瓔珞の音

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zoom RSS 金色の箱

<<   作成日時 : 2013/09/14 22:01   >>

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「我を選ぶ者は、衆人の欲し求むるものを得べし」

そう書かれた金の箱の中には、朽ち果てた髑髏が一つ入っていました。

輝くものの中にある冷たい、死。
そしてその"死"が伝える「輝けるもの、必ずしも金ならず」という言葉。

美しく、輝かしく、清らかな存在。
誰もが讃え共感する、その男の在り方。
けれど、その中にある虚ろで冷たい髑髏の眼差し・・・

私には、それこそが、タイトルロールの男そのものであるように感じられました。



彩の国シェイクスピア・シリーズ第28弾
「ヴェニスの商人」

2013.9.6 マチネ さいたま芸術劇場大ホール 1回B列一桁台

出演:市川猿之助、中村倫也、横田栄司、大野拓朗、間宮啓行、石井愃一、高橋克実、青山達三、手塚秀彰、
    木村靖司、大川ヒロキ、岡田正、清家栄一、新川將人、鈴木豊、福田潔、市川段一郎、鈴木彰紀、隼太、
    内田健司、坂辺一海、白川大、丸茂睦



というわけで、単発の観劇な夏休みは非常に重いこの作品でした。
ずいぶん前に市村さん主演のこのお芝居を観た時、どうにもこうにも自分の中に落とし込めなくて・・・
なので、今回も観るのをかなり迷いましたが、
蜷川さん演出、猿之助さん主演、そしてオールメール、ということで、
前とは違う何かを受け取れるのかも、と思ってチケットをとってみました。

で、劇場に入ってみたらまさかの最前列!
いやー、鬱々と苦悩する高橋さんのアントーニオも、
眼光鋭い猫背な(違います)猿之助さんのシャイロックも、
詰めの甘い色男な横田さんのバサーニオも、
とにかくキュートでかっこいい中村くんのポーシャも、
愛嬌も愛情も何気にこの舞台一!な岡田さんのネリッサも、
相変わらず手の込んだ織が美しい衣裳の数々も、
思いっきり間近で観ることができて、嬉しいやら楽しいやら怖いやらうっとうしいやら(え)。
ミーハー的には非常に楽しい時間を過ごさせていただきました。

物語としては・・・やっぱり非常に観ていてきつかったです。
前の記憶があるせいもあって、最初っから気持ちがシャイロック寄りになってしまっていたので、
アントーニオやバサーニオたちの言動の「自分(たち)こそが正しいんだ!」と信じて疑わない様子が、
とにかく腹立たしくて仕方がなかったり。
でもねー。
猿之助さんのシャイロックが、これじゃあアントーニオたちも意固地になるよなー、と納得しちゃうような憎憎しさで!
言葉では下手に出ながら、その言葉の合間にいちいち毒や嘲りや皮肉があって、
相手の非道な振る舞いを突きつけながら薄ら笑いを浮かべてる感じ?
その反面、これはジェシカもランスロットも逃げ出したくなるよね、というような暴君ぶりもあったりして。
でも、粘着質なのに何処か飄々とした愛嬌があるのはさすが!
市村さんのシャイロックは、とにかく悲劇性を前面に感じたのですが、
猿之助さんのシャイロックには、なんというかいろんなものに対する怒り・・・だとちょっと違うかな、
うん、なんというか、凄い命のパワーのようなものを感じました。
怒りの感情も、復讐の執念も、そのパワーの一つ、というか。
だから、裁判のシーンで自身の要求がポーシャによって見事に覆されたときも、
混乱と敗北感の後、すぐにポーシャにすがり付いて慈悲を請う姿も、
生きていこうとする彼の中では凄く自然な流れなのかなあ、と思った。
どんなに嘲笑されても、どんな屈辱を受けても、それで血の涙を流したとしても、
彼は生きることを放棄することは絶対にない。
アントーニオから与えられた、"慈悲"の仮面を被った屈辱に全てを奪われ、
バサーニオから与えられた十字架を胸に法廷を去っていくシャイロック。
振り返って彼らを見つめるその眼には、彼らの仕打ちに決して屈することのない強い意思があったように思います。
実はこのシーン、私の席からではシャイロックの顔があまりよく見えなくて、
実際に彼がどうだったのかを、事細かに観ることはできませんでした。(残念!)
でも、ラストシーン、キリスト教徒たち(と娘)が笑いさざめきながら消えていったその後、
舞台の中央に現れたシャイロックの、十字架を握り締めた手から滴る赤い血と、
かっと見開いた目、そして噛みしめられた口元を観た時、
シャイロックの中にある決して消えない炎、その熱量に本当に圧倒されてしまいました。
そして、なんだかちょっと爽快感のようなものさえ感じてしまって・・・そのことにちょっとびっくりしてしまいました。

