瓔珞の音

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zoom RSS 羊の水に揺られて見る夢

<<   作成日時 : 2008/01/14 14:57   >>

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私が見た野田秀樹さんの舞台は、いつも何かに覆われている。
「贋作・罪と罰」の巨大なプチプチ。
「The BEE」のごわごわした一枚の紙。
そして、「キル」では、柔らかな色合いの滑らかな布。
その中心に置かれた一台の足踏みミシン。
その奥には、搬送用の大きな扉。
ああ、あの扉が「心情あふるる軽薄さ」で、私を打ちのめしたんだなあ、と、
開演前、私はそんなまったく関係のないことを考えていました。
そのくらい、あの空間は静謐だった。
客席のざわめきとは、まったく別の次元にあるような、
でも、何故か見つめずにはいられない得体の知れなさがあった。
どこか別の世界への入り口のような怖さがあった。
そして、唐突な開演。
引き上げられた布の上には、果てしなく広がる青空がありました。


野田地図第十三回公演
「キル」

2008.1.12 ソワレ シアターコクーン N列10番台
出演:妻夫木聡、広末涼子、勝村政信、高田聖子、山田まりや、村岡希美、
    市村しんぺー、中山祐一朗、小林勝也、高橋惠子、野田秀樹


布に描かれた広大な空の下。
一台のミシンを一心に踏む男がいました。
男の名はイマダ(小林勝也)―――羊の国(モンゴル)の洋服屋。
その周りでは、結髪(勝村政信)と人形(高田聖子)が落ち着かない様子。
イマダの妻トワ(高橋惠子)が、今まさにお産の床にあるのです。
けれど、父親であるはずのイマダは、それ以外のことに気をとられ、
生まれた息子にも優しい笑顔はむけず、かつてファッション戦争で殺した敵の名前をつけます。
テムジンと名づけられた息子(妻夫木聡)は、
そんな父の思惑は知らず、父を慕い、母を愛し、
いつか祖先の名を冠したブランド「蒼き狼」を継ぐことを夢見ます。
けれどある日、テムジンは知ってしまうのです。
かつて戦争のさなか的に囚われた母が父に助け出された時、
母は既に身ごもっていたこと―――自分は父の息子ではないこと。
その時、父は敵のデザイナー、ヒツジ・デ・カルダンに殺され、
父の型紙も、腹心の部下であった結髪も奪われてしまいます。
うちのめされたテムジンは、けれど、羊毛の服でファッション界を制し、
カルダンを死へと追いやります。
一度は敵に寝返った結髪は、二つの手土産を持ってテムジンの元へともどりました。
それは、美しい言葉と、異国の美しい女・シルク(広末涼子)。
カルダンのモデルであったシルクは、
けれど他のモデルたちとは異なり、テムジンの求愛を全てはねのけます。
シルクを手に入れたいテムジンは、結髪に美しい言葉で手紙を書かせシルクへと送ります。
美しく、繊細で、情緒溢れるその言葉に、シルクは一気に恋をします。
けれどやはり字を書く事のできないシルクは、その返事を結髪に頼みます。
二人の間を行き来する、沢山の美しい言葉。
その言葉の上で燃え上がる二人の恋。
自分たちの真実ではないその言葉に導かれて、二人は結ばれます。
しかしその直後、シルクは東の絹の国(中国)に連れ去られてしまいました。
シルクを取り戻し、そして自らの版図を広げるために、
テムジンは祖国の羊を焼き払い、絹の国へと攻め込みます。
そして勝利を収めたテムジンが目にしたのは、身ごもったシルクの姿でした―――


というのが1幕のストーリー。
2幕では、かつての父と同じ立場になったテムジンと、息子バンリ(野田秀樹)の確執、
西の国のブランド「蒼い狼」との戦いなどが描かれていきます。

といっても、それは野田さんの舞台。
実際には、シンプルな舞台の上で、
時間軸も、場所も、役柄さえも次々と変えながら、複雑な物語が進んでいきました。
そして、圧倒的なまでの言葉、言葉、言葉!!
キルは着る、切る、kill、生きる。
セイフクは征服に制服。
アサは朝であり麻。
羊にかけられた羊毛と羊水。
デザイナーたちが奪い合う型紙と、戦争で奪い合う版図。
二重三重に組み込まれた意味は、その世界の境界を曖昧にし、
リズム良く繰り出される言葉たちは、ふとした瞬間に別の顔をのぞかせ―――
正直、この脚本に組み込まれた言葉の意味やメッセージを、
私は半分も受け止めることはできなかったのではないかと思います。
見ている最中には、「ああ、なんて素敵な言葉!」と思っても、
怒涛のように次々と溢れ出る言葉に記憶は押し流されて・・・
悲しいかな、実はあんまり覚えていないのです(涙)。
その複雑で、単純で、美しくて、乱暴で、でも優しい言葉の奔流は、
正直とても疲れるものではあったけれど、
それでも、私の気持ちを一気に取り込んでしまうほどの力にあふれていました。

