夕焼けの残骸

最近(でもないか)ラノベなどで異世界召喚ものを良く見かけますが、
私的に異世界召喚、というとまずはナルニアシリーズが思い浮かびます。
(いや、あれは召喚というよりも迷い込んだ感じか・・・)
あのシリーズに触れたのが割と遅かったのですが(高校生くらい?)、
クローゼットを通り抜けると辿り着く雪原と、柔らかな光を放つ1本の街灯という景色は、
私の中では小説から思い浮かぶ鮮やかなシーンの五指に入ったりします。
シリーズの中でも「少年と馬」や「カスピアン王子の角笛」が好きなのですが、
もちろん全作とても楽しく読みました。
でも。
「最後の戦い」のラストだけは、どうしても納得がいかなくて。
大学生になって、クリスチャンの友達ができた時に、
あのラストはキリスト教的にとても意味がある、と聞いて、なるほどなあ、と思いつつも、
いまでも消化しきれていない釈然としない何かがあります。

このミュージカルのラストシーンを見て、その気持ちを思い出しました。


「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド -汚れなき瞳―」

2020.3.21 マチネ 日生劇場 1階N列10番台

出演:三浦春馬、生田絵梨香、東啓介、鈴木瑛美子、福井晶一、
   矢田悠祐、藤田玲、安崎求、高原碧那、井伊巧、
   上野聖太、岡田誠、加藤潤一、郷本直也、長谷川開、松村曜生、
   柏木奈緒美、多岐川装子、ダンドイ舞莉花、永石千尋、三木麻衣子、
   吉田華奈、笠井真雄、谷口寛介、植松太一、河内奏人、福井美幸、
   奈緒美クレール、種村梨白花、日高麻鈴


舞台は、教会での讃美歌で始まりました。
牧師さんの指揮のもと、神への感謝を、ささやかな願いを、約束された明るい未来を、笑顔で歌う人々。
白く清らかな照明の中で歌う人々の笑顔は明るく、優しく、曇りなく―――
けれど。
人々が家路につくその先に現れたのは、燃えるような夕焼け空の下、どこか閉塞感のある街でした。
1959年、アメリカ、ルイジアナ州。
自分たちではどうすることもできない痛みを、悲しみを、鬱屈を、願いを抱えながら、
それでも懸命に生きる人たちが住む街。
母を亡くし、悲しみに人が変わったかのような父(福井晶一)と幼い弟妹と暮らすスワロー(生田絵梨香)もその一人でした。
そんな彼女のもとに現れた一人の男(三浦春馬)。
手足に怪我をした男をイエス・キリストの生まれ変わりと信じたスワローは、
妹たちと共に彼を納屋に匿います。
いつか、亡くなった母を生き返らせてくれると信じて―――
脱獄した殺人犯である男は、子どもたちの誤解を解くことなく、
キリストとして振る舞いながら、逃亡のチャンスを待ちます。
けれど、純粋な敬愛をもって献身的に自分に尽くすスワローを前に、
いつしか彼女を大切に思うようになる男。
しかし、逃亡犯を探す人々の耳に、スワローの家の納屋にいる男の噂が届き・・・


という感じの物語なのですが・・・
観終わった瞬間、誰か私に解説を!と内心で叫んでしまうくらい個人的に難解でした(^^;)
あのラストシーン、多分キリスト教的に象徴的な何かがあるのだと思うけど、
私的には、あの後のスワローの人生がもの凄く気になってしまって・・・
でも、そういう難解さとか納得のいかなさとか、そういうものを凌駕する、
鮮烈な何かがあったようにも思います。
それは、楽曲とそれを歌う役者さんの力なのかもしれないし、
常にどこか暗さをたたえた空の怖いほどの美しさだったのかもしれないし、
その空の下で描かれる、ちっぽけで、けれど何物にも代えがたい人々の暮らしかもしれない。
舞台の上で描かれる、リアルさと非現実感が不思議に混ざり合ったあの物語に、
疑問符を浮かべながら懸命に追いすがって、それでも結局物語の本質を理解はできなかったと思うけど、
それでも、色々な意味で圧倒されたし、とても怖くて、同時にとても美しい物語だとも思った。
うん。
そういう意味では、とても上質な観劇だったように思います。


