蒼い焔

誰もが、彼女の幸せを願っていた。
けれど、彼女の選んだ“幸せ”は、与えられる“幸せ”の中にはなくて。
大切な人の幸いを願うその心が、大切な人を傷つける。
優しくて、暖かいはずの想いが、大切な人を縛り付ける。

家族とは、そういうものなのかもしれないけれど。



「ロミオ&ジュリエット」

2019.3.3 ソワレ 東京国際フォーラム ホールC 1階5列20番台

出演:古川雄太、生田絵梨香、木村達成、黒羽麻璃央、渡辺大輔、大貫勇輔、春野寿美礼、
   シルビア・グラブ、岸祐二、宮川浩、秋園美緒、姜暢雄、石井一孝、岡幸二郎、飯田一徳、祝陽平、
   大場陽介、岡田治己、小南竜平、小山銀次郎、酒井航、鮫島拓馬、鈴木凌平、高木勇次朗、
   仲田祥司、渡辺崇人、伊藤香音、おごせいくこ、織香織、小松芙美子、齊藤恕菜、Sarry、
   島田友愛、杉浦小百合、鈴木百花、平井琴望、深瀬友なし、松島蘭


というわけで、今期2回目のR&Jの観劇記録に突入いたします!
二日続けての観劇だったので、Wキャストはその違いが際立ってとても興味深かったし、
この日は思いがけず2列目センターという席だったので、
1回しか観れない役者さんも、この日が最後の役者さんも、
細かな表情までじっくり見よう!と思っていたのですが・・・
役者さんの表情が見えるということは、“死”の表情も良く見えるということで。
結局この日も、“死”が出てくるとそちらについつい視線が向いてしまうという状況でした(^^;)
大貫くんの“死”が居る限り、どうしたって私は目を奪われちゃうんだなあ、と悟りました(笑)。
で“死”のことを書いているときりがなくなるので、“死”については最後に書くとして、
まずは他の役者さんのことを。

2年ぶり、そして今期最初にして最後の古川ロミオは、硬質な光を放っているようでした。
そして前方席で観る生田ジュリエットもまた、柔らかな光を纏っているようで、
なんというか、夢のように美しいロミオとジュリエットでした。
二人が交錯する♪いつか は、思わず感嘆のため息が出てしまうほど。
そして同時に、美しいということは、儚いということなんだなあ、と思ってしまったり。

いえ、生田ジュリエットも、古川ロミオも、ちゃんとした強さが感じられたんですよ。
特にジュリエットは、可憐ではあるけれど、決して弱々しくはない。
未熟で世間知らずではあるかもしれないけれど、
ロミオを―――未来を見つめるその視線は凛とした強さがあって、
彼女の行動は全て彼女自身が選んだものなのだと、そう感じる説得力がありました。
自分の選んだ“幸せ”のために、彼女の心は決して絶望に屈することはなかった。
でも、そういう強さがあるからこそ、それでも打破することのできない彼女の置かれた状況が、
本当に観ていて辛かった。
そして、この物語は、家族の物語でもあると、初めて思いました。

大切に育てられ、今まさに咲き初めようとしているジュリエット。
誰もが、きっと彼女の幸せを祈って行動していた。
春野さんのキャピュレット夫人も、思うところはあったかもしれないけれど、
自分と同じように何かを諦めることで、物質的な揺るがない“幸せ”へ彼女を導こうとした。
シルビアさんの乳母は、当初彼女の望むことを叶えることが彼女の幸せだと信じ、
そしてその幸せが砕かれたとき、彼女の望みではなく、心ではなく、
現実に生きていかなくてはならない彼女を守ることを選択した。
そして、岡さんのキャピュレット卿もまた、その外見とは裏腹な不器用さで、
本当に心の底から彼女の幸いのために行動したのだと思う。

