瓔珞の音

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zoom RSS 千年の森に棲むもの

<<   作成日時 : 2016/01/17 19:36   >>

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谷山浩子さんの♪まっくら森の歌、ご存知ですか?
初めて聴いたのは、みんなの歌でだったと思うのですが、
あの吸い込まれるような繰り返される旋律と不思議な歌詞に、
とても心惹かれたのを覚えています。

何も見えない暗闇。
そこでしか見えないもの。
そこでしか感じられないもの。
―――そこでしか、生きられないもの。

彼らが向かった“千年の森”も、そんな深淵を内包していたのでしょうか。



「元禄港歌 〜千年の恋の森〜」

2016.1.9. ソワレ 1階XC列 20番台

作:秋元松代
演出:蜷川幸雄
劇中歌:美空ひばり

出演:市川猿之助、宮沢りえ、高橋一生、鈴木杏、市川猿弥、新橋耐子、段田安則、青山達三、大石継太、
    市川弘太郎、市川段之、石川猿三郎 他


物語の舞台は元禄時代、播州の豊かな港町。
椿の花が咲き乱れる浅い春の日、
この町の廻船問屋の大店・筑前屋の長男、信助(段田安則)が5年ぶりに江戸店から戻りました。
騒がしい街中で、弟の万次郎(高橋一生)と母のお浜(新橋耐子)と信助が再開を果たしたその時、
この時期になるとこの町に現れる瞽女の一段もちょうど街に着いたところでした。
華やかな衣裳、三味線の音、艶やかで、でもどこか寂しげな歌声―――
捕物の混乱で仲間とはぐれた初音(宮沢りえ)を助けた信助は、
目の見えない彼女に我知らず心惹かれていきます。
その夜、信介の帰還を祝う宴に呼ばれた瞽女たちは、
座元の糸栄(市川猿之助)を中心に、「葛の葉子別れ」を弾き語ります。
涙ながらに切々と歌い上げる糸栄を、
何かを胸に秘めた視線でそれぞれに見つめる信助、お浜、そして筑前屋平兵衛(市川猿弥)。
一方で瞽女の手引きである歌春(鈴木杏)と数年来の忍ぶ恋中である万次郎は、
早く彼女と二人きりになりたくて気もそぞろ・・・
筑前屋一家と瞽女の三人の女。
初めてこの全員が合いまみえたことで、隠されていた事実が徐々に明らかになり―――


というようなお話。
この日のマチネで「花より男子」のミュージカルを観てきて、これ王道!!と思ったのですが、
ソワレで観たこちらも、これぞ(昭和の)王道!!と思いました。
いや、私の勝手なイメージなんですけどね。
でも、最近のお芝居ではあまり見ない、有無を言わさずに感情を揺さぶりにかかってくるお芝居は、
なんというか逆に凄く新鮮で、
哀しくて痛ましくてやるせないお話なのに、どこか爽快感さえ感じられる後味に、
こういうお芝居もたまにはいいなあ、としみじみ思ってしまったのでした。
そして、徹底的なこだわりの感じられる美しさにも感嘆。

舞台を幾重にも囲む椿の樹。
その木から不規則なリズムで落ちる真っ赤な花。
透けた幕で作られた襖の向こうに屋敷の奥の喧騒と、
その頼りない境の手前で繰り広げられる、静かな、けれど生々しい感情のやり取り。
古い寺に差し込む朝日が落とす、椿の樹の影。
壁に、須弥壇に隙間なく掛けられた無数の絵馬に込められた祈りの圧力―――

客席との境界が曖昧な舞台を最前列で観た、ということもあるのかもしれませんが、
あの濃密な世界に、ぽんっと放り込まれたような気持になりました。

母と子、父と子、男と女、夫と妻・・・
いろんな関係性が描かれていたけれど、一番印象的だったのはやはり“母と子”かなあ。
特に、二人の“母”の在り方。

大店の主人に見初められ、恋に落ち、子を宿し、
けれど産み落とした息子は男と妻の実子として引き取られ、
旅から旅への生活を続けながら、年に1回その街を訪れても、母と名乗ることすら許されない、糸栄。
家付き娘として番頭であった男を婿に迎え、
けれど深く心を通わせられないまま、夫の不義の子を実子として育てることをを強いられ、
良い母で在ろうとしながらも、どうしても実の息子である弟と同じには見られない、お浜。

それぞれの苦悩。
それぞれの愛情。
それぞれの選択。
そして、それらを受け止める信助自身の苦悩と愛情と選択。

親子であることをどちらもが感じながら、
互いにそうは名乗らずに、ただ互いを慈しみ思いやる糸栄と信助の語らいのシーンには、
なんだかもうたまらない気持になったし、
ラストシーン、目の見えなくなった信助が、母を呼びながら糸栄を探して手を伸ばしたときに、
俯いた背を大きく震わせながら、それでも泣き伏す糸栄の手をとって立ち上がらせ、
信介のもとに連れて行ったお浜の、泣き濡れてもなお葛藤を感じさせる表情には、
ただひたすら泣くことしかできませんでした。
お浜の中には、信介に対して疎ましく憎たらしいという想いと同じくらい、
彼を慈しみ愛する気持ち―――そう在ろうとした気持ちが、真実あったんだなあ、と思って。

弟の身代わりになって視力を失った信助が、
暗闇だからこそ見える何かを頼りに、
同じように目の見えない実の母と、愛する女と共に、
家を捨て、家族を捨て、故郷を捨て、
愛する女たちが棲む千年の森へと手に手をとって旅立つシーンは、
なんだか有無を言わさぬ静かな迫力があって、なんだか息を呑んで見つめてしまいました。

