慟哭の果て

真っ青な空の下。
真っ白な砂の大地。
そこに零れた彼の涙は、
ほんの刹那、けれど確かに、
その大地を潤した。


「最遊記歌劇伝 ―Oasis―」

2020.2.7 ソワレ 紀伊國屋サザンシアター 11列10番台
2020.2.8 マチネ 紀伊國屋サザンシアター 15列10番台

出演:椎名鯛造、鮎川太陽、藤原祐規、村田恒、法月康平、成松慶彦、
   うじすけ、今井稜、及川崇治、大澤信児、榊原雄、轟大輝、
   西田直樹、橋本有一郎、森田龍、是澤洋文、和久井大城


というわけで、最遊記歌劇伝、観てきました。
原作の中でも特に好きなエピソードなので、去年のDarknessを観てから、
ずっとずっと楽しみにしていた舞台は、
いろんなことを再認識する時間となりました。

うん。
まあ、正直なことを言ってしまえば、多分この演出家さんの舞台は、
私の好みからはちょっと外れるところがあって。
その部分が毎回結構辛かったりもするのだけれど、
それ以上に、この方の原作への深い想いとか、
創り出したい世界の明確なビジョンとか、
そういうところには凄く共感するし、気持ちを毎回揺さぶられます。
今回の舞台も、いろんな制約のある難しい状況の中で、
最善を尽くそうという気概が感じられました。
それでも、大好きな物語なだけに、途中いろいろ言いたくなることもあったけど、
最後の椎名くんの悟空に全部押し流された。

椎名くん演じる悟空は、毎回思うのだけれど、本当に存在そのものが悟空。
無邪気で素直で、本能のままに大切なものを選び取ってきて、
だからこその強さのあった悟空。
そんな彼が、三蔵と離れて、自分の弱さを知って、
新しい出会いの中で自分という存在に向き合って、
初めての、多分間違いなく恋をして、
どうしようもない状況の中で別れを経験して―――
自分ができること、できないこと。
自分の居るべき場所。
自分の目指す場所。
自分の―――未来。
そういうものをまっすぐに見据えていく過程を、丁寧に見せてくれました。

最後。
馬車の上から力ずくで少女を攫うことは、きっと彼にはたやすいことだったのだと思う。
その直前に彼女と語り合った、彼女がまだ見ない場所へ、
彼女と共に歩む未来を、悟空は選ぶこともできたのだと思う。
けれど、彼はそれを選ばなかった―――選べなかった。
彼女の生きてきた時間―――自分の生きてきた時間。
彼女が大切にしているもの―――自分が大切にしているもの。
彼女の在るべき場所―――自分の在るべき場所。
彼女の誇り―――自分の誇り。
それらが、一瞬交わりはしても、確かにその一瞬で温もりを交わしたとしても、
決して、重なりはしないことを、二人ともわかっていた。
あの後の悟空の慟哭。
私が観た2回、その慟哭は違う色を纏っているように感じました。
荒れ狂う感情を抑え込もうとして抑えきれない、そんな叫びのような慟哭。
喪失の大きさに呆然とし、体を丸めてその喪失にひたすらに耐える、そんな慟哭。
そのどちらもが、あの瞬間まぎれもない真実の感情だった。
そして―――その慟哭の果てに立ちあがった悟空の表情は、
明らかにその前とは異なっていたように思います。
真っ直ぐに前を見つめる泣き晴らした真っ赤な目。
その目は、強い決意を持って前を見据えていた。

三蔵が行くからではない。
自分が行きたいから、西に行く。

差し出された手を取るのではなく。
提示された選択肢の中から選び取るのではなく。
ゼロから自分で自分の行き先を決める。
それは、もしかしたら“前の彼ら”との物語も含めて、
悟空にとって初めての瞬間だったのではないかな(記憶違いだったらすみません!)。
それが、あの慟哭の果てだというのが、本当に切なくて、
でも、同時にもの凄い説得力でもって、悟空の成長を突きつけてきたように思った。

