イドラ

染井吉野が一気に満開になったかと思ったら、
山桜が満開になって、
咲き始めたな、と思った八重桜が一日で満開になり、
今日はもう花水木が満開になっていました。
芍薬も咲いていたし、藤の花芽も色づいて来ていたし、今年の春はほんとに駆け足!
もう10年以上通っている職場への道なのだけど、
毎年花が咲くのを楽しみにしている木や山や野原もあれば、
「こんなところにこんな花が!」と毎年何かしらで驚いていたりもします。
変わり映えのないように感じている通勤路も、1年の時間の中で気づかない変化があるんだなあ。
仕事に追われつつも、そんなことをしみじみ感じた1週間でした。

さて、書きそびれていた観劇記録を。


「Romale」~ロマを生き抜いた女 カルメン~

2018.3.31 ソワレ 東京芸術劇場プレイハウス 1回E列10番台

出演:花總まり、松下優也、伊礼彼方、KENTARO、太田基裕、福井晶一、団時朗、
    一洸、神谷直樹、千田真司、中塚皓平、宮垣祐也


恋多き情熱的な女、あるいは魔性の女、というイメージのあるカルメン。
その真実の姿を求めて研究の旅を続ける社会人類学者ジャン(福井晶一)が、
彼女を知る一人の老人(団時朗)にカルメンとホセの話を聞く、という形で物語は進んでいきます。

カルメンと出会うまでのホセ(松下優也)の人生。
カルメン(花總まり)との出会い。
彼女を取り巻く男たちとの確執―――からのホセの選択。
そして、最後にホセがカルメンに求めたものと、彼女の答え。

そんな風に、物語はホセを中心に語られていきます。

私自身は、「カルメン」は原作は読んだことはないし、
オペラもあらすじを知っているくらいで実際に観たことはないし、
どちらかというと漫画の題材やフィギュアの演目のテーマから形作られたイメージがあるくらいです。
ですから、わりとまっさらな気持ちでこの物語に向かいあえたと思うのですが・・・

これは、偶像(イドラ)の物語だな、と思った。
真実の姿ではなく、社会的な、人種的な、ジェンダー的な、人間的な先入観に、
挑み、願い、求め、絶望し―――諦観した女の物語なのだと。

花總さんのカルメンは、蓮っ葉な物言いや振る舞いの中に、強かさや賢さ、純粋さが垣間見える女性でした。
正直これまで花總さんが演じてきた高貴な女性のイメージが強いので、
最初はちょっと違和感があったのだけれど、
(一人称が台詞だと「あたい」なのに、歌だと「あたし」なのも凄い気になった(^^;))
物語が進むにつれて、ままならない現状の中で譲れない大切なものを内に秘めて、
未来に向かってあがいている姿は、これまでのヒロイン像ともつながるな、と思ったり。
次々の男を手玉に取るのも、恋多き女故ではなく、
彼女なりの策略であり、戦いだったんだなあ、と思う。
そんな彼女が、愛した男に伸ばした手を取ってもらえない―――気づいてもらえないまま、
絶望と諦念に染まっていくのが、なんだかとても悲しかった。
彼女を取り囲む男たちは、誰一人“彼女自身”を見てはいない。

白人とロマ。
男と女。

前提として平等ではないその関係性。
その中で、彼女を求める男たちは、彼女の人生を受け止めるのではなく、
彼女を文字通り物のように“手に入れ”、支配しようとした。
その筆頭が、私にはホセのように感じました。


松下くん演じるホセは、若く世間知らずな青年・・・なのだけど、
私には、浅慮で短慮で直情的な愚か者にしか見えませんでした(すみません)。
なんというか、この物語の悲劇のほとんどは彼のこの気質に寄るんじゃないかなあ、と思う。
決闘の後のいざこざでうっかり相手を殺してしまい、その罪から逃れるために故郷から出奔、という時点で、
ちょっとこの子大丈夫なの?!と思ったのだけれど、
それでも最初の辺りは、これまで接したことのないロマの美しい年上の(多分)女に魅了され、
彼女のわかりにくい優しさという誘惑と、宗教的な戒めや故郷に置いてきた母親への心情の狭間、
苦悩しながらそれでもカルメンを求めずにはいられない、という姿に、
うん、まあこういう風に恋に溺れることもあるよね、とは思ったんです。
こんなに懸命にこられたら、カルメンもほだされるよなあ、とも思ったし、
カルメンとの最初の逢瀬も、沢山のしがらみの中での情熱的な一夜で終わっていたならば、
この後の悲劇はなかった。
多分、カルメンはそれを望んでいたのだと思う。
でも、ホセはその先を―――カルメンとの未来を望んだ。
他の兵士たちのように、カルメンを一時の遊びとして、搾取する相手としてではなく、
一人の女として共に在ることを望んだ。
あの瞬間、その熱情は真実で―――だから、カルメンは夢を見たのだと思う。
白人とロマ、男と女―――その間にある広く深い河をこの人なら超えて来てくれる、と。
でも、それは叶わぬ夢で。
彼らは結局、互いにとっての偶像でしかなかったんだなあ、と思う。

