はじまりの岸辺

全ての始まりであり、
全ての終わりであり、
そしてまた全てが始まる―――そんな岸辺。


「ビッグ・フィッシュ  12 chairs version」

2019.11.2 マチネ シアタークリエ 9列20番台
2019.11.16 マチネ シアタークリエ 12列10番台
2019.11.17 マチネ シアタークリエ 19列一桁台

出演:川平慈英、浦井健治、霧矢大夢、夢咲ねね、藤井隆、JKim、
   深水元基、佐多照(11/2、11/19)、(11/16)、東山光明、
   小林由香、鈴木蘭々、ROLLY

初演の上演が2017年2月。
日生劇場という独特な「場」を隅々まで使い切った演出は本当に素晴らしくて、
今でもあの冒頭に湧きあがった感情を思い出せるくらいです。
今回、シアタークリエでの上演に、あの壮大な空間をどう持ってくるのかと思っていたら、
アンサンブルさんなしの12人だけの上演だとのこと。
それってめちゃくちゃ大変なのでは?!と知ったときに思ったし、
実際にエドワード以外全員がいろんな役に早替えをしながら出ずっぱりな状況は、
本当に大変そうではありました・・・
見て居る側としては、この人があのシーンであんな役に!と初演とは別の楽しみもあったのですが(^^;)
で、全体的には、「BIG FISH」という物語に、初演とは違う向き合い方をさせてもらったような印象でした。
初演は、この世界にどっぷり浸かるというか、この世界に入り込む感じだったのですが、
今回は、体温の感じられるような距離で、語られる物語に耳を傾ける感じ。
12個の椅子、というのがどういう意図のものなのか正確にはわからないけれど、
燃える暖炉の前に集まって彼の言葉を聞くような、
夕暮れの岸辺に目をやりながら思い出を語るような、
眠る前に開いた絵本を一緒に覗きこむような、
そんな静かで、個人的で、どこか秘密の匂いも感じさせる空間だった気がします。
うん、どちらも好きだなあ。

そういう感じでそもそもの距離感が違っていたり、
初演であったシーンがなくなっていたり、
初演ではなかった曲が追加されていたりと、いろいろな変化ありましたが、
やっぱり心に沁みる素晴らしいミュージカルでした。
最初から最後まで、泣いて、笑って、泣きながら笑って―――
観終わった後、なんだか凄く満たされた気持ちになってしまったせいか、
実は観劇記録を書く気持ちがちょっと乏しかったりします(^^;)
なんというか、自分の中の深いところに、大切にしまっておきたいような、そんな感じ。
なので、今回は役者さんの感想を少しずつ。


エドワード役の川平慈英さん。
初演に引き続き、明るくて突飛で頑固で愛情深いエドワードを生き生きと演じてらっしゃいました。
あまりにエドワードなので、途中ウィルとかなり感情がシンクロして、
ちょっとこの親父どうしてくれよう!と思った瞬間もあったり(笑)。
でも、冒頭のヤング・ウィルとの♪ヒーローになれ を聴いた瞬間の、
エドワードからウィルに向けられたメッセージは、
記憶にあるよりもずっとまっすぐで―――“願い”ともいえるような熱があって、
もうこの時点で涙腺が決壊してしまいました。
子どものウィルからは、きっとお父さんは凄く大きな存在に見えていたんだろうなあ。
でも、大人になったウィルと向き合うエドワードは、なんだかとても小さく見えた。
身長のことだけではなく、
夫として妻を愛し、
父親として息子の前に立とうとし、
人として病と向き合う―――ヒーローではなく、等身大の存在。
そのことに、もしかしたらウィルは愕然とした瞬間があったのかもしれないなあ、とも思う。
今回は、ウィルに気持ちが寄り添っちゃって、ウィル視点で観てしまったのですが、
サンドラ視点で観たら、またきっと違う存在として感じられたんだろうなあ。
そんな、とてもリアルなエドワードだったと思います。
歌声は、ちょっとお疲れなのかな?と感じる瞬間もあったのですが、
ラストシーンのそこに居る人々を包み込むような歌声は圧巻だったので、
あれはきっと演技だったんだろうなあ。
というか、あの瞬間に感じたエドワードの“大きさ”はとんでもなかったと思います。

