瓔珞の音

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zoom RSS 破滅の足音

<<   作成日時 : 2011/06/08 22:57   >>

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「覚悟は?」

その男にそう問いかけられたとき、
私は一瞬逃げ出したい衝動に駆られました。

それは。
その男の存在そのものに復讐の焔を感じたから。
その男の物語を受け止めることで、自分の中の闇に繋がる扉が開くかもしれないから。
そして、深すぎる愛情と憎悪に身を焦がす男に、心を奪われるに違いなかったから―――


「スウィーニー・トッド  フリート街の悪魔の理髪師」

2011.5.28 ソワレ 青山劇場 1階B列20番台
2011.6.5  ソワレ 青山劇場 1階J列10番台

作詞・作曲:スティーヴン・ソンドハイム
演出:宮本亜門
出演:市村正親、大竹しのぶ、キムラ緑子、ソニン、田代万里生、安崎求、斉藤暁、武田真治
    阿部裕、中西勝之、秋園美緒、越智則英、神田恭兵、グリフィスちか、小関明久、菅原さおり、高橋桂、
    多岐川装子、ひのあらた、福麻むつ美、三木麻衣子、水野栄治、山田天弘、吉田純也、大久保全也


4年前、初演を観て市村さんの魅力を再確認したこの舞台。
今回は、市村さん初め役者さんの魅力はもちろんですが、
ミュージカルの力、というものを再確認させていただいたように思います。

登場人物の、というより人間の危うさや脆さ、そしてそれぞれが持つ"業"を、
そのまま音符にしたかのようなソンドハイムの音楽。
その音楽を完璧なまでに現実のものとしたオーケストラ。
一人の男の"業"の終着点を見届けた、あるいはその犠牲となった人々の地の底から響くような重厚な歌声。
暗い空間を引き裂くように響く警笛。
舞台の奥で回る換気扇の不確かな存在。
背後に映し出される人々の歪な影。
そして、自分自身の復讐の物語を、容赦なく突きつける一人の男―――

市村さんを軸としたカンパニーのパワーにひたすら圧倒されてしまいました。
なんというか、観ている最中、自分の存在自体がこの物語の世界に引きずり込まれ、
彼らと共にトッドの人生を見つめていたような、そんな不思議な感覚に陥りました。

でもって、今回は、前回とは違うニュアンスで、市村さんに惚れこんだ感じです。
というか、"トッド"に惚れたんだと思う。
一幕、剃刀に語りかけるトッドの背後で、
彼を見つめるラヴェット夫人がどんどん恍惚とした表情になっていくのだけれど、
もしかしたら私もおんなじような表情をしていたかもしれない。

剃刀に反射する清らかな光の中で、憎悪という闇を受け入れ、
復讐という焔の中に足を踏み入れようとする男。
彼の持つ深い情。
彼の持つ深い業。
それは、とてつもない色気と吸引力があった。

この男の目に映りたい。
この男の冷たい肌に触れてみたい。
この男の底知れない情を受け止めたい。

そんなふうに感じてしまう抗いがたい魅力があったように思うのです。
その魅力は、ターピンに向かって剃刀を振り上げる瞬間にも、
ターピンを殺し損ねた後、血を求める狂乱のときも、
友である銀の剃刀と同じような光を放っていました。

もちろん、ラヴェット夫人とまったく同じ気持ちだった、というわけではなくて、
大竹さん演じるラヴェット夫人は、もっとずっと現実的だったようにも思います。
でも、トッドの魅力に捕まらなければ、ラヴェット夫人はまっとうな人生を送れたはずだし、
ラヴェット夫人が傍にいなければ、トッドはあそこまで堕ちていくことはなかったと思う。

二人が歌う♪牧師はいかが は、とにかく怖かった。
このミュージカルの中では、たぶんとっても明るい旋律で、
歌われるブラックジョークには笑いも起きていたけれど、
(総理大臣のバイの時には、笑いと拍手が長くて、大竹さんが一呼吸置いてました)
この状況で、この曲を、この明るさで歌い踊るトッドの狂気に戦慄しました。
人を殺すことも、その肉を利用することも受け入れがたいことであるはずなのに、
まるで当然のことのように二人は話し、笑っている。
その笑顔が本当に恐ろしくて、彼らが作り出す正気と狂気の曖昧な境目に、なんだか眩暈がするようでした。

そして、その狂気を煽ったのは、紛れもなくラヴェット夫人で・・・

大竹さんのラヴェット夫人は、基本的にはめちゃくちゃキュートでしたv
浮世離れしたトッドの対角にあるような現実的なラヴェット夫人。
実際はとてつもなく常識外れなのだけれど、それを現実的、と思わせてしまうような、
確固とした"基準"と明確なヴィジョンが、彼女の中にはあったんだなあ、と思います。
オペラばりに歌い上げる楽曲や役者さんたちの中で(でもってその歌声がどなたも素晴らしいんですv)、
大竹さんの地声でがんがん歌うナンバーが、更に彼女のリアルさを演出していたのかもしれません。

