解呪

今日はとても不思議な天気でした。
曇り空の下、春のような温かい空気、
運転している車が揺れるほどの北風にのった天気雪―――からの虹。
そしてキンと冷えた空気の中、今は皓々と輝く満月が見えています。
今年もあと1日。
今年最後の観劇記録です。


GORCH BROTHERS Reading THEATER vol.2
「朝彦と夜彦 1987」

作:菅野彰
演出:中屋敷法仁

2020.12 六本木トリコロールシアター 【C】滝澤諒 と 織部典成
  *12/30 配信を視聴


というわけで、最後のチームの二人を観ました。
・・・初めて、この物語は朝彦の物語だ、と思いました。
朝彦一人の物語だ、と。

もちろん、夜彦の存在感がないわけではないのです。
織部くんの夜彦は、とても繊細で、我慢強くて、
彼が朝彦に何を頼っていたのか、何を求めていたのかを、
鮮明に見せてくれたように思います。
でも、この物語の中、リアルな夜彦は最後の彼だけだった。
17歳の夜彦は、朝彦が作り出した夜彦だった。
・・・いや、それはもちろんそうなんだということはわかっているのだけど、
なんというか、このペアは、朝彦が自分の中の夜彦を通して、
自分自身と向き合う物語のように感じたのです。

滝澤くんの朝彦は、なんというか、とても傷ついて見えました。
俺はそういう奴なんだ。
彼が呟くその言葉には、びっくりするほどの自己評価の低さが感じられた。
教師として、文句を言いながらも生徒と向き合い、仕事をこなす。
夫として、父として、かつて思い描いた小さな幸いを手にしている。
なのに。
30歳の朝彦は、何かに倦んでいるかのような気怠さと、
ふっとどこかに行ってしまいそうな不確かさがあったように思うのです。

17歳の朝彦は、多分本当に健やかな普通の少年だった。
自分の価値観の中で、精一杯夜彦と向き合っていた。
でも、夜彦の語る過去を聴く中で、夜彦は自分の価値観が、
彼を傷つけたかつての同級生たちと同じであることに気づいたのだと思う。
♪小さな木の実 を歌う滝澤くんの姿は、朝彦ではなく、あの日の同級生だった。
教師に促されるまま、表面的な同情でこの曲を歌い、
まわりと目を合わせながら夜彦の反応をうかがう。
その姿には決して悪意はなくて―――でも、だからこそ、残酷だった。

他人事。

それは、たぶん決して間違ったことではない。
どんなことだって、他人の経験は究極には他人事でしかない。
でも、朝彦にとって夜彦は“親友”だった。
“親友”だから、何かをしなくてはならない。
茶を濁して3をつけるのではなく、1か10かを―――離れるか傍にいるかを、選ばなくてはならない。
そう自分に言い聞かせて、けれど、最終的に彼は夜彦に選ばせた。
その選ばせた答えを、健やかな彼の心身は受け入れることはできなくて―――
そして、彼は屋上の扉を開けることができなかった。
いつ、あの音が聞こえるか―――そう震えながら、けれど動くことのできなかったあの時間は、
きっと健やかであった彼の心に、深い傷をつけたのだろうな、と思う。

死ぬのが怖いと、一緒に生きようと、朝彦は言えなかった。
死ぬのが怖いと、一緒に生きたいと、夜彦も言うことができなかった。

ただ一度だけ守れなかった約束は、
現実の二人の時間が進んでいても、
朝彦の中のどこかを呪いのように縛り付けていたのではないかと思う。

終盤、17歳の夜彦は朝彦に問いかけます。
「子どもの心に死にたい朝を残したりしないか?」
その問いに、「しない」と答える朝彦の表情は見えませんでした。
でも、その目はまっすぐに夜彦を見つめていた。
この問いかけは、彼らのもう一つの約束になったようにも見えました。

けれど、もしかしたら、朝彦は別の答えを選ぼうとしていたのではないか、とふと思いました。
夜彦の30歳の誕生日という長い約束の成就を前に、
夜彦の父親が生きるのに精いっぱいだった年月を前に、
夜彦以上にあの夏に囚われ続けた彼は、
夜彦の父と同じ選択をしようとしていたのではないか。
このシーンを見てそんな風に感じたことは初めてで、ちょっとびっくりしてしまいました。
そのくらい、夜彦の話を遮ろうとした彼の声は恐怖に震えていて。
そのくらい、夜彦と夏休み最後の日の約束を交わす彼の笑みは引きつっていて。
そのくらい、死にたくなかったと、死ぬのがこわかったと、
夜彦を裏切る(と彼が思っている)言葉を言う彼は打ちひしがれていて。
そのくらい、夜彦と家族のことを話す朝彦の背は恐怖に強張って見えた。

でも、その呪いは、17歳の朝彦ともう一つの約束を交わすことで解かれた。
呪いは、言祝ぎになった。

ラストシーン、朝彦はこの物語の中、初めて浮かべる穏やかな笑みで、夜彦に呼びかけます。
彼がまっすぐ見つめるその“夜彦”は、多分彼を言祝いで消えていったあの17歳の夜彦で。
けれど今、彼に呼びかける30歳の夜彦が傍にいる。
その声に振り返り、もう一度虚空に向けられた微笑みはとても優しくて、朗らかで、
生きる力に満ちていたように思いました。
本当に、彼をとらえていた呪いは解けたのだと、そう思うことができて、
なんだかほっとして泣けてしまったのでした。


結局3チームすべてを観ることができました。
去年観た2チームと合わせて5回、どの二人も違っていて見応えがありました。
これからも、この演目はきっと上演されるのだと思うけれど、
きっとまた違う“二人”を観ることができるに違いありません。
叶うならば、劇場で二人を見届けたいいなー。
でも、難しい可能性もあるので、ぜひ配信もしていただきたいです!

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