この物語の先が、舞台化されるのかはわからないけれど、
でも、できることならこの先の椎名くんの悟空を、見届けたいなあ、と思いました。

最後のシーンばっかりで感想が終わっちゃいそうですが、
今回の悟空は本当に大活躍でした!
そもそも最初があのシーンっていうのが反則だと思う・・・いきなり号泣しましたよ(^^;)
綺麗な背筋も惜しみなく見せてくれたし(え)、
アドリブも頑張ってたし(ガドの真似はちょっと無理があったかなー)、
少女を意識してわたわたするのも可愛かったし、
紐に布をかける時のアドリブや(1回目の、紐の揺れに合わせて動くのめっちゃ可愛かった!)、
ジャガイモを剥くときのアドリブもまさに悟空な感じで微笑ましかったし、
殺陣の身軽さはもう文句なしだったし!
セットからセットに飛び移るのとか、滞空時間がほんと長くてびっくりしました。
歌も良かったなあ。
オープニングの歌、夜明けの映像と相まって、一気に気持ちを持っていかれました。
でこぼこの影とか、あの状況では泣くしかない。
椎名くんのあの歌声、本当に好きだなあ。
法月くんのヘイゼルと一緒に歌うシーンもあったのだけれど、
全くタイプが違う歌声で、でもどちらも凄いパワーを感じました。
カーテンコールは、今回も曲を混ぜ合わせて歌い繋ぐ感じだったのだけれど、
悟空が今回歌ったパートにもまた泣かされました。
温もりを届けたい相手―――それは、きっと彼に温もりを与えた相手でもあるんだろうなあ。
でもって、最後、旗の某にお兄ちゃんからもらった帽子を掛ける姿にまた泣きました。
いや、原作にもその状態の帽子の絵はあったんだけど、
あの帽子を思い出として持っていかないところが、本当に悟空であり最遊記だなあ、と。
あの後の、捌ける前の3人のアドリブで気持ちが和んだけど、
ほんとに最後の最後まで悟空に泣かされた舞台でした。
あ、あと、椎名くんは誰よりもスキップの似合う三十路男子だと思います(笑)。


沙悟浄役、鮎川くん。
なんというか、悟浄がいてくれて本当に良かった!と何度も思いました。
凄く頼りになるし、凄く和ませてくれるし。
今回の物語では、それほど活躍する場はありませんでしたが、
要所要所でその存在感を示してくれました。
冒頭の八戒とのやりとりとか、これまでの物語を知っていると、
軽い言葉の中の覚悟の深さや、込められた想いに、気持ちを揺さぶられました。
八戒とは違う意味で、この物語というかこの一行の支柱なんだな、と思う。
あ、アドリブのヘイゼルの真似には大笑いさせてもらいました。
でもって、心マがめっちゃ上手だった! 腕の当て方もリズムも完璧。
舞台でもドラマでも結構適当なのを良く見るので、なんだか感動してしまいました(笑)。
あと、今回通路脇席だったのだけど、横を悟浄が駆け抜けるシーンがありまして。
・・・めっちゃ足が長かった! 座ってる私の頭くらいに腰があったよ。


八戒役、藤原さん。
この方の八戒の静かな佇まいというか、
すっとしているのにどこか歪みを感じる立ち姿が個人的に凄く八戒でして。
悟空が目覚めた後のシーンが、まさにその象徴たるシーンでした。
あのシーンの八戒の言葉、大好きなのですが、
それを受ける悟空の表情、見守る悟浄の背中とあわせて、とても印象に残りました。
二人のコントロールっぷりも素晴らしくv
というか、ツッコミが一人だと大変だよねー、と素で一瞬同情しました(笑)。
あと、冒頭の斉天大聖とのシーン。
前回のさいねいさんの八戒も素晴らしかったのですが、
今回、あのシーンを藤原さんの八戒でもう一度観ることができたのは凄く嬉しかったな。
カーテンコール後の捌ける時のアドリブで、
一人しか助けられません、と言って悟空と悟浄が手を伸ばして、
八戒がため息つきながら悟空の手を取るのだけど、
あれもなんというか三人の立ち位置を象徴してるみたいに見えたのは、
私の深読みかなあ。
でも、八戒と悟浄の間の信頼関係って、ほんとに深いものだと思うんですよね。


法月くんのヘイゼルは、今回も素晴らしい歌声でした。
その歌声にあの歌を歌わせるって・・・凄い勇気だな(笑)。
でも、歌詞のポイントポイントがちゃんと原作の台詞を拾っていて、
且つヘイゼルのキャラクターからあんまり外れていないのはさすが。
今回の物語では、同行している三蔵が不在で。
代役は冒頭のシーンとあともう1か所くらいにいたのですが、
台詞は一言も発していなくて。
他のシーンは、そこに三蔵がいるような体でヘイゼルとガドが話しかけるのですが、
これってかなり大変だったろうなあ、と思います。
結構重要な三蔵の台詞もあるシーンだったし。
悟空が喪失の中から確かなものを見つけ出す物語出会ったのと同時に、
この物語はヘイゼルが、確かなはずのものの中の瑕疵に気づく物語でもあって。
目の前の存在が持つ命、魂―――誇り。
間に挟まれるフィルバート司教とのやりとりは、多分前作でもあったシーンだと思うのだけど、
その時とは違った揺らぎのようなものが、どんどん強くなる気がしました。
彼が歌う「エタニティ」という言葉。
その意味をちょっと考えちゃうなあ。
原作では、この後彼に凄い試練があるわけなのだけど、そこまで舞台化してくれるといいな。
というか、そうすると全編ずーっと殺陣になるな(^^;)

