瓔珞の音

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zoom RSS 深い情の物語

<<   作成日時 : 2008/10/27 21:53   >>

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平成中村座、という言葉を知ったのは、確か市村正親さんの新市村座を観にいった時。
最初の市村座が新市村座の前身の平成市村座に名前を変えたのが、
中村勘九郎さん(当時)の平成中村座にならってのことだった、と、
プログラムか何かで読んだ記憶があります。
その頃私は歌舞伎は全然観たこともなくて、
ふーん、そうなんだ・・・と思いながら、市村さんのエポニーヌの可憐さ(?)や、
「文七元結」の変幻自在で情に溢れた演技に引き込まれていたのでした。

そして今年、五回目の開催となる(らしい)平成中村座。
様々なハードルを乗り越えて(笑)、無事に行ってまいりました!


平成中村座十月大歌舞伎
通し狂言 仮名手本忠臣蔵 Cプログラム

2008.10.25 昼の回 浅草寺境内平成中村座 1階21列一桁台

大序  鶴ヶ岡社頭兜改めの場
二段目 桃井館の場
三段目 足利館表門進物の場
      足利館松の間刃傷の場
八段目 道行旅路の嫁入り
九段目 山科閑居の場


久々の浅草は、凄い人出!
本堂落慶50周年記念大開帳や、お庭の拝観などをやっていたんですね。
事前に何も調べていなかった私は、あまりの人出に恐れをなし(汗)、
仲見世通りの裏を通りながら、お参りは後回しにして劇場へと向かいました。
そして目に入ったのは、浅草寺の裏手、普通の住宅の真向かいに、
時代を飛び越えるようにして、けれど何故か周りに馴染む雰囲気で建つ平成中村座。
靴を脱いで上がったちょっと薄暗い劇場入り口も、
初めての平場のある劇場内の壁の板張りの年季の入った(風な)色合いも、
天井から吊るされた大きな提灯も、
なんだかわくわくするのに落ち着くような、不思議な感じがしました。
背もたれのない椅子は今の私にはちょっときつかったし、
段差があまりないので、舞台の中央が前の方の頭で遮られちゃいましたが、
でも、前口上の人形が言っていた通りの、ゆる〜りとした雰囲気の中での息を呑むような濃密な芝居の観劇は、
なんだか癖になりそうな魅力がありました。


さて、演目の「仮名手本忠臣蔵」。
名前はとても有名だし、私も去年の秋に九段目だけは観たことがありますが、
物語の全体の流れは全然知らなかった私。
ぴかちゅうさんに教えていただいた名著「芸づくし忠臣蔵」で予習をしました。
そんな付け焼刃な知識でも、
ぴかちゅうさんとスキップさんがこのCプロを薦めてくださった訳が、とてもよくわかりました。

この物語の悲劇の発端となった美しい女の貞淑さ。
忠義を尽くした結果が、他家の悲劇を招き、娘の恋を阻んでしまった男の苦悩。
理不尽な面罵に、耐えて耐えて耐えて、けれど耐え切れなかった男の矜持。
子を想い、夫を想う二人の女の強い信念。
自らの命を懸けた仇討ちに、怨恨を超えた清々しさすらまとって旅立とうとする男。

そのどれもが、たぶんどうにもならない状況で。
そのどれもが、この悲劇を掻き立てこそすれ止めることはできなくて。
そしてそのどれもが、誰かへの深い愛情に裏打ちされていた。

そんな、”人の情”、”人の愛”を描いた物語なのだと、そう思いました。


大序 鶴ヶ岡社頭兜改めの場
長い物語の幕開けに相応しい、静かな始まりの場でした。
名を呼ばれるごとに伏せた顔を上げていくのが、
物語への期待を少しずつ高めていったように思います。
特に坂東彌十郎さん演じる高師直は、不自然ながくがくした動きがとても違和感があり、
おおお!悪役っぽい!と思ってしまいました(笑)。
実際、この大序、三段目を通して師直の嫌らしさ、憎憎しさは素晴らしかったです!
顔世御前に迫る時も、若狭之助を罵る時も、塩冶判官をいじめる時も、
私だったら絶対手が出る!と心底思ってしまうほどの悪役ぶり・・・ほんと凄いです。
だって、この役が、軽く流したりあしらえちゃう程度の悪さだったら、
物語そのものが成り立たないですものね。