その爽快感は、もちろん猿之助さんのシャイロックそのものからのものでもあるのですが、
中村くんのポーシャの陽性の存在も大きかったように思います。
いやもうほんっとに可愛かったの!
育ちが良くて頭が良くて凛とした一面と、
年相応の女の子の愛らしさと無邪気さと残酷さのある一面が、
とってもいい感じに混ざり合っていて、なんだかもう観ていてこっちまでにこにこしちゃう感じv
でもって、大人の女性の思慮深さとか懐の深さもちゃんとあるんですよねー。
声も決して無理な裏声を使っているわけではないのだけれど、
凄く通りが良くて、しっかり女の子の声に聞こえるところが凄い!
ちょっとした仕草とかも違和感がなくて、
月川さんとはまた違った意味で、ちょっと憧れちゃうような女の子っぷりでした。
バサーニオに対しても最初はとにかく恋する乙女で、
彼が箱を選んでいるときの挙動不審さ(笑)はとにかく微笑ましかったし、
想いが通じ合ったときのラブラブっぷりにはもうとにかく良かったねーというしかないくらいだったし、
で、その後の諸々での、完璧ではない夫の手綱を上手く握った可憐で強い奥様っぷりは、
あっぱれ!という感じだったし・・・
でもって、シャイロックに対しても、彼の言い分をただ否定するのではなく、
きちんと受け止めて、認めて、その上で慈悲を請い、
けれどそれが受け入れられない結果として、詭弁とも言える方法で彼を真正面から追い詰めた。
そして、そうせざるを得ない自分に対しての苦悩のようなものも感じられて・・・

アントーニオとシャイロックの立場が逆転するこのシーン、
バサーニオたちも、法廷に立ち会った高官たちも、みんな笑ってたのね。
たぶんそれは嘲笑で・・・それが私にはとにかく辛くて辛くて仕方なかった。
そんな中、唯一笑わなかったのが、ポーシャと、そして青山さん演じるヴェニスの公爵で。
そのことに、なんだかちょっと救われたような気持ちになりました。

そんなこんなで、この物語って、ポーシャの在り方でもずいぶん印象が違うんだなあ、と思ってみたり。
ネリッサとのきゃぴきゃぴしたやりとりもめちゃくちゃ可愛くて、
この二人と女子会したら楽しいだろうなあ、とか思っちゃった(笑)。

岡田さんのネリッサもすごい良かったんですよねー。
ネリッサって、もともとこの物語の中で一番真っ当な人物だと思ってたんですが、
今回もやっぱりそう思いました。
間宮さん演じるグラシアーノともほんとにお似合いでv
このお二人のシーン、ちょこっとだけなのだけど凄い好きでした。
というか、グラシアーノが結構好みなことに気付いてしまったり(笑)。
この人も凄い陽性の存在なんですよね。
バサーニオたちと一緒にシャイロックに酷いことをたくさん言うんだけど、
なんというか口だけ、みたいな?
含むところがないというか、子どもみたいに全然悪気がないの。
だからといって、許される言動ではないのだと思うけど、
でも、そんなグラシアーノだから、シャイロックの眼中にはなかったのかなあ、と思ってみたり(え)。


