瓔珞の音

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zoom RSS 真昼の月

<<   作成日時 : 2009/05/09 23:36   >>

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シラノ・ドベルジュラックを題材とした舞台は、これまでも幾つかあったように思います。
市村正親さんの『シラノ・ザ・ミュージカル』。
緒形拳さんのひとり舞台『白野 シラノ』。
残念ながら、いずれも私は観ることができませんでした。
それでも、粗筋だけを読んで、私の中には一つのシラノ像が出来ていました。

美しい詩を紡ぎ、愛する人の幸せのために、自分を殺して尽くした人。

そういう、イメージでした。

そして、今回、初めて観るシラノを描いた物語。
そこに生きていたのは、
才気走っているのに純情で、
自尊心が高いのに臆病で、
一つの愛を諦めることで、自分の、そして愛する女の未来をも狭めてしまった・・・そんな、男でした。



「シラノ」

2009.5.6 マチネ 日生劇場 1階H列一桁台

出演:鹿賀丈史、朝海ひかる、浦井健治、戸井勝海、光枝明彦、鈴木綜馬 他


舞台は17世紀のパリ。
知識に溢れ、美しい言葉を自在に操り、そして剣の腕も飛びぬけていたシラノ(鹿賀丈史)。
彼は、美しい従妹ロクサーヌ(朝海ひかる)を愛しながら、
飛びぬけて大きな鼻を持つ自分の容姿を恥じて、その心を伝えることが出来ずにいました。
そんなある日、ロクサーヌは劇場でであった美しい男に一目惚れをしてしまいます。
その男の名はクリスチャン(浦井健治)。
クリスチャンがシラノの率いるガスコン青年隊に入隊することを知ったロクサーヌは、
兄と慕うシラノにその思いを打ち明け、クリスチャンを守ってくれるよう頼み込みます。
そして、自分に手紙を書くように言ってくれ、と・・・
失意に沈むシラノの前に、現れたクリスチャンは、
美しい容貌と、愛すべき素直な性質であり、けれど、とても口下手!
しかし、クリスチャンもロクサーヌを愛していると知ったシラノは、
彼の手紙を代筆し、彼の代わりに暗い庭からバルコニーへ愛を囁くことで、彼らの愛を成就させます。
しかしその夜、ロクサーヌに恋し、そして拒絶されたド・ギッシュ伯爵(鈴木綜馬)により、
ガスコン青年隊は前線へと赴くことになってしまいます。
最初で最後の逢瀬で、慌ただしく結婚式を挙げ、そして離れ離れになる二人。
恋人の背を見送ったロクサーヌは、シラノにまた頼み込みます。

戦場でも、彼が危ない目にあわないように。
戦場でも、彼が快適に過ごせるように。
そして、戦場でも、彼に手紙を書かせて欲しい、と。

補給線も途絶えがちな前線。
空腹と疲労と死への恐怖に苛まれるガスコン隊の中で、
シラノは毎日ロクサーヌへ手紙を書き、夜毎敵の包囲線を抜けて、手紙を出していました。
もちろん、クリスチャンの名で―――
ド・ギッシュ伯爵の策略で、ガスコン青年隊のいる場所が、攻撃の標的となったその日、
ロクサーヌがパリから食料を持ってやってきます。
愛する夫の傍にいたい、その一心で彼らと行動を共にするロクサーヌ。
その言葉から、クリスチャンはシラノが命の危険も顧みず、ロクサーヌに手紙を書いていたこと、
そこに書かれた愛の言葉は、彼自身の心であることを知ってしまいます。

自分には美しい言葉を語る才はないけれど、彼女への愛は真実である。
シラノには美しい容姿はないけれど、彼女への愛はやはり真実である。
ならば、全てを彼女に語り、その上で彼女に自分を選んで欲しい。