二段目 桃井館の場
この場、まずは母子のやり取りがとても微笑ましかったですv
勘三郎さんの戸無瀬のお茶目っぷりと、
それを目を丸くして見る七之助さんの小浪の可愛らしさったらありませんでした。
あの仮病はもうまさに仮病だってば!(笑)
なさぬ仲の二人が、姉妹のように仲がいいんだろうな、と思わせる、
親密な雰囲気があったように思います。

そして、小浪と坂東新悟くん演じる力弥のシーンは、
近くなったり遠くなったりする二人の距離感が、もどかしくもとても初々しく・・・
二人は同い年ぐらいの設定なんですかねー。
小浪の方が少し大人というか、積極的というか、好き好きオーラ全開というか(笑)。
でも、真面目に任務を終えた力弥が、花道からふっと小浪を振り返る後姿の色気に、
小浪への純粋な恋慕を感じてはっとしました。
初見の坂東新悟くんは、まだ17歳だとか。
細い首筋の美しさに、まだ未完成な頼りなさと潔癖さがありました。
血気盛んに仇討ちを主張するという熱さは感じられなかったのですが、
四段目で主人の死に直面することで変わっていったのでしょうか・・・
やっぱり四段目も見たかったなあ。

そんな初々しい二人の後、仁左衛門さん演じる加古川本蔵と、橋之助さん演じる桃井若狭之助の、
主従のやり取りのシーンに移ります。
若狭之助の、静かな深い怒りに燃えた表情と、
主人の性格を考えて反論することも窘めることもできずに俯いた本蔵の苦渋の表情の対比が、
ぴんと張り詰めるような緊張感を作っていたように思います。
そして、松の枝を切って主の意を支持した後、
必死の表情で書状(目録?)をしたため、
馬に乗って駆け出していくまでの緊迫した雰囲気は、息を呑むようでした。
花道脇の席だったので、駆け抜けていく本蔵の表情を間近で見ることができたのですが、
蒼白な顔でキッと睨みつけるように前を見つめる厳しい表情が、目に焼きついています。


三段目 足利館表門進物の場
この物語の中の、数少ない笑いの場、なのかな?
片岡松之助さん演じる鷺坂伴内はとってもわかりやすい(笑)役柄で、
あの主にしてこの家来あり、とか思っちゃいました(え)。
そんな主従に頭を下げる本蔵・・・辛かったろうなあ、なんて最初は思ったのですが、
この時代、こういう形の賄賂は普通だったんでしょうか・・・?
そもそも、師直も性格的には問題ありでも、政治家としては優秀だったのかもしれないですものね。
政治の酸いも甘いも知り尽くした”大人”な本蔵にとっては、
若くて曲がったことが嫌いで短気な愛すべき主人と、しいては家族を守るためには、
この程度の汚れ仕事は全然許容範囲だったのかもしれません。
それでも、伴内と共に館に入っていくときの、少し肩の落ちた後姿は、
決して安心だけではなかったようにも思うのですが・・・


三段目 足利館松の間刃傷の場
この場で一番印象に残ったのは、勘太郎さんの塩冶判官でした。
師直の執拗なまでの嘲りと罵りと当てこすりと脅しに、
大序からそのままの穏やかで優しいその面差しが、
戸惑いに揺れ、怒りに紅潮し、苦悩に歪み、そして絶望に蒼褪める様子が、
後ろの方の席からもしっかりとわかって、なんだか泣けてしまいました。
身に覚えのない理不尽な侮辱に、
自らの命と、妻や家臣の生活を思い、ひたすらに耐え、
刀に掛けたその手を理性で一度は押し留めた塩冶判官。
その彼の耐える姿こそが、逆に師直を調子付かせたのかもしれません。
でも、あの状況をただ耐えて受け流すには、彼は若すぎ、そして気高すぎた。
もし、あの場をそうやって耐え抜いたとしても、
きっと彼の中には一生消えない疵が残ったに違いない。
だからこそ、彼は全てを振り捨てて師直を斬ることを選んだ。
決死の反撃を阻まれた彼の最後の無念の表情を見て、そんな風に感じました。
そして、そんな塩冶判官の試練の遠因となり、彼の苦悩の全てを見てしまった本蔵。
刀を振り上げた塩冶判官に駆け寄りすがりつく本蔵が、
なんだか泣きそうな表情に見えたのは、私の錯覚だったのかなあ・・・


