見えざる者

寒椿で染め上げたような真っ赤な糸。
縦横に絡むその糸は、きっと彼らの縁の糸。


キノドラマ「怜々蒐集譚」

2019.2.23 マチネ 新国立劇場小劇場 D4列一桁台

原作:石原理
演出・脚本:八鍬健之介
出演:溝口琢矢、藤原祐規、味方良介、鯨井康介、岸博之、宮地花衣、瀬戸早妃、宮下舞花、野尻大介、
   相馬圭祐、相葉裕樹(声のみ)


物語の舞台は、東京と名を変えたばかりの帝都。
新人編集者の南(溝口琢也)が、挿絵画家の出泉七朗(藤原祐規)や、
この世ならざるものを視る歌舞伎役者の幽興斎葛葉(味方良介)に振り回されながら、
不思議な謎を解いていくミステリー?ファンタジー?なこの物語。
実は私、前の出版社のコミックスを持っていまして(笑)。
時々読み返すくらい好きなお話だったのですね。
ですから、舞台化を知ったときには驚くと同時に、とても嬉しかったのです。
なんというか、舞台と凄く親和性のある物語だな、と思っていたから。
でも、同じくらい不安もあった。
正直に言いますと、キャストが全く私のイメージと合わなくて(^^;)
でも、原作好きだし、好きな役者さんが出ているしで、
お休みが確定した時に、勢いでチケットをとってしまったわけなのですが・・・

すごい、良い舞台でした!

いや、キャストに対する不安が杞憂だって、何度経験すれば学習するんだ、私(^^;)
もちろん、イメージとは違う部分もたくさんありました。
でも、彼岸と此岸が交錯するような、光と闇が隣り合うような、現と夢が混じり合うような、
そんな物語は、やっぱり舞台の上で静かで奥行きのある世界を作りだしていました。
舞台セットで、赤い紐が幾重にも巻き付いていたのだけれど、
それが、二つの世界の境界のようにも、そこに集う人たちをつなぐ縁の糸のようにも見えました。
でもって、何より役者さんたちが、どなたもしっかり根っこのある造形で、
原作が思い浮かびながらも、舞台としてとても楽しませていただきました。

今回特に印象に残ったのが、役者さんたちの声の良さ!
後方席だったので、表情があまりよく見えなかったせいもあるのかもしれませんが、
台詞を越えて何かを伝えてくる声の力に、とても引き込まれました。
冒頭の、相葉くん演じる烏鷺の深く静かで、けれど抗いがたい何かが胸をざわつかせる声。
そして、相馬くんの乙貝の、甘くあやうく、けれど硬質な何かを感じさせる声には、
演出とあいまって一気に物語世界に引き込まれたような感覚になりました。

相馬くんの乙貝は、なんというか、物書きの業が形を成したかのようでした。
出泉先生が語る、人が―――物書きが持つ相反する二つの心。
複雑で、度し難くて、けれど狂おしいほどに強い想い。
烏鷺と乙貝の過去は、キノドラマではあまり詳しくは描かれません。
乙貝の左手が烏鷺の言葉を夜毎書き記したのが、
死した烏鷺の起こした怪異なのか、乙貝の心が作用したものなのか、それともその両方なのか、
その答えも、多分明確にはされていない。
でも―――
黒い男に羽交い絞めにされながら、もうぼくを手放してくれと、乙貝は血を吐くように叫ぶけれど、
私にはその言葉は裏返しのように聞こえた。
手放されないことを望む自身を拒絶する、その心の表れのように聞こえました。
・・・まあ、この辺は妄想の範疇なんだと思いますが(^^;)
最後、烏鷺の最後の言葉を受け止めた乙貝は、もう一度筆をとることを決意します。
それまでとは違う穏やかな表情で舞台の上に現れた彼が、冒頭と同じように、
けれど冒頭とは違って雪ではなく桜吹雪の中に落ちた赤い寒椿を手にした表情を見た時、
この乙貝は、手放されることではなく、囚われることを自らに許したんだ、と思いました。
それが、彼に何をもたらすのかはわからないけれど、でも、それもまた幸いなのかな。

