瓔珞の音

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<<   作成日時 : 2015/03/25 23:14   >>

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終演後、劇場を出た瞬間。
春色の空と、春の匂いのする風と、春の暖かさを持った光が私を包みました。
ついさっきまで“彼ら”と共有していた時間と、
その時間が私の中に落としたやるせなさを噛みしめながら、
ふっと目を上げると、桜の木の幹に張り付くように一つだけ咲いた花が目に入りました。

懐かしくて、怖くて、もどかしくて、情けなくて、悔しくて―――そして、残酷だけれどどこか愛しいあの時間。
それは、まさに今と同じ季節で。
あの時間を過ごした後の“彼ら”も、あの校舎を出た瞬間に、
この空を、
この風を、
この光を、感じたのだろうか。
この花を、見たのだろうか―――?


「正しい教室」

2015.3.22 マチネ Zeppブルー―シアター六本木 9列20番台

作・演出:蓬莱竜太
出演:井上芳雄、鈴木砂羽、前田亜季、高橋努、岩瀬亮、有川マコト、小島聖、近藤正臣


物語の舞台は、とある地方都市の、とある小学校の、6年生の教室。
そこで一人保護者と電話で会話しているのは、
かつてこの教室で学び、今はこの教室で教えている、かつて「委員長」だった男、菊池真澄(井上芳雄)。
担任をしている女の子の、ちょっとした問題についての保護者との電話を終え、一人溜息をつく菊池。
そこに現れたのは、やはりかつてこの教室で学び、今は傾きかけたレストラン店主の、
かつて「番長」と呼ばれた男、不知火光(高橋努)と、
かつて「ガリ勉」と呼ばれ、今は実家の工務店を継いだ男、坂田健太(岩瀬亮)。
今日は、この教室を使って、彼らのささやかな同窓会が企画されていたのです。
同級生11人のうち、参加するのは6人。
菊池、不知火、坂田、
そしてかつて「恋する女子」で、今は現実に追われる地方公務員な漆原恵子(小島聖)、
かつて「のけ者」で、今はどこか胡散臭い羽振りの良さをみせるアパッチこと水本康明(有川マコト)。
そして、かつて「マドンナ」と呼ばれ、今は女手一つで育てた息子を事故で亡くした小西友紀(鈴木砂羽)。
妹の蘭(前田亜季)に付き添われてやってきた友紀は、以前の明るさの面影もないほど憔悴していました。
この同窓会も、友紀を励ますために菊池が企画したもの。
(たぶん)普段から顔を空かせている地元組の菊池、不知火、坂田、恵子はともかく、
(たぶん)20年以上の年月を超えて再会した6人は、
懐かしいような、恥ずかしいような、いたたまれないような・・・そんな微妙な雰囲気の中、
彼らの小さな同窓会が始まりました。
けれど、その時間は、かつて彼らの担任の「先生」だった男、寺井新一郎(近藤正臣)の登場により、
思わぬ方向へ進んでいきます。

知らなかった事実。
知らないはずの事実。
隠されていた事実。
消されていた事実。
解決されたはずの事実。
解決されないまま放置されていた事実。

本当に些細なことなのに。
「小学生の頃」の、ずっと昔のことのはずなのに。
それらは一気に彼らを“あの頃”に引き戻し―――そして、封印は解かれた。


教室という閉鎖された空間の中で繰り広げられた、ノンストップ2時間のお芝居は、
そんなちょっとミステリータッチの台詞劇でした。
笑いの要素も盛り込み、ほのぼのした思い出話も織り込みながら、
でも、その空間は、最初からどこか不穏な気配がありました。
自然なのに、どこかぎこちない。
まっすぐなのに、何か違う意味が隠れていそう。
そんな言葉のやり取りは、たぶん随所にいろんな伏線があったのだと思います。
けれど、見ている最中は、どんどん緊張感を増していく空気の中、
ただ息を呑んで彼らのやり取りを見つめていることしかできませんでした。

