瓔珞の音

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<<   作成日時 : 2013/10/19 16:24   >>

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先週から風邪に負けていた恭穂です。
いやー、久々に喉→気管→鼻というフルコースを体験しちゃいました。
治りが遅いのは、やっぱり年ですかねー(え)。
とりあえず、かなり回復してきたので、このタイミングで書かないと書かないで終わっちゃう!という危機感もあり、
残っていた観劇記録を書いちゃおうと思います。


音楽劇「それからのブンとフン」

2013.10.6 マチネ 天王洲銀河劇場 1階D列20番台

作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:市村正親、小池栄子、新妻聖子、山西惇、久保酎吉、橋本じゅん、さとうこうじ、吉田メタル、辰巳智秋、
    飯野めぐみ、保可南、あべこ、角川裕明、北野雄大、富岡晃一郎、朴勝哲


井上ひさしさんの処女長編小説「ブンとフン」。
5年後に、後日譚も交えて書き下ろされたのがこの戯曲、なのだそうです。

人の評価などはあんまり(笑)気にせずに、
自分のポリシーの下書きたい小説を書いている作家、大友憤(市村正親)。
あるとき、彼の描いたとある泥棒の小説が売れ始めます。
重版を重ね、世に出て行く小説「ブン」。
それとともに、世界で様々な不思議な"盗難"が起きはじめます。
その犯人は、小説「ブン」から抜け出した四次元世界の大泥棒ブン。
ナンにでも化けられ、どんなものでも盗んでしまう不可能なことなどないブンは、
出版された小説の数だけ存在し、世界を混乱に陥れます。
シマウマのシマ、自由の女神の松明、卵の黄身・・・冗談のようなささいな盗み。
ブンの盗難が一つのブームを呼び、熱狂的な状況になる日本。
そのうちに、形のあるものを盗むことに飽きたブンたちは、別のものをターゲットにし始めます。
人の虚栄心や記憶・・・
ブンの常識を超えた盗みを前に、警察長官クサキ・サンスケ(橋本じゅん)は、
憤先生を拘束したり、盗作の「ブン」を作り出したり、
果ては悪魔(新妻聖子)を呼び出してまで、ブンたちを捕らえようとします。
憤先生を救うために捕らえられたブンたち。
けれど、クサキの「ブンたちを一日でも長く生かしその罪を償わせる」ために、
どんどん快適になり、まるで高級ホテルのようになった刑務所の存在は、
世間の人たちを"盗み"へと駆り立て、世間はますます混乱し、刑務所は破綻してしまいます。
自由の身になったブンたち。
あるとき、世界中の言葉に訳され、その国の"文化"や"風習"、"思想"に彩られたブンたちが一同に会し、
ブンの世界大会が開かれ―――

という、なんとも荒唐無稽な物語でした。
えーと、正直なことを言ってしまうと、私は観終わった後ものすごく混乱しちゃったんですね。
冒頭、憤先生の独白は、さすがの市村さんに朴さんの雄弁なピアノが重なって、
なんとも楽しくて、でもちょっと皮肉で自虐的な雰囲気が非常に面白かったし、
その後、たくさんのブンたちが、さまざまな変装で現れて憤先生を囲むところとか、
なにごとー??と思いながらも、溢れるパワーに煽られて、めちゃくちゃテンションが上がりました。
これからどんな物語が始まるのかな?って、凄くワクワクしたのね。
じゅんさん演じるクサキ警察長官の♪常識ソング も、"常識"に縛られることの危うさと怖さを痛烈に皮肉っていて、
じゅんさんの歌や仕草に笑いながらも、ふっと背筋が寒くなるような感じがあったりして見応えがあったし、
ブンの犯罪に熱狂する世間の様々なブングッズやブン現象について、
淡々と語る山西さんのアナウンサーは、個人的に非常にツボだったし、
悪魔、というかどじな小悪魔な感じの聖子ちゃんは、めちゃくちゃキュートで、
ある意味ものすごくあの舞台の中で浮いてたし、
小池さん演じるオリジナルブンのたおやかさと綺麗さと目力の強さには心を奪われたし・・・
というか、小池さんって、ほんとにお綺麗ですよねー。
1幕終盤の憤先生と歌う♪ただ好きなのさ は、シチュエーションの奇妙さを一瞬忘れちゃうような、
穏やかな切なさがあって、とても素敵でした。

でもね。
ブンが、人の感情や記憶を盗むようになってから、なんだか私は凄く怖くなってしまったのです。
虚栄心や闘争心、悪意や嫉妬心―――そういうマイナスの感情を盗む。
過去の歴史を全く教訓にできていないのだから、歴史はなくてもいいはず―――だから、盗む。
ぱっと聞くと、なんだか正しいことのように思えてしまうけれど、
でも、それって、凄く凄く怖いことですよね?
この時点で、「ブン」という存在は、私にとってなんだかとても恐ろしく受け入れがたい存在になった。