ジュリエットのため。

3人がそれぞれに言う、その言葉。
キャピュレット夫人は、娘と自らを重ねて。
乳母は、ただひたすらに慈しむ思いを込めて。
キャピュレット卿は、憎しみから反転した深い愛情を隠しきれずに。
それぞれの思いで、それぞれの重さで、それぞれの熱さで、その言葉を言った。
でも、彼らの選んだ“ジュリエットの幸い”は、
ジュリエットを幸せへと導くのではなく、深く傷つけ、絶望に突き落とした。

不幸を願ったのではない。
ただ、彼らは、彼らの常識の中で、
彼女を慈しみ、彼女の幸せを願い、彼女を守ろうとしただけなのに。
そしてそれはきっと、ある意味では決して間違いではなかったはずなのに。
どうして、互いを傷つけてしまうのだろう。
全てが噛み合わず、全てが裏目に出て、ジュリエットを加速度的に破滅へと導いたのは、
もしかしたら、“死”の影響もあったのかなあ・・・
実は、ロミオと“死”のシーンを観ていて、そんな風に思う瞬間もあったりしたのです。

古川くんのロミオは、前回観た時と同じく、いや更に無垢な印象が増した気がしました。
そして、なんというか、常に何かを諦めているような気がした。
美しさも、健康な体も、信頼できる親友も、尊敬できる両親も、慕ってくれる仲間も、
全てを持っている、ロミオ。
人の綺麗な部分だけを受け取って、自分の中の綺麗な部分だけを育てて行って、
でも、だからこそ自分の中にある喪失―――黒い想いの存在を感じながら、その存在に怯えながら、
けれどその想いには気づいていない。
そのことが、私には諦念のように見えたのかもしれないな、と思う。
マーキューシオの復讐を遂げるとき、古川ロミオは、激情が降り切れてむしろ冷静になっているように見えた。
ふてぶてしく笑いながらもその手は震えていたティボルトとは対照的に、
その手は震えておらず、その蒼白な表情には、いささかの動揺も躊躇もなかった。
突きつけられたナイフの向こうのティボルトの顔を見据えるその姿からは、
蒼白い焔が揺らめいているように見えました。
前日に見た大野ロミオとは、色の異なる焔。
そのイメージは、とても強烈でした。
大公の前で申し開きをしながら、自分の中の黒い想いを目の当たりにして、
慄く右手を左手でつかみながら慟哭するその姿は、前方席で観ると本当に凄まじくて。
さすがにこの時ばかりは“死”に目を奪われる隙もありませんでした。

そしてその後の“死”とのシーン。
1幕の♪僕は怖い では、ロミオの中の黒い想いを、“死”が練り上げ、増幅し、
形作っているように見えたのですが、
このシーンでは、違う位相にいる二人が重なり合うような雰囲気だったように思います。
絶望と歓喜。
正反対の表情をしている二人が、違う動きをしながらも繋がり合っているような、
そして、あの影の演出と相まって、“死”がロミオを呑みこみ同化していくような―――
というか、このシーンで“死”は確かに笑っていたと思う。
自らが見定め、練り上げ、形作ったロミオの憎しみが、これ以上ない美しい宝石のようになった。
そのことに満足し、ロミオの絶望に歓喜しているように見えた。
そんな“死”に、ロミオという存在そのものが呑みこまれそうになった瞬間―――
ロミオは、ジュリエットのことを思いだした。
そして、彼女への想いが、彼女への愛が、ロミオを絶望から少しだけ引き上げ、
生へと、未来へと目を向けさせた。
その瞬間の“死”の表情がまた凄まじく・・・
「こいつ、今更何を言ってるんだ?」というようないぶかしげな表情なのだけど、
この瞬間に、“死”はジュリエットをも絶望の果ての死に誘うことを決めたんじゃないか、
そう感じられるような剣呑さがあったように思うのです。
で、終盤、霊廟で目覚めたジュリエットがロミオを見つけた瞬間にも、確かに“死”は微笑んだ。
この上なく優しく、まるで慈しむようにジュリエットを見つめながら―――

前方席で観る大貫くんの“死”は、その白く塗られた肌や、左半身のペインティングも相まって、
無機物のような印象を受けました。
触れるとひんやりとして、こちらの熱を奪うような、そんな無機質の冷たさ。
今回は前回よりもアズュラーン味もあったけど、やっぱり新演出の“死”はウールムっぽさもあって。
本当に、私は大貫くんの“死”が好きなんだなあ、ともう白旗を挙げる気分で再確認しちゃいました。

