彼の言い訳

大人になると、諦めることが上手くなる。
何らかの理由をつけて。
何かを理由にして。
何かを守るために、自分に言い聞かせる。

彼は、きっと子どものころからそうして自分を守ってきたのかもしれない。


「ダディ・ロング・レッグズ 」

2017.11.11 ソワレ シアタークリエ 10列20番台

原作:ジーン・ウェブスター
音楽・作詞・編曲:ポール・ゴードン
編曲:ブラッド・ハーク
翻訳・訳詞:今井麻緒子
脚本・演出:ジョン・ケアード
出演:井上芳雄、坂本真綾


というわけで、待ちに待ったDLLを観てきました!!
3年・・・長かったようなあっという間だったような(笑)。
記憶はもうずいぶん薄れているかなあ、と思っていたのですが、
劇場に入って、舞台の上にあの素敵なジャーヴィスの部屋を見た瞬間、
余りの懐かしさになんだか泣きそうになりました。
そして、始まった二人の物語―――

なんというか、この舞台を再び観ることができたこと、
いや、この二人にまた出会えたことの幸せを、しみじみと噛みしめた2時間半だったように思います。
再演してくれてありがとう!とお二人はもちろん関係する方全てに言いたくなっちゃう感じでした(笑)。

とはいえ、3年の月日を経て、もちろん変わっていることもあったわけで。
演出などいろいろ変わっている、というのはなんとなく聴いてはいたのですが、
今回のDLLは、びっくりするほど“ジャーヴィスの物語”になっていたように思います。
視線のフォーカスが、ジャーヴィスに合っているというか、
ジャーヴィスを通してジルーシャを見ている感覚というか・・・
ニューヨークのシーンや卒業式のシーンの曲が変わって、
ジャーヴィスの歌になっていた、ということも大きいのですが、
それだけではない気もするなあ。

なんにしろ、井上くん演じるジャーヴィスの変化は、目を見張るような鮮やかさがありました。
物静かでちょっと偏屈で斜に構えたような大人な紳士。
そのモノトーンな表情が、ジルーシャの手紙を読み、彼女に興味を持ち、そして彼女に接するうちに、
どんどん豊かな色彩を帯びていくのです。
表情だけでなく、仕草も、動きも、もちろん歌声も。
それは、何かを諦めて生きてきた彼が、もう一度何かを欲し、
そのために動きだす瞬間だったのかもしれません。

ジャーヴィスは、何かをするとき、いつも言い訳をしていました。
ジルーシャの手紙に心踊る理由も。
ジルーシャに手紙を書けない理由も。
ジルーシャに、ダディとしてではなくジャーヴィスとして会いに行く理由も。
彼は、いろんな“理由”を言い訳にしていた。
でも、それはきっと、彼がずっとそうして生きてきたからなんだろうな、と思うのです。
理由をつけて、言い訳をして、何かを諦める。
多分彼は、孤独な少年時代も、親族と馴染めない今も、諦めることで自分を守った。
それは、日常の小さな、けれど抗うことのできない何かにずっと打ちのめされてきた彼が、
自分を守るために唯一持ちえた手段―――鎧だったのかもしれません。

けれど、ジルーシャの持つ輝きは、そんな鎧を吹き飛ばしてしまうような強さがあって。
その輝きは、彼の言い訳を、諦めるためではなく欲しいものを手にするためのものにシフトさせた。
それは彼にとってはまさに、パラダイムシフトと言っていいくらいの大きな変化だったのではないでしょうか。
♪チャリティーを歌うジャーヴィスの、全ての鎧が剥がれ落ちたかのような溢れ出る感情を見て、
そんな風に感じてしまいました。

真綾さんのジルーシャは、健気なところも前向きなところも凛々しいところも、
ちょっと毒舌で面倒くさいところも、相変わらず本当に魅力的で!
でもね、ジャーヴィスとは逆に、彼女は最後の最後まで自分の中にある“弱さ”を見せはしなかった。
ダディに出す手紙の中の彼女は、彼女が“こう在りたい”と思う自分なのかもしれない。
その感覚は、以前観た時と同じです。
でも、今回その感覚を思い出したのは、本当に最後の最後、
ジャーヴィスのプロポーズを断った理由を書いたダディへの手紙を読んだときでした。
その瞬間まで、私にはまったく、彼女に刻み込まれている“疵”が見えていなかった。
まさに、ダディ―――ジャーヴィスと一緒に、懸命な彼女の嘘に騙され続けていたのだと思います。
だからこそ、あの瞬間の衝撃はとても大きかったし、
そして、多分ジャーヴィスと同じように、彼女が更に愛しく大切な存在に思えた。

うん、やっぱり今回のこの物語は、“ジャーヴィス(から見たジルーシャ)の物語”なんだな。
そういう意味では、このミュージカルは、ある意味最高に贅沢な二次創作なんじゃないかな、と思う。
元の小説に描かれていない部分を、主人公とは別の視点から描き、補完する。
ね、まさに二次創作!(笑)
前の演出の時は、そういう風にはあまり感じなかったことを考えると、
やっぱり物語の“視点”って大事なんだなあ、と思ってしまいます。

ジルーシャを主体とした前の演出も好きだったし、
ジャーヴィスを主体とした今回の演出も、ジャーヴィスの感情の変遷がとてもわかりやすかったし、
見えてくるものが全く違ってくるのが、とても面白かったです。
前演出をジルーシャver.、今回の演出をジャーヴィスver.として、
交互に上演してもいいんじゃないかな、なんて思ってしまいました。
まあ、それだとお二人がめっちゃ大変になりそうですが(笑)。

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