旅立ちの勇者

気が付いたら10月最初の1週間が終わろうとしています。
この1週間、ちょっと個人的に落ち込んだり辛かったりすることが多くて、
時間がないわけではないけど、観劇記録を書く気持ちの余裕がありませんでした。
ええ、決して、この舞台の後遺症というわけではないです!
・・・たぶん(^^;)
まだまだ問題は解決してなくて気持ちがちゃんと向いてはいませんが、
とりあえず、観たよー!の記録だけしておこうかと思います。


「人間風車」

2017.10.1 マチネ 東京芸術劇場 プレイハウス 1回M列18番

作、後藤ひとひと
演出:河原雅彦
出演:成河、ミムラ、加藤諒、矢崎広、松田凌、今野浩喜ぶ、菊池明明、河村紗也、山本圭祐、
   小松利昌、佐藤真弓、堀部圭亮、良知真次


最初にいきなり断言しちゃいますが、私はプロレスは見ません。
家族が嫌いだった、ということもあって、TVで映ったらチャンネルが即変わるし、
生きてきた中でプロレスと触れ合ったことがほとんどありません。
なので、この舞台のタイトルも、不思議だけどなんだか可愛いタイトルだなあ、と思っていました。
ここがそもそもの間違い。
でもって、事前に何の情報も仕入れず、同じ後藤さんのガマザリのノリで観にいちゃったんですよねー。
それが最大の誤解(笑)。
で、始まってみたら・・・

めっちゃくちゃ怖かったです!!

いえ、冒頭は結構シニカルだけど楽しい感じだったんですよ?
売れない童話作家の平川(成河)が公演で子どもたちに語る自作の物語が、
テーマパークのアトラクションみたいなノリで演じられるシーンは、
役者さんのどこかぎこちない動きと敢えて棒読みな台詞回しや、極彩色の衣裳が、
まるで人形劇を見ているような雰囲気だったし。
絵本を買うのは子どもではなく大人、という平川の友人の絵本作家・国尾(良知真次)の言葉も、
良い人や頑張った人が報われるのではなく、不幸にさらされる理不尽な物語を子どもたちが喜ぶ姿も、
うんうん、ある意味真理だよねー、と思いながら観ていました。
子どもたちのお母さん方の描き方とか、デフォルメしてあるけど納得しちゃうところもあって、
カラフルでどこか歪んでいて、でもなんとなく懐かしい回り舞台のセットの中に描かれる物語の、
不思議なアンバランスなバランスの良さを楽しんでいました。
パステルカラーやセピア色の物語の中で、矢崎くん演じる小杉の黒い染みのような存在感とか、
堀部さん演じる刑事さんの、現実との命綱のような揺るがない在り方も、
ミムラさん演じるアキラの、全てを背負いながら歩くための笑顔の既視感も、
そして、加藤くん演じるサムの、アキラの笑顔よりも強烈な既視感も、
あの不思議な空間の中に生きる彼らはとても鮮やかで、
善意だけでなく悪意や嫉妬や卑屈や嘲笑や・・・そんなマイナスの感情も違和感なくそこにあるように思った。
あの、瞬間までは。

アキラと出会い、“美しい”物語を描いた平川。
それは、子どものため―――かつて子どもだった自分のためではなく、
大人のため―――これからを生きる自分のための物語だったように、私には感じられた。
美しく、強く、優しく、希望と赦しと未来を感じさせる物語。
でも、それは、全てを狂わせた。

ここから先は、もう本当に観ているのが辛くて。
平川が、サムに向かって語る物語は、“言葉”であるが故に、
直接的に私の中に届き、その情景を浮かび上がらせた。
平川の鬼気迫る、迸るような、叩きつけるような、吐き出すような言葉を前に、
私は逃げ出したくて仕方なかった。
たぶん、通路側の席だったら、逃げ出していたと思う。
そのくらい、彼の“物語”が描き出す情景は圧倒的で―――
その言葉に侵され、満たされ、塗りこまれていくサムの素直な魂の無残さと変貌に、
その先の展開が予想されて、その救いのなさに、もうどうしたらいいのかわからなくなった。
そのくらい、平川の―――成河さんが紡ぐ“言葉”の力は凄くて、
そのことに感動し、陶酔する自分もどこかにいたような気がします。

その後の諸々は、今でも思い出すのが辛いです。
感情的に、生理的に、絶対に受け入れられない場面ばかりだった。
正直、目をつむってしまったシーンもたくさんありました。
でも、目をつむっても脳裏には平川の言葉で想起された情景が思い浮かんでしまうんですよ。
“言葉”が、“物語”が創り出したサム―――ビルという殺人鬼。
その存在を消すのも、平川の紡ぐ“物語”だった。
平川が即興で語り出す、翼を持つ少年ダニーと盲目の少女の物語。

これまで語られた平川の物語は、彼や周りの人々の経験や言葉が盛り込まれていました。
ある意味、彼ら自身であったと言ってもいいと思う。
作家は自分を切り売りする、と平川は言ったけど、
現実と繋がった“彼ら”は、もしかしたら“物語”にはなり切れていなかったのかもしれない。
それが、平川の、童話作家としての限界になっていたのかもしれない。

けれど、その物語は違っていた。
私の認識が甘いのかもしれないけれど、
ダニーと少女は、“誰かの物語”ではなく、全てが平川によって創り出された存在だったように思うのです。

