺なさ、そして諦念がひしひしと伝わってくるようでした。
空を見上げて、あるいは溜息の後、彼が歌いだすとふっとその場の空気が変わる気がしました。
なんというか、松之助の内面に引き込まれる、というか・・・
照明の効果もあるのでしょうけれど、そんな風に歌声と佇まいで観る人の気持ちを引き寄せるのは、
平野くんがいい役者さんだ、ということなんだろうな、と改めて思いました。

出口のない倦んだ日常の中で大好きな空を見上げることも忘れていた松之助。
そんな彼にもたらされる思いがけない優しさと、そこから繋がる未来への希望。
けれどそれは、自らの欲のために誰かを陥れることも厭わない人の心根により裏切られてしまいます。
その裏切りを知り、自らの存在が会ったこともない父や弟に害をなす可能性に思い至った松之助は、
それを阻むためにとある行動に出ようとします。
その時の、松之助の表情は、歌声は、それまでのある意味凪いだ雰囲気とは一変して、
迸るような鬼気迫る激しさがあって、思わず手を握りしめて見入ってしまいました。
その破滅に堕ちようとする松之助を引き留めたのが、タイトルでもある空色のビードロの根付で。
この根付、実は一太郎が腹違いの兄の様子をこっそり見に行った時に落としたものだということが、
終盤、東屋を出て困窮した松之助が長崎屋を訪れた時に判明するのですが、
原作を読んでいてその流れを知っていたはずなのに、
その事実に、張りつめていた糸がふっと緩むような安堵を感じたのも、
やっぱり松之助の表情と歌声があったからなんだろうなあ、と思いました。
うん、ほんとにこの舞台は良質なミュージカルだと思う。

一太郎に請われて、その後松之助は長崎屋で働き始めます。
妾の子、若旦那の腹違いの兄、という立場は、多分東屋にいた時とは違った意味で、
厳しい現実を松之助に突きつけるのかもしれない。
それでも、空を見上げる松之助の表情が、冒頭とは全く違うことに、
遠慮がちな彼の笑みが、自嘲の苦みではなく、小さな花が開くような明るさをにじませていることに、
なんだかとても嬉しくなってしまいました。
このシーンで、長崎屋をお雛ちゃんが訪ねてくるのですが、
お化粧を落とした彼女に一目で気づいて、素直に彼女を褒めることができる松之助に、
辛い時間を過ごしてきたからこそ、醜い人の想いに接してきたからこそ、
彼は美しいもの、優しいもの、明るいもの―――
そんな光に溢れたものに聡いのかもしれないな、と思いました。
また、この二人の歌う歌が本当に素敵でね・・・!
晴れやかな二人の笑みと、お雛ちゃんを見守る屏風のぞきの悪戯っぽい笑みに、とんでもなく癒されましたv


佐助役は、滝川さん。
原作からの個人的なイメージとはちょっとずれていましたが、
どーんとした安定感のある、でもちょっとお茶目な体育会系佐助(笑)を見せてくださいました。
ストーリーテラー的な部分も担ってらっしゃったのですが、
後半に佐助が出てくると、ちょっと不穏な感じがしてドキドキしました(笑)。
若旦那至上主義が揺るぎない感じも良かったなあ。
長崎屋での松之助とのシーンで、雲の帰る場所を問われたときの言葉は、
多分普通に彼は知っていることを答えただけなのだと思うけど、
あの言葉が、どれだけ松之助を安心させたのかと思うと、佐助の真っ直ぐさが愛しくなりました。
「決めてしまえばそこが帰る場所(居場所だったかも)」的な言葉も、
それまで紡がれていた二つの物語が、それぞれに帰る場所を探すものであっただけに、
その単純な答えがどれだけ難しくて、でもどれだけ簡単なのかをすっと届けてくれました。

居場所、帰る場所、というのがこの舞台のテーマだったようですが、
ここで描かれた二人だけでなく、長崎屋に集う妖たちにとっても、
それは永遠のテーマなんだろうな、と思います。
一太郎という、人間からも妖からも異質な存在があって、初めて成立する彼らの居場所。
決して融け合うことのない人と妖の摂理の中で、
その居場所は、人の寿命と同じくとても儚いものなのだろうと思う。
原作では、その辺に少しずつ切りこんできている印象があるのですが、
今後彼らの居場所がどうなっていくのか、とても気になります。


守狐役の福井くん。
初見かと思ってましたが、某DVD(しつこい)に出演されてましたね。・・・女役でしたが(^^;)
守狐は、原作では一太郎のお母さんに憑いてた気がするんですが・・・まあ、可愛かったからいいか(笑)。
狐の手をしてるところとか、鳴家たちを屏風のぞきにけしかけるところとか、
深刻になってしまいそうな物語の中で、ふっと力を抜く瞬間を作ってくれる感じでした。
というか鳴家のちびちゃんたち、めっちゃ可愛かった!!
後半の始まり、江戸中を調査で走り回った、というのを守狐と屏風のぞきが力説するシーン、
二人の微妙なネタが非常に楽しくv
2回ともほぼ同じ感じだったのだけど、その後の佐助の台詞(「俺も話し合いに入れてくれ」的な)だと、
このシーンは日替わりアドリブだったのかしら?


