ヒーローの資質

10年前の自分と今の自分。
今の自分と10年後の自分。
どちらも遠くて。
どちらも不確かで。
でも。
きっとそこには変わらない“何か”がある。


劇団鹿殺し
「傷だらけのカバディ」

2019.12.2 マチネ あうるすぽっと I列20番台

作:丸尾丸一郎
演出:菜月チョビ
音楽:オレノグラフィティ
出演:丸山丸一郎、菜月チョビ、オレノグラフィティ、橘輝、鷺沼恵美子、
   浅野康之、峰ゆとり、近藤茶、有田あん、椙山さと美、メガマスミ、
   長瀬絹也、金子大樹、内藤ぶり、藤綾近、前川ゆう、
   小澤涼太、近藤今人、椎名鯛造


物語は、1通のメールから始まります。
2030年秋。
代表を務めるNPO法人の東京進出に向けて、
生まれ育った鹿神村を発とうとする紀子(菜月チョビ)の下に届いた1通のメール。
それは、10年前の2020年の夏以来音信不通になっていた、
コイちゃん―――鯉田大作(椎名鯛造)からのメールでした。
あの日の夢を叶えてやる。
全員で東京に来い。
今まさに強盗の容疑で指名手配されているコイちゃんからのメールにただならぬものを感じた紀子は、
かつての仲間たちの下を順々に訪ねていきます。
仲間―――2020年の東京オリンピックで、カバディ日本代表として出場した、
鹿神SEVENのメンバーたち。
10年前、怪我でプロ野球選手への道に挫折したコイちゃんを立ち直らせようとしたのをきっかけに結成され、
オリンピックの決勝トーナメントでの初戦敗退を機に、バラバラとなった仲間たち。
紀子とコイちゃんの幼馴染で忍者の末裔なのに影の薄さだけを引き継いだ猿橋佐吉(橘輝)。
村長である父からの有名大学入学のプレッシャーその他に負けそうになっている大村獏(伊藤今人)。
「男前すぎる農家」として有名だけど、農園経営に行き詰まっている林原龍二(小澤涼太)。
最高学府の医学部に在籍しながら、「なんか無駄なこと」をしようと村に立ち寄った獅子田明(オレノグラフィティ)。
インドに修行に行ったらカバディに嵌ってしまい、プロリーグで活躍していた馬鹿(うましか)寺の住職、馬鹿悟(丸尾丸一郎)。
悟に合うため馬鹿寺にやってきたインドからの技術留学生でハーフの山本カーン清(近藤茶)。
ノリと勢いと、それぞれに切実な“何か”を抱えてカバディに向き合い、
様々な妨害や困難も乗り越えて、仲間―――家族として、オリンピック出場を叶えた彼ら。
けれど、その時に自分たちを鼓舞するために紀子のノートに記した「10年後の夢」を、
誰一人叶えることのできないまま、彼らはバラバラになっていました。
かつての仲間を訪ねた紀子が、彼らが直面する、それぞれの今。
次々届くコイちゃんのメールに導かれるように東京へ向かった彼らを待っていたのは、
コイちゃんが辿り着いたあの日の敗北の“真実”で―――

という感じの物語。
鹿殺しさんは、確か新感線の舞台で聴いた菜月さんの歌声がとても印象的で、
彼女が演出する舞台をいつか観てみたいと思いながらも、これまでご縁がなかったのですが、
今回初めて観ることができました。
事前に読んだ劇評で、歌い踊る、という一文があったので、
歌い踊るんだ・・・?とちょっと身構えながらの観劇だったのですが、
結果からいうと、とんでもなく私好みの素晴らしい舞台でした!
あの勢いも、そこはかとない毒も、真っ向勝負の青臭さも、容赦ない展開も、
溢れ出る切実さも、涙を含んだ笑みが生まれるラストシーンも、ほんとに大好き!!

