見えない影

昨日は、手元にあった最後のチケットの上演日でした。
譲渡しようかな、と思っていたのですが、なんだか手放しがたくて・・・
結果として空席を作ってしまったのは申し訳ないけれど、
でも、空いているあの席に、私の気持ちの一欠けらが飛んで行っていたのではないかな、と思います。
そんなわけで、今、手元にチケットゼロです!
こんなこと、何年ぶりだろう(^^;)
次のチケットをいつ手にすることができるのかはわかりませんが、
今は可能な方法で舞台を楽しみたいと思います。


「BIRTH」

2020.10.21 マチネ(配信) 
出演:前山剛久、玉城裕規、佐藤祐吾、陣内将

2020.10.21 ソワレ(配信)
出演:梅津瑞樹、杉江大志、後藤大、北園涼


物語の舞台は、かつて劇場だった廃ビル。
小道具は数え切れないほどの携帯電話と2万件の名簿。
紙ファイルに綴じられた、細かすぎる台本。
そこに集った4人の男が演じるのは―――オレオレ詐欺。
出所したばかりのユウジ(玉城裕規・杉江大志)に声をかけられて集まったのは、
ユウジのかつての“仲間”のダイゴ(前山剛久・梅津瑞樹)。
ダイゴと同じ養護施設で育ったマモル(佐藤祐吾・後藤大)。
そして、ユウジに協力する形で全てをセッティングした、オザワ(陣内将・北園涼)。
ユウジは自らの命の代金を稼ぐために。
ダイゴとマモルはユウジの勢いに引きずられるように。
オザワの「指導」を受けた彼らは、
ダイゴが最初にかけた電話の“サトシの母親”から、順調に金を引き出していきます。
そんな中、ダイゴは一つの事実に気づきます。
“サトシの母親”は、自分と兄の本当の母親であることに。
そのことを告げて、これ以上彼女から金を引き出すことを止めようと言うダイゴに、
ユウジは言います。
「―――で、それでどうしてやめる理由になるんだ?」と。
噛み合わない彼らの会話を、崩壊していく彼らの関係を、
静かに見つめ続けたオザワが取った行動は―――


というような物語。
もともと見るつもりは全然なかったのですが、
たまたまネットニュースでダイゴ役二人のインタビュー記事を読んで、
なんとなく気になったので配信を買ってみました。
買った途端に仕事が忙しくなっちゃって、やっと昨日アーカイブを観ました。
最初に梅津くん主演の方を観たのですが、
ちょっと予想外のところから攻撃を受けた感じで、観終わった後呆然としてしまいました。

愛を知らずに、あるいは愛を奪われて育った愚かな男たちが起こす、犯罪と復讐劇。

一言で言ってしまえば、そういう物語なのだと思う。
でも、彼らを愚かだと一言で片づけてしまうには、
画面越しでさえ、彼らの感情が渦巻くように伝わってきて、
十分には語られていないはずの、“これまでの彼ら”が見えてくるようで、
なんだかどうにもやるせない気持ちになりました。

最初はね、叫ぶように恫喝するような杉江くんのユウジがちょっと怖くて不快で、
これはちょっと買って失敗したかなあ、と思ったのです。
でも、最初の電話をかけて、相手と言葉を交わしていく中でのダイゴの表情を見た時、
“友達”を言葉で、ナイフで脅すユウジの、一瞬の縋るような目を見た時、
愛がわからない、と呟くマモルの淡い笑みを見た時、
静かに―――ただ静かに彼らを観察するように見つめるオザワに気づいた時、
そんな最初の思いはどんどん薄れて霧散してしまいました。

物語が進む中、“母親”という存在が、見えない影のように彼らを覆っていきます。
ダイゴにとっては、突然目の前に現れた“真実”として。
マモルにとっては、決して手の届かない“憧憬”として。
ユウジにとっては、自分から奪っていく“憎悪”として。
そして、オザワにとっては―――“呪縛”として。
そのどれもが、状況的にも感情的にも複雑なものを内包していて、
多分一つ一つについていくらでも深く考えることができる。
できるけど、でも、私にとってはそれは“観て受け取った”ものであって、
感情ではなく知識でしかないのかもしれなくて。
だから、それをここで書くことはしないけれど・・・

