幸せの共犯者

舞台と客席は共犯関係だと、彼は言いました。
それは、なんて幸せな共犯関係なんだろう。


「HEADS UP!」

2018.3.3 マチネ 赤坂ACTシアター 1階A列20番台
2018.3.3 ソワレ 赤坂ACTシアター 1階H列30番台

原案・作詞・演出:ラサール石井
出演:哀川翔、相葉裕樹、橋本じゅん、青木さやか、池田純矢、大空ゆうひ、中川晃教、今拓哉、
    芋洗坂係長、オレノグラフィティ、陰山泰、岡田誠、井上珠美、新良エツ子、外岡えりか、福永吉洋、
    大竹浩一、森内翔太、香月彩里、谷須美子、伊藤結花、小林侑里花、大和田美帆(声の出演)


初演から2年。
ずっともう一度観たいと思っていた舞台が、旅公演を経てやっと東京にやってきました。
初演は一度しか観ていないので、ストーリーのおおよそは覚えているけど、
細かいところは記憶の彼方(^^;)
なので、新鮮に楽しむことができた部分も多かったのですが、
2回目だからこそ響いてくるものも多かったように思います。

華やかなオーバーチュアの後、一瞬の静寂の後に鳴り響く非常ベル。
そして、現れた劇場付雑用係の熊川さん(中川晃教)。
彼がどういう“存在”なのかが分かった状態での観劇は初めてで。
だからかな、彼の語る言葉の一つ一つが、とても深く、切実で、そして愛情に満ちたものに聞こえて、
なんだか最初から泣けてしまいました。

このミュージカルは、舞台を創る人たちを描いたいわゆるバックステージものです。
普段観客の目に触れない様々な人たちの技術、時間、物、記憶―――想い。

純粋に、舞台に魅了されている人。
何かを創ることに情熱を傾けている人。
困難に立ち向かうことに燃える人。
かつての憧れを形にした人。
いつかの未来への野望を隠した人。
思い出の溢れた空間に何かを探し求めている人。
―――叶わなかった“約束”を、果たそうとしている人。

もちろん、これは一つの物語で。
実際に舞台に関わる人たちの人生や想いは、
こんなにも劇的で、こんなにも綺麗なものではないかもしれない。
それでも。
舞台を創っているのは、自分の人生を、想いを背負った「人」で。

冒頭で、熊川さんが舞台と客席は共犯関係だと言います。
それは虚構の空間を虚構と知りつつ共有する、ということなのかもしれないし、
舞台と客席の気持ちが一体化する瞬間のことを言っているのかもしれない。
実際、この舞台を観ながら、私は何度も舞台と客席の気持ちが重なる瞬間を感じました。
舞台上に生きる人たちと一緒に、ハラハラして、驚いて、笑って、泣いて、反発して、頷いて。
その瞬間は―――その「共犯関係」は、とても幸せでとても心地よかった。
でもそれはきっと、そういういろんな人生や想いを背負った「人」が創るからこそで。
そして、だからこそ、こんなにも私は舞台に魅了されるのかもしれないなあ、
と改めてしみじみ思ってしまいました。
なんだか舞台への愛情を再確認させてもらった気がします。
そういう意味でも、このミュージカル、定期的に上演していただきたいなあ(笑)。

役者さんのことを少しずつ。

新藤役、相葉くん。
初演の時同様の見事なキラキラっぷり(笑)。
でも、2年の間に、なんというか凄くたくましくなったなあ、と思いました。
身体がしっかりした、というのではなくて、向き合うものに対する“軸”がしっかりした印象。
今回前方からの観劇だったわけですが、
終盤彼が舞台に向かって深くお辞儀をする顔が、角度的にたまたま見えたのですね。
その強い決意を秘めた表情に思わず目を奪われました。
この物語は新藤くんの成長物語でもあるわけですが、
彼はこの一夜の舞台で、舞監としていろんなものを受け止めて受け取って、
それらを背負ったうえで前に進んでいく覚悟をしたのかな、と思った。

