瓔珞の音

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zoom RSS 断罪の天使

<<   作成日時 : 2009/03/10 22:51   >>

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通勤路途中の畑が、いつの間にか紫に染まっていました。
一面のホトケノザ。
あのさっぱりした蜜の味をちょっと思い出しました。
今の子供たちは、雑草の花の蜜の味なんて知らないんだろうな。
まあ、私も国道沿いに咲いた花は味わってみようとは思いませんが(汗)。
・・・なんだかちょっと寂しいですね。

さて、気持ちを変えて観劇記録です!


シス・カンパニー公演
「夜の来訪者」

2009.2.28 ソワレ 紀伊國屋ホール O列10番台
J.B.プリーストリー作「インスペクター・コールズ」より
翻案:内村直也
演出:段田安則
出演:高橋克実、渡辺えり、坂井真紀、八嶋智人、岡本健一、梅沢昌代、段田安則


見てきた当日にもちょこっと携帯から叫びましたが、この舞台は、ミステリーです。
ので、これから書く感想は、思いっきりネタばれになります。
まだ公演中の舞台ですので、もしこれからご覧になる方が迷い込まれたなら、
ここから先はお読みにならないことをお薦めします。
で、ご覧になった後に、もしよろしかったら遊びにいらしてくださいねv(え)


物語は、秋吉家の応接間で進みます。
大きな窓と、大きな暖炉と、大きな柱時計のある、豪奢な応接間。
その部屋の一辺の壁を無理やり開いたかのような、いびつな空間。
無理に付けられた遠近感に増長されたそのいびつさは、
なんだか見ている私の感覚もあやふやにするような不思議な空間でした。

秋吉家では、この夜、長女・千沙子(坂井真紀)と森永良蔵(岡本健一)の婚約を祝う晩餐が開かれていました。
その食事の後、三々五々応接間に集まる秋吉家の人々と森永。
少しお酒も入っているのか、陽気に話し続ける当主・兼路(高橋克実)。
その夫を上手に諌める和江夫人(渡辺えり)。
にこやかに談笑する家族の話から、少し離れた位置で家族を見つめる長男・兼郎(八嶋智人)。
秋吉家と森永家は同じ工場経営。
日本の経済のことにも話が及びながら、
それでも祝い事の後の少し浮ついた華やかな雰囲気がその応接間には溢れていました。

そこに、唐突に現れた一人の男―――警官・橋詰(段田安則)。
彼は、その部屋に集う人々に、一つのニュースを持ち込みます。
それは、今日一人の女が消毒薬を飲み、苦しみぬいて死んだということ。
聞き覚えのない名前に、彼らは自分は無関係であると主張します。
けれど橋詰は、時に写真を見せ、時に彼女の職歴を告げ、
彼らと彼女の間に繋がった糸を、一つ一つ明らかにしていきます。

彼女は兼路の工場で働いていたことがあり、労働運動をきっかけに解雇されたこと。
工場を辞めさせられた後に勤めた店をクビになったのは、
千沙子のコンプレックスが言わせた理不尽なクレームであったこと。
続けざまに解雇され、働く意欲を失った彼女が勤めた場末のバーで彼女と出会い、
しばらくの間彼女を囲い、そしてあっさりと捨てたのは森永。
森永と別れた後、件のバーで彼女を知り、無理やり関係を持ち、
そして彼女を囲うために工場の金を横領していた兼郎。
兼郎の子供を身ごもりながらも、汚い金拒絶し、とある教会に援助を求めた彼女。
その援助を、”正論”を盾に拒絶したのは、その婦人会の理事(かな?)であった和江。

一つ一つは、決して直接死へと繋がるような事柄ではなく、
けれど、その一つ一つが確実に彼女を死へと向かわせたという事実。
一つ一つは、この日本で決して稀なことではなく、
けれど、その一つ一つが全て彼女の身に降りかかったという事実。

一人の女の死に、自らが、家族が、恋人が関わっていたと知った彼らは、様々な反応を示します。
兼路とえりは自分の正当性を主張し、
森永は反省している様子を見せながらも、開き直り、
千沙子は自分の愚かな行動を心の底から後悔し、そしてその事実を事実のままに受け入れようとし、
兼郎は彼女に対する自分のふがいなさを悔やむ・・・
そして、見え隠れする保身。

全てを暴いた橋詰が去った後、
秋吉夫妻は、横領という明白な罪を犯した息子を糾弾し、
”彼女の自殺”という事実から話を逸らしていこうとします。
森永は、橋詰の謎めいた行動から、彼が偽の警官であり、
女が死んだということも、事実ではないだろうという推理を披露します。
警察と病院へ電話で確認し、そんな警官もそんな患者もいないということが判ると、
夫妻と森永は晴れやかに笑います。
全てが嘘。
全てなかったこと、と。
―――そうではない。
女の死はなかったとしても、ある女に対して彼らが行った行為は、罪は決して消えない事実である。
そう懸命に主張する千沙子の言葉も、彼らには届きません。

いびつな空間が、更に歪みを増し、ひびが入る直前のような緊張感の張り詰めたその瞬間。
応接間の黒電話が、甲高く鳴り響きます。
その電話が告げたのは、ある一人の女の服薬自殺の報でした。


という、まさにミステリー!心理サスペンス!な舞台でした。
見ているうちになんとなくオチも判ってしまうのですが、
最初から最後まで、緩急のある流れのなかで、どんどん高まっていく緊張感が凄くて、
最後の電話が鳴った瞬間には、本気でびくっとしてしまいました。