寺井さんに向けられる、彼らのささくれだった感情に、
何があっったの? どうしてそんな言葉を投げつけられるの?と思い。
寺井さんが明かす“事実”と、それに触発されるように語りだす彼らに、
だめだよ、それ以上言っちゃだめだってば!と本気で遮りたくなり。
交わされる会話に、突きつける要求に、それを正当化する理由に、
ちょっと待って、それは違う!と思いながら、でも何か違うかを明確には説明でないもどかしさに身悶えし。

なんだかもう、本当に観ていて辛かった。
何かのインタビューで、近藤さんが「ミステリーだと思って」と言っていて、
確かにミステリーな感じなんだけど、でも、それ以上に、
さりげなさや自然さが生々しさを生み出す会話が、
自分自身の記憶や感情に働きかける効果はとんでもなくて。
傍観者として楽しむというよりも、その同窓会に一緒に参加している、
あるいは、参加できなかったかつての同級生の立場に近い位置にいるような感じで、
いたたまれないような気持になってしまいました。

学校というある意味閉鎖された空間の中。
逃げ場のないまま作られる人間関係。
容赦なく突きつけられる自分の“価値”。
大きな可能性に満ちているはずの未来は、まだ手の届かない遠くにあって。
大人になってみれば本当に些細でとるに足らないことだとしても、
でも、そこで過ごした日々は、いつだって精一杯の懸命さがあった。
そして、“卒業”という逃れようのない大きな転機は、それらを全て“過去”として封印する呪文だった。

物語の登場人物には、取り返しのつかない傷を負った人もいて。
でも、その目に見える“傷”以外にも、彼らはたぶん消えない傷跡を持っていた。
その傷跡は、普段は見ないふりができるくらい小さくて、
でも、小学校6年生という年齢の彼ら、その時の精一杯で世界と向かい合った結果の傷跡で、
そして、そういう年代の傷跡だったからこそ、一過性のものにしか感じていなくて。
けれど、その傷は、柔らかな子どもの心だったからこそ、小さくても深い深いものだったのだと思う。

いろんな巡りあわせから、封印され、“過去”になったはずの事実と直面した彼ら。
それぞれの傷が内包していた秘密やうしろめたさという膿を出した彼らを包んだのは、
どこか柔らかさすら感じさせる静寂でした。
物語の最初の、どこか白々しさのある明るさとは違う、
ほんの少しだけ、お互いの気持ちが近づいたような、
ほんの少しだけ、お互いの体温が感じられるような―――そんな静寂。

彼らはそれぞれにまだ問題に直面していて、
それが彼らにつける傷は、小学生の頃の比ではないかもしれません。
けれど、あの時間を経て、あの頃の自分に向かい合った彼らは、
知らなかった事実を、知りたくなかった事実を知ってしまった彼らは、
だからこそこの先の未来へ向き合うことができるんじゃないか。

彼は、痛みも力も与えてくれる存在の助けを借りて、進んでいくことができるのではないか。
彼女は、現状を打破する思い切りをつけることができるのではないか。
彼は、こうじゃなかったはずの自分と折り合いをつけられるのではないか。
彼女は、今度こそ真実と向き合うことができるのではないか。
そして、彼は、本当のSOSを受け止めることができるのではないか。

そんな“未来の可能性”を感じさせるラストシーンだったと思います。


うーん、ネタバレしないように、と思っていたら、なんだかわけのわからない記録になっちゃいました(^^;)
ほんとに観ていてきつい舞台だったけれど、確かにミステリーとしても上質だったかと。
流れを知った状態でもう一度観ることができたら、
一つ一つの台詞をもっと深く受け止めることができるのかなあ・・・
一度きりの観劇の予定なのですが、今ちょっとよろめいております(笑)。
とりあえず、役者さんのことを少し。