そして、2幕以降の「ブン」たちの争い・・・
元はたった一つ、憤先生が書いた文章のはずなのに、
ブンたちはいつしかオリジナルとは相容れない存在になっていき、オリジナルを殺そうとする。
作者の意図を、想いを越えて、別の何かに変容してしまうブンたち。
彼らに追われ、ぼろぼろになって逃げまどうオリジナルブンと、
ブンたちの代わりに投獄された憤先生の一瞬の邂逅。
そして、オリジナルブンを助けるために、暗闇の中、自らの血で牢獄の壁に新しい物語を綴る憤先生。
淡い笑みさえ浮かべて文章を綴るその姿は、どこか鬼気迫るものも感じられて―――
なんだか、怖いのに悲しくなってしまいました。
だから、カーテンコールはちょっと涙目でした。
その後の女子会的なアフタートークでずいぶん気持ちは復活したけど、
あれがなかったら、かなり辛い気持ちで劇場を後にしなきゃならなかったのかなあ、なんて思います。

そもそも、ブンたちが変容している、ということが、
私的にものすごく納得が行ってしまった、というのがこの怖さの根っこにあるんじゃないかな、と思う。
言葉や文章って、自分の中から外に出てしまった時点で、もう自分だけのものじゃないんですよね。
それを読んだ人たちの、それまでの経験や感情や性格や・・・いろんなものが加味されて、
たぶん厳密に言ってしまえば、100%同じ解釈になるはずがない。
出版され、翻訳された数だけ存在する「ブンたち」。
作者の意図を超えて変容する「ブンたち」。
でも、きっとそれは当たり前のことなのだと思う。
そういう変容を全て包み込んで、それでも伝わってくるものだけが、"本物"なのかもしれない。
けれど、「ブンたち」はそうではなかった。
憤先生の関知しない場所で、彼らは自らを主張し、争い、殺しあった。
でも、それじゃあ、憤先生はどこにいってしまうんだろう。
憤先生の文章は、これから先生が書いていく文章に込められた、
オリジナルブンへの純粋な感情は、何処にいってしまうんだろう・・・?

こんな風に考えることも、たぶん井上先生の意図とは全然違うのだと思う。
思想的なこととか国際情勢とか、そういうものはほとんど考えてないしね。
というか、脚本家や演出家、役者さんたちが投げかけるものを、
私なりに受け止め、解釈し、落とし込むことが、私にとっての観劇の魅力でもあって、
それは今も昔も全然変わらない。
でも、そういう私の舞台への向き合い方にも、なんだかちょっと疑問がわいてきてしまって・・・
そんなこんなで、しばらくとっても混乱しておりました(笑)。
(笑)が付けられるのは、先週「ムサシ」を観たから。
自分の中にぐるぐるしていたものを、ばっさり斬って捨ててもらった感じで、
今はなんだか逆にとってもすっきりしています。
今の状態でこの音楽劇を観たら、また違う受け止め方をできたのかなあ、なんて思います。

ちょっと調べてみたら、この戯曲、井上さんが今の私とほぼ同い年のころに書かれているんですね。
だからこそ、余計にいろいろ突き刺さるものがあったのかなあ。
井上さんの初期の戯曲は、これまでも結構観た後にきつい想いをすることがあって、
晩年のものはそういうきつさよりも愛しさや切なさのほうが強いように感じています。
それも、井上さんの人生の変遷、なのかもしれませんね。
そういうことを感じることのできる観劇が、私はやっぱり大好きだなあ、と改めて思いました。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
恭穂さま
続けて失礼いたします。
この作品はオリジナルの小説も戯曲も全く読んだことなくて
楽しい音楽劇かと思いながら観ていたのですが、あまりの
厳しさにちょっと苦しくなったくらいでした。
井上ひさしさんの初期の作品ということですが、本当に
井上さんの遺してくれたものは大きいな、と改めて思いましたし、
この作品に込められた思いを正しく受け止めきれたとは
言い難いのですが、これからも大切にしていきたいと思いました。
スキップ
2013/11/04 17:51
スキップさん

こちらにもコメントをありがとうございます。
私も楽しい音楽劇、というスタンスでみていたので、
スキップさん同様、とても苦しくなりました。
井上さんの初期の作品は、「ムサシ」とはまた違う意味で、
とてもストレートな剥き出しのメッセージがあるようで、
それを受け入れるにはこちらも負傷覚悟、という感じなのでしょうか。
私も混乱のままに見終わってしまいましたが、
またいつか再演されることがあれば、観てみたいと思います。
市村さんのフン先生、素敵でしたしv(笑)
恭穂
2013/11/06 22:11

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