ウィル役、浦井くん。
冒頭、客席通路に立って振り返り、幻影の魚を目で追う彼の笑顔に、
最初に泣かされてしまいました。
あの、無邪気なほどに明るく、愛おしむように優しい笑顔。
あれこそが、この物語の象徴だと、そう思います。
こういう瞬間があるから、浦井健治という役者に心惹かれちゃうんだなあ。
今回は、上手通路で時間経過や場面転換を演じるシーンがいくつかあったのですが、
ウィルがエドワードの病気を知らされて、実家に帰るまでの表情は、
見ていて本当に辛かったです。
この2年の間に、父が(多分エドワードと同じ)大病を患いまして。
幸い手術は上手くいったのですが、あの時の衝撃というか、喪失感というか、
怖さで叫びたくなるのと同時に、母のことを考えて冷静になる自分がいる感じが、
なんというかもの凄く身につまされて・・・
彼に、ジョセフィーンがいてくれて、本当に良かったなあ、と思いました。
もちろん、表情だけでなく、歌声も堪能いたしました!
クリエは歌声が直接響いてくる感じがとても贅沢ですよね。
♪知らない人 の喜びと不安、希望と疑問、確信と迷いが入り混じった感じは、
こちらもまさにウィル!という感じ。
エドワードとぶつかり合う時の、どうにもならない苛立ちも、
病室でエドワードに無茶ぶりされた後の、わたわたからの疾走も、
本当に見ごたえあり!でした。
あの終盤の脱走(?)シーンからの諸々は、
父の物語を聞かされて育った彼が、父の物語を父に語るという逆転の中での、
ウィルの懸命さが、冒頭のエドワードの“願い”に通じる感じがして、
本当にもう泣かずにはいられませんでした。
誰かに、“物語”を語る―――その術を彼はあの瞬間に手にしたんだろうなあ。
♪知らない人 で、彼は息子に常識を教えよう、と歌います。
多分、彼はその言葉通り常識を教える。
そして同時に、自分が父から伝えられた、自分自身の物語を“生きる”ことを、
ちゃんと息子に伝えていくんだろうなあ、と思いました。

サンドラ役、霧矢さん。
今回も素晴らしく綺麗で、可憐で、かっこよくって、頼りがいのあるサンドラでした。
♪彼の中の魔法 は、息子にとって“知らない人”なままのエドワードのことを、
息子に伝えたいという真摯さがあったように思います。
なんでわからないの?という呆れもちょっとあったかな(^^;)
ジョセフィーンがそれに同調するのも、なんというか凄い説得力がありました。
男女の差、というのではなく、外側から見ているからこそ、
父と息子の、義父と夫の関係性がわかる、という感じかな?
♪屋根がいらない での、彼女にとって当たり前で特別な深い愛情にも、
ラストシーンの、一言もしゃべらず、ただエドワードにとっての“運命の女”として在り続ける姿にも、
なんというかもうその存在感に圧倒されました。
ある意味、ブルーム家の要なんだろうなあ
あ、若い頃のキュートな姿や、アシュトンの街の農夫のお爺さんも素敵でしたv

ジョセフィーン役、夢咲さん。
・・・めちゃくちゃ可愛かった!!
いやもうちょっとどうしようかというレベルの可愛らしさでした。
何がって、アラバマの子羊の衣裳の時の夢咲さんが踊る姿!
もう、頭の先からつま先まで、可愛いが詰まっている感じでした。
衣裳がお似合い、というのもあるのですが、
動きのちょっとしたニュアンスとか、静止姿勢のラインとか、
とにかくとんでもなく綺麗で可愛かったんです!!
ジョセフィーンは、理知的であると同時に、
サンドラに通じる柔軟性や強さの感じられる美しい大人の女性だったので、
そのギャップにちょっとびっくりしました。
役者さんって凄い・・・というか、宝塚の娘役さんって凄い!
「1789」が再演されることがあったら、絶対夢咲さんのオランプを観ようと心に決めました!
というか、主要キャストそのままで再演されるといいなあ。

