瓔珞の音

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zoom RSS それでも花は咲き続ける

<<   作成日時 : 2012/09/07 21:51   >>

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最近、向日葵の花って、沢山種類がありますね。
細い茎の先に、幾つも小さな花が咲いている向日葵。
小人のように小さくて頭でっかちな向日葵。
縮れた色の濃い花びらが印象的な向日葵。
どの向日葵も素敵ですが、やっぱり私が好きなのは、
自分の背丈を越えるくらい大きくて、そのてっぺんに一つだけ花をつけるスタンダードな向日葵。
夏の終わり、良くTVや新聞に載る一面の向日葵畑に、いつか行って見たいなあ、と思っています。

とりあえず、今年はお気に入りの劇場の舞台の上で、
そこに生きる人の恋慕も、野望も、懇願も、憎悪も、恐怖も、諦念も、別離も、最期も、
全てをその身を揺らす強い風のように受けながら、凛と咲き続ける向日葵を見てきました。


彩の国シェイクスピア・シリーズ第26弾
「トロイラスとクレシダ」

2012.8.25 ソワレ 1階I列10番台

出演:山本裕典、月川悠貴、細貝圭、長田成哉、佐藤祐基、内田滋、小野武彦、たかお鷹、原康義、廣田高志、
    横田栄司、塾一久、間宮啓行、鈴木豊、妹尾正文、岡田正、福田潔、山下禎啓、井面猛志、星智也、
    谷中栄介、鈴木彰紀、尾関陸、田中宏樹


劇場に入ると、舞台の上は向日葵で埋まっていました。
そして、物語はほぼ、その向日葵の中で繰り広げられました。
視界を阻み、行く手を遮り、身を隠せると同時に、相手を見つけることもできなくなる―――
太陽の花々が作り上げるその迷路は、この物語の人々が辿る混迷を暗示しているようにも感じられました。


物語の舞台は、トロイ戦争真っ只中のトロイ。
膠着する戦争が、トロイの英雄ヘクトルの惨殺を機に大きく動き出すまでを描いていました。
まったく予習せずに劇場へ行ったので、開演前にプログラムを読んでびっくり!
2年前に観た「イリアス」とほぼ同じ時期の物語でした。
登場人物も記憶にある名前が沢山!
でも、受ける印象はかなり違いました。
「イリアス」は黎明で、「トロイラスとクレシダ」では落陽。
「イリアス」は冷たさで、「トロイラスとクレシダ」は熱さ。
「イリアス」は恐怖で、「トロイラスとクレシダ」は悲愴。
そんな感じでした。

その理由は、やはり「トロイラスとクレシダ」は、その名のとおり、
トロイの王子トロイラスと彼の恋人クレシダの、想いの成就と別れを中心に据えていることでしょうか。
激流のような戦に翻弄された若い二人の存在と、その恋の結末が、
強いやるせなさとともに、戦争の無残さを淡々と伝えてくれたように思います。

咲き乱れる向日葵の中、それぞれが互いを見つめ、
薔薇の咲き乱れる庭園で、共にある幸福の先にある未来への不安に慄き、
暗く冷たい屋敷の中で、引き離される相手の温もりに縋りつき、
そして、互いを見初めたのと同じ向日葵が咲く別の土地で、裏切りを受け止める―――

物語の後半、咲き誇る向日葵の中に、何本か茶色く枯れた花があることに気付きました。
その枯れた向日葵が、その時点で初めて配置されたのか、
それとも、初めからあったものに私がその瞬間まで気付かなかっただけのかはわかりません。
けれど、種を残すことすらできず、俯き干からび立ち枯れたその花は、
軋むような音を立てながら終焉へと向かうその戦争の不吉な暗喩であり、
また、クレシダとトロイラスの恋の残骸のようにも見えて―――
そして、そうやって枯れていく花を内包しつつ、
人間の争いの巻き起こす風にゆられつつ、
それでも向日葵は咲き続けている。
ラストシーン、咲き誇る向日葵を見ながら、なんだかぞっとするような無情さを感じてしまいました。


では、役者さんの感想を。

トロイラス役は山本くん。
蜷川シェイクスピアは「じゃじゃ馬馴らし」に引き続き2回目。
2回目にして堂々のタイトルロールです!
トロイの聡明な末の王子、という役柄がとてもお似合いでした。
たぶん、年齢設定的には10代なんじゃないかなあ。
世間知らずさと聡明さ、クレシダへの一途な思いと背負うべき王子の責任といった相反するものが、
とても鮮やかに融合しているように感じました。
クレシダの裏切りを見つめるときの混乱も、
その後に彼女が触れた壁に縋りながらの嘆きも良かったですが、
個人的にはヘクトルの死を同胞に告げた後の悲愴な表情と、言葉の鋭さに、
彼が少年であった自分と訣別した瞬間を見たような気持ちになって、かなり印象的でした。