その流れを創っていたのはもちろん役者さん全員なのだけど、
その流れを支配していたのは、明らかに段田さん演じる橋詰だったように思います。
橋詰の動きは決して大きくも大袈裟でもありません。
けれど、穏やかな声音が、一瞬の後に追及する鋭さを帯びた時。
にこやかに笑んだその目が、決して本当に笑ってはいないと気づいたとき。
橋詰と相対した彼らは、彼に促されるままに、あるいは抵抗しても、結局は全てをさらけ出してしまうのです。
彼らの欺瞞。
彼らの弱さ。
彼らのずるさ。
そして、それらが生み出した彼らの”罪”を―――

段田さんって、本当にこういう役が上手いと思う。
人の心に入り込んで、その根底をすっと揺らがすような役。
「贋作・罪と罰」のときも「どん底」のときも、
段田さんのあの雰囲気と存在感に、圧倒された記憶があります。

そしてこの舞台は、段田さんの初演出の舞台だそうです。
私は演出を語れるほど演劇を知っているわけではありませんが、
この舞台は、登場人物の感情を軸に、無駄なものをそぎ落としたシンプルさが、
逆に感情の生々しさを際立たせていたように感じました。
うん。好きだと思います。


坂井さん演じる千沙子は、最初はもう絵に描いたような”お嬢さん”でした。
裕福な家で育てられて、ちょっとした不満やコンプレックスは持ちながらも、
両親に言われるがままに両親が選んだ相手と結婚し、
きっと”絵に描いたような妻”になるんだろうなあ・・・と思わせる女性。
でも、きっと強い自尊心も持っていて、だからこそ、
その笑顔も言葉も、まるで演技しているように過剰となってしまう・・・そんな女性。
それが、自分の中のコンプレックスと、汚い感情と、そしてその感情のままに行ったこととの結果向き合った後、
彼女はその”事実”を目を逸らすことなく受け入れるのです。
混乱し、悩み、怯え、哀しみながらも、自分の”罪”を”罪悪感”を素直に受け入れ、
そして、その上で先へと進もうとする―――その変化はなんとも鮮やかでした。

八嶋さん演じる弟の兼郎も、工場の金に手を付けてしまうような、
考え無しで無責任な情けないお坊ちゃんなのですが、
方法はさておき、彼女に対する愛情はきちんとあったのかもしれないなあ、とも感じました。
うーん、抜け出せずに泥沼化した、という感じもあるけど(笑)。
そもそも、一人だけ家族の話に入らず、離れたところから斜に構えて家族を見たり、
押しの弱いちゃちゃを入れたり、家族や森永に対するコンプレックスも判りやすかった。

その森永は、またなんとも要領のいい男でした。
出来る男なんでしょうけれど、根っこの弱さみたいなものを、
岡本さんはきちんと表現されていたように思います。
千沙子の拒否に対して理解のある様子をみせていたけど、
この男、きっとほとぼりが冷めたら同じことをする、と思ってしまった(笑)。

渡辺さん演じる和江夫人は、この家を仕切っているのはこの奥様!と素直に納得しちゃう強さがありました。
着物姿で常にぴんと伸ばした背筋が印象的。
自分を守るためなら、自分自身ですらも欺くほどの覚悟がありながら、
でも、確信犯になりきれない弱さ、というかあやうさがあったように思います。

兼路を演じた高橋さんも、この舞台での一つの要だったかなあ、と思いました。
橋詰に押し流されそうになる家族と自分を、守ろうと常に努力しているお父さん。
まあ、最後には長男を見捨てちゃうんですけどねー(というか脅してた・・・)。
きっと苦労して苦労して今の地位を築いて、
だからこそ誰よりも保身に入らざるを得ない、そういう役柄だったんだろうな、と思います。

女中ゆみさん役の梅沢さん。
のっけから素敵な歌声を聞かせてくださいましたv
出番は少なかったけれど、この家族の中でのゆみの立ち位置がぼんやりと透けてみえるような気がしました。


この舞台では、”事件”は過去のものと、そして未来(終幕時)に起こります。
その”事件”に、彼らは何らかの関係を持ち、何らかの”罪”を犯している。
その”罪”は、決して悪意から出たものではなく、
決してめずらしいものでもなく、
ありふれた、誰でもが大なり小なり経験するようなことかもしれない。
”罪”とはいえない程度のものかもしれない。
でも、その”罪”と向かい合ったとき、自分はどんな風に対応するのか、なんだかちょっと考えちゃいました。

橋詰の正体は、物語の中では明かされません。
女と共謀し、彼らを恐怖に慄かせるために現れた現実の男なのか。
女を哀れみ、彼らを断罪するために現れた天使なのか。
個人的には天使に一票なんですが(笑)。


ちなみに、こういうミステリーは、かなり好きだったりします。
恩田陸さんの「木曜組曲」も、これに似た形式の小説で、
最初に読んだ時は引き込まれて一気に読んでしまいました。
この舞台も、見ようによっては非常に重いテーマなのですが、
観終わった後、推理小説を一気読みした後のような爽快感がありました。
推理小説も読み直してしまう私としては、この舞台もリピートしたいのですが、
今週一杯ではさすがに難しく・・・
きっとオチを知った状態で見直せば、役者さんの演技にもいろいろ伏線があるんだろうな。
ちょっと残念です。

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