東屋の長男、与吉役の石井さん。
ある意味とても分かりやすい憎まれ役のぼんくら長男なのだけど、
ふとした瞬間に、素直になれない彼の心情や優しさ、一生懸命さが見える気がして、
一人でこっそり癒されてました。
東屋を出ていく松之助に声をかけるシーン、よかったなあ!
強い母と妹に挟まれて、彼は彼なりに苦労してるんだろうなあ、と思います。
うーん、頑張れ与吉!(笑)

与吉の妹、おみつ役の田宮さん。
気が強いけど聡明で優しいお嬢さんを二重の意味で見事に演じてらっしゃいました。
カーテンコールの挨拶で、子役ちゃんたちにも嫌われてるけど、それでいいんです、
私を嫌っても「しゃばけ」は嫌いにならないでください、的なことを言ってましたが、
私は田宮さんのおみつちゃん、結構好きだったなあ。
松之助の立場に立っちゃうと、確かにとんでもないお嬢さんなのだけど、
あの勝気さとある意味まっすぐな切実さは素敵だったと思います。
というか、この方も綺麗な歌声で!
仮面のシーンでお雛ちゃんの分身みたいな感じで女性二人が仮面を持って歌い踊るのですが、
多分田宮さんと千田さんで。
高く透き通るような歌声が、本当に美しかったです。

東屋のシーンでは、奉公人たちが歌う♪奉公人ブギ がすっごい楽しかったです!
朝倉さん演じる番頭さん、斉藤くん演じる平太、
千田さん演じる女中さん(おかねさんだったかな(^^;))と松之助が、
奉公人の辛さを歌う歌なのですが、お椀や箸で拍子をとり、しゃもじをマイクに見立てて歌い、
ノリノリに踊りまくる感じで、戸惑いながらも引っ張り込まれる松之助もおかしくて、
めっちゃ楽しくなっちゃいました。
まあ、歌われていることはシビアなんですけどねー(^^;)
2回目の時は上手席で、若者には加わらずに一人座ってる番頭さんの正面だったのですが、
番頭さんが、御櫃の蓋を締めたり、飛んでる蚊を取ろうとしたりして、
さりげなく、でもきちんと楽しそうに参加されてるのが見えて、思わず見つめちゃいました。
で、楽しいシーンだけど、その後の番頭さんの行動というか、
この時点でも番頭さんは深い苦悶の中にいたのかと思うと、なんだかちょっと泣けてきてしまい・・・
あの耳朶にはよくあったことだったのかもしれないけれど、
番頭さんのあの最期は、本当に哀しかったなあ。
松之助が打ちのめされるのもわかります。


でもって、2回観て感嘆したのが、黒子のお二人、美木さんとあきつ来さんのご活躍!
気配を消すべきところでは消し、存在感を必要とするところではきちんとその役を伝え…ほんとに凄い!
お雛さんの歌の仮面のシーンでは、本当に仮面だけが浮いているように見えました。
たぶん、休む間もなかったんじゃないかと。
舞台を光の中で引っ張っていったのが主要キャストのみなさんだとしたら、
黒子のお二人はその土台をしっかりと支える、なくてはならない存在だったのだと思います。


そんな感じで、とても楽しめた舞台でした。
一つ残念だったのが、一太郎役の植田くんが声の出演だけだったことかなー。
声の出演、と知ったときに、回想くらいなのかな、と思っていたのですが、
台詞はしっかりあるし、最後は松之助とのデュエットもありました・・・
これ、千秋楽だけでも植田くん出演!とかのサプライズがあるんじゃないかと本気で思いましたよ。
多分、スケジュールの関係だったのだと思いますが、
(仁吉がいなかったのも、中の人が西で錫杖振り回してたせいかしら・・・?(笑))
それだけがちょっと残念でした。
・・・とか思ってたら、植田くん出演のミュージカル第3弾の告知がさっそくありましたね。
カーテンコールの後に、それを示唆する予告みたいなシーンがあったので、
なんとなく予感はあったのですが、新作、とっても嬉しいですv
でも、その嬉しいニュースの後に、佐助役の滝川さんが撮影中に怪我をされたとのニュースが流れました。
続報が来ないので、なんだかとても心配ではありますが、
怪我が後を引くものではないこと、怪我が早く治癒されることを祈りつつ、
来年の春、舞台の上のあの佐吉にまた出会えることを楽しみにしていようと思います。

で、それまでに原作探し出して読みなおさなくては!
どこにしまったかな・・・?(^^;)

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