感情の距離

出会いは必然なのか偶然なのか。
それは確かに気になる部分ではあるけれど、
その必然ないし偶然がその先の未来に繋がるのか、それともそこで終わってしまうのか、
それはきっと必然でも偶然でもない。
この舞台を観ながら、そんなことをふと考えてしまいました。


「Color of Life」

2019.5.25 マチネ DDD青山クロスシアター F列一桁台

脚本・作詞・演出:石丸さち子
作曲・編曲:伊藤靖浩
出演:東啓介、青野紗穂


物語の舞台は2011年の空の上とニュー・ヨーク。
画家の和也(東啓介)は震災をきっかけに絵を描くことができなくなった。
女優のレイチェル(青野紗穂)は、最愛の恋人サリーを病に奪われた。
片方は迷いと惑いに、片方は悲嘆と後悔に、ただ茫然と立ち尽くす。
N.Y.行きの飛行機の中で偶然隣り合わせた二人は、
フライトの間にその心の距離を一気に近づけ―――そして二人はレイチェルの部屋で暮らし始めた。
楽しくて幸せで刺激的な“日常”の中で、彼女からインスピレーションを得た和也は新しい絵を描き始め、
和也が自分にとって大切な人だと気づいたレイチェルは、
彼に同性愛者であることを告げられないままその“日常”に身を任せる。
和也が7つの色を捉えた7枚の絵を完成させる頃、90日の観光ビザの終わりが近づいて。
別れの時が迫る二人は、それぞれの思う“二人の未来”を見据えはじめ―――


というような物語。
日本での上演はキャストを変えて3回目、なのかな。
初演の時から気になっていて、見たいなあと思いつつもタイミングが合わずご縁を結べていなかったのですが、
今回やっと見ることができました。

小さな劇場。
対面式の客席に挟まれた舞台。
上手の白い壁には小さな窓が二つと真っ白な四角い板が7枚。
下手のレンガ風の壁には、大きな窓と木の物入れ。
そして、椅子が二脚。
そんなシンプルな舞台の上で丁寧に紡がれたのは、
二人が偶然の出会いを未来へと繋げていく物語でした。

飛行機で隣り合わせた、それぞれに喪失を抱えた二人。
12時間のフライトの中で、椅子の向きを変えることで時間経過が表されるのですが、
二人の距離が徐々に縮まっていく様子がとても微笑ましくv
たぶんね、最初はその場限りの相手だから、だったと思うのです。
だからレイチェルは、自分のこと、家族のこと、死んでしまった友達(恋人)との彼女の会話、
そんなプライベートなことを和也に語ったのだろうし、
和也は和也で突然距離を縮めてくるレイチェルに戸惑いながらも、
以前自分の絵に自身を持つきっかけをくれたN.Y.の気配を彼女に感じたから自分の絵を見せた。
でも。
最初はぎこちなかった会話が滑らかになった時。
自分の話を聞く彼の眼差しがとても静かで優しいことに気づいた時。
自分の絵に対する感想ではなく、くるくる変わる彼女の表情と、寝顔の幼さに目を奪われた時。
いろんな瞬間を重ねて、彼らの距離は急速に近づいた。
吊り橋効果的なシーンもあったしねー(笑)。

結果として勢いのまま二人は一緒に暮らし始めるわけなのですが・・・
丁寧に紡がれる二人の時間がとても愛しいと感じると同時に、
二人の辿る感情の変遷の違いに、思いがけずはらはらしてしまいました。

和也役の東くんは、ミュージカルで観るのは2回目かな。
大きな劇場で観ても映像で見ても、大きいなあ、と思ってはいたのですが、
このサイズの劇場で、しかも実質2列目という間近で見ると、改めてその長身にびっくりしてしまいました。
なんなんだあの足の長さは!
そして、歌声も大迫力な感じで、ファルセットの繊細な部分もありつつ、基本朗々と劇場内に響き渡ってました。
最初のソロ曲ではその大きさと歌声に圧倒されてしまい、
その衝撃のせいか、曲の細かなニュアンスを受け止めきれなくて、
どうして和也が絵を描けなくなったのかを、ちょっと理解しきれなかったのですが(^^;)
震災の時に、彼がどんな経験をしたのか、
例えば「画狂人北斎」の凛汰のように、恋人を亡くしたというようなはっきりした理由は語られなくて。
目に映るものは自分の体の一部になり、絵を描くことは生活なのだと歌い上げる和也。
震災の記憶は、彼の中の何かが失われたのか、彼の一部となるはずだった何かが失われたのか・・・?
いずれにしても、彼は大きな喪失を抱えていた、のだと思う。
でも、その喪失は、レイチェルの存在であっという間に埋められて、
そして彼は彼女との生活からどんどん何かを得て、どんどん色を生み出した。
その歓喜。
その高揚。
その情熱。
そして、それらを与えてくれたレイチェルへの確かな愛情。
和也の感情は、レイチェルというミューズに向かって常にまっすぐで。
そのまっすぐさが眩しいと同時に、どこか危なっかしさも感じられてしまいました。
それはやっぱり、青野さん演じるレイチェルの在り方によるのかなあ、と思う。