バイトの佐野くん役の池田くん。
拝見するのは初めてかな。
可愛らしい明るい笑顔と、思いがけずハスキーな歌声のギャップにちょっとやられました(笑)。
ダンスもめっちゃ楽しそうで、彼と芋洗坂係長演じる滝さんの♪暗黒街のボス は、
とんでもなく楽しかったです!
既に馴染んでるよ、君(笑)。
成り行きで巻き込まれていく彼がどんどん深みにはまっていくのがなんだかとっても微笑ましくv
でもって、その果てに見つけたものは彼がずっと探していたものなんだなあ、と思って、
♪Chain での彼の歌声にちょっと涙してしまいました。
というか、この曲の4人の歌声の重なり、本当に素敵だったなあ・・・!
繋がる先を見つけた彼が、いつか一人前の演出部として新藤と共に黎明会館に訪れる未来を、
ちょっと見てみたくなりました。

そんな佐野くんを受け入れていくのがじゅんさん演じる久米さん率いるお三方!
久米さんの背中で語る感じとか(口でもめっちゃ語ってるし笑いも取るけど)、
オレノグラフィティさん演じる九条さんの、さりげなく優しく見守る感じとか、
タキさんのさりげないフォロースキルとか、なんというかとんでもなく頼りがいのあるお三方でした。
困難に出会った時に、まずはできることからやっていく。
それって、実はもの凄い精神力が必要なんじゃないかなあ、って思う。
それを、さらっと見せてくださるのがほんとにかっこよかったです。

久米さんの背中で語る、というのは、ワーカービーの時にも強く感じたのですが、
(あの背中が、佐野くんをどこかで支えていたんだなあ!)
最後、客席から退場していく久米さんが、客席に向かって深くお辞儀をする、その背中にも感じました。
あのお辞儀が、久米さんとしてなのか、じゅんさんとしてなのか、その両方なのか、
私にはわからなかったけれど、
でも、そこに滲み出る感謝の真摯さに思わず拍手をしてしまいました。
また、その姿を見守る香月さん演じる奥様(さなえさんだっけ?)の表情が優しくてねえ・・・(涙)

青木さん演じる制作の本庄さんは、ほんとにかっこいい!
でも、最後、小山田さんに告白(?)する時は、少女のような可愛らしさで。
ああ、この人は、初めて小山田さんを、「ドルガンチェの馬」を観た時の、
あの少女のころの瑞々しさを持ったまま、大人になったんだなあ、と思って、
その稀有さになんだかとても救われたような気持ちになりました。
初演の時も、本庄さんが言う言葉、
「チケットを売ったっていうことは約束したってことなんです。いい芝居をするって」と、
そこから続く♪チケットは売れている にとても共感したのですが、
今回なぜか小山田さんの告白(?)の時に、その言葉が思い浮かびました。

今さん演じる老役者小山田さん。
コミカルな役柄ではあるのだけれど、細切れの「ドルガンチェの馬」の本来の雰囲気や重さを、
一瞬で伝えてくれるスキルはさすがだなあ、と思いました。
今さんは、王様を演じる小山田さんを演じているんだなあ、と、
言葉にすると当然のことなんですが、その凄さに感動してしまいました。
というか、歌声もだけど、あの動きの機敏さは素晴らしいと思う。

1000回公演を終えて有終の美を飾ったはずの「ドルガンチェの馬」。
けれど、小山田さんの“我儘”で、1001回公演が行われることになった。
その理由は、最後の最後に明かされるのだけれど・・・
もしもこの理由を一番最初、公演をしたいと彼が言いだしたその時に告げていたら、
この舞台はきっと違ったものになっていたと思うのです。
美談として取り上げられて、もしかしたらもっと上演しやすくなっていたかもしれない。
でも、小山田さんはそうはしなかった。
それは、彼が上演したかったのは、そういう付加的な意味のある舞台ではなくて、
他の1000回と変わらない、積み上げて崩されて、また積み上げられるはずの、
通常営業の「ドルガンチェの馬」だったんじゃないかなあ、と思うのです。
だって、それこそが彼が果たせなかった“約束”の舞台なんだから。
もちろん、この日の舞台を観に来た観客は、あの日の観客とは違うでしょう。
熊川さんの存在を、小山田さんは欠片だって感じてはいないはず。
舞台だって、30年前のあの時とは演出も役者もスタッフも違っている。
それでも、一つの舞台を―――一夜きりの虚構の世界を創り上げるために、
舞台に関わり、向き合う人たちの存在は変わらない。
積み上げて崩される、普段通りの、でもその1回1回が一期一会の、舞台。
あの日、黎明会館で上演されるはずだったのは、そんなたくさんの舞台の中の、1回だった。
そして、それこそが、熊川さんが観ることができなかった―――待ち続けた舞台なんじゃないかな。