最初の温い感じの始まりはまあ、ちょっと距離感を図るのに戸惑ったりもしましたが、
嵐と共に舞台が10年前にうつり、コイちゃんが出てきてからは一気に引き込まれました。
主要人物8人。
しかも菜月さんと椎名くんとオレノさん以外は初見、という状況でしたが、
一人一人の登場の仕方も、端的に描かれる一人一人の背景の一部もとてもわかりやすかったし、
何より、全員が揃ったあと、ユニフォームを着た8人が一人一人紹介され、
そして始まった♪傷だらけのカバディ には、もう感情も感覚も根こそぎ持っていかれた感じでした。
凄く明るい曲なんです。
みんな、めちゃくちゃいい笑顔なんです。
ちょっとネガティブな歌詞も、笑い飛ばすような勢いがあるんです。
でも同時に、縋りつくような切実さがあった。
何かを失って、何かを奪われて、何かを押し付けられて、何かを求めて、何かを願って。
そんな一人一人の切実さが痛いぐらいにリアルで・・・気づいたら涙が零れていました。

それぞれに挫折して、それぞれに癒えない傷を抱えて、それぞれに悔やむことがあって。
でも、戻ることのできない“あの日”を背負ったまま、今を生きる彼ら。
急場しのぎで集まった彼らが辿り着いた愛と信頼。
急激に上がった熱が体を蝕むように、決勝トーナメントのインド戦を前に、
彼らを襲った不安と不信。
バラバラだった彼らが、試合の中でもう一度繋いだ手―――繋がれなかった、手。

10年の時を経て集った彼らは、それぞれ思惑でコイちゃんの提案に乗り、
あの日の敗北をなかったことにするために戦い、そしてまた敗れ、
けれど、10年を経て明らかになった今はもう語り合うことのできない、
二人のメンバーの願い(だと私は思った)を前に、もう一度あの時の夢に向き合い始めます。

八百長のきっかけとなってしまったカーンが家族に伝えた仲間との時間への想い。
教授の地位まで上り詰めながら、若年性認知症を発症し、馬鹿寺に転がり込んできた晶が作った、
それぞれの「10年後の夢」を叶える方法。

実際のところ、最終的に彼らの問題はきっと何も解決はしていない。
夢を叶えるための方法がわかっても、彼らはそれを実践できる状況にはない。
それでも、彼らは改めて向き合った癒えない傷と、痛みの記憶と、消えない絆と、
そして再び繋いだ手の熱さを胸に、互いを信じて進んで―――生きていくんだろうなあ。
愛する女と結婚するという夢を叶えるために、結婚式から略奪した悟が、
彼女と二人インドへととびだった飛行機を見上げる彼らの笑顔は、
最初に全員で笑いあったときの明るさと、10年前にはなかった覚悟が感じられて。
物語の最初から最後まで、泣いて笑って号泣して、力をもらった。
傷ついて、蹲って、やさぐれて―――それでも立ち上がる力があるのだと、
未来があるのだと、あの笑顔に行ってもらった気がします。
そんなわけで、久々にカーテンコールで号泣パターンに陥ったのでした(^^;)
あ、思い出したらまた泣けてきた・・・(え)

きりがないので、役者さんの感想を少しずつ。

今回の観劇のきっかけになったコイちゃん役の椎名くん。
椎名くんの魅力が大爆発!な感じでした。
当て書きなの?とちょっと思っちゃったくらい。
丸尾さん、ありがとうございます!(笑)。
立ち位置的にはヒーローになり切れなかったヒーローという感じなのですが、
なんだろう・・・コイちゃんが持っているヒーローの資質、というのかな、
それが凄く感じられました。
メンバーを集めるために、一人一人説得していくのだけど、
その時の彼の言葉とか、表情を見てたら、誰も逆らえない何かがある気がした。
こいつと一緒なら大丈夫。
こいつと一緒なら違う世界が見られるかもしれない。
そんな風に感じさせる何か。
もしかしたら、彼は無意識に相手の夢を背負っているのかもしれないなあ。
それこそが、ヒーローの資質なのかも。
カバディの試合の時の身軽さというか身体能力もさすがでした。
実際にこのチームがいたら、絶対エース(コイちゃんの試合のニックネーム)ファンでした。
いや、普通に椎名くんファンなんだけどね?
歌のシーンでも、椎名くんの声が浮き上がるようにクリアに聞こえたのもファンだからかなー(笑)。
そして、2030年のコイちゃんも凄い良かった。
2020年のコイちゃんとは別人のように粗い肌触りの声にびっくり。
彼が過ごしてきた10年間の厳しさとか、やさぐれ具合とかが如実に表れてる感じで。
なのに、夢を取り戻そうとしていくふとした瞬間に、
10年前と同じトーンの声が混じるんですよ。
それが意図したものか、意図ではないものなのかはわからないけれど、
あの瞬間があったからこそ、10年前のコイちゃんの気配が感じられたからこそ、
彼らはまた共に戦うことができたんじゃないかなあ、と思いました。