横田さんのバサーニオはねー。
とにかく詰めが甘くて考えが浅くて行き当たりばったり。
でもっていきがってるけどそこはかとなくへたれ。
そしてものすごいナルシスト。自分は贅沢な生活が似合う、って考えてるあたりがね。
でもって、感情や欲望にすごい忠実。 
で、情も深い。
・・・なんだかちょっと印象悪すぎですか?(笑)
個人的にはちょっと蹴りを入れたくなるような男なのですが、
自分がなんとかしてあげなくちゃ、って相手に思わせてしまうあたり、魅力的、なんだろうなあ・・・
アントーニオとの関係も、甘えてるというよりは普通に友人として頼ってる、という感じ。
湿った部分がなくて、さばさばしてて、でも熱い。
ポーシャにベタ惚れなのも凄い良くわかって微笑ましかったです。
うん、ポーシャにしっかり尻に敷かれちゃったほうが、バサーニオは幸せになれそうな気がします。


高橋さんのアントーニオは、基本物静かで思慮深い感じ。
博打的な商売ができるだけの激しさもあるはずなのだけど、それを巧妙に隠してる。
でも、周りに対しての自分、というものを常に意識している男だな、と思いました。
なんというか、常に正しいのは自分なんだよね。
シャイロックを罵倒したのも、彼の商売を邪魔したのも、自分の考えが正しくて彼が間違ってるから。
バサーニオのために自分を担保に、嫌いな相手から金を借りるのも、そうする自分が正しいから。
金を返せなくなってシャイロックに縋りつくのも、そういう風に慈悲を受けることが正しいから。
それを拒絶されて酷い扱いを受けるのを粛々と受け止める"正しい"自分。
そして、全てを失った相手に"正しい"慈悲を与える自分の正しい行い。
うん、それはまさにその通りなんだよね。―――彼の生きるコミュニティの中では。
でも、それは同時に、自分とは異なる"正しさ"を全く認めていない、ということなんじゃないかな。

人と人。国と国。民族と民族。
大きさは違っていても、人が誰かと向かい合うとき、それぞれの持つ"正しさ"は、決して完璧には一致しない。
一致しないからこそ、人との関係は広がり進んでいくと同時に、争いは決して消えない。
私自身、私の持つ"正さ"が、相手の持つ"正しさ"を受け入れられなくて、もちろんその逆もあって、
嫌な思いも哀しい思いもしたことがある。
でも、自分とは違う"正しさ"があるのだということを、それが受け入れられるかどうかは別として、
その事実だけはいつも胸においておきたいと思っていて・・・

白い上着の下の、アントーニオの金糸で織られた衣裳の繊細な模様を見ながら、
アントーニオは金色の箱なんだなあ、って思いました。
彼のコミュニティのなかで、誰もが納得するであろう彼の"正しさ"。
でもそれは、別の一面から見たら、決して正しくはない場合もあって。
むしろ冷酷で残酷なものであるのかもしれない。
うーん、やっぱりこの辺って自分の中でまだ上手く答えが出ないことなのだけど、
今回の高橋さんのアントーニオの、自分の"正しさ"に何の疑いもないところが、
なんだかこの物語の本質なのかなあ、と漠然と考えてしまいました。


なんだかまとまらなくなってきちゃったので、この後はちょっと思いつくままに。

ジェシカを演じたのは大野くん。
去年の「エリザベート」は1回も見なかったので、実は今回が初見。
市村さん版の舞台の京野さん演じるジェシカとは全く違ったアプローチでびっくり!
このジェシカ、本当に完全にお父さんを切り捨ててるよね。
父の身を案じることもないし、罪悪感も殆ど感じられなかった。
そのくらい、シャイロックとの生活は辛かったのかなあ、とも思うけれど、
その思い切りの良さは、なんだかちょっと危うく感じられてしまいました。
鈴木さんのロレンゾーがとにかく懐が深くて癒し系だったので、
まあ、このロレンゾーと一緒なら大丈夫なのかなあ、とも思いつつ・・・
でも、こういう娘だからこそ、最後のシャイロックの鬼気迫った様が更に際立ったのかもしれないなあ。

モロッコ大公は手塚さん。
すみません、幕間にキャストを確認するまで手塚さんだってわかりませんでした・・・
すっごい暑苦しい男だけど、ある意味めちゃくちゃ幸せにしてくれそうな人かも、と思ってみたり(笑)。

清家さんのランスロットの軽やかさと明るさも、この物語の中では癒しかな。
石井さん演じるお父さんとのやりとりとか、ジェシカとのやりとりとか、
衣裳のカラフルさと相まって、見ていてとっても楽しかったですv