最初、予想外のところから攻撃を受けて、と書きましたが、それは実はオザワのことでして。
オザワは、“きょうだい児”だったんだなあ、と。
終盤の彼の告白で、彼は兄のことを淡々と語ります。
兄がどういう状況で、だから両親がどんなふうに考えてお金を貯めていたのか。
その金をだまし取られて、母が、家族がどんなふうに苦しんだのか。
でも。
彼は、自分のことは語らなかった。
自分が兄をどう思っていたのか。
自分が、両親をどう思っていたのか。
少ない台詞から、オザワの家族関係を推測することは難しい。
彼が兄を愛していたのか、重荷と感じていたのか。
彼が家を出て働いていたのは―――母が詐欺に合うほど会っていなかったのは何故なのか。
それは、わからない。
でも、もしかしたらオザワは、両親にとって手のかからない、完璧な息子で在ろうとしたのではないか。
そう在らざるを得なかったのではないだろうか。
でも―――母を追い詰めたのは、結局は“彼”という存在だった。
そのことは、どれだけ彼を傷つけ、打ちのめし、引き裂いたのだろうか。
もちろん、これは私の勝手な推測なのだけれど。
でも。
閉じかけた傷にナイフを突き立てるように、憎しみを持続させていた彼の本当の敵は、
もしかしたら自分自身だったんじゃないかなあ、と思ってしまいました。

ラストシーン、ダイゴはもう一度母に電話をして、母へ問いかけます。
自分が生まれた時、嬉しかったか、と。
その後ろで、ユウジが、マモルが、オザワが、同じように電話を耳にあてていいて。
でも、彼らのその電話は決して繋がることはなくて。
彼らは、ダイゴと同じ問いを“母親”にすることはできなくて。
繋がらない電話を抱きしめるようにして座る彼らは、
赤い光の中、まるで胎児のようだと、そう思った瞬間、この舞台のタイトルが思い浮かびました。

BIRTH

生まれた瞬間、彼らが受けたものは祝福であったのだと。
それは決して今の彼らにとって救いにはならないかもしれないけれど、
でも、そうあってほしいと、なんだか祈るように思いました。


ちょっとわけのわからない感想になっちゃってすみません(^^;)
でも、観て良かったなあ、と思った舞台でした。
せっかくなので、役者さんのことも少しずつ。

完全Wキャストだったわけですが、
それぞれ全く別の造形でその点でもかなり見応えがあって面白かったです!

ダイゴ役は梅津くんと前山くん。
どちらも某舞台でしか観たことがないので、そのイメージが先入観としてあったのですが、
良い意味で裏切られた感じでした。
梅津くんのダイゴは、なんというか常に怯えているように感じました。
ユウジと衝突しても、マモルを拒絶しても、結局自分から折れてしまう。
優しさというよりも、争うことで、拒絶することで、
結果として自分が拒絶されることを凄く恐れているような感じ?
だからかな、笑っていても泣いているように見えてしまう瞬間がありました。
笑顔も儚い感じで―――その笑顔を含め表情がすとんと落ちてしまう瞬間が何回かあったのだけど、
能面のように静謐なのに、その下に荒れ狂う感情があるように感じられて、
思わず見入ってしまったり。
最後、マモルに恐怖を吐露する時の笑顔だけが、真実の笑顔のように見えて、ちょっとほっとしました。
逆に、前山くんのダイゴは、凄く強いダイゴだな、と思った。
台本が一緒だから、このダイゴも折れるんだけど、それは兄貴的な感じで、
仕方がないなあ、と折れてやる感じに見えました。
でもって、笑顔が武器、みたいな?
もうね、最初から最後まで、めっちゃ笑顔なんですよ。
ここで笑顔になる?と思う時もあったりしたのですが、
逆にその笑顔にぞっとしてしまう時もありました。
ユウジを「人の気持ちがわからない」と言っていたけど、
前山くんのダイゴも、基本的には人の気持ちをわかっていないようにも思いました。
自分の理論の中で生きている感じは、ちょっと杉江くんのユウジに通じるところがあったかなあ。
でも、ラストシーン、最後の電話で「おかあちゃん」と呼びかける時の笑顔は、
本当に素直で、優しくて、綺麗で、やっぱりちょっとほっとしちゃいました(笑)。