菊池役、井上くん。
誰からも好かれる、保護者からも大人気な先生。
それも納得な柔らかで思慮深い物腰と話し方は、けれどどこか不安定な印象がありました。
たぶん、彼の自己評価って、もの凄い低くて、
反比例するみたいにプライドは高いんだろうなあ、と思う。
本当の自分は違うと、自分はそんな人間ではない、と思いながら、
だからこそ在るべき自分で在ろうと、本当に一生懸命だったんだろうな。
私は割と菊池よりな考え方をする方なので、
彼が追い詰められていくのを見るのはきつかったです。
先生と生徒だって人間なんだから、合う合わないは絶対あるはずで。
自分と合わなくてもほかの先生と合うならOKと割り切るには、
彼が寺井先生から受けた傷は深すぎたんだろうな。
正直、絶望少女(おい)の手紙の内容は、私には「はあ?!」という感じだったのですが(問題発言?)、
でもまあ、小学生の女の子だったら思いつめるとそうなっちゃうのかな・・・うん、そうかも?
菊池はたぶん、どこまでも“いい子”でいることしかできないのだと思うけれど、
でも、この時間はきっと彼のその殻をちょっとだけ割ったはずだから、
子どもたちにももう一歩近づけるといいなあ、と思います。


友紀役、鈴木さん。
俯いて、暗い顔をして、時折見せる笑顔もどこか空虚な・・・壊れる寸前の危うさを見せてくれました。
あの事件以外、彼女の詳しい過去は語られないけれど、
かつて「マドンナ」だった彼女が、ここまで変化してしまうのには、
きっとそれだけの何かがあったんだろうな、と思わせる感じ。
台詞の言い回しが、台詞じゃなくて普通の会話みたいなナチュラルさで、
それがまた彼女の傷の深さを感じさせていたように思います。
たぶん、小学生のころから、彼女は菊池とは違う意味で“うまく立ち回る”のが上手だったんだろうな。
それは、きっと誰かを巻き込む形での立ち回り方で。
そして、もしかしたらそれは、転勤族で転校ばっかりの彼女の保身だったのかも、なんて思いました。


坂田役、岩瀬さん。
ガリ勉、というあだ名だったということですが、
むしろ、物事を突き詰めて考えちゃうタイプなのかなあ、と、
友紀を問い詰める姿を見ていて思いました。
話し方が常に下手に出てるところが、商売人、という感じ?(笑)
他の役ほどのインパクトは受けなかったのですが(というか他の役のインパクトが強かった/笑)、
要所要所ですっと物語を引っ張るというか、支えるというか、そんな印象がありました。
坂田の動きだけを見てても面白いかもなー、なんて。


恵子役、小島さん。
なんだか久々に拝見した気がしますが、相変わらずお綺麗ですねv
ピンクの衣裳の微妙な似合わなさが、恵子の闇を見せてくれたように思いました。
でも、根本的には、素直な女の子なんだろうなあ、と思ってみたり。
言うべきことは言うし、ちゃんと気持ちの中に“正義”のある女の子。
うん、かっこいいなv
友紀の言葉に切れるシーンは、なんだかめちゃくちゃ共感してしまいました。
ああいう風に、周りのものみんな投げつけたくなる気持ちになる言葉ってあるよねー。
自分のこと何も知らないくせに!って。
でも、それってきっと、そんな自分が嫌いということの裏返し何だろうなあ。
彼女には、ほんとに幸せになってほしいです。


水本役、有川さん。
メリハリのある意味深な演技にハラハラしたり大笑いさせていただいたりしました。
いじられキャラな自分は知ってても、「のけ者」な自分を彼は知らなかったんだろうなあ。
騙されやすくてちょっとうざくて弱っちいけど、彼自身はいつだって一生懸命で。
だから、みんなほっとけなかったんだろうな、とも思ってみたり。
彼の公然の秘密(笑)が外れた(え)時の、友紀さんのよけっぷりが素晴らしく(笑)。
そして、その瞬間に寺井先生が彼を思い出したのは、
笑えるシーン、という以上の意味があったように思いました。