そう願ったクリスチャンは、シラノに真実を語るよう言い残し、偵察へと出かけていきます。
いつ命を奪われるかわからない極限の状況。
そこで、手を触れられる場所にいる、恋焦がれた女性。
葛藤を越え、シラノが彼女に想いを伝えようとしたその瞬間、鳴り響く砲撃の音。
そして、運び込まれた瀕死のクリスチャン。
ロクサーヌの腕の中で消えていく彼の命と共に、
自分の愛の言葉も永遠の闇に沈んだことを、シラノは悟り―――
全てを振り切るように、彼は戦場へと飛びだしました。

そして、15年の月日が流れ―――
未亡人となったロクサーヌは、クリスチャンの愛に殉じ、修道院で祈りの日々を送っていました。
そんな彼女を支え励ましたのは、
土曜毎に訪ねてきては宮廷のゴシップを面白おかしく語るシラノの存在。
彼の従妹への深い愛情に感謝し、彼を尊敬するロクサーヌ。
けれど、その胸にはいつもクリスチャンからの最後の手紙がありました。
そして、土曜日。
いつもの時間に少し遅れてやってきたシラノは、いつもどおりの噂話をし、
いつもと違ってロクサーヌにせがみました。
クリスチャンの最後の手紙を見せてくれ、と。
手紙を手渡したロクサーヌは、彼が手紙を見ずにその文面を諳んじる声を聞き、一瞬で全てを悟ります。
自分への愛の手紙を書いたのは、あのバルコニーで愛を囁いたのはシラノであるということを!
彼の自分への愛を確信し、そして今何故その沈黙を破ったのか問い詰める彼女に、
ロクサーヌを愛してはいない、とその想いを否定します。
―――シラノは、彼を邪魔に思う誰かが謀った事故で、頭に大きな傷を負っていたのです。
刻々と迫る最期の時。
彼の目に映る死神と、最後の力で立ち上がり対峙し・・・



恭穂的意訳では、こんなお話でした。

この舞台は、とにかくシラノ役の鹿賀さんの存在感が圧巻!
美しい言葉も、辛辣な言葉も自在に操り、
言葉という鎧で自分自身を守ると同時に、自分自身を縛り付けていたシラノ。
ガスコン青年隊を率い、敵と対峙するときにはとてつもなく強く大きな男なのに、
ロクサーヌを前にしたときと、自分の容姿に話が及んだときは、
なんだかとても自身なげで、哀愁さえ漂ってしまうのです。
そんな多彩な顔を見せるシラノが歌う、数々のナンバー。
彼の舌鋒を示すような、早口言葉みたいな歌詞は、本当に歌うのが大変だと思う。
実は、ちょっと聞き取りにくいところもありました。
鹿賀さんの滑舌って、いまいち滑らかでないし・・・
でも、台詞や歌以外のところで、シラノの持つ複雑な想いや葛藤が、浮かび上がってきたのです!

特に印象に残ったのが、1幕のバルコニーのシーン。
上手く愛を語れないクリスチャンに代わって、
バルコニーの上のロクサーヌに、暗闇から愛を囁くシラノ。
彼の言葉がロクサーヌの心を燃え立たせたとき、彼はクリスチャンにバルコニーを登らせます。
そして、抱きしめあい、口付けを交し合う二人―――
一人取り残された暗闇の中で、シラノはじっと俯き佇みます。
私には、その時彼の背中しか見ることはできませんでした。
それなのに、彼の愛情が、やるせなさが、悲しみが、
言葉と同じくらい雄弁に伝わってきて・・・本当に切なくなりました。

シラノの独白のシーンでは、月が印象的に使われていました。
彼が心情を吐露するときに、セットに月が映し出されるんですね。
クリスチャンを太陽とするなら、彼に隠れて言葉を紡ぐシラノは月なのかもしれない。
様々な形に姿を変える月は、シラノの多面性を表しているのかもしれない。
戦場に飛び出すシーンで、黒く塗りつぶされた月は、彼の愛の死を示しているのかもしれない。
けれど、私が一番納得したのは、シラノ自身が言った「真昼の月」という言葉でした。