物語は、戦いの結果得た野心や欲望や猜疑心や絶望や死や―――
そんな沢山のものを着込んだテムジンが、
鏡の向こうの自分であるかのような西の国のブランド「蒼い狼」と戦い、
その全てを脱ぎ捨てて、無垢な羊毛の生成りの服に戻って終ります。

生きることは着ることと同じ。
死ぬことは、その命を脱ぎ捨てること。
彼は、自分を覆う余分なものを全て脱ぎ捨て、
生まれた時の姿になって、輪廻の輪の中に戻ったのかもしれません。

そんな彼が抱きしめるのは、最初からあった一台の足踏みミシン。
その後ろで繰り返される出産の場。
1幕と2幕の冒頭で繰り広げられたのと、同じ言葉、同じ動作。
けれど、今生まれ出る子供は、全てに愛され、全てに待ち望まれ―――
そして、付けられた名前は、テムジン。
絶望と嘆きに彩られたテムジンは、その出産を待つようにして、ゆっくりと眠りにつきます。
その背後に広がるのは、ひたすらに、蒼い世界。

羊の国を覆う、果てしのない青空。
テムジンが見ることのなかった、底知れぬ青い海。
そして、全ての命がたゆたう、母の胎内の暖かな羊の水。

この辺は、実はもう号泣でした。
沢山の言葉に圧倒された心と頭を、一気に洗い流すような澄んだ蒼。
カーテンコール、テムジン以外のキャストが出てきてお辞儀をした後、
彼らは眠るテムジンの肩をそっと叩き、彼を起こします。
目覚めたテムジン―――妻夫木くんの、
たった今生まれ出たかのような不思議そうで、幸せそうで、穏やかな微笑み。
ああ、もう、思い出しただけでもちょっと泣けてきてしまいます。

野田さんの舞台は、私にはひどく難解です。
際限のない言葉遊びは、そのテンポについて行ききれないと、
ちょっと置き去りにされたような気持ちになります。
そこに描かれる暴力や理不尽さは、時にひどく私を打ちのめします。
けれど、「贋作・罪と罰」も、「キル」も、
見終わった後に残るのは、胸を引き絞られるような切なさと、
そして、本能的な涙だけでした。
難しい解釈も、社会的なメッセージも全部受け止められればそれが一番だと思う。
けれど、そういうものを全て超えて、
「命」であるとか、「生きること」そのものであるとか、
そんな根源的な何かを私に伝えてくれるのが、野田さんの舞台なのだと、改めて思いました。



テムジン役、妻夫木聡くん。
最初ちょっと声が聞き取りにくいかなあ、と思いましたが、
物語が進むにつれて、どんどん凄味を増していって、目を奪われました。
1幕のちょっとおばかな感じの全開の笑顔が、
2幕になってどんどん暗くなっていくのが怖くて、ちょっと悲しかった。
だから、最後のシーンの遠い何かを求めるような表情と、
安心したような寝顔と、はにかんだ笑顔に、とてもほっとしました。
欲を言えば、もう少し年齢的な積み重ねが表現されていれば、もっと説得力があったかなあ、と。
うーん、でも、結局彼は子供のまま、という役だったのかもしれないから、
これはこれでいいのかな?
この役、初演と再演は堤真一さんがやったそうですね。
そのせいもあるのか、何故かところどころ「タンゴ」の堤さんの台詞回しと重なる印象のところがありました。
でも、きっと堤さんのテムジンとは全然違うんでしょうね。
堤さんの舞台も観てみたかったなあ、と思います。


シルク役、広末涼子さん。
1幕、もの凄く甲高い声で、ちょっとびっくりしました(笑)。
甲高い声かののしる声か、という役だったので、演じるのも大変だったろうなあ。
舞台の上を走り回っていたし。
舞台上の彼女を観るのは初めてでしたが、思っていたよりもずっと良かったです。
可愛らしくてやっぱりちょっとおばかな少女から、
自分の恋に違和感を抱く女の顔、
そして、子を思う母の強さまで、
凄く頑張って表現されていたように思います。

野田さんの舞台を観るといつも思うのですが、
野田さんの舞台って、とても独特のテンポがあるんですよね。
台詞の言い方とか、身体の動かし方とか、間合いとか・・・
といっても私はそんなに生の舞台を観ているわけではないのですけど。
それが、野田さんの舞台のカラーを創っているのだと思うのですが、
その中から役者さん自身の個性をきちんと際立たせるのって、
とっても大変なんだろうな、と思います。
今回の舞台では、広末涼子さんと山田まりやさんで強くそう思いました。
野田さん以外の舞台で、彼女たちがどんなテンポの演技をされるのか、
ちょっと気になります。