レイチェル役の青野さんは初見の役者さんなのですが、
ショートヘアがお似合いな、明るくて強いハンサムな女の子、という印象。
ダンスも歌声もしなやかで力があって、思わず拍手したくなっちゃうくらいだったし、
和也といるときに楽しそうな笑顔は、めちゃくちゃキュートだったし。
・・・なのだけど、その笑みも、歌声も、どこか涙の気配が感じられるような気がしました。
多分最初の曲―――恋人のいない部屋の中で一人膝を抱える横顔が印象的だったからだと思うのですが、
その印象は最後まで変わらなかったように思います。
偶然出会った和也に惹かれ、良く考えないままに発した言葉で二人の関係を進ませてしまったレイチェル。
同性愛者である自分が、男と暮らす。
同性愛者である自分が、その男を失いたくないがためにとっさにその手を受け入れる。
受け入れてしまったその後で、その男が愛しいと、その男が大切だと叫ぶ自分の心に気づく。
彼女は、それまでの自分を全部取っ払って、まっさらな自分と向き合うことで、
自分の狡さを、臆病さを認めることで、自分が何を求めているかを見据えることで、
「和也が大切な一人の人間」である自分という存在を構築していったのかな、と思った。

心は、既に和也に寄り添っている。
なのに感情は揺れ動く。

和也が、心も感情もまっすぐにレイチェルに向かっているのとは裏腹に、
レイチェルの感情が後半に向けて静かに大きく揺れ動いている様が、見ていて本当に切なかった。
だから、終盤、死んでしまった友人が本当は恋人であったことを告げた後、
子どもみたいに声を上げて泣く彼女の小さな背中を見ているのが本当に辛くて、
和也が何も言わずに彼女を抱きしめてくれた時にはほっとしました。

それでも、結婚まで考えていた和也は、
レイチェルの告白に一度は背を向けて日本に帰っちゃうわけなのですが・・・
でも、1年の時間をかけて、彼はレイチェルの下に戻ってきた。
和也が、レイチェルの感情に追い付くには、きっとそれだけの時間が必要だったんだろうなあ。
だって、正直あの90日間で和也ってあんまり悩んでなかったですよね?
レイチェルが一度しか許してくれないということは悩んでたかもだし(え)、
彼女にプロポーズすることの意味を深く考えてたりはしてたみたいだけど。
途中、アイデンティティを歌う曲があったのだけれど、
二人の温度差にちょっと呆然としましたから、私(笑)。

でも。

12時間で寄り添った心。
90日間でその心を置き去りに、近づいてまた離れてしまった感情。
1年間でちょっとだけ彼女を追い越した彼の感情。
1週間でその感情に並んだ彼女の感情。

やっと心と感情の足並みがそろった二人の歌声の重なりはとても穏やかで、
よかったねえ、と思いながら、なんだか自然に笑顔になってしまいました。
ラストシーン、下手席だったので、
一つのフレームに収まった二人の表情が見えなかったのがちょっと残念だったかなあ。
でも、きっと凄く素敵な笑顔だったんだろうな、と思う。


それにしても、物語に差し込まれる二人の何気ない日常が本当に愛しい。
長身の和也がかがみこんで小柄なレイチェルと目を合わせるのにちょっとときめきました(笑)。
じゃんけんのシーンは、3回とも和也が負けてたけど、あれはアドリブなのかそういう脚本なのか・・・?
めっちゃ自然で、二人の笑顔がとても幸せそうなのが印象的でした。
その分、ふっと影が差すレイチェルの表情が鮮やかだったのだけれど。
それにしても、この舞台でも東くんは料理シーンをとても楽しそうに演じてました(笑)。
あと、寿限無を一息で言い切れるのは凄いと思う。いや本気で。
その後のロミジュリパロ(?)には大笑いさせていただきました。
レイチェル可愛いv

楽曲は、メロディがすんなりとは入ってこない不思議な感じ。
馴染むのにちょっと時間がかかるけど、これは結構癖になる雰囲気だなあ、と思いました。
1回で耳コピできる才能がないのが悔しいなあ。
CD化とかされないかしら?
あと、キーとなる7枚の、7色の絵ももっとじっくり見てみたかったなあ。
今度この舞台を観る機会があったら、上手席からを狙いたいと思います!(笑)
見る人によって、見えるものが違うのかもしれないけど、violetはやっぱり夜明けの色なんだろうな。

今日が千秋楽だったこのミュージカル。
二人を演じる人によって、また違った二人の関係性が生まれるんだろうな、と思う。
初めて接した和也とレイチェルが二人で良かったなあ、と思うと同時に、
また別の二人を見てみたいなあ、という気持ちもあったりします。
また再演されることがあったら、ぜひ観にいきたいと思います。

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