漆黒の宝石

モノクロのその世界の中。
彼女は漆黒の宝石のようだった。
周りの全てを圧倒する美しさを持ち、
なにものにも傷つけられない硬度を持ち、
けれど、たった一度の恋が、鋭い彼女の心を打ち砕いた。

―――多分それは、彼女自身が望んだ結末。


「黒蜥蜴」

2018.1.13 マチネ 日生劇場 2階A列20番台

原作:江戸川乱歩
脚本:三島由紀夫
演出:デヴィット・ルヴォー
出演:中谷美紀、井上芳雄、相楽樹、朝海ひかる、たかお鷹、成河
   一倉千夏、内堀律子、岡本温子、加藤貴彦、クイン鈴木、滝沢花野、長尾智平、萩原悠、松澤匠、
   真瀬はるか、三永武明、宮菜穂子、安福毅、山田由梨、吉田悟郎、小松詩乃、松尾望


美貌の女盗賊・黒蜥蜴による宝石商の娘の誘拐と、彼女を追う探偵・明智小五郎の攻防を描いたこの作品。
私は原作も未読だったので、まっさらな状態での観劇となったわけなのですが・・・

なんか、凄いものを見た!!

というのが終演後最初の感想でした。
我ながら語彙が乏しすぎる(笑)。
いやでもね、いろんな意味でもの凄く贅沢な舞台だなあ、と思いました。

豪華な配役。
麗しい衣裳。
シンプルなセットなのに、渦を巻いて流れていく水のように観客を引き込む動線。
柔らかに空間を満たす生バンドの演奏。
繰り広げられる荒唐無稽な物語。
そして、その物語に人の肌のような温もりと湿度を持った陰影を刻む美しい日本語。
文章で読むと美しさよりも硬さや難解さが先に立つ(個人的にね)言葉たちが、
役者さんの身体を通して生を得ると、こんなにも生々しい美しさを発するのだと、
なんだかうっとりと聞き惚れてしまう瞬間が何度もありました。
それに、今回2階席から覗きこむような形での観劇だったこともあり、
なんだか精巧にできたドールハウスを見ているような・・・違うな、これはあれだ!
のぞきからくりだ!
穴を覗いた先に広がる美しく静謐な世界を、息をひそめてみつめているような、そんな感覚になりました。

その感覚の根底は、やっぱり中谷美紀さんの黒蜥蜴の存在なのかなあ、と思う。
美しく謎めいた女盗賊、黒蜥蜴。
その、現実にはあり得ないような存在を、中谷さんは現実と虚構の狭間のような場所で、
鮮やかに形作っていたように思います。
彼女が、奪い取った宝石「エジプトの星」を手に、独白するシーンがあるのですが、
まるで、彼女自身が硬く冷たく、全ての温もりを弾く漆黒の宝石のようで。
彼女をあんなふうに硬質な美しさに磨き上げたのは、いったいどんな孤独だったのだろう。
漆黒のドレスを纏い、細く白い首筋と腕をさらけだす彼女は、まるで体温を持たない存在のようで。
彼女をあそこまで冷たく凍えさせたのは、いったいどんな絶望だったのだろう。
物語の中では語られない彼女の過去に、想いを馳せてしまいました。
そんな硬く冷たく、でもだからこそなにものにもない美しさを持つ彼女を変えたのが、
明智小五郎への恋慕で。

井上くん演じる明智小五郎は、私の目には何というかとても“普通の人”に見えました。
名探偵、なわけですし、滔々と犯罪論(かな?)を語るところからも、
決して普通の人ではないのでしょうけれど、
なんて言えばいいのかな、現実の比重がとても大きな存在なのだと思う。
現実の時間。
現実の場所。
現実の感情。
現実の体温。
そういう、黒蜥蜴とは対極にあって、でも、対極だからこそ惹かれあい、求めあう。
丁度、白と黒の勾玉が組み合わさった、太極図みたいな感じ?
確か、明智が黒蜥蜴に惹かれていることを部下に指摘されて動揺するシーンがあったと思うのだけれど、
惹かれている、ということすら意識しないくらい、彼にとって黒蜥蜴を追うことは自然なことだったのかなー。
でも、互いが互いを求めることは、互いが互いを破滅させることで。
それを、黒蜥蜴だけがわかっていたのかなあ、なんて思いました。
わかっていたから、彼女は明智を殺そうとしたし、
明智が生きていることがわかったら、その歓喜と共に自らを滅ぼすことを選んだのかな。

最期、明智の腕の中で息絶える黒蜥蜴は、一人の“普通の女”に見えた。
でも―――いや、だからこそ、その姿はそれまでの彼女とは違った美しさがあったように思います。

早苗役の相楽樹ちゃん。
世間知らずに見えながら、実は結構一筋縄ではいかないしたたかさのあるお嬢様な印象でした。
後半の彼女は身代わりの別人だったわけなのだけれど、
最後に早苗本人が婚約者と共に出てきた時に、ああ、彼女は大人になることを選んだんだな、と、
訳もなく思ってしまいました。

成河さん演じる雨宮は、黒蜥蜴に心酔し、黒蜥蜴のためなんでもして、
黒蜥蜴のためだけに生きていく存在かと思いきや、
まるで夢から醒めるかのように彼女の呪縛から逃れる様に、
ちょっと呆然としつつも笑ってしまいました(^^;)
黒蜥蜴に抑圧されて、抑圧されることに喜びを見出しているかのような佇まいも、
まさに乱歩の世界の登場人物!という感じの存在感でしたが、
あの転身の後の笑顔と声音の晴れやかさもとても印象的で。
黒蜥蜴と明智との対比が、なんとも残酷だなあ、と思ってしまいました。
いやまあ、この二人も前途多難だろうけどね。

朝海ひかるさんは、黒蜥蜴の忠実な部下、だったのかな?
岩瀬家に潜入中の時の家政婦さん姿と、ぴったりとした黒衣を纏った姿は、
なんというか背の高さまで違っちゃってるみたいに見えて、
両方とも朝海さんなのか、一瞬地震が持てなくなりました(^^;)
彼女と黒蜥蜴の関係性も、なんだか不思議な感じだったなあ。
ラストシーン、黒い影のように舞台の奥で短いダンスというかポーズを決める姿が、
静寂と哀しみに満ちた感じでとても美しかったです。

影と言えば、黒蜥蜴に付き従うダンサーのお二人、小松詩乃さんと松尾望さん。
冒頭、上手の階段の上にいるときから、ふとした瞬間にその気配を感じるような、
なんだか不思議な存在でした。
この二人は現実なのか虚構なのか―――まさに、黒蜥蜴の影のような存在だったのかなあ。


舞台の雰囲気にのまれた感じで、実はあんまり細かな記憶がないので、
いつも以上に観念的な記録になってしまいました(^^;)
もう1回観れればまた違ったものが受け取れたのかもしれないけれど、
1回きりだからこそ、より感覚的な受け止め方ができたのかもしれないなあ。
きちんとした感想にはなっていないけれど・・・

うん。
やっぱり“凄いもの”を私は見たんだな。

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