結髪役、勝村政信さん。
この方も、野田さんのテンポに乗って、というか、
それをトランポリンみたいな原動力にして、一気にはじけていた印象です。
「ドラクル」の時の演技が、なんだかとっても中途半端な感じがしていたのですが
(というか、そういう役だから、そういう演技なんだろうけど)、
今回は、台詞の一つ、動きの一つとっても、
足場のきちんとした遊び心があって、
しかも、しめるところはきちんとしめていて、
とても楽しませていただきました。
この役、前は渡辺いっけいさんや古田新太さんがやってらしたんですね。
・・・それはさぞかし濃かったことでしょう(笑)。
結髪がでると、広い舞台が少し狭く感じられるほど、
空間そのものと、そしてご自身の身体を、めいっぱい使ってらっしゃいました。
蜷川さんの舞台での印象があまりなかったのですが、
今度は是非注目してみたいとおもいます。


でもって、野田さんの舞台の中で、
きちんとご自分の個性を埋没させずにいるなあ、と思ったのが、人形役、高田聖子さん。
人形というのは、とても不思議な役柄で、
時にはテムジンを慈しむ姉のようであり、
時にはテムジンの名声に寄生しているようであり、
時にはテムジンの全てを信じる信奉者のようであり、
時にはテムジンを唆す悪魔のようであり・・・
からっとした明るい表情の直後に、
深い憂いや底知れぬ怪しさをかもし出すところは、さすが聖子さん!
結局、人形はトルソーだったんですかね?
それを言ったら、結髪もヒトではなかったのかなあ・・・
印象は鮮烈なのに、その存在は非常に曖昧で、
テムジンの見る夢の象徴のような役だなあ、と思いました。
淡い緑とピンクの衣装や、髪型もとっても可愛らしかったです。
あ、途中、ミシンガン(誤字にあらず/笑)を撃ちまくるシーンがあるのですが、
「ペテン師と詐欺師」のジョリーンを思い出しちゃいました(笑)。
あそこまでいっちゃってはいませんでしたけどね(え)。


J・J役、村岡希美さん。
「贋作・罪と罰」では、様々な役柄をスムーズに演じ分けてらっしゃいましたが、
今回も、ふり幅の大きい演技でした。
野田テンポなんだけど、それにきちんと乗っている感じが見ていて安心。


案人ガイドとカルダン役の市川しんぺーさん。
なんだか、独特の雰囲気がある方ですねー。
旅人ポロロン役の中山祐一朗さんとともに、
「ドラクル」が私の初見だったのですけど、
お二人とも、「ドラクル」とは全然違った印象でした。
身体の動かし方とか、声の出し方すら違っていた感じ。


イマダと蒼い狼役、小林勝也さん。
・・・とっても怖い役柄でした。
どの役も、テムジンを苛み、追い詰める役な感じだったからでしょうか。
真顔でしっかり笑いを取ってくるところに、ベテランの貫禄をみたきがします(笑)。


トワ役、高橋惠子さん。
とてもとても愛情深い母、祖母の役でした。
でも、気も強い肝っ玉母さん(笑)。
2時間ちょっとの劇中で、しっかり年齢を表現されているのが凄いと思います。
テムジンを抱いて揺らしながら、羊の水の話をするシーン、
その表情はとっても優しくて、私もうっとりしてしまいました(笑)。


そして、野田秀樹さん。
この方の演技は、見ていてなんだかとても不安になります。
その甲高い声や、予測のつかない動きが、私の中の居心地の悪さを刺激するのかも。
今回は、観光客のグループの中の先生と、
それから、テムジンの息子バンリ役でした。
小さな子供の役なのですが、声はめちゃくちゃわざとらしいのに、
しっかり子供に見えるところが素晴らしい!
身体も一回り小さくなったような印象でした。
自分を愛さず、あまつさえ虐待まがいのことをする父を憎まない、というバンリ。
父の意向にしたがって、単身敵の本拠地へ向かうバンリ。
そのバンリからの手紙に綴られた憎しみの言葉―――
声のトーンはまったく変わらないのに、
その憎しみがにじみ出るようなあの手紙のシーンは、
ちょっと背筋が寒くなるような凄味がありました。


というわけで、私の今年の初観劇は、非常に濃いマチソワでした(笑)。
どちらも笑えるけど、後に残る印象は全然違う。
どちらも言葉遊びが多彩だけど、込められた意味合いは全然違う。
そのどちらもが魅力的で、
やっぱり私は今年も観劇三昧で頑張ろう、と、
小正月を前に、改めて心に誓った恭穂なのでした(笑)。

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