不知火役、高橋さん。
いやもう不知火いてくれてありがとう!!と思いましたよ。
彼の言葉や行動が、あの空気を一瞬でも乱してくれたから、
最後までこのお芝居を観ることができた気がします。
なんというか、不知火という存在にだけ、マイナスの感情が感じられなかったんですよね。
口は悪いし乱暴だし調子はいいし・・・たぶん、リアルに小学校の同級生だったら、
あんまり仲良くなりたくないタイプだったと思うのですが(え)、
でも、彼の行動とか言葉には、悪意や裏は全然なかったんだろうな、と思う。
水本をいじるのも、ある意味愛情表現だったんだろうし、
地雷を踏むような発言も、単純に思ったことを口に出しているだけ。
それが、なんだか凄いほっとしてしまったのでした。
そういう裏表のなさとか、彼の中で一本通った芯のようなものが、寺井のお気に入りだったのかも?


寺井先生な近藤さんはほんとに圧巻でした。
出てきた瞬間は「師匠!(@「ごちそうさん」)」と思ったのですが、当然のことながら全然違う。
台詞、動き、目線、そして間。
全てが完成された「寺井先生」という存在で、
そして、その寺井先生は、自分の価値観でもって、
体当たりで生徒に向き合ってきた先生なんだろうな、と思った。
自分が納得できなければ受け入れないし、攻撃する。
でも、納得ができれば、すんなりそれを受け入れる。
寺井先生が、子どもたちの仕打ちを受け止めたのは、自分が嫌われている理由がわかっていたから。
寺井先生だってきっと傷ついたし、悲しかった。
でも、わかっていても傷ついても、それでも、自分の価値観を貫いたのだと思う。
その価値観が正しいのかどうかは私にはわからない。
あんなふうな仕打ちを受けたら、やっぱり嫌だろうし嫌いにもなるだろうと思う。
でも、ただ嫌われるだけではない、人間的な魅力というか吸引力のある存在。
そんな風に思いました。

終盤、掘り返さなかったタイムカプセル。
その中にいれた「将来の夢」を、一人一人が思い出して言うシーンがあります。
「看護婦さん」「小説家」「宇宙飛行士」「学校の先生」・・・(あ、水本忘れた!(>_<))
一人だけ思い出すことのできなかった不知火に、寺井先生は言います。
「お前は、レストランのコック、だ」と。
―――彼らの中で一人だけ叶った、夢。
それが、本当なのか、寺井先生の口から出まかせなのかはわかりません。
けれど、そう言ったことこそが、寺井先生の教育者としての在り方のように感じました。


最後に、蘭役の前田さん。
物語の中、ただ一人、あのころを共有していない、年の離れた友紀の妹。
最初は姉の助っ人として会話にどんどん入り込んできて、
蘭と彼らのジェネレーションギャップに、うわあ・・・(^^;)となっていたのですが、
物語が進むにつれて、彼女はどんどん“傍観者”としての存在感を増していったように思いました。
というか、“傍観者”に徹してからの方が、表情が鮮やかになっていったような気がする。
彼女の中にある、姉に対する疑惑、そして落胆―――絶望と、愛情。
敵と思っていた相手に向かう感情の変化。
寺井先生に促されて、あの手紙を読むとき、彼女は顔をくしゃくしゃにして泣いていました。
それは、残酷な現実に対しての哀しみだったのか、菊池に対する憐れみだったのか、
それともまったく違う他の感情だったのかは、私にはわかりませんでした。
わからないけど、でもとても自然な流れだったように思います。
(というか、彼女に読ませた寺井先生の意図を深読みしたくなる/笑)
そして、それまでの、彼女の台詞以外の動き、というか彼らとの距離感と、
彼らに向かう視線があったからこそ、
最後、彼女がカレーを遠慮することも、凄く自然に感じられたのかな、と思う。
うん、蘭という存在は、不知火とは別の意味で、
この閉鎖した物語の中に吹き込む風だったのかな、と思います。



いろいろ書いてたら、やっぱりもう1回観たくなっちゃったなあ。
うーん、画策するかなー。
蜷川シェイクスピアとマチソワは、やっぱり心身ともに負担が大きいでしょうか(笑)。
とりあえず、もうちょっと検討してみます。

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