そんなわけで内容についてはちょっとコメントしがたいので、役者さんのことを少しずつ。

スワロー役、生田絵梨香ちゃん。
この方は、観るたびに上手になるし、役によって印象が異なるなあ。
可愛くて可憐なところはぶれないのに、そこに加味される“危うさ”の色合いが違う感じ。
今回のスワローは、本来の純粋さと、長女としての鬱屈と、内に秘めた怒りのバランスがなんとも危うくて、
ちょっとハラハラしながら見つめてしまう感じでした。
頑ななまでに男をキリストとして扱うその様は、なんだか凄く痛々しくて。
彼女は、多分最初から彼がキリストではないことを知っていた。
知っていて、けれど彼をキリストと信じることで、
その先の約束されているはずの奇跡を信じることで、
―――信じる、振りをすることで、自分の中の綺麗で神聖なものを守ろうとしていた。
一方で、エイモスに対して、自分の中の怒りを、生々しい感情をぶちまける。
敬虔で純粋で献身的なスワロー。
自分ではどうにもできない悲しみを、怒りを、やるせなさを胸に抱えたスワロー。
男とエイモス。
どちらが彼女にとって生きる力で、どちらが逃避なのか。
最終的に、彼女は男を選び、そして失うわけなのだけれど、
あの炎の残骸から彼女に遺されたものが、現実を生きる力であることを祈るばかりです。


男役の三浦春馬くん。
舞台で拝見するのはずいぶん久しぶりですが、なんというか凄まじい役者さんになったな、と思いました。
歌声の力がとんでもない。
綺麗な声と荒れた声、どちらもがまぎれもなく“男の声”で。
物語の今に至るまでに男が生きてきた人生を垣間見るような気持ちになりました。
手負いの獣のようだった男が、スワローを大切に(と私は受け取った)思うまでの変化は、
緩やかなようでもあり、ある瞬間に唐突に起きたようでもあり・・・
この辺は、もっと良く理解できたらよかったなあ、と思いました。


エイモス役は東くん。
何というか、若者代表!という感じ?(笑)
自分の行動に対して、常に他者を言い訳にしているふうなのが、若いなあ、と思いました。
キャンディに対する不誠実さは、どう見ても甘えだし、
その一方でスワローに対してはヒーローでいたいんだよね。
この物語の中で一番行動範囲が広いのに、
一番現実が見えていないのが彼なのかもしれないなあ、と思いました。
身体だけ大人になっちゃった子ども、というのが違和感なくてちょっと微笑ましかったです。
歌声は、アルフに比べるとちょっと無理してる感じがあったかなあ。
JBでもきっと鍛えられると思うし、頑張れ若者!(笑)


キャンディ役は鈴木瑛美子ちゃん。
某カラオケ番組で何回か観たことがあるけれど、役者さんになっていたのですね。
歌声は本当にパワフルで、キャンディの切望と絶望と希望が迸るようでした。
何度もエイモスに裏切られて、結果ああいう行動に出てしまうわけなのだけど、
それでも、彼女はこれからも彼を許し続けるんだろうなあ、と思う。
ラストシーン、彼女の肩を抱いたエイモスの手が真実であることを祈るばかりです。


伝道師役の藤田玲さん。
なんというか、ぴったりでした!
出演シーンは決して多くはないし、ちゃんと歌うのはあの1曲だけなんだけど、
それがまあ素晴らしい求心力で。
やってることはめっちゃ怪しいんだけど、気持ちが弱ってる時にはうっかり信じちゃいそうな感じで、
ちょっとやばいと思いました(笑)。
JCSのヘロデ王的なポジションなのかな。
むすはじの榎本さんを見なおしたくなってしまいましたよ。


で、その伝道師の部下?なアール役の矢田くんがまた素晴らしく!
ちょこちょこと出てきてはじっと人々を観察したり、
スワローたちにちょっかいかけたり、キャンディをそそのかしたりするのですが、
彼の揺らぎのある歌声があの役の底知れなさを深めていたように思います。
まさに蛇。
彼が忍び込んだのは楽園ではないけれど・・・とても印象的な役柄でした。
伝道師一行、というかアールの思惑、いろいろ深読みしたくなっちゃったなあ(笑)。


アンサンブルさんたちもレベルが高くて、難しい楽曲も安心して聴くことができました。
子どもたちの歌声も可愛かったな。
でも、同時に凄く怖くも感じました。
なんというか、無邪気さと残酷さは表裏一体な感じで。
あの綺麗な旋律を怖いと思うとは、自分でもびっくりでした。


そんなこんなで、満足しつつもいろいろ消化不良な演目となりました。
昨今の騒動で上演期間も限られてしまったので、またいつか再演してくれるといいな。
その時には、時代背景などちゃんと勉強して、もっといろいろ受け取れるようにしたいです。
その前に、ナルニアシリーズ読み返すかな。

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