太陽の光にかすみながら、でも確かにそこに在る真昼の月。
それは、きっとシラノ自身の愛の象徴だったのだと思う。


ロクサーヌ役の朝海ひかるさん。
とても綺麗で、知的で、気が強くて、大胆で、でも思いっきり世間知らずな感じのお嬢さん、という感じ。
ド・キッシュ伯爵をやり込めるところとか、
戦場にのりこんでくるところとかはめちゃくちゃかっこよかった!
歌声は、やっぱりちょっと辛そうでしたが、こういう気の強い役、お似合いだなあ、と思う。
が、残念ながら役柄は私的にはちょっと微妙でした・・・
自分を刺激する美しい言葉を愛し、シラノに理不尽な(と私は思った)要求をし、
そして、最後のシーンで死に行くシラノを前に、自分目線でしか嘆けないロクサーヌ。
私はそこに、シラノがあそこまでして愛しぬく理由や魅力を見つけることができませんでした。
まあ、逆に言えば、彼女は騙されていたようなものなのですよね。
クリスチャンからの愛の手紙を受け取るうちに、彼女は彼の容姿よりもその言葉を愛するようになった。
彼が美しくなくても愛している、と彼女は言ったけれど、
じゃあ、シラノが戦場で真実を告げたら、彼女はシラノを愛したのかな?
私にはそうは思えませんでした。
それは、たぶんとてもリアルで自然なことなのだけど、なんだかちょっと寂しくなりました。


クリスチャン役、浦井健治くん。
いま流行のおばかキャラ?という雰囲気だったのですが、
彼は口下手なだけであって、決しておばかではないんですよね。
シラノの真実の想いを知って、彼に真実を告げるように言う姿は、
シラノよりもずっと強くて男らしい、と思ってしまいました。
浦井くんは、やっぱり無理にワイルドさを出すより、こういう素直な役柄のほうが似合う気がします。
「この美貌」という歌詞あれだけ繰り返して嫌味にならないっていうのは、
やっぱりもの凄い才能だと思うよ?


ラグノー役、光枝明彦さん。
WIWでフェアリー氏を演じた方ですね。
あの時も、芸達者でいい声の方だなあ、と思いましたが、
今回も素晴らしい歌声とコメディセンスを堪能させていただきましたv
この方の朗々とした歌声で幕が開くのは、舞台への期待が高まる感じでとても好き。


ド・ギッシュ伯爵役、鈴木綜馬さん。
この方も、コメディな感じですねー(笑)。
ロクサーヌにまんまとしてやられちゃって、シラノとも対立していて、
でも最後は彼らの良き友人、という風に収まっちゃうのに違和感がないのが、
鈴木さんの飄々とした雰囲気に合ってるのかな、と。
いろんな意味で偽りを纏っている登場人物の中で、
実はある意味一番筋の通った人だったのかも、と思います。


そのほかの方々も、歌にダンスに演技に、とても見ごたえがありました。
「空色勾玉」に出演されていた金澤博さんが出演されていたのも嬉しかったりv
中山昇さんのド・ヴァルベールも、何事?!と思いましたがいい味出してました。
そして、ガスコン青年隊!
彼らが歌う歌は、とてもテンポが良くて迫力があって、聴き応えがありました!
そろいの制服もかっこいいですしねーv
「ミス・サイゴン」でトゥイをやっていた神田恭兵さんも、ちゃんと見つけましたよ(笑)。
うん、やっぱりいい声してました!

音楽も良かったですが、セットも素敵でした。
金属みたいな反射板にいろいろな景色が曖昧な色合いと輪郭で写るのも良かったし、
2幕後半の修道院のシーンで降り積もる赤や黄色に染まった木々の葉も、
秋の短い夕暮れの美しさと、消えていくシラノの命を暗示するようで意味深で綺麗でした。
最初は、その大きさにびっくりしましたけどねー(笑)。
でも、最後の最後、ゆっくりと落ちてくる一枚の葉に丁寧に照明があたっているのを見て、
この演出をするには、この大きさが必要だったんだろうなあ、と思いました。
でもあの大きさ、カーテンコールで滑ったりしないのか、と心配していたら、
見事に滑った方がいました!
それも、まさかのクリスチャン!!
さすがに転ばず踏みとどまってましたが、本人も周りも客席も大笑い!
その後も出てくるたびに転ばないように!という仕草で歩いてくる浦井くんがラブリーでしたv(笑)