2幕冒頭、ある意味絶頂にあった二人の生活が、
小さな財布をきっかけに、徐々に崩壊していきます。
微妙なバランスで組み上げられた階段が、加速しながら崩れていくその音が聞こえるような展開。
けれど、その音は、もしかしたらトッドにとっては救いの音だったのかもしれない。
たとえその先に待つものが地獄の劫火であったとしても。
最後のトッドのソロを、その叫びを聞きながら、なんだかそんなふうに思ってしまいました。


うーん、思ったことがなんだか上手く書けません。
とりあえず、他の役者さんのことを!


ジョアンナ役、ソニンちゃん。
このミュージカルの初演がミュージカル初舞台だったんですよねー。
そのときの、不安を煽るような過剰なまでのビブラートも良かったですが、
今回の真っ直ぐな歌声は、トッドの剃刀が放つ光のような清廉さと危うさがありました。
♪小鳥たちよ でしゃがみこんで小鳥に手を差し伸べる姿が、
それこそ真っ白な小鳥のようで、なんだかちょっと鳥肌が立ちました。

アンソニー役は田代くん。
なんというか、とても安心感のあるアンソニーでした。
うかつさももちろんあるのだけれど、その素直で真っ直ぐな表情と歌声には、
この充満する悪意と狂気の中で、すっと背筋を伸ばして立てる強さのようなものを感じました。
それも、最初からの強さや安心感ではなくて、物語の中で培われていく感じ。
初演の城田くんのアンソニーは、もっと揺らぎがあって、
残されたジョアンナと二人、大丈夫かな?と思わせる不安感があったのですが、
(でもって、それもまた魅力的ではあったんですが)
田代くんのアンソニーは、ジョアンナの未熟さや不安定さ、父親から受け継いだ深い情と業を、
否定も拒絶もせずに、全て受け止めてくれるような安心感がありました。

二人が歌う♪キッス・ミー は、聴き応えはもちろんばっちりだし、
二人の気持ちのチューニングが徐々に合って、重なっていくところがどきどきするくらい素敵でしたv

武田さんのトバイアスは、やっぱり可愛かったですv
しっかり少年に見えるところが凄い!
初演の時よりも、ラヴェット夫人への執着がクリアになっていて、
終盤の流れに説得力があったかなあ、と思います。
その分、ラヴェット夫人と気持ちがすれ違うのが、めちゃくちゃ可哀想で切なかったですが。

安崎さんのターピンは、嫌悪感はもちろんあるのですが、
彼は彼の方法で"幸せ"を手にしようとしたんだろうなあ、と今回はちょっと思えてしまいました。
トッドの店の椅子に座って、無防備に喉を晒しながらジョアンナを思って歌う歌声が、
なんだかとっても澄んだ歌声に聞こえてしまったからなのかも?


物語の冒頭で、トッドが歌う"黒い穴"。
それはロンドンのことであり、そこに住む腐りきった特権階級であり、彼らに搾取される市民であるのだけれど、
私には、トッドの中にこそ、本当に底なしの"闇い穴"があるように思いました。
かつて、心身を満たしていた愛情や幸福や夢・・・そんなプラスの要素と同じ質量で存在する闇。
プラスの要素を理不尽に奪い取られたときに、ぽっかりと入り口を開く深い穴。
愛情が深いだけ、幸せが輝かしいだけ、夢が明るいだけ、その穴は深く、暗く、冷たい。
そしてトッドは、その穴を仇の血で埋めようとした。

でも、その穴の入り口は、きっと誰もが持っている。

このミュージカルを観て、その事実を突きつけられたように思いました。
けれど、突きつけられてこそなお、観終わった後に残ったのは、
暗澹とした気持ちではなく、何故か前へ、未来へと向けられる視線でした。

それは、アンソニーとジョアンナの未来があったからかもしれない。
一途に慕う心のまま、一線を飛び越えたトバイアスの純情があったからかもしれない。
ラヴェット夫人の打算の中に、小さな少女のようなあどけなさがあったからかもしれない。
自らの罪深き感情に怯えながらも、光を求めるターピンの切望があったからかもしれない。
復讐の焔に燃えつくされるトッドの根源にある、深い愛情が光り輝いていたからかもしれない。
そして、そんなあらゆる感情を持つ"人"が生きていく強さが、このミュージカルには描かれていたからかもしれない。
そんなふうに、感じました。

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