って、いつの間にか“死”の話になっちゃった!
まだまだ語れますが、時間もないので強制終了して他の役者さんの感想も。

黒羽くんのマーキューシオは、昨日も書いた通り、ほんっとうに可愛くて!
可愛すぎて、めちゃくちゃ辛かったです・・・
1幕の最初の頃から、“死”がマーキューシオに目を向けていることに気づいて、
マーキューシオ、逃げて!!って本気で思った。
2階席から観た時に感じた彼の孤独というか寂しさは、前方席でも同じで。
ベンヴォ―リオと肩を組んで楽しそうに笑いながら、ふとした瞬間に真顔になる。
挑戦的な表情をしてナイフを操りながら、その眼はどこか遠くを見ている。
怒りに顔を歪めナイフを突きつけながら、縋るようにロミオを見つめる。
何というか、彼はもの凄く不安定な場所にいるのかな、と思った。
大公の甥、ということは台詞の中に出てくるけれど、
では彼の両親はどこにいて何をしているのか、どうしてモンタギューに組しているのか、
そういうことは描かれないけれど、
もしかしたらこのマーキューシオは、物理的にいろんな喪失を経験しているのかもしれない。
喪うことに倦んで、そしてだからこそ失うかもしれないリスクに自ら飛び込み、
そして同時に新たな喪失に無意識のうちに怯えている。
そんな複雑さが、彼にはあったように思います。
そして、その想いは最終的にロミオを失わないこと、ロミオを守ることに帰結してたのかなー、と。

個人的に、マーキューシオはどれだけロミオのことを大事にしているかがキーだと思うのですが、
黒羽マーキューシオはその点文句なしの合格点でした!(笑)
それを強く感じたのが♪決闘 のシーン。
ティボルトたちと遭遇して、挑発し合いながら一触即発な状態になった時にロミオが乱入してくるのですが、
その瞬間、マーキューシオが「どうして来た?!」という風に頭を抱えるのが見えて。
そしてその後の乱闘でも、マーキューシオの表情や動線は、
明らかにティボルトからロミオを守る意図があったように見えました。
もちろん、ティボルトとの個人的な確執も、彼に対する怒りも本物だったでしょう。
でも、そんなマーキューシオだから、この状況でティボルトが本気でロミオを殺しに来ることがわかっていた。
わかっていて、だからこそ最初はロミオを諌めようとしたのだろうし、
その後はティボルトをロミオに近づけないために、
ロミオを遠ざけ、そして自らティボルトの前に立ちはだかった。
これはたぶんほとんど私の妄想なのだけれど、
でも、そう感じたからこそ、彼の「ジュリエットを愛し抜け」という言葉に真実味があったのだと思う。

木村くんのベンヴォーリオは、実は今回の観劇で一番心惹かれた存在でした。
勝気な少年が、大切なものを失って傷つき、自分の無力を突きつけられ、
大切な存在を守ることもできない自分の手に呆然とし、
親友を絶望から救うことのできないことに打ちのめされ、
それでも立ち上がって前に進んでいこうとする―――そんな成長物語を、
きちんと見せてくれたように思います。
慟哭するロミオを抱きしめる腕は、守るというよりも寄り添うという感じだったのも印象的。
♪どうやって伝えよう のあの孤独感には、本当に私の方がどうしようかと思いました。
歌声も、凄くのびやかでまっすぐで、ベンヴォーリオのイメージにぴったりでした。
ラストシーンで、両家のメンバーの手を取り合わせながら、
最後に神父様の肩に縋るように泣き出した横顔が本当に切なくて―――
彼がまた素直に笑える、そんな未来が来ることを、なんだか心から祈ってしまいました。