アッキーの熊川さんは、今回もその笑顔の優しさが切ないくらいに愛しかったです。
初演では気づかなかったけれど、佐野くんや本庄さん、まきちゃんに話しかけているけれど、
彼らには全然その姿が見えていないのだということも、今回良くわかりました。
でも、そう思って見ないと、ちょっと押しの弱い雑用係さんで全く違和感がないんだよね(^^;)
新藤くんが最初に言葉を交わしているから、見事にミスリードされてる感じです。
2幕、回想の形で「ドルガンチェの馬」の2幕の様子が差し込まれます。
ラストシーンの馬の演出のために頑張る新藤たちを、セットの上から見守る熊川さんに気づいたとき、
ああ、このシーンを、彼は初めて観るんだ、ということに思い至りました。
旅公演。
初めての古い劇場。
足りない設備。
そういう状況で起きる、思いがけないハプニング。
それは、多分(今回ほどではないにしても)舞台を上演するには当たり前のことで。
その当たり前の舞台の現場を、熊川さんは雑用係としてずっと見守って、支えてきて、
そして不意に奪い取られたこの2幕を、熊川さんはやっと観ることができたんだなあ・・・
そう思ったら、なんだか泣けて泣けて仕方ありませんでした。
これで“約束”は果たされたわけだけれど、
熊川さん、新藤くんとまた新しい“約束”をしていましたね。
老朽化した黎明会館が、この後壊されてしまうのか、続いて行くのかわからないけれど、
いつか、その“約束”が果たされる日を心から願いたくなりました。

そういえば、熊川さんが歌い踊る♪劇場で起こること 。
今回もとても華やかで楽しかったですv
というか、今回初めてこのシーンに大空さんや今さん、
井上さんや新良さんたちがいらっしゃることに気づきました(^^;)
「冷房ないさ~!」って歌い上げるの、音響さん役の岡田さんだよね?
すっごい今更で申し訳ない気持ちです・・・
というか、淡い黄色と白の衣裳の大空さん、めっちゃ綺麗だった!
ぬる~い「コーラスライン」風とか、一瞬の「雨に唄えば」とか、何度見ても楽しいですねv
この華やかなオープニングと対になるような、底抜けに明るい感じのカーテンコールも大好きです!
久々に翌日筋肉痛になるくらい、思いっきり手拍子しちゃいました(笑)。
♪HEADS UP! の時に、並んだアッキーと池田くんがマイムっぽいことをしてるのも凄い可愛かったしv
バンドのみなさんだけではなく、
実際の演出部(かな?)のスタッフの方がカーテンコールに出てくださったのも嬉しかった!
舞台上にリノリウムを敷くシーンや剥がすときに実際に出てきてくださるのですが、
いやもうその手際の素晴らしさと、表情の精悍さといったら!
お一人の方は、カーテンコールでもにこりともしなくて、その職人っぽさがにときめきましたv
久米さんが劇中で言うように、見切れるのは不覚!と思ってらっしゃるのかもしれないし、
こんな風に舞台上やカーテンコールに出るのはもしかしたら不本意なのかもしれないけれど、
それでも出てくださったことに心からありがとう!と言いたいです。

今回、マチソワの1日だけの観劇で、ソワレの幕間の時、私がこの舞台を観るのはこれが最後、と思ったら、
二幕がとても楽しみで、でも、始まって欲しくない気持ちが少し生まれました。
この幸せな空間と時間に、少しでも長く佇んでいたい―――そう思って。
でも、観終わって残ったのは、「楽しかった!」というキラキラ輝く結晶みたいな気持でした。
空っぽな空間に一つの舞台を積み上げて、そして崩して。
でも崩した後のその場所は、積み上げる前と決して同じではない。
様々な人生を背負った、舞台に関わるに人たちの想いが、
あの真っ白な雪みたいに少しずつ降り積もって、そしてそのわずかな変化は確実に未来に向かっていた。
そう感じられることがすごく嬉しかった。
この日、私が流した涙も、思わず零れた微笑みも、
現実のACTシアターと虚構の黎明会館、二重写しのあの劇場に降り積もる何かになるといいな。
そんな風に思いました。


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