その一片

舞台の上には、最初から最後まで紙吹雪が舞っていました。
真っ白な雪は、時に夜の蒼に染まり、時に血の色に染まった。
そして、暗闇の中、わずかな光を反射して、まるで星のように輝いた。
その一片ひとひらは、もしかしたら彼らがリセットした時間なのかもしれない―――
散っていった命、流された涙、選び取った痛み、響き渡った慟哭。
その全てを内包して、白く白く降り積もったその時間は、
最後には明るい光の中、きっと彼らの未来につながっていた。


少年社中リーディング公演
「三人どころじゃない吉三」

2020.12.23 紀伊国屋ホール(配信)*12/26に視聴

原案:「三人吉三巴白浪」
脚色・演出:毛利亘宏

出演;梅津瑞樹、田邉幸太郎、堀池直毅、伊藤優衣、大竹えり、竹内尚文


たくさんの吉三が出てきて、幸せになる物語を―――
そういうコンセプト(と言ってた気がする)で毛利さんが脚色したこの物語。
名刀・庚申丸をめぐって絡み合い連鎖する多くの死と悲劇を回避するために、
謎の男―――庚申丸の願いを聞いた閻魔さまの命を受け、
義兄弟の契りを交わした三人の吉三が時を巻き戻し、
何百回、何千回、何万回、何億回、何兆回、何景回・・・無限とも思えるリセットを繰り返し、
全員の幸せな最後に辿り着く、という物語。

・・・と書いてしまうと単純に思えてしまいますが、
DVDで観たストレートプレイ版(?)では、舞台上を埋めるほどのたくさんの出演者がいて、
それぞれ複雑に絡み合った関係性を、多方向から描写していたり、
時間の巻き戻る描写がまさに早戻しという感じだったりで、
真剣に見ていてもかなり混乱する難しい舞台でした。
いやでも、それぞれに個性的な衣装や髪型でわかりやすくもしてくれたし、
早戻りの演出は演劇ならではで見事だったし、
そもそもこういう時間軸に関わる物語がすごく好きで。

で、今回のリーディングも購入したわけなのですが、
この物語を6人でどう進めていくか、実はちょっと不安だったんですね。
衣裳などの視覚的な情報もない中で、物語についていけるのかなーって。
でも、そんなのは全くの杞憂でした。
動きがないからこそのテンポの良さのある台詞。
単色でありながら、場をしっかりと創り上げる照明。
役者さんの声に重なり、情景を想起させる音響。
そして何より役者さんの演技、演じ分けが素晴らしく!
最初から最後まで、楽しく拝見しました。

物語の内容についてももちろんいろいろ考えたこととか、受け取ったものとかあるのだけど、
いつかストレートプレイで観られる時が来ることを願って、
今日は役者さんの感想を少しずつ記録しておきたいと思います。


梅津くんは、お嬢吉三の一役。
これまでいくつか舞台を拝見して、これは似合うだろう、と思っていたのですが、
私の予想を超える素晴らしいお嬢でした。
何というか、彼の語る言葉って本当に力がある。
その時の感情だけでなく、その感情に至るまでの彼の時間が感じられる感じで、
本当に引き込まれました。
お嬢は綺麗で艶っぽくて、でももの凄く男前。
そして、深い深い孤独がある。
この物語には、いくつもの家族が出てきます。
けれど、お嬢だけは家族との時間の記憶がない。
父と再会するけれど、あの物語が始まった時点で、彼はどこにも属していなかった。
だからこそ、和尚とお坊ととの契りは彼にとって何物にも代えがたいものであり、
彼らを含めたすべての人たちの幸せは、彼にとって決して手放せないものだったんだろうなあ、と思う。
切腹するお坊を前にして一度は絶望に膝を屈しそうになりながら、
けれど和尚もお坊も同じ道を歩んできたことを知り、
庚申丸の願いと、閻魔の悲しみを知り、まっすぐに前を向いて立ち上がるあの覚悟。
それはもしかしたら、単なるエゴなのかもしれない。
でも、それでも、彼がそう望むことが、その理由が、理屈でなく届いてきたように思いました。
最初と最後に、(確か)同じ歌舞伎の台詞を語るのだけれど、
ラストの言葉に込められた力強さは、歓喜の響きは、本当に惚れ惚れするようでした。
アフタートークで、大きな声を出しすぎて頭がぼわぼわする的なことを言っていましたが、
それも納得の熱演でした。
彼も言っていたように、いつかストレートプレイで彼のお嬢を観られるといいなあ。
鈴木くんのお嬢ももちろん観たいけれど。
というか二人の競演が見てみたいです!