舞台セットは大きな動きはあまりなくて。
ただ、要所要所で幾つもの窓からシスターや僧侶たちが、
激しい言葉を交わしあう人たちを、じっと見つめているのが印象的でした。
静かな眼差しなのだけれど、時折痛ましさとか嫌悪感とかそういうマイナスの感情が覗くのね。
前方席だったので、どうしても視界が狭くなってしまったのですが、
この舞台を広報から俯瞰して観れたら、また違う印象が会ったのかもしれないなあ、と思いました。

そういえば、今回は猿之助さん出演だったので、歌舞伎をよくご覧になるお客が多かったのかな。
主要人物が出てきたり、シャイロックがキメたりするたびに拍手が起こってて、
そのうち大向こうがかかるんじゃないかと思っちゃった(笑)。
というか、基本シャイロック(ユダヤ人全般?)の動作って歌舞伎風味でしたよね。
民族の差、という意味でもわかりやすいのかもしれないけれど、
蜷川さんのことだから、なんだかもっと深い意図があってのことなのかなあ、と、
ちょっといろいろ考えてしまいました。


そんな感じで、やっぱりきちんと落とし込むことのできなかったこの戯曲。
でも、演出の違い、出演者の違いで、こんなにも受ける印象が違うんだなあ、
と改めて舞台ってすごい!と思いました。
観ていてきついお芝居だけれど、また機会があれば他の演出家さんのものも見てみたいな、と思います。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
13/09/14 SSS「ヴェニスの商人」蜷川が思い入れるシャイロックを猿之助が怪演
「ヴェニスの商人」という作品の観劇は、2007年9/30に市村正親シャイロックの舞台の東京公演千穐楽以来だ。 SSS=彩の国シェイクスピアシリーズでの全作品上演企画の中でもこれまで上演がなかったわけで、蜷川幸雄が惚れ込んでいる猿之助をシャイロックにすえてきて満を... ...続きを見る
ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記
2013/09/21 14:34

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ご無沙汰しています。私も「ヴェニスの商人」の観劇は、2007年9月の市村正親シャイロックの舞台の東京公演以来でした。あとは劇団四季と子どものためのシェイクスピアで観ています。
今回の舞台はキリスト教徒とユダヤ人の関係性に焦点があてられていて、猿之助の歌舞伎の型を多用した演技がヴェニスの社会の中での彼の異端者ぶりを明らかにしていたと思います。宗教対立、異なった価値観の人々の不寛容によって、お互いに傷つき、復讐をえんえん連鎖していっているのがいまの人間の姿で、それでいいのかと蜷川さんの挑発を感じた舞台でした。
そうそう、高橋洋さん、「半沢直樹」に出ていましたね。恭穂さんをすぐに思い出した次第です。「ヴェニスの商人」の記事がかけたらすぐにTBさせていただこうと「陰陽師」を観に行く前に頑張ってアップしました。TBうまくいったか心配ですが、それでは行ってきますね(^_^)/
ぴかちゅう
2013/09/21 14:43
ぴかちゅうさん、こんばんは。
こちらこそご無沙汰してしまってすみません。
TBも、ちょっとスパムが多くて保留にするようにしてまして。
きちんとTBいただけていました。ありがとうございます。
「陰陽師」、いかがでしたか?
最近歌舞伎を観る機会がなく、「陰陽師」も気になっていたのですが、
人気の演目で全然チケットにめぐり合えず(涙)。
ぴかちゅうさんのレポ、楽しみにしておりますねv

異なった価値観の人々の不寛容・・・まさにその通りですね。
蜷川さんの挑発、というお言葉にはっとしました。
この舞台を観ることで、受身として考えるだけではなく、
自分から一歩前に進むべきなのかな、と漠然と思いました。

洋さん!
出てましたねー、「半沢直樹」。
東京オレンジ同期の共演、ということでわくわくも2倍でしたv
直ぐに左遷されちゃったのは残念でしたが(笑)。
9月25日に放映される「孤独のグルメ」にも出演されるそうです。
もしよろしかったらご覧になってみてくださいね。
恭穂
2013/09/21 20:41

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