ユウジ役は杉江くんと玉城くん。
いやー、ぜんっぜん違うユウジで、面白かったです!
杉江くんのユウジはね、完璧自分の理論の中で生きている。
あの破綻しているように聞こえる理論も、
彼が生きてきた中で獲得した真実なんだなあ、と納得しちゃう感じでした。
でもって、ダイゴに対して、無意識の甘えが見えるところが何ともたちが悪いな、と。
あの縋るような目は、うっかり絆されちゃうって!(え)
ずーっとがなるように叫んでいる感じだったけど、
聞き取れないほど低い声で語り掛ける時の、強い目が印象的でした。
玉城くんのユウジは、自分の弱さをわかっていて、だからこそ常に虚勢を張っている感じ?
ほぼ常にキレてる杉江くんのユウジとは違って、
いつキレるかわからない張りつめた雰囲気が印象的でした。
この人、実はめっちゃ賢いんじゃないかなあ、と思う瞬間もあったりして。
彼の歪んだ笑顔と、前山くんのダイゴの笑顔の対比というか対決というかが凄かった(笑)。
それにしても、あの衣裳が普通に似合う玉城くん、凄いな・・・!


マモル役の後藤くんと佐藤くんはどちらも初見かな。
多分年齢設定的にも全然違うマモルだったんじゃないかなあ、と思いました。
後藤くんのマモルは、梅津くんのダイゴよりも年上で、彼を守りたいと思っていて、
佐藤くんのマモルは、前山くんのダイゴよりも年下で、彼に甘えたいと思っている感じ?
でも、どちらも確かにユウジに尽くしたいと思っているマモルでした。
ユウジと母親の話をした時、お金を振り込むのはサトシへの愛だ、と断言した直後、
「愛がわからない」とマモルが言うシーンがあるのですが、
後藤くんの、どこか寂しそうに微笑みながらつぶやくのも、
佐藤くんの、子どもみたいに泣きながら言うのも、
どちらもマモルだなあ、と思いました。
4人の中で、マモルはたぶん確かに両親に愛された瞬間があったはずで、
でも、彼にはその記憶がなくて。
そのことが彼に愛を見失わせているのかもしれないけれど、
でも、彼の中には確かに“愛”があるんじゃないかな、と思う。
とりあえず、彼には頑張ってダイゴに纏わりついてほしいと思います(笑)。


オザワ役は北園くんと陣内さん。
北園くんは某舞台の毛艶の良い役しか観たことがなかったのですが、
こういうお芝居をする人なのか、と改めて思いました。
物語を知ってから見なおすと、ユウジとの最初の邂逅の瞬間の笑いとかめっちゃ意味深。
そして、ユウジの言動の一つ一つが、オザワにとっては地雷だったんじゃないかと思いました。
これ、もし劇場に観に行けてたら、オザワをずーっと見るためにチケット増やしてたかもです。
北園くんのオザワは、とにかくじーっと3人、というか二人を観察してるんですよね。
終盤、無表情にユウジを見つめる目が、暗い虚のように見えました。
全ての感情を押し殺していたようなオザワが、
ユウジを挿す瞬間ですら無表情だったオザワが、
家族について語るときですら穏やかだったオザワが、最後に見せた激昂からの慟哭。
そこには、憎しみよりも後悔の方が強かったような気がして。
彼が本当に復讐したかったのは自分なのかな、と思いました。
多分初見な陣内さんのオザワは、もっと飄々とした感じ。
表情も豊かだし、無表情というよりも面白がるように二人を見ていたように思います。
でも。
最初の取り調べと、終盤の告白の時、瞼や口元がぴくんと引き連れるように動いていて。
あ、これはチックかなあ、とちょっと思ったのですが、
最後の取り調べの時にはその動きが全然なくて、やっぱりチックだったのかな、と。
それを演技に自然に入れられるのって凄いなあ、と思いました。
最後の慟哭は、悲しみの方が強かったかなあ。
子どもみたいな泣き方に、この人は子供時代を奪われてきたのかもしれない、と思いました。
冒頭のシーンで、閉じかけた傷にもう一度ナイフを突き立てる、というシーンで、
北園くんは足に、陣内さんは頬にナイフを当てる仕草をしていました。
逃げ出すことを、あるいは前に進むことを阻むための、足。
鏡を見るたびにその存在を自分に突きつけるための、頬。
どちらも、とてもらしいな、と思いました。



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