クレシダ役は月川さん。
相変わらずの可憐さとたおやかさでした!
これはトロイラスも一目惚れするよねーという感じ。
どちらかというと無表情で、賢くてそれゆえにちょっと冷たさも感じさせる美しさなのだけど、
冒頭、戦場から戻ったトロイラスを目にした瞬間に、
その無表情さがふっと揺らぐ様が、まさに恋に落ちた瞬間を感じさせてくれました。
でも、きっとクレシダは賢いが故に、とてもとても臆病だったんだろうなあ、と思う。
トロイラスと想いが通じた瞬間も、その翌朝の甘い時間も、
無邪気に真っ直ぐにクレシダを見つめ抱きしめるトロイラスとは対照的に、
常にその恋の終わりを恐れ、予防線を張っているように見えました。
クレシダは、トロイラスと未来を誓い合ったその日に、
ギリシャ軍の捕虜となった武将との交換でギリシャに行くことになるのだけれど、
トロイラスの別れの時も、相手の心変わりを恐れていたのは、
トロイラスよりもクレシダだったように思います。
だからかな、その後クレシダがとった行動は、なんだか私にはとても納得がいってしまったのです。

彼女は、失う前に手放すことを選んだのだ。

そう、思いました。
迷いながら、悩みながら、それでもトロイラスの心が自分から離れていくという恐怖に耐えられず、
彼女は自分からトロイラスを切り捨てた。
彼女はそれを"女の性"と言ったけれど・・・それが罪だとは、私には思えませんでした。


二人の仲を取り持つクレシダの叔父、パンダロスは小野さん。
ちょっと下世話な感じもありましたが、
二人にちょっかいをかけてクレシダにうっとうしがられても、
二人の幸せを一番に願い続けていたのは彼なんだろうなあ、と思う。
彼の最後の意味が私には良くわからなかったので、
また改めて戯曲を読んでみようと思います。


ヘクトル役は横田さん。
蜷川シェイクスピアには欠かせない役者さんですv
以前は癒し系だったけれど、今回はちょっと観ていて辛い役柄だったなあ。
ギリシャ陣営の面々と丁々発止とやりあう様子に、
武力だけではなく、とても知的な人なんだなあ、という印象を持ちました。
そのヘクトルが、自らを引き止める父も、妻も、妹も振り払って戦場へ向かったのは、
ギリシャ人と交わした約束を守るためだけだったのかな・・・?
戦いへの衝動だけでは説明がつけられない聡明さと、
約束を守るというだけでは説明がつけられない頑なさがあったように思います。


ヘクトルの妻アンドロマケ役は山下さん。
「イリアス」では馬渕さんが演じてらっしゃって、その悲哀に胸を打たれたのですが、
山下さんのアンドロマケも、その情の深さと一歩引いた立ち位置がとても印象的でした。


そして、ヘクトルとトロイラスの妹、カサンドラは内田くん。
これまでの観たオールメールの中では一番好きな娘役さんなのですが、
今回のカサンドラもとっても良かったですv
登場シーンの雄たけびは何事?!と思いましたが(笑)。
太陽神アポロンの求愛を拒絶したが故に、
"その予言の言葉を誰も信じない"という呪いをかけられてしまったカサンドラ。
「イリアス」で新妻さんが演じた透明感のある、何処か超越したようなカサンドラとは対極の表現でしたが、
かっと見開いた目の奥にある悲哀と、
自分自身を切り裂くような鋭さで発せられるその予言が、痛くて痛くて仕方がありませんでした。
決して信じてもらえなくても、罵られ、哀れまれ、憎まれたとしても、
彼女は自らに降りてくる予言の言葉を発せずにはいられない。
万に一つでも、自分の言葉がその無残な未来を変えるきっかけとなり得るなら。
愛する者たちを救うことができるなら。
たぶん、彼女は自分がどれだけ泥に塗れても、血を流しても、決して躊躇ったりはしないのだと思う。
短い登場シーンで、さらにかなり突飛な行動の中にも、
彼女の切実な感情は、強い光を放って伝わってきたように思いました。


アキレウスは星さん。
イリアスの時、内野さんのアキレウスがとにかく怖かったのですが、
星さんのアキレウスは、もっとずっと本能的というか・・・情は深いけど理性は全くない男、という感じでした(え)。
長田さんのパトロクロスとも、あっけらかんと肉体関係を持っていて、
でも、恋人であるトロイの王女にもメロメロ、という・・・(笑)
途中、パトクロスがトロイの王女にあからさまな嫉妬を見せても、アキレウスは全然気付かなくて、
一方通行な想いのまま、パトクロスが戦場でヘクトルに向かっていく様子が、
さらりと描かれているのに、なんだか凄く切実で、ちょっと哀れにも感じてしまったのですが、
パトクロスの死を知った後のアキレウスの怒りがもの凄くて・・・
ああ、この男の中では、パトクロスと恋人は、全く別の次元でどちらもかけがえのない相手で、
その感情は彼の中で全く矛盾せずに共存してたんだなあ、と素直に思えてしまいました。
なんというか、常識を超えてしまうくらいの情の深さというか。