それにしても、この日のモンタギュー三人組のキラキラっぷりは凄かったなあ。
この三人にバシッとダメだし(?)できる乳母、最強かも(笑)。
そういえば、大野ロミオには細っこいのに逞しい、って言ってたけど、
古川ロミオにはペランペランなのに逞しい、って言っていて、思わず笑ってしまいました。
前回あった神父様とロミオのシーンでの日替わりというかアドリブが今回はなくなってたので、
1幕での乳母がらみのシーンが唯一気が抜けるシーンだったのかも。
でも、あの帽子、間近でみると本当にUFOな感じの金属感で、びっくりしました。
でもって、UFOバックに自撮りするマーキューシオも可愛かったけど、
奪った帽子をかぶったマーキューシオの後ろ姿がまんま小夜ちゃんで、
個人的にあのシーンはめっちゃお気に入りでしたv

岸さんのロレンス神父様は、本当に真面目で誠実で、
だからこそ“死”の作りだす悲劇に抗うことはできなかったのかなあ、と思う。
ロミオに結婚式の約束をした後の後ろ姿に、
内心で「一抹の不安がある・・・」とレオパパ風なナレーションが流れてしまったり(^^;)
上記のアドリブシーンがなくなったのは、岸さんだからなのか、
前回は坂元さんだったからアドリブがあったのかは悩むところ(笑)。
♪神はまだお見捨てにならない のシーンの危うさというか、神父様と乳母の見通しの甘さには、
やっぱりちょっともやもやするところがあるのだけれど、
後ろの暗がりに現れた黒い影のような“死”に気づいた瞬間の、
あのぞっとするような気持ちは、ちょっと筆舌に尽くしがたい。
黒いコートの背中を掴む大きな白い手に、気持ちも掴まれた感じでした。

そういえば、あのコート、前方席でみるととても薄く滑らかな生地でできているのが見えて、
だからこそあの美しい翻りが生まれるのか!と感嘆してみたり。
薬売りの衣裳も、左脇から大体にかけての白い模様がとても綺麗でした。
前方席だと、衣裳の細かいところが見えるのも楽しいですね。
前回新演出を見た時は、モンタギューの衣裳がいまいちだなー、と思ったのですが、
近くで見ると、いろんなニュアンスに意味がある感じで深読みしたくなりました。
ベンヴォーリオがつけてる缶バッジみたいな丸いアクセサリー可愛いな、とか、
マーキューシオのコートの裏地が、印象派の絵みたいな色合いで、どんな模様か気になるとか、
舞踏会のジュリエットの赤に白い花の靴が凄く可愛いとか、
ティボルトの方のモフモフがとっても気になる!とか(笑)。

渡辺くんのティボルトは、彼の危うさとか獰猛さよりも、
その責任感とか、真面目さとか、孤独感とか、そういうものが際立っていたように思います。
♪今日こそその日 は、怖いほどの怒りに彼の悲しみが透けて見えるようでした。
♪本当の俺じゃない の最後も慟哭のように聞こえたけれど、
この曲の最後のロングトーンもそれに近い印象だったなあ。
とはいえ、乱闘のシーンでは、本当に容赦のない戦いっぷりで、
確実に敵をつぶしにかかる感じに、思わず体が引けてしまうくらいの迫力がありました。
最期のシーン、自分の名前を呼ぶ叔母の頬にそっと手を伸ばす彼の眼には、
確かに暖かい情があったように思ったのだけれど、見間違いかなあ。
そういえば、カーテンコールで大貫くんとなにかわちゃわちゃしてたけど・・・仲良しさん?

この日は、生田ジュリエットの東京楽だったらしく。
というか、あとは大阪の1回だけって!
アイドルの方のお仕事が忙しいのかもですが、なんだかもったいないなあ。
カーテンコールの挨拶で、「ジュリエットを演じるのはこれが最後」と言っていて。
大人の都合とかいろんな理由があるのだと思いますが、
可憐でかつ凛とした美しさのあるジュリエットは本当に素敵だったので、とっても残念です。
最後なんて言わずに、また機会があったら是非演じてほしいな、と思います。
まあ、この演目自体が若手の登竜門的な感じになるのもいいかな、とは思うのだけど。

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