現世から半歩だけずれた位置に在る“千年の森”。
暗いけれどそこでしか見えないものがあり、
その深淵には誰にも侵せない静寂と、そこに響く彼らの音曲があり、
果てしなく遠いけれど、限りなく近くでもある。
そんな不思議な場所を、彼らは彷徨い続けるのかもしれません。

糸栄役、猿之助さん。
女役を見せていただくのは、「じゃじゃ馬ならし」以来でしょうか。
秘密と業を背負いながら、粛々と、けれど凛と生きてきた女が、
生き分かれた息子を前に、たまらずに歌声の中に感情を迸らせる姿には、
その時点でまだはっきりと信助との関係を理解していたわけではないのに、
なんだか胸を引き絞られるような気持になりました。
台詞だけではなくて、ふとした仕草や声の揺らぎから伝わってくる感情に圧倒されました。

宮沢りえちゃんの初音は、とにかく美しかった!
透明で、儚くて、椿の花弁のような柔らかな冷たさの中に、
それまで口に出さずに諦め、呑みこんできた熱い想いが隠されている感じ。
そういう感情が、信助と心を交わしたことで、花開くように迸る様には、もう溜息しか出ませんでした。
二人のラブシーンも、切実さと生々しさが得も言われぬ美しさになっていたように思います。

糸栄と初音は目が見えない役なのだけれど、
カーテンコールで出てきたときには、当然なんだけど目が見えているのが明らかにわかって、
その変化に感嘆しました。

鈴木杏ちゃんの歌春は、溌剌とした可愛らしさが素敵でしたv
恋中である万次郎に別れを告げて、嫁にと望んでくれた身分相応の男のもとに嫁ぐのだけど、
そのことを万次郎に告げる時の二人のやり取りが、
互いに互いを想っているのがわかるだけに、なんともやるせなかったです。
そのまま駆け落ちしちゃえー!!とかちょっと思ったけど、
万次郎はともかく(え)、歌春はそういう行動が引き起こす結果を考えたら、
やっぱりそういうことはできなかったんだろうなー。
最期、万次郎の腕の中で息絶えることができたのは、彼女にとっては幸せだったのかな。

万次郎役は高橋一生くん。
舞台で観るのは久々かな。
気楽で甘えたな次男坊、という雰囲気。
良心に対しても結構反発とかもあるんだけど、そういうのを上手く流して立ち回ってる感じ?
でも、その中で信助に対する信頼と、歌春に対する恋情は真実だったんだろうなあ。
その二人を失って、彼がこれからどういう風に生きていくのか、ちょっと気になりました。

平兵衛役の市川猿弥さん。
諸悪の根源なんだけど(笑)、この時代の大店の主人、しかも番頭から叩き上げの娘婿なら、
仕方ないのかなあ、とちょっと思ってしまいました。
なんというか、納得はできないけどちゃんと筋の通った人なんだな、と思う。
でもって根っからの商売人なんだなあ、って思った。
糸栄に対しては良くわからなかったけど、
お浜に対してはちゃんと愛情もあったように感じたんだけど、どうかな?

信助役の段田さんは、多分実年齢よりずっと若い役なんだと思うのですが、
糸栄ともちゃんと親子に見えたし、青臭い葛藤も感じられて、さすがだなあ、と思いました。
最初から、ちょっと破滅的な思考の雰囲気が感じられていたので、ラストシーンも納得。
目が見えなくなってからの方が、なんだか明るく見えたのは、
やっぱり彼の中の何かが解放されたからなんでしょうか。

和吉役の大石さん。
何とも貧乏くじな役柄で・・・(涙)
歌春に惚れていたからこそ、裏切られて逆上しちゃったのかなー。
まあでも、もともとちょっとストーカーっぽい感じはあったし、
言葉の端々に、ちょっと抑圧されてる風も感じられたので、
人の好さそうな雰囲気からの変貌も、特に違和感はありませんでした。

青山達三さん演じる非田院法師が率いる念仏信徒たちについては、
これまでも蜷川さんの舞台でよく見る雰囲気だなあ、と最初は思ったのですが、
ラストシーンでの法師の言葉や、最初から最後まで変わることのない信徒たちの表情を見ていて、
瞽女たちの音曲と同じように、
彼らの念仏がずーっとこの舞台の中に流れ続けていたのかなあ、と思いました。

劇中歌である美空ひばりさんの曲は、この時初めて聴きました。
物語を追うのに精一杯で、歌詞の一つ一つを理解するまではできなかったけれど、
美空ひばりさんの歌声が、海鳴りの響きのように感じられて、なんだか不思議な感覚でした。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
恭穂さま
「元禄港歌」
とてもよかったですね。
恭穂さんのご感想を読ませていただいていたら
また色々思い出して泣きそうに・・・。
一人ひとりの登場人物が皆愛おしかったです。
特に2人の母の思いが切なくて。
そして高橋一生くんに改めてヤラレた私です(笑)。
スキップ
2016/02/23 09:37
スキップさん、こんばんは。
お返事が遅くなってしまって申し訳ありませんでした!

「元禄港歌」、全然予備知識なしだったのですが、
こういう舞台もいいなあ、と思いました。
ほんとに、登場人物みんな懸命に生きているところが愛おしかったですね。
でもって、高橋さん、素敵でしたねv
杏ちゃんと幸せになってほしかったです(涙)。
恭穂
2016/02/29 21:34

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