それにしても、最後のあの詩を読む相葉くんの烏鷺の声も素晴らしかったです!
私の中では、相葉くんはいまだC7でわちゃわちゃしている姿なんだけど(あまりに印象強すぎて(^^;))、
あの声の余韻は、乙貝でなくても抗いがたいものがあったようにおもいます。
うーん、キネマの方も見ればよかったな。
やっぱりDVD買うしかないだろうか・・・

そんな二人の間に立たされてしまった瀬戸さん演じる公美子夫人。
綺麗で強くて、でも儚くて―――男二人はこの人に甘えたんだろうなあ、と思ってしまった。
そして彼女は、一度は甘えることを許したけれど、そんな自分を許せなかったのかもしれないな、と思ったり。
あの万年筆の下りは原作にはなかったように思うのですが、
乙貝と公美子夫人の間にあったものとは違う、けれど確かに情と呼ばれるものが、
彼女と烏鷺の間にもあったんじゃないかなあ・・・それが彼女の救いになるかどうかはわからないけど。

公美子夫人もですが、他の女性陣もとても素敵でした。
カフェの女給役の宮下さんは、ほんとに可愛くて癒しでしたし、
吉乃役の宮地さんは、原作に描かれていない吉乃の悲哀を鮮やかに見せてくれました。
でもって、正体がばれて逃げるときの素早さも凄かった(笑)。

葛葉役の味方くんは、名前は良く見るけど拝見するのは初めてかなー。
女形、という設定は言葉の上だけだったのがちょっと残念かも(笑)。
手や足が大きくて男らしいので、南くんが惚れちゃうような美女になるのかちょっとわからないけど(え)、
頼りがいのあるかっこい葛葉さんでした。

藤原さんの出泉先生は、実は出演者の中で一番好きな役者さんで、でも一番イメージと違ったのですが、
(もっとガタイのいい男っぽいイメージだった・・・)
間違いなく出泉先生でした!
飄々とした振る舞いとか、滔々と語るときとかもですが、何より出泉先生だなー、と思ったのが、
ただ静かに相手を見つめている時。
烏鷺が評した通り、出泉先生はたぶんいろんなことが見えすぎていて。
それは、葛葉さんのようにこの世ならざるものではなく、
生々しい人の想いというこの上なく現実的で、けれどこの世の何よりも不可思議なもの。
そんな風に思いました。
そして、そんな風にみえすぎる二人には、南くんという存在が必要なのかな、とも思ったり。

溝口くんの南くんは、その健やかさが何とも印象的でした。
明るくまっすぐで一生懸命。
この世ならざるものも、人の想いも見えすぎないからこその健やかさなのか、
健やかだからこそ見えないのか・・・?
物語の中で、出泉先生が南くんの言葉に、「いいね 南くん」と言うシーンがあります。
私は君のそんなところが好きだ、と。
それは、多分本心からの言葉だと思うのです。
見えすぎるがゆえに、何かを失くしてしまう先生を、南くんの健やかさが繋ぎ止めているのかな、と。
そう思ったら、南くんの健やかさが、とても心強くて、温かくて、
けれど同時になぜかちょっとだけ哀しく感じられたのでした。
そういえば、「宝塚BOYS」の竹内もそんな感じだったかなあ。
あの健やかさは、そのまま溝口くんの持ち味なのかもしれませんね。
とりあえず、原作では彼はこの後も出泉先生や葛葉さんだけでなく、
文壇の面々に振り回されるはずなので、負けずに頑張ってほしいです(笑)。

記録を書きながらパンフレットを見なおしていたのですが、
舞台を観てから見ると、どの写真もとても雰囲気があって素敵でした。
うーん、やっぱりDVD買うかなー。
もうちょっと悩みつつ、まずは原作を読みなおそうと思います。

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