八段目 道行旅路の嫁入り
このシーン、本当に「芸づくし忠臣蔵」を読んでいて良かった!!と思いました。
細かな仕草や義太夫の意味など、ああ、これ書いてあった!と思う場所が幾つも。
石を拾って撫でるところなんて、知らなかったら何をしているかわからないですものねー。
それにしても、戸無瀬と小浪の二人は本当に微笑ましいです。
渡し舟に間に合うように走るところも、なんだかとっても可愛らしくてv
でも、姉妹のような二人が、この道行きで母と娘としても絆を深めたのかもしれないな、とも思いました。
小浪のクドキのシーン、彼女を見つめる戸無瀬の目が、凄く凄く優しかったのです。
まさに、母の目線。
その感覚が、そのまま九段目に繋がっていったように思います。


九段目 山科閑居の場
明るく軽やかな八段目の空気を残したまま始まった九段目。
花道に出てきた戸無瀬の表情を見た瞬間に、緊張にすっと背筋が伸びるような気がしました。
硬く、こわばった頬。
きっと結ばれた唇。
まっすぐに前を見つめる目。
その婚礼が決して一筋縄では行かないことを、
もし無事に祝言をあげることができても、
それが必ずしも娘の幸せに繋がらないかもしれないことを知っていて、
それでも娘のために闘う決意をした”母”の表情。
空気までもが変わった気がしました。

この九段目は、私が唯一見たことのある演目です。
昨年見たときは、戸無瀬が芝翫さん、小波が菊之助さん、お石が魁春さんでした。
今回観て、役者さんが違うだけで、こんなにも印象が違うのか、と正直びっくりしました。
なんというか、テンポが全然違うんです。
勘三郎さんの戸無瀬は、とにかくきびきびしている、と思いました。
なので、物語がどんどん進んでいってしまうの。
七之助さんの小浪も、割と流される風の儚さがあったので、
更に加速した、というか・・・
個人的には、このシーンは去年のキャストの方が好きかな、なんて思ったのですが、
その後、祝言が許されて喜びに浮き立って、
内掛けを掛け間違えた小浪と突っ込んだ戸無瀬が目を合わせ、
一瞬の沈黙の後に笑い出した様子を見て、
ああ、この二人はこうなんだなあ、としみじみ思ってしまったのです。
母娘と姉妹の間のような、戸無瀬が引っ張るように見えて、実は互いに支えあっているような、そんな二人。
幸せだった時の、にぎやかで笑いの絶えない二人と、
その二人を穏やかに見つめる本蔵が思い浮ぶような気がしました。

そして、その本蔵。
仁左衛門さんの声は、どうしてあんなにも豊かなんだろうと、改めて思いました。
傷を負った苦しい息の下で、本蔵の苦悩を語る声は、決して滑らかではありませんでした。
張り上げるような響きもありませんでした。
かすれ、途切れ、乱れ・・・なのに、彼が主のために何をし、
何を思って判官を抱きとめ、そして今ここで娘婿の手にかかったのか・・・
ここまでの舞台で描かれてきた加古川本蔵という男の情の深さと生き様が、
あの告白の中で明確な形で完成したように感じました。