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タイトル (本文) ブログ名/日時
09/05/23 日生劇場ミュージカル「シラノ」鹿賀丈史の心意気
{/mail/} 「シラノ・ド・ベルジュラック」のストレートプレイは未見。緒形拳の「白野弁十郎」を見逃したことがかえすがえすも残念。 Wikipediaの「シラノ・ド・ベルジュラック(戯曲)」の項はこちら←あらすじはこちらを参照。 上記にも書かれている市村正親主演の「シラノ・ザ・ミュージカル」を赤坂ミュージカル劇場で観たことがある。それを今度は鹿賀丈史主演で観ることができるというのは嬉しいことだった。鹿賀の「ジキル&ハイド」を観てワイルドホーンが見込んでの世界初演だという。「マリー・アントワネッ... ...続きを見る
ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記
2009/05/31 21:41

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時

TB&コメントを有難うございましたm(_ _)m
恭穂さんも「ジキル&ハイド」のラストシーンと重なったとのことで嬉しいです。鹿賀さんの集大成の作品ということなのですが、これで最後とはいわないとプログラムにありましたが、やはりまぁミュージカル主演は最後の作品になりそうな気がします。
>シラノがあそこまでして愛しぬく理由や魅力......この作品におけるロクサーヌ像は前回の市村さん主演の舞台よりも理解ができた気がしました。二回くらい出てきたベルジュラック村で過ごした頃の思い出を語る場面で、その時に育まれたであろう二人の関係にイメージが広がったからです。それなのに美貌の青年に出会って一目ぼれしてしまって理性が曇った彼女の不幸にも思い至った次第です。
鹿賀さんのファイナル公演まで毎回一回は観て、日本版の舞台の進化も見守っていきたいと思っています。
ぴかちゅう
2009/05/31 22:32
ぴかちゅうさん、こんばんは!
「シラノ」、まさに鹿賀さんのための舞台という感じでしたね。
ベルジュラック村を思い出すシーンは、とてもセンチメンタルで素敵でした。シラノにとって、ロクサーヌは故郷の美しい思い出と同質の純粋な愛情の対象だったのかもしれませんね。再演では、きっと更に舞台の深みも増すことと思います。楽しみですねv
恭穂
2009/06/03 20:05
自分が観劇するまでは読むまい、と思ったのですが一度目の観劇の時は自分の理解が追い付かなくて(汗)大楽を見て、やっとこちらにお邪魔できました。
やっと自分の中でこの舞台の整理がついて、かなり好きな作品になった気がします。
私は一幕のバルコニーシーンもさることながら、二幕の「何故手紙を書いて泣いたのか」とクリスチャンに問われて「死ぬことよりも会えなくなること、その辛さを思って泣いた」と答える場面と、クリスチャンの死を聞かされ「自分の愛をもう決して言わない」と言う場面が心に残りました。
辛さも切なさも全部飲みこんで、それでもそれが自分の生き方だ、心意気だと誇らしげに語って死んでいくシラノの姿に心打たれました。
朝海さん、大楽の時はキュートで知的で聡明なんだけど恋は盲目状態の女の子でした。東京で見たときより良くなったと思います。
シラノがあれほどまでに大切に思ったのも、よき従兄のままでいいから傍にいたかった気持がわかる魅力的な女の子でした。(二幕第二場に関しては少々不満が残りましたが)あの理不尽な要求は笑うとこだったようです。
みずたましまうま
2009/06/15 00:54
みずたましまうまさん、こんばんは!
どんどん進化する舞台だったようですね。
私はずいぶん最初の方で観てしまいましたし、
繰り返し観ることで印象も変わったでしょうし・・・
なんだかちょっと残念です・・・再演を待たねば!
朝海さん、私の中ではエリザベートのイメージが強かったので、
どうにも可愛い女の子というより強い女性という感じで・・・
でも、きっとどんどん役をものにしていったのでしょうね。
うーん、ほんとに残念!

恭穂
2009/06/17 20:19

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