田辺さんは、和尚吉三と武兵衛役。
いやー、和尚のラップにはびっくりしました!
朗読劇で、脚本置いて歌いだすとは思ってもみなかった(笑)。
和尚は派手な動きはあまりないのだけれど、この物語の根幹にかかわる役柄で、
一つ一つの言葉の重さというか、意味をしっかり届けてくれるのはさすがだなあ、と。
武兵衛のことばも、和尚とは違う重さがあった・・・かな?


堀池さんは、お坊吉三、十三郎、八百屋久兵衛の3役。
お坊はどちらかというと自分から動いていく感じの役柄だったのですが、
徐々に武士感というか、家に囚われている感じが見えてくるのが興味深く。
彼は本当にお家を再興したかったのかな。
妹を救う手段がそれだけだから、そうしようと思っていたのかな、なんてちょっと思いました。
十三郎はお坊よりもずっと明るい雰囲気で、おとせとのやり取りは微笑ましかったので、
その業の残酷さにはちょっと打ちのめされました。
いやでも、何気に結構元凶だよね?(笑)
久兵衛は人の好い感じが癒し系でした。
本当の息子も、義理の息子も大切にしてくれそうな安心感があって、こちらも癒し系だったかも。


伊藤さんは黒子=閻魔役。
初めて観る役者さんですが、アイドルさんなのかな?
何というか存在そのものがめっちゃ可愛いのだけど、
なによりその澄んだ高い声がとても印象的でした。
彼女が場を告げる声は、その都度ピンっと世界を引き締める感じがありました。
DVDで観た黒子さんの得体の知れなさはなかったけれど、
こういう閻魔様もありかなあ、と。


大竹さんは、源次兵衛と、一重、おとせ、吉野の三人娘(?)。
先日のウェンディと同じ人だと最初は気づかないくらい雰囲気が違っていてびっくり。
というか、三人娘の演じ分けが、それぞれに魅力的でした。
馬鹿、と書かれていた吉野が、でもこの物語の中では一番賢かった気もします(笑)。
源次兵衛は、なんだかかわいい幽霊さんでしたv


そして、個人的にこの舞台のMVPだと思っている竹内さん。
土左衛門伝吉、太郎右衛門、海老名軍蔵、木屋文里、庚申丸の5役を見事に演じ分けていました!
アフタートークで、一番低い声から一番高い声までで演じ分けてた的なことをおっしゃっていましたが、
本当にお見事!
途中、違う役の台詞が続くところがあったのだけれど、
あれ、映像で観ていなければ、別の人が演じているように感じたと思います。
個人的には、かっこいいのにちょっとへたれな文里がお気に入りでしたv
でもって、位置の関係か紙吹雪がどんどん頭に積もっていくのにはらはらしました(笑)。
振り落とすわけにもいかないし、大変だったろうなあ。


そんなこんなで、とても楽しませていただきました。
ほかの演目もみればよかったかなあ。
元の舞台を見ていないので、今回は見送っちゃったのですが、
矢崎くんのネバーランドとか、梅津くんの6役とか、ちょっと気になりました。

そして、最初の毛利さんのご挨拶とアフタートークで、窪寺昭さんのお話がありました。
私自身は、窪寺さんの舞台は数えるほどしか見ていないけれど、
この方も、言葉の一つ一つに想いを、時間を、魂を込められる方だったと思う。
光秀も、夜彦も、絶対に忘れない。
改めまして、心よりご冥福をお祈りいたします。



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