このプログラムは、加古川本蔵という男を描くためのものだった。

改めて強くそう感じ、そして、その舞台を観ることができた幸せを噛みしめました。

そして、この段、他の役者さんもとても魅力的でした。
おりん役の中村小山三さんは、「芸づくし忠臣蔵」から想像していたよりはちょっと大人しめでしたが(え)、
細かな動きでしっかり笑いをとってらっしゃいました。
勘太郎さんの力弥は、少年の闊達さと自己顕示欲と家族への深い愛情を、
爽やかに表現していたように思います。
橋之助さんの由良之助は、とても冷静沈着な雰囲気で、
なのに(目的があるとはいえ)祇園で遊ぶもの納得な色気もあり、とても素敵でした。
そして、お石役、孝太郎さん。
こういうしっかり筋の通った女性は、本当にかっこいい!!
勘三郎さんの戸無瀬と対になるような、静の存在感に目を惹かれました。


二日に分けたとはいえ、かなりの長さになってしまいました(汗)。
でも、実はもっと覚書しておきたいこともあったのです(笑)。
あの椅子に五時間は、さすがにちょっと腰にきていますが、
それでも、この舞台を観ることができて本当に良かったです。
今回観損ねた四段目も、おかると勘平のくだりも、そのほかも、いつか是非観たいと思います。

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08/10/12 平成中村座「仮名手本忠臣蔵」Bプロの7段目
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ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記
2008/10/28 23:51

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時

気力体力財力の関係で「平成中村座」はBプログラムに絞って観劇。Cプロの評判のよさに譲渡サイトをのぞきながらやっぱりあきらめておりましたが、恭穂さんのレポで観た気になれました。有難うございます。御礼にBプロの記事をTBさせていただきました(^^ゞ
私が観た日は中村屋さんの舞台写真しか並んでいなくてお店の人に聞いたら「仁左衛門さんがお時間とれないみたいで(写真をチェックする時間ね)まだなんですよ」とのことでした。そこで思いついて歌舞伎座千穐楽にいらっしゃるマイミクさんにお願いして7段目の仁左衛門由良之助の写真をみつくろって一枚買っていただくことができました。どうしても欲しかった!
私の予感なんですけど、今回の4プログラム全部を収めた「平成中村座忠臣蔵箱」とかいってDVDセット出るんじゃないかしら。出ると我慢できずに買ってしまいそうです。
ぴかちゅう
2008/10/29 01:24
ぴかちゅうさん、こんばんは!
お薦め頂いたCプログラム、本当に面白かったです!
本当にありがとうございました。
やっぱりぴかちゅうさんは私の歌舞伎の師匠です。
これからもいろいろ教えてくださいねv
仁左衛門さんの写真、私は九段目の虚無僧姿を購入しました。
どの役者さんも素晴らしくて、
写真を買うのはとっても迷ってしまいました・・・
他のプログラムが観れなかったのはとても残念です。
「平成中村座忠臣蔵箱」なんて出てしまったら、
きっと私も買ってしまうと思います(笑)。
恭穂
2008/10/29 20:51
恭穂さま
とてもステキなご感想、うっとり読ませていただきました。
二段目は、今回初めて観たのですが、あれがあって、
その後の道行や九段目がとても説得力のあるものになって
いましたね。
勘三郎さんの戸無瀬も七之助くんの小浪もすごくよかった
ですが、何といっても仁左衛門さんの加古川本蔵!
これまで本蔵といえば、ちょっとなぁ〜、なイメージ(笑)
だったのですが、一変して好きになっちゃいました。
Aプロ、Bプロの由良之助ももちろんステキでしたし、
以前松竹座で観た勘平には涙しぼられたし(その時の
おかるは玉三郎さん)、もう仁左衛門さんには
ヤラレっぱなしです(笑)。
スキップ
2008/11/03 06:35
スキップさん、こんばんは!
本当に素敵な舞台でしたねv
スキップさんとぴかちゅうさんのお薦め通りでした。
ありがとうございました。
もう、とにかく仁左衛門さんの本蔵が素晴らしくてv
由良之助も是非見てみたかったです。
仮名手本忠臣蔵そのものもとても魅力的な物語ですね。
いつかまた通しで上演されるといいな、と思います。
恭穂
2008/11/04 21:15

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