道化のテルシテス役はたかおさんとユリシーズ役の原さんは、
それぞれある意味物語と観客を繋ぐ位置にいたような気がします。
お二人とも他の舞台で拝見したことがありますが、若手とベテランがけっこう両極端なこの舞台で、
見事に技ありな燻し銀の魅力を見せてくれたように思います。
テルシテスがどういう身分なのかは良くわかりませんでしたが、
彼が冗談交じりに発する、戦争や色恋沙汰に対する辛辣な言葉に、
ちょっとどきっとしつつも、納得しちゃう自分がいました。
ユリシーズは、この物語の登場人物の中で、実は一番好きかも!と思いました。
いやもうほんとに洒脱でかっこよかったですv
ちょっと腹黒いところも見事に私好みでございました(笑)。
アンテルノ役の妹尾さんやヘレノス役の井面さんも、
要所要所できちんとお芝居を締めてくれていて、
蜷川シェイクスピアには欠かせない役者さんだなあ、と改めて思いました。


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12/09/02 蜷川シェイクスピア「トロイラスとクレシダ」さい芸千穐楽 神々に弄ばれる人間たち
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ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記
2012/09/16 09:30

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
地元に来る!と喜んだのもつかの間
北九州サイゴンと丸被りの日程だったので
縁がなかったんだわ、諦めてたんですが
恭穂さんの感想を読ませていただいていたら
ものすごーーく見たくなってしまいました。

で、チケット残ってるのかな?とプレイガイドを覗いてみたら…
ついぽちってしまいたくなる席が(苦笑)
というわけで二週間後に見てきまーす。

みずたましまうま
2012/09/08 21:00
みずたましまうまさん、こんばんは!

うわー、私の感想で観にいきたくなっていただけたなんて、
ほんとに嬉しいですv
とても美しい舞台でもありましたので、
(上で書き損ねましたが、戦争のシーンの、
 舞台奥まで咲き乱れる向日葵と、
 その間での命のやり取りは凄かったです!)
みずたましまうまさんにも楽しんでいただけるといいなv
恭穂
2012/09/08 23:20
こまつ座の「芭蕉通夜舟」、さい芸「トロイラスとクレシダ」と2本続けて、気合を入れて書きました。ようやく恭穂さんのところにTBさせていただくことができましたm(_ _)m7月の「しみじみ日本 乃木大将」も書くつもりなので、まだまだ小休止ですが(^^ゞ
「トロイラスとクレシダ」はこれまで観てきたギリシャ悲劇とそれをシェイクスピアがどう料理したかという視点で書いてます。タイトルロールの2人もすごくよかったんですけどね。これで東京芸術劇場の「トロイアの女たち」に続いていくんだなぁとも納得。2か国の役者が出演する字幕の舞台を頑張って観ないといけないなぁと決意を固めつつあります!
ぴかちゅう
2012/09/16 10:02
ぴかちゅうさん、こんばんは!
コメントとTBありがとうございますv
「芭蕉通夜舟」、私は観にいけなかったので、
こちらの感想も楽しみに読ませていただきますね。

シェイクスピアが料理したギリシャ悲劇・・・
そうか、これはそういう舞台だったのですね。
私は濃厚な人間関係にすっかり圧倒されてしまいました(笑)。
「トロイアの女たち」も観にいきたいですが・・・チケットとれるかしら。
恭穂
2012/09/17 19:00
恭穂さま
「相手の心変わりを恐れていたのは、 トロイラスよりも
クレシダだった」というところ、とても共感できます。
クレシダはきっとそれで自分が傷つくことがとても
怖かったのでしょうね。
失う前に手放すという気持ち、よくわかります。
本能的に自分自身を守ったのだと思います。
そんな彼女の行動を誰も責めることなんてできませんね。

ツイッターでもつぶやきましたが(笑)、
内田くんのカサンドラ、よかったですよね。
あんなアプローチは意外でしたが、蜷川さんの
演出意図だったことを後で内田くんのブログで
知りました。
「他の女優がやりたくなるようなカサンドラ」
になれていたのではないかしら。

ひまわりが明るいばかりの花でないことも、
今回の舞台で初めて感じたような気がします。
スキップ
2012/09/20 22:23
スキップさん、こんばんは!
クレシダの行動は、観る人の性別によっても年齢によっても、
受け取り方が違うかもしれませんね。
スキップさんと、同じような受け取り方ができて、
もしや私も大人の女の仲間入りでしょうか(笑)。

内田くんのカサンドラ、ほんとに素晴らしかったですね!
彼女の狂気は本物だったのか、装ったものだったのか・・・
ちょっと気になります。
内田くんのブログ、私もチェックしてみますね。
恭穂
2012/09/24 22:11

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