藤井さんは、ドン・プライスがメインの役ですが、その他もいろいろ。
藤井さんが出てくると、場が和むというか、張りつめた空気がふっと緩む感じがあって、
この物語にはなくてはならない存在だなあ、と思いました。
初演であった暗殺者?のシーンがなくなってたのは残念ですが、
♪ドラゴンと戦え で一瞬だけあの衣裳で出てきてくれたのは嬉しかったですv
主治医の先生も、短いシーンでエドワードとの関係性をちゃんと見せてくれました。
最初に観た時、レントゲン写真が裏表逆で、これはアンケートに書いた方がいいのか悩んで、
もしかしたら意味があるのかも!と何も書かなかったのですが、
次に観た時には治っててほっとしました(笑)。

JKimさんは、もう本当に惚れ惚れするような歌声!
あの魔女はJKimさんですっかりインプットされてしまいました(笑)。
魔女が、本当はどういう存在なのかは今回もちょっとわからなかったのですが、
映画を見ればわかるのかなあ。

カール役の深水さん。
エドワードの頼りがいのある親友として、この方も和み枠だったように思います。
というか、あの竹馬状態で、ステップ踏めるの凄い!!
某番組の稽古場訪問でその仕組みを見たあとだったので、とてもびっくりしました。

ヤング・ウィル役はWキャスト。
佐田くんは、ちょっとやんちゃな感じかな。
エドワードに対してもまっすぐ向かっていく感じ。
サーカスのシーンで、下手袖脇で何気に凄いことをしてて、踊れる子なのかな?と思ったり。
佐藤くんは、思慮深い感じかな。
大人のウィルに繋がりやすい在り方だったように思います。
壊疽ワードに対しても、理詰めでいってはぐらかされて呆れる感じ。
サーカスのシーンでも、キャロウェイさんの秘書っぽいことをしてまた。頭脳派?

ザッキー役の東山くんも、お兄ちゃんとあわせての和み枠。
お兄ちゃんと一緒にエドワードをからかったりするけど、
何気にエドワードのことを認めているというか、頼りにしているというか・・・
サーカスシーンでのジャグリング、きっとほんとは凄く上手なんだろうなあ、と思います。
奥の方でやっている時、結構成功してた気がする(笑)。

人魚役の小林さんは、今回も素晴らしい身体能力!!
エドワードに愛を教えた人魚の美しさと奔放さを健康的に表現されていました。
というか、サーカスシーンのあれは何ですか?!
上方にぶら下がった輪につかまっていろんなポジションを取るのをずっとやっているのですが、
それがとんでもなくアクロバティックで、思わず目を奪われちゃいました。
・・・下でエドワードの運命のシーンが繰り広げられてるのに(^^;)
いやでも、そのポジションも本当に綺麗で。
ハラハラしつつも、見惚れてしまいました。

キャロウェイ役のROLLYさん。
狼の遠吠え、可愛くなってませんか?(笑)
独特な存在感が、このミュージカルの中の、ティム・バートン要素を体現してるのかなあ、と思ったり。


今回も、映像や照明がとても効果的に使われていました。
カールの洞窟は空気がひんやりと感じるような視覚効果があったし、
1幕ラストの水仙と青空はやっぱり圧巻の美しさだったし、
大きな白い魚の幻影は、最初と最後にしっかりと物語を支えてくれていたし。
そんな中で、今回一番印象に残ったのは、あの川の岸辺かなあ。
ウィルが父と過ごし、母と踊り、ジョセフィーヌにプロポーズし、息子と戯れ、
そして、父を送ったあの岸辺。
映像としてはそんなにくっきりとした感じではないのですが、
遠くの木々、そしてシーンによって色合いを変える空の色が、
現実と虚構(と言ってはいけないのかもですが)が入り混じったこの物語を、
一つの場として繋ぎ止めているように感じました。
いつかまた、この岸辺を訪れることができたらいいな。
そして、この岸辺で始まり、終わり、そしてまた始まるこの物語に、
また出会うことができたらいいな。
そんな風に、思いました。

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