佐吉役、橘さん。
初めて拝見する役者さんなのですが、笑いも涙も憤りも(え)しっかり引き出してくれる、
技在りな役者さんだなあ、と思いました。
結果的に仲間(と観客)を騙すことになったけど、
その時その時で、彼は常に本音を話していたんだと思う。
何気に彼の将来が一番心配なんですが、彼はきっと困難をすり抜けるように未来へ向かうんだろうなあ。
忍者の末裔としての影の薄さを駆使したカバディシーンでの活躍も楽しかったですv

伊藤さん演じる獏。
というか、獏という名前は記憶にありませんでした(^^;)
ロボコップ→ロボ子というニックネームがめっちゃ強烈で。
というか役柄が凄い強烈でした(笑)。
父親からの圧力と、ジェンダーの悩みを抱えた獏。
弱気で繊細な風なのですが、要所要所で良いこと言ったり、
場を動かす一言を言ったりしてた記憶が・・・この辺の頼りがいのある感じはオネエならでは?
カバディシーンもめっちゃ頼りがいがありました。

龍二役の小澤さん。
うん。イケメンだった。
そして、一番物語の後が心配なのが彼だったりします(笑)。

カーン役の近藤さん。
最後の手紙のシーンには泣かされました。
登場人物も多いし、椎名くんに目を奪われてることが多かったので(笑)、
カーンの記憶って申し訳ないことにあまりないのですが、
物語の結末を知っていれば、彼の演技にいろんな意味を見いだせたのかな、と思う。
この辺はDVDでぜひ確認したいです!

悟役、丸尾さん。
脚本を書かれた方なのですね。
親戚に寺が多くて住職というだけで親近感がわくのですが、
住職としても、元プロのカバディ選手としても、とても説得力があったように思います。
というか声がめっちゃいいので、ブッダ(悟のニックネーム)で家族とか信頼とか愛とか言われると、
もうそれだけで納得しちゃう感じです。
やっぱり僧侶は声が良くないと!(え)
メンバーの中で、多分一番幸せに近いところにいるブッダ。
ぜひ、このまま幸せになっていただきたいです。

ブッダが恋い焦がれて略奪結婚までたどり着いたラクシュミーこと大村愛楽役、鷺沼さん。
鹿神SEVENのアイドル的存在を、ハイテンションに、でもとても繊細に演じてらっしゃいました。
彼女が村長になっても良かったんじゃないかなー、ともちょっと思ったけど、
ロボコップに対する「お兄ちゃんは自由にしていい」という言葉は、
もしかしたら逆にロボコップと自分自身を縛る言葉になってたんじゃないかなあ、と、
ちょっと思ってしまう影の部分もあったり。
うん、彼女にはブッダと一緒に幸せになってほしい。