ガド役の成松くん。
静かに独特のテンポでヘイゼルにつっこむところがガドだなあ、と(笑)。
悟空との関係性も、ちゃんと見せてくれたように思います。
そういえば、ガドもすぐ横を通ったけど、やっぱり大きかったす・・・

フィルバート司教役のうじすけさん。
始終にこやかで優しい雰囲気なのに、だからこそ凄味もある感じが司教さんだなあ、と。
ヘイゼルの回想という立ち位置なのだけれど、
それを越えて彼を見守っている感じにほっとしました。
ちょっと光明三蔵スタンスなのかな、と思っていたら、
終演後のアナウンスで光明三蔵との会話があってなんだか嬉しかったりv
弟子を、というか孫を見守るおじいちゃんの会話みたいで和みました。
2回目に観た時は、烏哭との会話で。
忘れ物をしないように、という言葉を受けた烏哭の言葉、
「忘れるくらいならもともとそんなに大事じゃなかった」的な言葉が、
凄く烏哭っぽくておおお!と思いました。
開演前のアナウンスも、1回目が悟空と八戒と悟浄で、2回目が三蔵とヘイゼルとガドでした。
これ、結構いろいろパターンがあるのかなー。
凄い楽しかったので、ぜひ全部DVDに入れてほしい!
特典CDとかでもいいから(笑)。


少女役は村田くん。
この役は、やっぱり女の子にやってほしかったなあ、という気持ちはどうしても拭えないのだけど、
でも、村田くんの少女も素晴らしかったです。
あの硬質な温かさは、凄く少女のイメージに合っていたと思う。
物語が進むにつれて、そして、1回目より2回目に観た時の方が、
少女のがどんどん可憐に見えてきて、ちょっとびっくりしました。
彼女の自制心というか、自分のことや周りのことが見えすぎるくらい見えていること、
そういう風に育たずにはいられない環境だったことがとても辛かった。
うん、素敵な少女でした。


少女のお兄ちゃん役は、ツイッターで見る限りだと和久井くんなのかな?
こちらも素敵なお兄ちゃんでした。
頼りがいのありそうな明るい笑顔と、
悟空と話す妹に向ける優しい、でもちょっと複雑そうな表情が印象的でした。
原作でも描かれていなかったと思うのだけれど、
この兄妹の両親は、生まれ変わることができなかったのかなあ・・・
生まれ変わったけど、人間たちに殺されてしまったのかなあ・・・
悟空に帽子をかぶせたように、お兄ちゃんもお父さんから帽子をかぶせてもらったのかなあ・・・
そんなことをちょっと考えてしまいました。
というか、カーテンコールの最後にもう一度悟空に帽子をかぶせるとか、
もう泣け!と言わんばかりの演出に見事に泣かされましたよ(^^;)

そのほかのアンサンブルさんたちも大活躍でした。
烏をやって人間をやって妖怪もやってセットも動かして歌って踊って殺陣もして。
2.5Dの舞台を観るたびに思うけど、本当に大活躍で頭が下がります。
みなさん怪我なく終えられて良かった。
そういえば、冒頭の烏、お一人だけ赤交じりの衣裳で、
凄くかっこいいダンスをされていたのだけど、あれはどなたなのかなー。
アンサンブルさんの香盤表とか、乗せてくれるといいのにな。
って、これ、鬼滅でも思ったな(^^;)


そんなこんなで、いろいろ思うところはあったけど、
今回もとても楽しませていただきました。
役者・椎名鯛造に改めて惚れ直した舞台でもありました。
って、結構しょっちゅう惚れ直してるかも(笑)。
それだけ、彼のポテンシャルは素晴らしいのだと思っています。
そうそう、これを書く前に、原作のこの物語の部分を読みなおしたのですが、
プログラムの中の写真が、原作の見開きの表紙の絵そのままなのに気づきました。
二つを見比べて、写真で不自然にぽっかりと空いた空間に、何とも言えない気持ちになりました。
この先の物語が舞台化されるのかはわからない。
内容的には今まで以上に難しいのかもしれないけど。
でも、いつかこの空間が埋められることを、
でこぼこした4つの影が舞台の上に並ぶことを、
楽しみに待っていようと思います。

さて、そしたら原作最初から読みなおすかな(笑)。

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