サムを支配した、ビルという名前の平川の悪意。
激情から生まれたからこそ、あっという間にサムを侵していったその物語は、
丁寧に紡がれる新たな“物語”に少しずつ押しやられ、塗り替えられていった。
その過程。
ビルが、サムとなり、そしてダニーとなるその過程はあまりにも鮮やかで。
そして、それを成し遂げる平川の“言葉”の力は圧倒的で―――
サムだけでなく、客席にいる私たち観客までをも塗り替えていくように感じられました。
その“物語”のラスト。
小さな命を助けたダニーが、けれどその身体に生えた翼を拒絶し、心の翼で塔から飛び立つ瞬間。
平川はふっと客席を見渡しました。
その顔には、確かに笑顔があった。
自分の創り出す“物語”の力を実感する者だけが浮かべることのできる笑顔が。
そして、その笑顔を見た瞬間、私も彼の物語に塗り込まれた。
光の中、笑顔で飛び立とうとするサム―――ダニーを見上げる私は、確かにこの“物語”の登場人物だった。
その感覚は、得も言われぬもので。
この感覚をもう一度体験できるのであれば、
この耐えがたく残酷な舞台に、もう一度足を向けてみたくなるくらい、心惹かれる何かがあった。

全てが終わった後。
全てを失った平川は、思い出の全てに背を向けて、別の町へと旅立とうとします。
その時に鳴る、置き忘れられた誰かの携帯電話。
戸惑いながら通話ボタンを押した彼の耳に響く声―――ビルの、声。
呆然と立ちすくむ平川の姿が、私にはRPGの勇者のように見えました。
自分の罪を背負って、強大な敵を倒す使命を背負って、一人旅立つ孤独な勇者。
彼の物語は、今、始まったばかり。


うーん、こうやって書いてみると、なんだかもう1回観たくなってしまいます。
まあ、その勇気もメンタル的余裕もないんですが(^^;)
とりあえず、成河さんはやっぱり凄い役者さんだと思いました。
凄いというか、凄まじい。
次に舞台で拝見できるのはいつかなー。
これからも目が離せない役者さんの一人ですね。

ミムラさんは、舞台で拝見するのは初めてですが、独特の声が魅力的な方でした。
アキラとサムのあれこれは、なんというかもういろんな感情が浮かんでしまって、
これもある意味めちゃくちゃきつかったです。
悪意が誰かを傷つける物語の中で、
悪意ではなく愛情の結果が大切な存在を傷つけてしまうエピソードが挟まれる。
これもめちゃくちゃ残酷だなあ。
アキラの最後は疑問と絶望に満ちていたと思うのだけれど、
あの瞬間に彼女が感じていたものが何なのかが、ちょっと知りたくなりました。

良知くんの国尾は、どこかで平川に甘えているような気がしました。
平川を心配しながら、でも、彼が居ることでどこかほっとしている自分がいることを、彼はしっていて、
だからこそ更に平川に優しくなるのかな、と。
あの盗作の諸々も、彼は最初から盗もうとしたわけではないと私は思うのね。
大切な友人である平川が書いた素晴らしい物語を、ただ純粋に誰かに読んでもらいたかったのかな、って。
あの物語を読んでいる時の、驚きが喜びと興奮に変わる様子にはマイナスの感情はなかったと思う。
まあ、私が騙されてるだけかもですが(^^;)

逆に、矢崎くん演じる小杉は、かなり露悪的な男だなあ、と思いました。
目的のためには手段を選ばない。
ちゃらくて、口が悪くて、身勝手で、傲慢。
でも、相手を見下す意図がないとは言えなくても、平川に対しての情はあったんじゃないかな。
彼が、平川が書いたあの花の物語を読んだら、どんな反応をしたのかが気になりました。

そういえば、平川と小杉と国尾って、同級生だった、という言葉があった気がするのだけど、
それ以上のかかわりもあったのかな。
物語に出てきたにこにこハウスというのと、それを読んだときの国尾の表情が引っかかりました。
もしかして、にこにこハウスって児童養護施設で、彼らはそこで育ったのかなあ、なんて。
うがちすぎかな?
それにしても、冒頭の王女に求婚する農民な二人、素敵でございましたv
矢崎くんもちゃんと足は上がってたと思うけどなー(え)。

松田くん演じる則明をはじめとした子どもたち。
大人が演じている子どもたち、というのはどうにもシュールな感じになりますが、
子どもにしか見えない瞬間もあったりして役者さんって凄いなあ、と思いました。
うんうん、子どもってこうだよねー、と思うところも幾つか。
子どもって、大人が思っている以上にいろんなことが見えていて、
大人が思っているほど純粋じゃなくて、
でも、大人が思っている以上にいろんなことを考えているんだよね。
平川の物語と子どもたちの関係性については、ちょっといろいろ深読みしたくなりました。

加藤くん演じるサムは、そこにいるだけで独特の世界を創り上げているような存在感に、
まずちょっとびっくりしてしまいました。
彼については、ちょっと上手く言葉にできない。
彼の行動を、いろいろ考察して説明することは可能なのかもしれないけれど・・・
鏡のようでもあり、箱のようでもあったサムという存在。
でも、その理由は、彼がからっぽだからでは決してないと、そう思います。

堀部さん演じる刑事さんは、とにかくめちゃくちゃかっこよかったです!
アキラとは別の意味で、全てを背負う覚悟のある人だな、と思った。
もしかしたら、この物語の中で唯一の“大人”なのかもしれないな。

大人と言えば、川村さん演じる中野さんも大人だったなあ。
アキラは、もっと彼女に頼っても良かったんじゃないかな、とちょっと思いました。
というか、お友達になってほしい(笑)。

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