オレノグラフィティさんの明はねえ・・・(涙)
適当な大学生かと思ったら、ちょこっと描写された彼の背負うものが凄く重くて、
ちょっとどうしようかと思いました。
あと、多分彼が抱えていた、紀子とは別の部外者感。
メンバーの中で、鹿神村出身じゃないのは彼とカーンだけなんだよね。
インド戦の直前、彼が発した言葉は売り言葉に買い言葉だったかもしれないけれど、
もしかしたら、彼がずっと抱えてきた、仲間が知らないうちに彼につけていた傷の発露だったのかな、とも思う。
だって、絶対に疎外感を感じる瞬間があったと思うんですよ。
共通の思い出。共通の話題。共通の言葉(方言)。
そういう疎外感に傷ついて、でもだからこそ、あの試合の中で繋いだ手は、
彼にとってかけがえのないものになったのかなあ、と。
だからこそ、地位も名誉も―――記憶も失おうとしている彼が行きついたのは馬鹿寺だったんだと思う。
血のつながった家族ではなく、心が繋がった家族。
寄りかかりのしかかり奪うだけの家族ではなく、ぶつかり合い支え合い笑い合う家族。
終盤の彼の笑顔の優しさ、その笑顔から溢れる幸福感は、静かなのに本当に圧倒的で・・・
バラバラになった10年間。
誰もが離れた手は二度と繋がらないと思っていた10年間。
彼だけが、再びその手を繋ごうと、再び笑い合おうと、
仲間の夢を叶えようと、一人で懸命に模索していたのだと思うと、
彼の孤独と、その切実な願いに、なんだかもう胸が引き絞られる思いでした。
それにしても、コイちゃんの肩の治療法はともかく、
たわしの作り方とか桃の品種改良とか、女になる薬とか、
忍者の技とか・・・天才という枠を超えてるよね、明!(笑)
カバディシーンも、頭脳派なスタイリッシュさを醸し出す眼鏡がめっちゃかっこよかったですv

紀子役は演出の菜月さん。
いやー・・・きつかった。
誤解や思い込みもあると思うんだけど、紀子の立ち位置がね、なんというか作り手側にはなれなくて、
ただいろんなものを享受することしかできない自分に重なる感じがあって。
冒頭で、自分を「誰かの人生を応援して自分の人生が上手くいってるみたいに感じる寄生虫」と言うのだけど、
その言葉にちょっと呆然としてしまいました。
凄い自虐なんだけど、だからこそめちゃくちゃ切実。
でも、カバディに関しては、彼女の言葉がきっかけだし、
マネージャーとして彼らを支えて、彼らと一緒に戦っていて、
全然寄生虫なんかじゃないよ!って思えてちょっとほっとしてたんですね。
だからこそ、インド戦の前のコイちゃんの言葉が、
たとえこれも売り言葉に買い言葉だったとしても、本当に辛かった。
外野・・・そうか、あんなに一緒にいても、あんなに同じものを見ていても、
あのフィールドに一緒に立っていないだけで、外野と言われちゃうんだ。
いやでもそれもそうだよなあ・・・て、紀子と一緒に落ち込む自分がいたりして。
でも、だからこそ、奪われた金メダルを―――夢を取り戻すために、
彼らが仕掛けたあの騒動が、だんだんとカバディの試合みたいになって、
その中に紀子がいるのが、なんだか凄く嬉しかったのでした。
とはいえ、彼女はあの後、誰かの最後の夢を叶えるNPOを立ち上げて成功していて、
誰かの夢に乗っかるのを極めちゃってるんだから、凄い!
「負けた時に人間の強さが決まる」
「夢を追い続けるから生きていられる」
終盤に彼女が言ったこの言葉の重さというか深さは、そんな紀子さんだからこそなんだろうな。

そんなこんなで、泣いて笑って号泣した観劇となりました。
泣けたといえば、カバディのシーンも泣けました・・・
いやほんと実際の試合を見ているような高揚感と緊迫感にめっちゃ翻弄された。
実はカバディは見たことがなくて、この舞台で初めて接したのですが、
演劇的な見せ方の秀逸さと、役者さんのまさに体を張った緊迫感が、
ガチの勝負を見せられているような気持ちになりまして。
ええもう内心本気で応援しましたとも!(笑)
お稽古で指導者を呼んで練習されたそうですが、それであの迫力なのか、と。
実際の試合も観てみたいなあ、と思いました。
カーテンコールのコール&レスポンスで、
「We are 鹿神SEVEN」って振り付きで言わせてもらったのも嬉しかったなv
カーテンコールは号泣だったけど、あの一瞬で思いっきり笑顔になれました。

舞台は明日の大阪公演で第千秋楽だったかな。
明日の舞台も、彼らが夢に向かって戦い続けられますように。
私はさすがに大阪までは行けないけど、
その分さっき届いた最遊記歌劇伝のDVDで椎名くんを補充しようと思います(笑)。

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