その後、ホセは他の男たちのように、カルメンを支配することを望んでいきます。
カルメンを手に入れるために、恋敵(と勝手に思い込んだ)をどんどん手に掛け、
その行為を「カルメンを手に入れるため」と言い訳する姿に、
カルメン、こんな男にはさっさと見切りをつけた方がいいよ!と心底思いました(再びすみません・・・)。
この変貌を、カルメンは自分のせいだと思って、あの最期の選択をしたのだと思うのだけれど、
私的には、その萌芽は最初から彼の中にあったんかないかなあ、と思う。
うーん、なんだかめたくそな書き方ですみません(^^;)
久々に舞台で観る松下くんは、相変わらずかっこよくって歌声も素晴らしかったですよ。
でも、その素晴らしさが、ホセの愚かさ(純粋さ、という意図なのかもだけど)を、
凄くクリアにしてたような気が・・・
それはそれで正解なのかな(笑)。


そんな感じでホセがどうにも受け入れがたかったのとは裏腹に、
ロマの頭領ガルシア役のKENTAROさんは、めっちゃかっこよかったです!
いや、やっていることは犯罪だし凄く残忍だし、
カルメンを支配しているのは他の男と変わらないんですよ。
でも、その行為は仲間を守るという明確な理由の上に成り立つものだし、
そもそもガルシアは彼女の有能さをちゃんとわかっていて、
家族のようなロマの中で、彼女を信頼し、尊重していたように思うのです。
二人の間に、私たちが思う普通の夫婦のような愛情はなかったかもしれないけれど、
仲間としての信頼や絆はあったんじゃないかなあ、と思う。
そんなガルシアを排そうとしたカルメンの覚悟は、ホセには伝わらなかったんだなあ・・・
とりあえず、個人的には最初から最後までかっこいいガルシアさんでしたv


伊礼くん演じるスニーガは、真正面から嫌な奴を演じていて、それがむしろ清々しく(笑)。
伊礼くんも楽しんで演じていたんじゃないかなあ。
ロマに対する蔑みや、地位や男であることの優位性を前面に押し出してきて、
力ずくでカルメンを支配しようとする。
でも、それがあの時代の“普通”だったんだろうな、と彼を観ていて思いました。
出演シーン自体はそれほど多くはなくて、
出てくると結構情けない感じの雰囲気もあったりして、
変な感じだけど、スニーガが出てくると周りの反応も含めてちょっと和んだ気がします(笑)。


太田くん演じるイギリス貴族ローレンスも、地位や性別での優位性はあるのだけれど、
スニーガとはまた違った感じでした。
カルメンを手に入れたいとは思っているけど、支配しようとは思っていない。
彼女の真意を知りながら自由にさせて、彼女に騙されることも楽しんでいる感じ。
彼女を女としてではなく、珍しいおもちゃや芸術品みたいに扱ってたように思います。
・・・あれ? それはそれでちょっとむかつくかも?(え)
たぶん、ジブラルタルへの赴任は期間限定で、その間のゲームみたいな感覚だったんだろうなあ。
まあ、ホセの短絡的な行動でそれもぶち壊されちゃうわけなんですか(^^;)
というか、太田くん、ローレンスよりも1幕で演じてた他の役の方がちょっと気になりました(笑)。
冒頭のロマのシーン、上手でフードを深くかぶった人物が、
なんかめっちゃ雰囲気ある!と注目してたら太田くんだったり、
(そのあと真正面で歌い踊ってくれて、凄い眼福耳福でございましたv ←ただのファン)
セビリアでのホセの衛兵仲間の一人で出てきた時には、
行動とか表情とかがすっごい意味深で、ちょっと深読みしたくなりました(笑)。
カルメンに対する嫌悪とか、彼女に骨抜きにされてる上層部への蔑みとか、
他のわーわー騒いでカルメンにちょっかいかけてるお年頃(え)な衛兵たちとは一線を画してました。
スニーガがカルメンに唾を吐かれる瞬間、思いっきり鼻で笑ってたよね?!
あの衛兵さんに、どんな背景やストーリーがあるのかかなり気になりました。
スピンオフ作ってくれないかな?(笑)


そんなカルメンとホセの物語を語る老人役、団さん。
しょっぱなにジャンから「あなたは白人ですね?」と言われたところで、
ああ、この人はホセなんだな、とわかってしまったのがちょっと残念。
ホセが語る物語―――ホセがずっと胸に抱えてきたカルメン像を、
福井さん演じるジャンが最後にひっくり返すわけなのですが。
でもって、それを肯定するかのようにカルメンがホセを迎えに来ちゃうわけなんですが・・・
ごめんなさい、これ、私的には全然納得できませんでした。
なんというか、ホセの偶像がジャンの偶像に変わっただけ、という印象で。
まあ、所詮その人の真実なんて本人しかわからないわけなので、
これでホセが救われたんだったら、それはそれでいいのかなあ・・・


アンサンブルさんたちは本当に大活躍でした!
人数的には少ないのに、それを感じさせない感じ。
久々に中塚くんが観れたのも嬉しかったな。
相変わらず好きなタイプのダンスでしたv
謝さんの演出って、キメのシーンの絵が凄く綺麗なのと、群舞的な部分の迫力が凄いイメージがあるのだけれど、
今回もそこはとても素晴らしかったです。
最初の♪流浪の民 のシーンは、深い緑に沈む舞台の中で歌われるロマの歌声と、
棒が地面に打ち付けられる音の迫力に圧倒されたし、
その暗い舞台の中央に光を纏ってカルメンが現れる瞬間はほんとに綺麗でした。
棒を使ったシーンというと、ついつい「タン・ビエットの唄」を思い出してしまいます。
謝さん演出の舞台では、この物語が一番好きなので、いつかまた上演してくれたらいいなあ。

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